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第二章 ゴブリン大増殖編
第20話 慌ただしいギルド
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装備を一新したことによりさらに戦闘がよりやりやすくなった。
いつも通りの討伐依頼も今まで以上の成果を上げることが増えたのだ。心なしか討伐対象であるゴブリンの数も増えているような気もするが、それ以上に自分の狩りスピードが上がっている影響だろうと思う。
使ってみて分かったことなのだが、俺はナイフのような短剣よりも今のような片手直剣の方が使いやすい。手に馴染むというか、動きに馴染む感じがしている。ヴェルナさんの腕が上がったのと、俺用にカスタマイズしてくれたという部分も影響があるかもしれない。何はともあれ自分の戦闘能力が向上したことは冒険者としてとても良いことである。
ヴェルナさんたちのところを訪れてからしばらく経ち、現在俺はDランクに上がるための護衛依頼が来るのを待ちながらいつも通りの討伐依頼をこなしてお金と経験値を貯めている。
レベルは現在では28まで上がった。しかし最近では流石にゴブリンたちを倒すだけではなかなかレベルが上がらなくなってきている。イリス様に頂いた能力のおかげでゴブリン等のような比較的弱めな魔物の経験値でもここまで強くなってきたが、もうそろそろ1ステップ上へと挑戦しないといけない時期に来ているのかもしれない。
あとはインベントリ内にゴブリンの素材がかなり溜まってきていることが問題の一つである。納品している魔晶核に見合う量は売っているのだが、超過している分が塵も積もれば山となる理論で、今では300を上回り始めた。ゴブリンの皮は装備の素材になることがあるのでそこそこ利用価値はあるそうなのだが、やはりゴブリンの肉は食えない訳ではないらしいが、好んで食べるものではないとのことだ。
そりゃそうだろうな、俺もゴブリンの肉を食べたいとは思わないし。しかし噂によるとゴブリンの肉を好んで食べるような人たち?種族?がいるようだ。前世でもゲテモノを好んで食べる人はいたが、この世界もそういうところは変わらないんだろう。もしそのような人たちに出会ったときには買ってくれないか交渉してみるのもありかもしれないな。
そして今日も今日とて依頼を受けるためにギルドへと向かう。
お金もそこそこ貯まってきていたのだが、先日装備を一新したことでかなり出費してしまった。その分の補填とこれからも装備を定期的にメンテナンスすることや新しいのを購入していくことを考えるとお金はいくらあっても足りない。それにいつかスローライフを送るためにも、お金は余分にあって困ることはないと思うから稼げるときに稼いでおこうという訳だ。
いつも通りの道を通りギルドへと向かっていた俺だが、ギルドへと近づくにつれて少し違和感を感じ始めていた。ぼーっとしていたら気づかないくらいのそんな些細な違和感。しばらくの間、俺はその違和感の正体を言語化できないでいた。
何だかモヤモヤした気持ちを抱えながら足を進める。
こうやって分かるようで分からないものがあるとすごく気になってしまい、頭の中がごちゃごちゃしてくる。これは俺の昔からの悪い癖である。こういうのは頭の片隅にでも置いておいてあまり気にしないのが得策であると思うが、それが出来ずに気にしてしまうからこそ俺は精神疾患になってしまったのだろうな。
そしてギルドへと到着するとそこで俺はその違和感の正体をようやく言葉で表現することができた。気づいて見れば本当に些細なこと過ぎてこんなことでモヤモヤしていたのが馬鹿らしくなる。
そう、いつもより冒険者の数が多かったのだ。それに明らかにパーティと思われる数人の冒険者の集団がそれぞれまとまってギルドへと向かっている。
もしかしたらこれは何かあったのかもしれない。偶然、今日は人が多いだけということもあるかもしれないが、一応こういうことに詳しそうな人に聞いてみるのが一番だろう。
俺は少し急ぎ足でギルドの中へと入っていった。
ギルドの中へと入るとやはりそこには多くの冒険者たちがいた。ぱっと見で通常時の2倍以上の人がギルドに詰めかけているような気がする。しかもギルド内の雰囲気がいつもの明るくにぎやかな感じというよりは、にぎやかなのには変わりないがどこかザワザワとした落ち着きのない感じである。
やはり何かあるのかもしれない...
