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第137話 限界化
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~音咲華多莉視点~
大きく打つ胸の鼓動によって歩くリズムが決められる感覚。そのせいで歩き方を忘れてしまったみたいに、手と踏み出す足が同時に出てしまった。
その間にメインMCの西野さんが私をもう一度呼ぶ。
「かたりん、いてるぅ?」
私はようやくカメラの前に躍り出た。
「おぉ、おったおった」
「は、はい!」
「どうですか?かたりんは、Vチューバーを見ますか?」
私はチラリと横目でエドヴァルド様を見た。質問をしてきた西野さんの横にいる。モニターに写るエドヴァルド様と目があった瞬間、頭が真っ白になった。よく握手会をする際に、黙って俯いてしまう人がいるが、その人の気持ちがわかった気がした。そして真っ白になったと同時に悲鳴のような歓喜の叫びが私の喉元に押し寄せる。私はなんとかそれを押さえようとするが、それは息となって漏れ出てしまった。
「あぁ…はぁ……」
質問に答えない私に西野さんが不思議がって尋ねてきた。
「…どうしたん?大丈夫?」
真っ白になった私の頭は、困惑するメインMC達に今の自分の状況を説明する選択をとる。
「…あの…私……そのエ、エドヴァルドさ…んが本当に大好きでぇ……」
「あぁそうなん!?」
私のカミングアウトに西野さんは驚き、同時にモジモジする私に勝本さんがつっこんだ。
「もう顔、まっかっかぁやん」
私は「いやぁ」と軽い悲鳴を上げて自分の顔を両手で覆うようにして隠した。スタッフさんと西野さんと勝本さんの笑い声がスタジオに響く。
「えぇ!かたりんのこんなん見たことないですよ?」
「M-1とった錦恋が来たときの反応と、ぜんっぜんちゃうやん!!」
このままではよくないと思った私は、手をどけて隠していた顔を覗かせる。そして手で仰ぎながら紅潮した頬を冷ましていたが、カメラが私をアップで捉えていることに気が付いて、私は再び顔を隠し、そのまま座り込んでセットの影に隠れた。
「あ、逃げた!もう女子高生をここまで魅了するわけですね。Vチューバーは!!」
するとエドヴァルド様の声が聞こえた。
『…こんなに反応して貰ったことは今までなかったことなので…嬉しいんですけど、少し戸惑っていたりしますね』
──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!エドヴァルド様を困らせてしまったぁぁぁ!!!!
私は名誉挽回するために、深呼吸をしてから立ち上がる。
西野さんが反応する。
「あ、出てきた」
「あっ…えっと……この前のポーカー大会も見てました……」
『あ、ありがとうございます』
──きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!お話!!お話しちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
私は再びしゃがみこみセットの影に隠れた。西野さんが姿を隠した私に話しかける。
「え~、姿は見えませんがかたりん?かたりんはいつ頃からエドヴァルドさんの配信を見てたん?」
高鳴る鼓動によって全身の血が頭に昇っているような感覚に陥った。それでも私は頑張って声を出す。セットに隠れたまま。
「い、1年くらい前から…です…そのグ、グッズも持ってます……」
西野さんがエドヴァルド様に尋ねた。
「グッズなんかも出してるんですか?」
『グッズはもうかなり前に出したキリなので、音咲さんは本当に昔から自分のことを見てくれているのがわかりますね…いやぁ、本当にありがとうございます』
エドヴァルド様に名前を呼ばれて、更には感謝もされた。今までスパチャを送ったこともあるし、スパチャ読みの時間では名前を呼ばれたこともある。モデレーターになってほしいと声をかけられることもあった。しかしその名前というのは私のアカウントの名前、ララであり本名ではない。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
今度は声に出して嬉しさを悲鳴にして漏らしてしまった。スタッフさんや西野さんの笑い声が聞こえる。すると勝本さんがツッコミを入れてきた。
