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第二章 ゴブリン大増殖編
第36話 死闘の果てに
しおりを挟むついにゴブリン・イクシードとの本当の最終決戦が始まった。
互いに一歩も引かない攻防で戦況は拮抗している。
もっと早くこの戦いを終わらせたかったのだが、まさかこんなことになるなんて事前に想定なんてできるか?マザーゴブリンの犠牲によって完全回復し、さらにレベルアップまで果たしたゴブリンイクシード。それに対し、ポーションによる回復手段も尽きてHPが残り約6割、魔力が残り半分ほどしかない状況である俺。
...マジで状況が良くない。
先ほど以上に強くなっているためにこちらも出し惜しみもすることが出来ず、じわじわと魔力が減っていく。焦る気持ちが俺の中で徐々に強くなっているのを感じる。
「グルルルルアアアァァァァ!!!!!」
ゴブリン・イクシードはマザーを失った怒りでもう全力も全力である。一撃一撃がBランク冒険者程度なら即死級の威力を誇っているのだ。それを何とか避けたり、剣で受け流したりして応戦しているがすべてを完全に処理できているとは言えない。体のあちこちに攻撃を受け、徐々に傷が増えていく。
逆にこちらの攻撃も奴は完全に対処できているわけではないので互いにじわじわとHPとMPを消費している状況である。奴はスキルで魔力からHPを回復できるが、こちらはポーションがなく回復魔法ではそこまでの回復量を見込めないことから、総じて戦況を見るにこのまま持久戦に持ち込まれるとこちらが負けることは必至である。
だからこそ何とかしてこの拮抗した戦況を打開して、奴にダメージを喰らわせない事には俺の勝利はない。しかし今この状況でもかなり精一杯であるのにどうすれば打開できる...?
「グルアァァ!!どうした、どうした?!!お前の力はその程度カ??!!!!」
先ほどまでと違い、少しずつ自分が押してきている状況にいい気になっているのかゴブリン・イクシードが挑発めいたことを叫んでいる。しかしその挑発に余裕をもって返せるほどの余力は今の俺にはもうない。
そんな俺の様子を見てさらにいい気になったのか奴はさらに攻撃のギアを上げて襲い掛かってくる。
「そうだそうだヨ!!オレがヒューマン何かに負けるはずがないんだよナ!!!」
「彼女のおかげダ!!!オレは最強!!!!!!無敵なんだよナ!!!!!!!」
どうにかして打開策を考えなければ...!
俺はどうにか頭をフル回転させて必死に戦略を練る。
すでに有効打であった雷魔法も氷魔法も使ってしまっているので今度も上手くいくかどうか怪しいものである。そんな賭けをしている魔力の余裕はもうない。確実に、あるいは高確率で奴に刺さる戦略を考えないと...
......そうだ、一つある。
だがゴブリン・イクシードに通じるかどうかはやはり賭けにはなってしまうな。けれど正直もうこの方法以外は思いつく余裕がないし、このまま何もしない訳にもいかない。
もう一か八か、やってみるしかないな。
俺は覚悟を決めてこの状況を打開すべく動き出す。
まずはどうにかして一瞬でも奴の気を逸らさないと...
「はああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
俺はゴブリン・イクシードに向けて連撃を繰り出す。身体強化魔法によってさらにスピードが増した斬撃はさしもの奴でもすべてに対処することは出来ていない。
「グギギギギギッ」
奴も俺の攻撃を対処しようと必死にあがく。
しかしながら俺のこの攻撃ではこの戦況を覆すほどのダメージを与えることは出来ない。
だがおかげで奴は今、俺の剣に集中している。
この時を狙っていた!!!