俺は何か知っていそうな人に話を聞こうとカウンターの方へと向かう。ギルド職員なら何があったのか知っているだろうと思ってレイナさんとかアンさんを探してみるが、いつも絶対にカウンターで座って仕事をしているはずなのに空席である。
辺りを良く見渡してみると、チラッとレイナさんらしき人物があわただしく何かをもって走り回っているのが見えた。その後にはアンさんも忙しそうにしているところを発見した。
その状況を見るに明らかに何かあったことは確信した。
俺もしばらくギルドで待っていれば何が起こっているのか分かるかもしれない。そう思い、近くの空いていたテーブルに座って待ってみることにした。その間、周囲の様子や冒険者の観察を行いながら情報収集に勤しむ。
30分ほど何かイベントが発生するのを待っていたのだが、その間にかなりの情報を収集することが出来た。他の冒険者が喋っている内容を盗み聞きしたり、集まっている冒険者のステータスを鑑定でチラチラと気づかれないように見ていたのだ。...もちろんプライバシーは最大限考慮していますとも!
気を取り直して現状集めた情報から分かったことをまとめる。
まず一つ目、現在このギルドへと集まってきている冒険者たちの多くはDランクやCランク辺りといった実力の持ち主が多い。ランク判断に基準は以前に確認したゲングさんのステータスと比較させてもらっている。もちろん中にはEランク程度の人たちもちょこちょこと見受けられる。どの冒険者も3人から多いところでは6人ほどで集まっているのでおそらくほとんどがパーティで来ているのだろう。
ただ、その中で一際ステータス値が高いところが1パーティだけ存在していた。剣士風の標準体型の男性に重戦士風のマッチョな男性、それにRPGでいうところのシーフのような身軽な服装の小柄な女性と後方支援とみられるローブの女性の4人で構成されているのだが全員のステータスがゲングさんをも明らかに上回っている。ランクで言うと最低でもCランク、おそらくはBランクの冒険者ではないかと推測できる。
4人とも現在の俺のステータスと比べると少し低いぐらいなのだが、それは俺が異常なだけで他の冒険者と比べると明らかに上位の冒険者であることは容易に分かる。本当にイリス様の恩恵ってヤバイなと再認識した。
そして二つ目、様々な冒険者の会話を盗み聞きしたものをまとめた情報なのだが、内容は定かではないのだがこのあとにギルドから何かお知らせ?のようなものがあるらしい。そんな情報どこからみんなは聞いてきているのだろうと疑問に思ったのだが、どうも依頼掲示板に今朝ギルドからのお知らせが貼られたのが口伝で広まったらしい。ボッチの俺には到底届かないよね...そりゃそうだわ。
あと今回のギルドからのお知らせの内容を予想している冒険者たちもいて、一番多かったのは『緊急依頼』ではないかというものだった。噂によると最近ギルドの調査団がフーリットの森へと派遣されたらしいというのもあり、それ関連の依頼なのではないかとのことだ。
ん~、でも最近もずっとフーリットの森に行っていたけど特にこれと言って変なことは無かったけどな...
