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第三章 王都誘拐事件編
第41話 討伐報酬と魔晶核
しおりを挟む「あっ、ユウトさん。ギルドマスターがユウトさんにお話があるそうなので奥に来てもらえますか?」
いつものようにギルドで依頼達成の報告をしているとレイナさんからそのように告げられた。まあギルマスから呼ばれることと言えば一つしか思い当たらないので十中八九、例のアレだろうな。
俺はレイナさんに連れられて受付の奥にある応接室へと向かう。前に戦いの事後処理の話し合いのために一度来たことはあるけれどやっぱりこういうかしこまった場所は緊張するな。
あのゴブリンとの戦いからも2週間ほど経っているので、俺はすっかりとのんびりと依頼をこなす元の日々に戻っていた。だからすっかり忘れていたけれど、そういえばギルマスが別途報酬を用意するから待っててくれって言っていたな。
「失礼します。ユウトさんをお連れしました」
「入ってくれ」
俺は部屋の中へと入っていき、ギルマスと向かい合う形でソファーに腰を掛ける。ここまで連れて来てくれたレイナさんは部屋の入り口でギルマスへと一礼をすると静かに扉を閉めて下がっていった。
「ユウト君、来てくれて感謝する」
「いえ、全く問題ありません。それで今日呼ばれたのって...」
「ああ、先日の報酬についてだ。ようやく用意が出来たのだ」
そういうとギルマスは目の前のテーブルの上に金色の硬貨が数枚積まれたタワーを一つ置いた。
えっ、これって...?!
「これが報酬の金貨5枚だ。本当だったらちゃんと超越種の討伐という功績に見合う報酬を用意したかったのだが、君との約束を守りながらだとこれが限界だったのだ。本当に力及ばずで申し訳ない」
えっ、何を言っているのだろうかこの人は。
金貨5枚で少ないって?
青銅貨がだいたい1円くらいの価値だと考えると、この金貨5枚というのは計算すると大体500万円...
「...いやいやいや!!!金貨5枚もですか?!」
「ああ、これは君の功績を考えると少ないくらいの報酬だ。ぜひとも受け取ってくれ」
受け取るとは言ったけれど、ここまでの大金になるとは思わなかった。
正直受け取るのを躊躇してしまう額だけど受け取ると言ってしまったからな...
「わ、分かりました。では遠慮なく頂きます」
「ああ、そうしてくれ」
俺は金貨5枚をバックの中に入れるふりをしてインベントリへと収納する。こういう時にインベントリがあって良かったと痛感するな。だってこんな大金を持ち歩くなんて心配で仕方ない。
「あと君の冒険者ランクの件なのだが、私は今すぐにでもAランク...いや正直Sランクでも申し分ないと思っている。しかしこれに関しては功績を公表しない事にはどうしようもできないのだ」
「別に大丈夫ですよ。そこまでランクに固執していませんので」
現在はEランクなのでAやSまで一気に上げるとなると絶対に波風が立つだろうし、まだこの世界のことをあまり知らない状態であまりにも身の丈以上の問題にぶつかっても困るしな。ランクはゆっくりと上げていっても問題はない。
ギルマスは俺の返答を聞き、少し笑みをこぼした。
「やはり君は不思議だな。普通だったら地位や名声、そして金...そういったものを欲しがる人が多いにもかかわらず、君はそういうのにあまり興味を示さないのだな」
「まあ、実際のところ褒められたいとかお金が欲しいとか...そういうのは僕にもありますよ。でも身に余る地位や名声っていうのは逆に自分にとって足かせになったり、不幸をもたらしたりするじゃないですか。そういうのが僕は嫌なんですよ」
ギルマスは俺の言葉を聞いて納得したように深くうなずいた。
前世から俺は物欲というものは少ない方だったからあまりお金も大量には必要ないし、それにえらい立場とかも正直嫌だから地位とか名声なんてものもあまり欲しいとは思わないな。
「それにしても金貨5枚もよく功績を隠して用意できましたね」
俺はギルマスに気になっていた部分を聞いてみる。組織がこんな大金を正当な理由もなく動かすことはいくら一つの町の冒険者ギルドの長とはいえ難しいのだと思うのだけれど...
