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第152話 怪獣
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~松本美優視点~
──織原と文化祭実行委員になれたは良いけど、実際やることたくさんあるからなぁ……
発注は茉優に任せて、パンケーキ作る人とチュロスを焼く人の分担。女装と男装は他クラスと被るからなくなったものの、それぞれ何人で回せば混乱なくできるか。
──明日、時間帯の希望を皆に訊いてみるか……
私の部屋。ここ何年も使っていない勉強机と椅子。ただでさえ狭い部屋の四分の一も占めている。そこに座りながら、私は考えた。
バイトの量は減らしたくないし、授業と授業の合間の休み時間を上手く使ってみんなにヒアリングしなきゃ。
バイトの疲れと久し振りに頭を使った為に身体がガチガチだ。私はのけ反るようにして身体を伸ばし、明日に備えた。
[翌日]
自分の席に到着した私は早くに来ていた織原に挨拶をする。織原はうんと頷くと、私に折り畳まれた紙を渡してきた。
「ん?」
私は紙を開く。
クラスの店番希望時間帯と品物を調理したい人とホールスタッフをやりたい人等が記されていた。
感動のあまり私は口元に手を置いた。口からその感動が出ないように噛み締め、内側に溶かすようにして身体に浸透させた。昨日私が、クラスの皆に訊こうと思っていたことを織原が訊いてくれていたようだ。
──え、なに?これ、抱き締めても良いやつ?
私は織原に感謝を告げる。織原は人とコミュニケーションを取るのが困難であるが、一対一や少人数なら話せると言っていた。きっと頑張って訊いてくれたのだろう。
私が感動していると、織原は紙の一番下を指差す。
『松本さんと小坂さんの希望時間帯は記入されていません。音咲さんは不参加とのことで訊いていません』
織原がぎこちない口調で言った。
「い、いつもありがとう。お弁当も……バイトで忙しいのに……」
私は思った。
──あぁ、告白したい。今すぐ織原の女になりたい!!
しかし咄嗟に口からついて出たのは違う言葉だった。
「べ、べべ別に織原だってバイトしてるんだし?お互い様じゃない?これ、あんがとね」
私は織原からもらった紙をペラっと掲げて織原と同じくぎこちない口調で感謝を告げる。
暫しの静寂が教室を満たした。
──今がチャンスかも……
私は上目遣いで織原を見た。
告白して断られたら文化祭実行委員の仕事がやりづらくなるかもしれない。しかしこの気持ちは抑えられない。
「…あ、あのさ──」
しかしその時、一ノ瀬が教室に入ってきた。
「ま、松本さん!!」
私はビクリと身体を跳ねさせ、一ノ瀬の声が聞こえた廊下側を瞬時に振り向いたと同時に一ノ瀬に殺意を込めた視線を送る。
そんな私に怯むことなく一ノ瀬は言った。
「松本さんに話したいことがあるんだけど……」
「なに?」
これから告白しようとしていた私は、自分の思い通りにならなかった苛立ちを顕にしながら訊いた。
「こ、ここじゃ……」
一ノ瀬は私に近付いて小声で言った。
「誰かに訊かれるかも知れないから、生徒会室に来てほしいんだけど……」
「私だけ?」
「お、織原君も一応来て……」
私達は一ノ瀬に連れられて生徒会室へ行った。はぁ、と心の中で、いや実際に出していたかもしれない。折角告白しようと思ったのに邪魔された。
──それにしても、なんだろう?一ノ瀬が私に話って……
生徒会室の重厚な扉が閉まった。こんなところ来たこともなかった。奥に伸びた細長い部屋。四人がけぐらいの黒いレザーソファがテーブルを挟んで向かい合うようにして置かれている。それらの更に奥にゴツゴツとした社長とかが使うような大きな机が置かれていた。
生徒会室の間取りの感想を表現し終えた私に一ノ瀬は言う。
「直ぐに朝のホームルーム始まっちゃうから単刀直入に言うね?文化祭当日、華多莉ちゃんが体育館でゲリラLIVEをするの。だから2人にもその運営を手伝ってほしいと思って……」
私は俯くと同時に肩の力が抜けた。自分の体重を支えようと膝が軽く曲がり、がに股となった。そして両腕をブンと振り下ろして、咆哮する。
「んなこたぁ、知ってんだよぉぉぉ!!!」
火山の噴火。怒りが口から光線のように出た気がした。
──そんことを伝えるために、私の告白を邪魔したってのかこの女!やっぱ嫌い!!
そう思ったがふと我に返る。怪獣のようになった私の横には織原がいるのだ。
「あ、あぁ、ごめんなさい。ついもっと別の話かと思いまして……」
突然の敬語に自分でも違和感を抱きながらも、取り繕う。こんな姿を見て織原が告白をOKしてくれるとは思えない。
私は落胆に浸りながら、織原と教室に戻った。一ノ瀬は生徒会室でまだ作業をするらしい。教室に戻りながら、私は横を歩く織原をチラリと──織原に気づかれないように──見た。
織原は私の叫びに関して何も気にしてなんかいないような表情だった。
──こ、これってどんな感情!?私がヒステリックを起こすような女だって知ってるから?初めからそういう女だって思ってるから何にも反応しないの?