まあどこまで行っても噂は噂でしかないので参考程度にとどめておこう。ただこのようにギルドが冒険者を集めて何かを伝えるというのはほとんどの場合で緊急依頼が出されるときだけらしい。そもそも緊急依頼自体があまり出されない非常にレアなイベントらしいのだが、それ以外で今まで集められるようなことは無かったそうだ。
座っているだけでこれだけの情報を集められたのは上々だろう。まあステータス情報とギルドからのお知らせ以外は確証のないただのうわさに過ぎないのだけれども、結局のところここで待っていれば本当のことが分かるということだけは確かである。
「おっ、ユウト!」
背後から俺の名前を呼ぶ声がする。いつも以上にギルドが賑わっていることもあり、かなり周囲がうるさいのだがその声ははっきりと俺の耳へと届いていた。俺は座ったままその声のした方へと視線を向けるとそこには完全武装のゲングさんがいた。
「ゲングさん、おはようございます」
「おう、おはよう!今日はいつも以上に賑わってやがるな」
「僕も何も知らないで来たので着いた時にはびっくりしましたよ」
いつもとは違うギルドの異様な雰囲気に若干ではあるが緊張をしていた俺だったが、ゲングさんと話していると何だか緊張の糸がスルスルとほどけていった。
「俺も他の冒険者が話しているのを聞いて知ったんだがよ、ユウト。今回の件は少し気を引き締めた方が良いかもしれないぞ」
「えっ?それはどういう...」
俺がゲングさんの発言の真意を聞こうとしたその時、周囲の様子が変わったのを感じた。俺もゲングさんも会話を一時中断して多くの人が視線を向けているカウンターの方へと向かうことにした。
ゲングさんと視線の向く先へと近づいてみると何やらレイナさんやアンさんたちギルド職員さんがカウンター前へと集まっているのが見える。そしてギルドの奥から身長が2m近くあるのではないかと思うほどの長身でゲングさん以上の筋骨隆々な白髪の男性が歩いてきた。その男性はおそらく前世感覚でいうところの60歳ほどの年齢だろうが、その迫力や威圧感はこの場にいる誰よりも強かった。その男性の登場により先ほどまでザワザワしていたギルド内の様子が時間が止まったかのように一気に静まり返っていた。
その男性がカウンターの前へと到着するとギルド職員たちがその横後ろに着くように場所を移動する。そのまま数秒ほど何もない静かな時間が流れ、その間に辺りを見渡していた白髪の男性はおもむろにずっしりと重そうな足取りで一歩前に出る。そして永遠のように感じられたその静寂を破るかのように固く閉ざしていた口を開いた。
「冒険者の諸君!ギルドからの呼びかけに応じてくれて感謝する!!私はこの冒険者ギルドサウスプリング支部のギルドマスター、アースルドだ。早速ではあるが本題に入る。この度、我々冒険者ギルドサウスプリング支部から冒険者の諸君に向けて緊急依頼『ゴブリン大増殖(スタンピード)の阻止』を出すことを正式に決定した!!!」
「「「「「うぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」」」」」
集まった冒険者たちの雄たけびがギルドの建物を揺らすかの如く響き渡る。
何もかも初めての状況に圧倒されるが、それと同時に自分の中で高揚感に似た何かを感じる。
これが緊急依頼か...一体どうなっていくんだろうか。
俺は不安や期待、様々な感情が入り混じった気持ちを胸に正面に構えるギルドマスターを見つめる。
いつも通りの討伐依頼も今まで以上の成果を上げることが増えたのだ。心なしか討伐対象であるゴブリンの数も増えているような気もするが、それ以上に自分の狩りスピードが上がっている影響だろうと思う。
使ってみて分かったことなのだが、俺はナイフのような短剣よりも今のような片手直剣の方が使いやすい。手に馴染むというか、動きに馴染む感じがしている。ヴェルナさんの腕が上がったのと、俺用にカスタマイズしてくれたという部分も影響があるかもしれない。何はともあれ自分の戦闘能力が向上したことは冒険者としてとても良いことである。
ヴェルナさんたちのところを訪れてからしばらく経ち、現在俺はDランクに上がるための護衛依頼が来るのを待ちながらいつも通りの討伐依頼をこなしてお金と経験値を貯めている。
レベルは現在では28まで上がった。しかし最近では流石にゴブリンたちを倒すだけではなかなかレベルが上がらなくなってきている。イリス様に頂いた能力のおかげでゴブリン等のような比較的弱めな魔物の経験値でもここまで強くなってきたが、もうそろそろ1ステップ上へと挑戦しないといけない時期に来ているのかもしれない。
あとはインベントリ内にゴブリンの素材がかなり溜まってきていることが問題の一つである。納品している魔晶核に見合う量は売っているのだが、超過している分が塵も積もれば山となる理論で、今では300を上回り始めた。ゴブリンの皮は装備の素材になることがあるのでそこそこ利用価値はあるそうなのだが、やはりゴブリンの肉は食えない訳ではないらしいが、好んで食べるものではないとのことだ。
そりゃそうだろうな、俺もゴブリンの肉を食べたいとは思わないし。しかし噂によるとゴブリンの肉を好んで食べるような人たち?種族?がいるようだ。前世でもゲテモノを好んで食べる人はいたが、この世界もそういうところは変わらないんだろう。もしそのような人たちに出会ったときには買ってくれないか交渉してみるのもありかもしれないな。