「ああ、一応この金は超越種の討伐報酬という形で処理してある。誰に渡したかという部分はこのスカイロード王国の冒険者ギルド全体でもごく限られた人物にしか分からないようにしてあるから安心してほしい」
「その、ごく限られた人物ってギルマス以外にも分かるということですか?」
「それについては安心してほしい。正当な理由があるうえに金貨5枚ほどであればそんな詳しく確認はされることはまずないだろう」
う~ん、何かそういうのってバレるフラグでしかないような気がするけど。
まあ最悪バレて面倒なことになればそのときどうにかすればいいか。
それまでにもっと力をつけてどんな面倒事が立ち塞がっても乗り越えられるようにしておかないとな。
「そうですか、それに関してはギルマスを信じます」
「ああ、任せてくれ。私は君に命を助けられたんだ、責任ぐらいは全て背負うつもりだ」
なんとまあ男前なセリフだろうか。
ここまで言ってくれるんだ、俺がこれ以上このことについて心配する必要はないだろう。
「あとこれも返しておかないとな」
そういうとギルマスは見覚えのある手のひらサイズの魔晶核を取り出した。
これって確か...
「ゴブリン・イクシードの魔晶核ですよね。いいんですか?」
「王都にある冒険者ギルドの本部へと報告をするために一時的に預かっていただけだからもう大丈夫だ。それに超越種の魔晶核となると国宝級の代物だ。おいそれと表に出すわけにはいかないのだ」
「それじゃあ本部で保管するとか、国で保管するってことにはならなかったんですか?」
俺の質問を聞いたギルマスはう~んと唸り声を上げて難しい顔をしてしまった。その様子で何となくだが俺も複雑な事情があるんだろうということは察することが出来た。
「これはここだけの話にして欲しい。実は国には超越種が現れたことと討伐したことの報告はしたのだが、魔晶核があるということは国王以外には伝えていないのだ」
「それはまたどうしてですか?」
「そ、それはだな...」
言葉に詰まりながらも小さな声でギルマスは俺にこの国の問題を教えてくれた。
まあ内容的にはよくある人間の闇という感じの内容だ。
この国は王家とそれに従う貴族たちで統治が行われているのだが、現国王を中心として一枚岩として機能していないのが現状らしい。詳しい事情は分からないが現国王派閥と前国王派閥という二つの派閥で貴族たちが二分しているとのこと。実際に軍事的な衝突は起きていないものの些細な小競り合いは日常茶飯事らしい。
そんな中、超越種の魔晶核という一都市をも滅ぼしかねないような力を秘めた代物がどちらかの手に渡ってしまうと派閥同士の均衡が崩れて内乱ということにもなりかねないとのこと。そういうこともあって本部にいるこの国の冒険者ギルドをまとめるグランドマスターとの話し合いのうえで魔晶核の存在を隠ぺいすることとなったそうだ。
「で、そんな火種を僕が持っておけと。そういうことですか?」
「ゴブリン・イクシードは君が討伐したんだ、これの所有権は君にあると思わんか」
「まあ、それはそうですけど...」
なんかいいように扱われているような気もする。
まあインベントリに入れておけば別に問題はないか。
「分かりましたよ、受け取っておきます。ちなみに聞いておきますが僕の所有物ということはこれをどうしようと僕の勝手、ということでいいんですよね?」
「ああ、もちろん構わないよ。君が変なことに使うとも思えないし、現状君が持っているということが一番安全であるということに変わりないからな」
俺は魔晶核を受け取るとすぐさまこの爆弾をインベントリへと収納する。どうしようと俺の勝手...って言ったけれど、使い道なんて思いつかないからな。しばらくはインベントリの肥やしになるだろう。
そうしてギルマスとの話もひと段落し、俺はギルドの応接室を後にする。
それにしても思いがけないところでかなりの大金を手にしてしまったな。どこか静かなところでのんびりと暮らすためにお金を貯めていたけれど、もしかしてこの額ならばできちゃうのかな?
この世界って場所によるだろうけど物価はかなり低めだから人口密集地とかじゃなければ余裕でのんびりと暮らしていけるのかもしれない。けれど、まあ俺はこの世界に来て日が浅く、アルクスのことをまだ知らなさすぎるしな。もっといろんなことを知ってからでも夢を叶えるのは遅くはないだろうし。今決断するのは時期尚早かな。
それにせっかくの異世界だし、冒険者になったんだからいろんな所に行って楽しむっていうのもありじゃないか。ということでしばらくは冒険を楽しむとしますか!
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