「サンダーボルト!!!」
「...ギギッ?!」
この連撃の合間を狙って俺は雷魔法を奴に打ち込んだ。しかし不意を突いた攻撃ではあったが、予想通り間一髪のところで奴は雷撃を回避されてしまった。そのまま間髪入れずに追撃として魔法を繰り出していく。
「フリージングフロア!!!」
回避を選択したゴブリン・イクシードの足元へと氷魔法が襲い掛かる。これまた先ほどと同じく魔法での移動阻害を狙った攻撃であり、その狙いもおそらく奴にはお見通しであろう。
「同じ攻撃が効くカ!!!バカがヨ!!!」
これまたギリギリのところで回避されてしまい、ゴブリン・イクシードは余裕の表情を見せる。その二種類の魔法攻撃しか俺が奴に対して有効打がないと思っているに違いない。
「...?!」
しかしその時、奴は小さなミスを犯したのだ。
小さくて、そしてこの戦いにおいて致命的な失態を。
「...消えた?!」
そう、奴の視界から俺が消えたのだ。
魔法に気を取られ目を離したその一瞬に。
「...ッ?!?!」
その次の瞬間、すでに懐へと入り込んでいた俺と目が合う。
死角から突然現れたことに驚愕したゴブリン・イクシードは僅かながら対処が遅れる。
すでに視認されている状態では効果が薄いスキル『気配遮断』なのだが、魔法攻撃によって俺から一瞬でも認識を外すことによって短時間でも『気配遮断』の効果を発動させることに成功した。この作戦は正直、一か八かの大勝負なところがあったが成功することが出来た。
「はああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
俺は残りの魔力を惜しみなく使い、身体強化魔法によって大幅に上昇した攻撃力が込められた斬撃を奴の胴体へと繰り出す。目にもとまらぬ速さで最大火力の連撃を喰らい続け、ゴブリン・イクシードは赤い血しぶきをまき散らしながらそのHPとMPを大きく減らしていく。
「な、なめるナナナナナァァァァァ!!!!!!!!!!!」
しかしゴブリン・イクシードも決死の力で俺の攻撃に抗う。渾身の力がこもった奴の頭突きと俺の斬撃がぶつかり合ってとてつもない衝撃波が発生した。その衝撃によってすでに亀裂だらけで崩壊寸前だった大空間が大きな音を立てて崩れ出す。
「くっ、剣が...!?」
ここまで超越種を相手に頑張ってくれていた俺の片手剣だったが、奴の渾身の頭突きによってついに砕けてしまった。こんな化け物相手によくここまで耐えていてくれたものだ。ありがとう、ヴェルナさん。
俺は砕けてしまった片手剣から手を離し、残った魔力と力を振り絞ってすべてを両拳に込める。
もう残り僅かとなった奴のHPを削り切るために俺は拳を打ち込む。すでに限界ギリギリであるゴブリン・イクシードはまともに防御態勢もとることが出来ずに正面から俺の打撃を喰らってしまう。
「グフッ!」
そこから奴に息する暇も与えずに俺は全力を込めた拳を打ち込み続ける。徐々に減っていく奴のHP、そして俺の魔力も底をつき始める。絶対にここで終わらせてやる!これで本当にラストだ、ゴブリン・イクシード!!!
「うおおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
残りの魔力をすべて込めた一撃を奴の胴体に向かって解き放つ。息も絶え絶えであったゴブリン・イクシードはその一撃をまともに受け、大きく吹き飛ばされた。そのまま壁へと激突し、大きな衝撃が崩壊しかけている大空間内に響き渡る。
ついにゴブリン・イクシードは立ち上がることもなく、その場にぐったりと倒れたままとなった。
念のために俺は鑑定を発動してゴブリン・イクシードのステータスを確認する。HPがほんの僅かだけ残っていたがMPは完全に底をついており、生魔変換によって回復することはもう出来そうにない。
俺もゴブリン・イクシードから受けて攻撃によって体中に激痛が走っているが、何とか気力を振り絞って止めを刺すために奴のもとへと向かう。正直、今すぐにでも意識が吹っ飛びそうである。
「ゴブリン・イクシード...これで、終わりだ」
「......」
ゴブリン・イクシードは何も答えずこちらを見ている。その目にはもう戦う意思は見られず、こちらを見つめているのにもかかわらず俺ではない別の誰かを見ているようなそんな感じがした。
俺はインベントリから以前使っていた短剣を取り出し、ゴブリン・イクシードの首を斬り飛ばす。
《経験値を獲得しました。レベルが52に上がりました》
《条件を達成しました。称号『勇敢なる者』を獲得しました》
《条件を達成しま...
どうやらついに俺は本当に勝てたようだ。
これで...ようやく...
俺は力尽きるように地面へと倒れ込む。
意識が朦朧とし、もう少しも体を動かすことが出来ない。
しかしここでゆっくりと寝ているわけにはいかない。先ほどまでの戦いによってすでにこの洞窟は崩壊しかけているのだ。早く脱出しなければ生き埋めになってしまう。
俺はどうにか立ち上がって洞窟からの脱出を試みようとするが、体が思うように動かない。
ようやく厳しい戦いに勝てたのに、俺は結局こんなところで終わってしまうのか...?
大空間の出口の方へと必死に向かおうとするが視界が徐々に暗くなっていく。
...もっと、この世界で生きてみたかったな。
次の瞬間、轟音を響かせながらついに大空間が崩壊する。視界がぼやけて音も遠くなっていき、意識が徐々にフェードアウトしていく中で最後に頬を穏やかな風が撫でるような感覚を感じた気がした。
そして、そこで俺は完全に気を失った。
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