そして今日も今日とて依頼を受けるためにギルドへと向かう。
お金もそこそこ貯まってきていたのだが、先日装備を一新したことでかなり出費してしまった。その分の補填とこれからも装備を定期的にメンテナンスすることや新しいのを購入していくことを考えるとお金はいくらあっても足りない。それにいつかスローライフを送るためにも、お金は余分にあって困ることはないと思うから稼げるときに稼いでおこうという訳だ。
いつも通りの道を通りギルドへと向かっていた俺だが、ギルドへと近づくにつれて少し違和感を感じ始めていた。ぼーっとしていたら気づかないくらいのそんな些細な違和感。しばらくの間、俺はその違和感の正体を言語化できないでいた。
何だかモヤモヤした気持ちを抱えながら足を進める。
こうやって分かるようで分からないものがあるとすごく気になってしまい、頭の中がごちゃごちゃしてくる。これは俺の昔からの悪い癖である。こういうのは頭の片隅にでも置いておいてあまり気にしないのが得策であると思うが、それが出来ずに気にしてしまうからこそ俺は精神疾患になってしまったのだろうな。
そしてギルドへと到着するとそこで俺はその違和感の正体をようやく言葉で表現することができた。気づいて見れば本当に些細なこと過ぎてこんなことでモヤモヤしていたのが馬鹿らしくなる。
そう、いつもより冒険者の数が多かったのだ。それに明らかにパーティと思われる数人の冒険者の集団がそれぞれまとまってギルドへと向かっている。
もしかしたらこれは何かあったのかもしれない。偶然、今日は人が多いだけということもあるかもしれないが、一応こういうことに詳しそうな人に聞いてみるのが一番だろう。
俺は少し急ぎ足でギルドの中へと入っていった。
ギルドの中へと入るとやはりそこには多くの冒険者たちがいた。ぱっと見で通常時の2倍以上の人がギルドに詰めかけているような気がする。しかもギルド内の雰囲気がいつもの明るくにぎやかな感じというよりは、にぎやかなのには変わりないがどこかザワザワとした落ち着きのない感じである。
やはり何かあるのかもしれない...
俺は何か知っていそうな人に話を聞こうとカウンターの方へと向かう。ギルド職員なら何があったのか知っているだろうと思ってレイナさんとかアンさんを探してみるが、いつも絶対にカウンターで座って仕事をしているはずなのに空席である。
辺りを良く見渡してみると、チラッとレイナさんらしき人物があわただしく何かをもって走り回っているのが見えた。その後にはアンさんも忙しそうにしているところを発見した。
その状況を見るに明らかに何かあったことは確信した。
俺もしばらくギルドで待っていれば何が起こっているのか分かるかもしれない。そう思い、近くの空いていたテーブルに座って待ってみることにした。その間、周囲の様子や冒険者の観察を行いながら情報収集に勤しむ。
30分ほど何かイベントが発生するのを待っていたのだが、その間にかなりの情報を収集することが出来た。他の冒険者が喋っている内容を盗み聞きしたり、集まっている冒険者のステータスを鑑定でチラチラと気づかれないように見ていたのだ。...もちろんプライバシーは最大限考慮していますとも!
気を取り直して現状集めた情報から分かったことをまとめる。
まず一つ目、現在このギルドへと集まってきている冒険者たちの多くはDランクやCランク辺りといった実力の持ち主が多い。ランク判断に基準は以前に確認したゲングさんのステータスと比較させてもらっている。もちろん中にはEランク程度の人たちもちょこちょこと見受けられる。どの冒険者も3人から多いところでは6人ほどで集まっているのでおそらくほとんどがパーティで来ているのだろう。
ただ、その中で一際ステータス値が高いところが1パーティだけ存在していた。剣士風の標準体型の男性に重戦士風のマッチョな男性、それにRPGでいうところのシーフのような身軽な服装の小柄な女性と後方支援とみられるローブの女性の4人で構成されているのだが全員のステータスがゲングさんをも明らかに上回っている。ランクで言うと最低でもCランク、おそらくはBランクの冒険者ではないかと推測できる。
4人とも現在の俺のステータスと比べると少し低いぐらいなのだが、それは俺が異常なだけで他の冒険者と比べると明らかに上位の冒険者であることは容易に分かる。本当にイリス様の恩恵ってヤバイなと再認識した。
そして二つ目、様々な冒険者の会話を盗み聞きしたものをまとめた情報なのだが、内容は定かではないのだがこのあとにギルドから何かお知らせ?のようなものがあるらしい。そんな情報どこからみんなは聞いてきているのだろうと疑問に思ったのだが、どうも依頼掲示板に今朝ギルドからのお知らせが貼られたのが口伝で広まったらしい。ボッチの俺には到底届かないよね...そりゃそうだわ。
あと今回のギルドからのお知らせの内容を予想している冒険者たちもいて、一番多かったのは『緊急依頼』ではないかというものだった。噂によると最近ギルドの調査団がフーリットの森へと派遣されたらしいというのもあり、それ関連の依頼なのではないかとのことだ。
ん~、でも最近もずっとフーリットの森に行っていたけど特にこれと言って変なことは無かったけどな...
