【完結】人前で話せない陰キャな僕がVtuberを始めた結果、クラスにいる国民的美少女のアイドルにガチ恋されてた件

中島健一

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第141話 罰

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~織原朔真視点~

 壇上には校長先生がいる。司会進行の生徒がマイクを通して喋った。

「夏季休暇中に行われた大会の表彰式を行います。名前を呼ばれた生徒はすみやかに壇上まで上がるようにしてください」

 夏休み中に部活動に入っている生徒達は引退をかけた試合を行っていたりする。サッカー部の引退は勝ち続ければ冬休みとかになるらしいが、よくニュースなどの見出しで『最後の夏』なんて言葉があるくらいだ、夏休みに試合があった生徒もいるんだろう。

 そんなことを考えていると、僕の知っている大会と人の名前が読み上げられた。

「第4回全国高校eスポーツ選手権大会に出場した。2年A組の一ノ瀬愛美さん」

 名前が呼ばれると「はい」と歯切れのよい返事が聞こえた。朝礼に集まった生徒達はざわざわとしている。

「え?」
「eスポーツ?」
「そうそう!優勝したんだよ!」
「え?知ってた?」
「知らない」
「普通にテレビにも出てたよ」
「てか生徒会に入ってる人でもゲームしたりするんだ」

 一ノ瀬さんが壇上に上がってもまだ周りはざわざわしている。

 校長先生が表彰状を読み上げた。

「表彰状。MANAMI殿。第4回全国高校eスポーツ選手権大会。フォートトゥナイト・ソロ部門優勝──」

 優勝と校長先生が読み上げると、生徒達は更にざわついた。

「え、それって凄いの?」
「わかんない」
「めちゃくちゃ凄いよ!」
「俺は見てたけど世界レベルだった」
「フォートトゥナイトってどんなゲーム?」

 周囲のざわつきを気にすることなく一ノ瀬さんは渡された表彰状を丁寧に受け取り、礼をする。すると僕の後ろから音咲さんと1年生の列から薙鬼流が叫ぶようにして言った。

「愛美ちゃ~ん!!」
「愛美せんぱ~い!!」

 一ノ瀬さんは壇上で手を振る。初め、貰ったばかりの表彰状を持っている方の手でブンブンと振ってしまったのを思い直し、持っていない方の手で控え目に振った。それがおかしかったのか多くの生徒が笑う。壇上から木製の階段を降りている最中に一ノ瀬さんは僕を見つけた。彼女は僕にニコリと笑いかけ、これまた控え目に手を振ってきた。僕も手を振り返した。

 朝礼が終わると、僕らは教室に戻り、担任の鐘巻かねまき先生が挨拶する。

「え~、改めて一ノ瀬、優勝おめでとう!俺も観に行ったけどな、すげぇ会場ですげぇ盛り上がってたな!」

 そう言うと、クラスメイトの何人かが言った。

「え~先生行ったんですかぁ?」
「ズルい!」
「教えてよ!」

「まぁまぁ、この先テレビの取材とか雑誌のインタビューなんかも入ってたりするから、その時カメラに写りたくない人は前もって言ってくれ。その日程が決まり次第また連絡する」

「え~!凄い!」
「そうなんですか!?」
「マナティ凄いな」

 鐘巻先生はいつも無精髭を生やしていたり皺だらけのワイシャツに袖を通していたが、今日はキチンと剃られ、ノリの効いたワイシャツを着ていた。夏休み明けの始業式だから身なりを整えたのだと思ったが、取材の打ち合わせなんかもしているからなのかもしれない。