過去は戻らない。いくら謝ったとしても私が織原に暴言を吐いた過去は変えられない。
またしても私は肩を落とした。そして今一度──気付かれないように──織原を見る。
『大丈夫。意味もなく苛立つようなこともあるよね?』
織原がそう言ってくれている気がした。
その時私は気が付いた。
──織原の声。華多莉が好きなVチューバーに似てるかも……
──織原と文化祭実行委員になれたは良いけど、実際やることたくさんあるからなぁ……
発注は茉優に任せて、パンケーキ作る人とチュロスを焼く人の分担。女装と男装は他クラスと被るからなくなったものの、それぞれ何人で回せば混乱なくできるか。
──明日、時間帯の希望を皆に訊いてみるか……
私の部屋。ここ何年も使っていない勉強机と椅子。ただでさえ狭い部屋の四分の一も占めている。そこに座りながら、私は考えた。
バイトの量は減らしたくないし、授業と授業の合間の休み時間を上手く使ってみんなにヒアリングしなきゃ。
バイトの疲れと久し振りに頭を使った為に身体がガチガチだ。私はのけ反るようにして身体を伸ばし、明日に備えた。
[翌日]
自分の席に到着した私は早くに来ていた織原に挨拶をする。織原はうんと頷くと、私に折り畳まれた紙を渡してきた。
「ん?」
私は紙を開く。
クラスの店番希望時間帯と品物を調理したい人とホールスタッフをやりたい人等が記されていた。
感動のあまり私は口元に手を置いた。口からその感動が出ないように噛み締め、内側に溶かすようにして身体に浸透させた。昨日私が、クラスの皆に訊こうと思っていたことを織原が訊いてくれていたようだ。
──え、なに?これ、抱き締めても良いやつ?
私は織原に感謝を告げる。織原は人とコミュニケーションを取るのが困難であるが、一対一や少人数なら話せると言っていた。きっと頑張って訊いてくれたのだろう。
私が感動していると、織原は紙の一番下を指差す。
『松本さんと小坂さんの希望時間帯は記入されていません。音咲さんは不参加とのことで訊いていません』
織原がぎこちない口調で言った。
「い、いつもありがとう。お弁当も……バイトで忙しいのに……」
私は思った。
──あぁ、告白したい。今すぐ織原の女になりたい!!
しかし咄嗟に口からついて出たのは違う言葉だった。
「べ、べべ別に織原だってバイトしてるんだし?お互い様じゃない?これ、あんがとね」
私は織原からもらった紙をペラっと掲げて織原と同じくぎこちない口調で感謝を告げる。
暫しの静寂が教室を満たした。
──今がチャンスかも……
私は上目遣いで織原を見た。
告白して断られたら文化祭実行委員の仕事がやりづらくなるかもしれない。しかしこの気持ちは抑えられない。
「…あ、あのさ──」
しかしその時、一ノ瀬が教室に入ってきた。
「ま、松本さん!!」
私はビクリと身体を跳ねさせ、一ノ瀬の声が聞こえた廊下側を瞬時に振り向いたと同時に一ノ瀬に殺意を込めた視線を送る。
そんな私に怯むことなく一ノ瀬は言った。
「松本さんに話したいことがあるんだけど……」
「なに?」
これから告白しようとしていた私は、自分の思い通りにならなかった苛立ちを顕にしながら訊いた。
「こ、ここじゃ……」
一ノ瀬は私に近付いて小声で言った。
「誰かに訊かれるかも知れないから、生徒会室に来てほしいんだけど……」
「私だけ?」
「お、織原君も一応来て……」
私達は一ノ瀬に連れられて生徒会室へ行った。はぁ、と心の中で、いや実際に出していたかもしれない。折角告白しようと思ったのに邪魔された。
──それにしても、なんだろう?一ノ瀬が私に話って……
生徒会室の重厚な扉が閉まった。こんなところ来たこともなかった。奥に伸びた細長い部屋。四人がけぐらいの黒いレザーソファがテーブルを挟んで向かい合うようにして置かれている。それらの更に奥にゴツゴツとした社長とかが使うような大きな机が置かれていた。
生徒会室の間取りの感想を表現し終えた私に一ノ瀬は言う。
「直ぐに朝のホームルーム始まっちゃうから単刀直入に言うね?文化祭当日、華多莉ちゃんが体育館でゲリラLIVEをするの。だから2人にもその運営を手伝ってほしいと思って……」
私は俯くと同時に肩の力が抜けた。自分の体重を支えようと膝が軽く曲がり、がに股となった。そして両腕をブンと振り下ろして、咆哮する。
「んなこたぁ、知ってんだよぉぉぉ!!!」
火山の噴火。怒りが口から光線のように出た気がした。
──そんことを伝えるために、私の告白を邪魔したってのかこの女!やっぱ嫌い!!
そう思ったがふと我に返る。怪獣のようになった私の横には織原がいるのだ。
「あ、あぁ、ごめんなさい。ついもっと別の話かと思いまして……」
突然の敬語に自分でも違和感を抱きながらも、取り繕う。こんな姿を見て織原が告白をOKしてくれるとは思えない。
私は落胆に浸りながら、織原と教室に戻った。一ノ瀬は生徒会室でまだ作業をするらしい。教室に戻りながら、私は横を歩く織原をチラリと──織原に気づかれないように──見た。
織原は私の叫びに関して何も気にしてなんかいないような表情だった。
──こ、これってどんな感情!?私がヒステリックを起こすような女だって知ってるから?初めからそういう女だって思ってるから何にも反応しないの?
過去は戻らない。いくら謝ったとしても私が織原に暴言を吐いた過去は変えられない。
またしても私は肩を落とした。そして今一度──気付かれないように──織原を見る。
『大丈夫。意味もなく苛立つようなこともあるよね?』
織原がそう言ってくれている気がした。
その時私は気が付いた。
──織原の声。華多莉が好きなVチューバーに似てるかも……
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