まあどこまで行っても噂は噂でしかないので参考程度にとどめておこう。ただこのようにギルドが冒険者を集めて何かを伝えるというのはほとんどの場合で緊急依頼が出されるときだけらしい。そもそも緊急依頼自体があまり出されない非常にレアなイベントらしいのだが、それ以外で今まで集められるようなことは無かったそうだ。
座っているだけでこれだけの情報を集められたのは上々だろう。まあステータス情報とギルドからのお知らせ以外は確証のないただのうわさに過ぎないのだけれども、結局のところここで待っていれば本当のことが分かるということだけは確かである。
「おっ、ユウト!」
背後から俺の名前を呼ぶ声がする。いつも以上にギルドが賑わっていることもあり、かなり周囲がうるさいのだがその声ははっきりと俺の耳へと届いていた。俺は座ったままその声のした方へと視線を向けるとそこには完全武装のゲングさんがいた。
「ゲングさん、おはようございます」
「おう、おはよう!今日はいつも以上に賑わってやがるな」
「僕も何も知らないで来たので着いた時にはびっくりしましたよ」
いつもとは違うギルドの異様な雰囲気に若干ではあるが緊張をしていた俺だったが、ゲングさんと話していると何だか緊張の糸がスルスルとほどけていった。
「俺も他の冒険者が話しているのを聞いて知ったんだがよ、ユウト。今回の件は少し気を引き締めた方が良いかもしれないぞ」
「えっ?それはどういう...」
俺がゲングさんの発言の真意を聞こうとしたその時、周囲の様子が変わったのを感じた。俺もゲングさんも会話を一時中断して多くの人が視線を向けているカウンターの方へと向かうことにした。
ゲングさんと視線の向く先へと近づいてみると何やらレイナさんやアンさんたちギルド職員さんがカウンター前へと集まっているのが見える。そしてギルドの奥から身長が2m近くあるのではないかと思うほどの長身でゲングさん以上の筋骨隆々な白髪の男性が歩いてきた。その男性はおそらく前世感覚でいうところの60歳ほどの年齢だろうが、その迫力や威圧感はこの場にいる誰よりも強かった。その男性の登場により先ほどまでザワザワしていたギルド内の様子が時間が止まったかのように一気に静まり返っていた。
その男性がカウンターの前へと到着するとギルド職員たちがその横後ろに着くように場所を移動する。そのまま数秒ほど何もない静かな時間が流れ、その間に辺りを見渡していた白髪の男性はおもむろにずっしりと重そうな足取りで一歩前に出る。そして永遠のように感じられたその静寂を破るかのように固く閉ざしていた口を開いた。
「冒険者の諸君!ギルドからの呼びかけに応じてくれて感謝する!!私はこの冒険者ギルドサウスプリング支部のギルドマスター、アースルドだ。早速ではあるが本題に入る。この度、我々冒険者ギルドサウスプリング支部から冒険者の諸君に向けて緊急依頼『ゴブリン大増殖(スタンピード)の阻止』を出すことを正式に決定した!!!」
「「「「「うぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!」」」」」
集まった冒険者たちの雄たけびがギルドの建物を揺らすかの如く響き渡る。
何もかも初めての状況に圧倒されるが、それと同時に自分の中で高揚感に似た何かを感じる。
これが緊急依頼か...一体どうなっていくんだろうか。
俺は不安や期待、様々な感情が入り混じった気持ちを胸に正面に構えるギルドマスターを見つめる。
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