「このクラスには音咲もいる。今後、学校に取材陣が来ることもあるので、そのつもりでいるように!じゃあ夏休みの宿題集めるぞー」

 宿題の出ている教科が読み上げられ、1教科ずつ課題を前の席の人に渡す。一番前の席の人がまとめて鐘巻先生のところへと持って行った。

 この宿題マジだるかった等、その宿題に取り掛かった思い出話を皆がし始める。

 全教科の宿題が集められ、教壇の上には山のように各教科の宿題が積まれた。そして鐘巻先生が言う。

「よし!そんじゃぁ、これから席替えだ」

「よーし!!」
「やったー!!」
「っしゃあ!!」

 席替えの言葉に胸を踊らせる者もいれば、僕とは反対側の音咲さんの隣の席の男子や一ノ瀬さんの隣の席の男子はガッカリした面持ちをした者もいる。

 廊下側の一番前の席、一ノ瀬さんが立って鐘巻先生の持つ箱に手を入れた。中には折り畳まれた紙が席の数だけ入っている。

 小さく畳まれた紙を手に取り、それを開くと数字が記載されている。

 どうやら一ノ瀬さんの引いた番号の座席は窓側の一番後ろの席らしい。何人かがその隣の席を狙おうとしているのか、その緊張がこちらにまで伝わってきた。

 そして次に一ノ瀬さんの後ろの席の人が立ち上がりくじを引く。

 その間に何人か、前にいる男子が後ろを振り向く。殆どの人が音咲さんの隣の席を狙っているようだ。それがわかると僕は嫌な気持ちになった。

 夢でだが、エドヴァルドが言っていたことが頭に過る。

『お前は人を好きになっても良いんだよ』

 僕は隣にいる音咲さんを見た。

 偶然だが音咲さんも僕を見ていた。

 目が合う。

 僕らは驚いて視線をそらす。音咲さんはそらした視線のまま言った。

「この前はごめんなさい…それと話、聞いてくれてありがとう……」 

 僕と音咲さんが最後に会ったのは、ホテルの部屋で2人きりで話──アイドルになった理由と鏡三さんとの関係について──を聞いて以来だった。最初に謝ったのは僕に父親がいないせいで、音咲さんが気を遣って謝ってくれたのだろう。その後の感謝は僕が話を聞いたことに関してのものだ。

 僕が彼女に好意を抱いた瞬間でもある。いや、もっと言うとそれよりもかなり前から彼女のことが気になっていた。それは彼女がララさんであると判明したからなのかもしれない。だがきっとそれだけではない。

 僕は音咲さんの方を向いた。音咲さんは横目で僕を見る。僕は自分の気持ちを確かめるようにして頷き、少し微笑んだ。音咲さんは驚いたような表情を浮かべると、視線を前に戻す。僕はそんな彼女を何故かじっと見つめていた。それに気付いたのか音咲さんは尋ねる。

「…な、なに?私が素直に感謝と謝罪をしたから、からかってんの?」

 僕は首を横に振る。

「じゃ、じゃあ席替えで、私の隣の席から離れちゃうのが寂しいとか?」

 音咲さんは挑発するようにして僕を見た。僕はほぼ無意識で頷いていた。今にして思えばなんでそんなに恥ずかしいことをしてしまったのかわからない。エドヴァルドがそうさせたのか。いや違う、音咲さんを想う、この想いを隠すには些か大きくなりすぎていたんだと思う。

 好きなんだけど、一緒にいちゃいけない。2人の僕がそれぞれ綱引きをしているような感じがした。

 人の視線が気になる。人の考えを勝手に邪推する。自分が今音咲さんにした行為は、おそらく気持ち悪がられるだろう。しかし自分の気持ちに嘘はつくべきだと主張する僕と嘘をつきたくなかった僕、今回は嘘をつきたくなかった僕に軍配があがった。

 音咲さんは僕の頷きを目撃すると目が、瞳孔が一瞬にして大きく開いたように見えた。彼女は口を開けて、何かを喋りたそうにしていた。

「…ぁ…え……」

 呻き声のような声にならない声を彼女が断続的に発していると、鐘巻先生が言った。

「織原ー?お前の番だぞー」

 僕がくじを引く番になった。僕の頷きに絶句していた音咲さんを見て多少傷付くも、自分の気持ちを表現してそれに対して回答を貰ったことで折り合いがついたような気がした。

 ──そうだ。僕は人を好きになっちゃいけないんだ。それに今、気持ち悪がられたばかりじゃないか……

 この席替えは、気持ちを切り替える第一歩となるだろう。僕はそんな想いでくじを引いた。

──────────────────────────────────────────────────

~音咲華多莉視点~ 

 ──なんで、なんで、なんでぇぇぇ!!!?

 私はくじを引きに行く織原の背中を見ながら頭を抱えた。

 ──驚いたよ?あぁ、もうそりゃめちゃくちゃ驚いたよ!?

 全身の血が沸騰しそうだった。

 ──頷く?あそこで?え?もしかして告白されたの?それを私が断っちゃったの?いや、断ってないか?返事はしなかっただけ……それって断ったってこと!?てかあれは告白じゃないよね!?待って、わかんない!!

「おいマジかよ!?」
「はぁーー!?」
「ふざけんなよー!!」

 一部の男子からのブーイング。何事かと思ったら、織原の席が愛美ちゃんの隣に決まったようだ。

 そういえば、愛美ちゃんは織原のことをどう思ってるんだろう?

「次、音咲」

 私は立ち上がり、思考渦巻くなかくじを引いた。

「音咲の席は……残念一番前の席だ」

 廊下側の一番前の席。窓側の一番後ろにいる愛美ちゃんとちょうど対角にある。その愛美ちゃんの隣である織原の席とも遠く離れている。

 私はガックリして、自席に戻った。

 ──これは、罰だ。自分に正直になれない私への罰。

 こうして席替えは終了した。織原のもう一つの隣の席には見事美優が勝ち取り、織原の前の席には茉優が座っている。

「はぁ、これは罰だ……」

「ん?なんか言ったでござるか?」

 新しく私の隣になった男子が訊いてくる。

「別に、何も……」

 この日は織原の隣の席になった美優の声がやたら大きく聞こえた。
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