「さっきから何を見せられてるんですかね?」
スタッフさんの笑い声が聞こえる。
「今そのグッズとか持ってたりするん?」
「あ、ぇっと、楽屋にあってですね……今はもってないんですけどあの、なんでしたっけ…あの……」
咄嗟にグッズ名が出てこない。
──十字架の……
すると、エドヴァルド様が助け船を出してくれた。
『ロザリオのアクキーですか……』
「そ、そう!それです!!…あれ?でもグッズはアクキーだけじゃなくて缶バッジとかもあったんですけど、どうしてアクキーだってわかったんですか?」
私は無意識に質問してしまった。番組の流れから大分逸れてしまっている。それらを全く無視した質問。私は直ぐに反省をして答えなくていいと訂正を入れようとしたが、
「そのアクキーってのはなんですか?」
西野さんが尋ねる。
「アクリルキーホルダーの……」
『アクリルキーホルダーのことです』
声を被せてしまったことによる罪悪感と喜びが私を満たす。
「はぁ~、それを略してアクキーって言うんですねぇ……え~時間が迫ってきおりますが、かたりん?せっかくだから何か聞きたいこととかある?」
本当ならVチューバーの収入や今後どのように活動していくのかを訊くところだ。しかし西野さんは気を利かせて私に質問して良いと委ねている。ここはしっかりしなくてはならない。
私は立ち上がり、カメラに写る。
「おっ、出てきた出てきた」
「あの、私、アイドルとしてここまでやってこれたのは本当にエドヴァルドさんのおかげで、その…話題になった歌枠もリアルタイムで聞いて元気をもらいました。ほ、本当に存在してくれてあ、ありがとうございます!!」
私の感謝にスタジオが沈黙する。それを埋めるように西野さんがエドヴァルド様に話をふった。
「─と言われてどうですか?」
『えっと…自分もここまで活動できるのは音咲さんのような昔から観て頂いてる方達のおかげだと思っていて、寧ろお礼を言いたいのは自分の方ですね。ありがとうございます。それと、今日は自分みたいなモノを呼んで頂きまして皆さん本当にありがとうございました』
私の赤い頬を冷ますように一筋の涙が流れた。私のそれには触れず、間髪入れずに西野さんがこのニュースをしめる。
「ありがとうございました!本日のゲスト、エドヴァルド・ブレインさんでしたぁ!!」
──────────────────────────────────────────────────
~一ノ瀬愛美視点~
華多莉ちゃんと織原君の共演を私はしかと見届けた。夏休み最後の日曜日。それに相応しい内容だった。世間はどのように今の共演を見たのか気になり、私はSNSを覗いた。
〉かたりん可愛すぎ!!!
〉ただの放送事故で草
〉限界化かたりんが可愛すぎる!!
〉かたりんファン涙目www
〉エドも緊張してたな
〉絵畜生のおかげでアイドル続けられるってどういうことだ?
〉かたりんがV好きで好感度爆上がりした
思ったよりも華多莉ちゃんの好感度が上がっていて安心した。それよりも華多莉ちゃんのあの限界オタク化には微笑まざるを得ない。
──ラミンしとこっ!
『最高に可愛かったよ!』
早速SNSでは華多莉ちゃんが顔を両手で押さえながらセットに沈み込む動画が切り抜かれて載せられている。
──汎用性の高いGIF……
きっとこの先色んな所でこの動画が貼られることになるだろう。
私は織原君の出番が終わってもしばらくこのテレビ番組を点けていた。CZカップの練習をしながら、BGM感覚で流していると、エンディングトークで再び華多莉ちゃんが現れた。
『え~色々ありましたが、今日はどうでしたか?かたりん』
『本当にすみませんでした!私、番組の流れを無視して勝手に色々言っちゃって……』
お笑い芸人の勝本さんが言った。
『いや、あれはあれでむっちゃおもろかったで?』
次にメインMCの西野さんが言った。
『気になったのが、アイドルを続けられたのはエドヴァルドさんのおかげだって言ってたけど、あれはどういうこと?』
『あれはぁ、私がアイドルとして全然売れてなかった時、たまたまエドヴァルド様の配信を観たんですよ。そしたらぁ、同時視聴者数が0人で私と同じように誰も観てくれてないって状況で、それでも腐らずに最後までやり続けることで自分を誇れるようになるって言ってて──』
オタク特有の早口になって説明する華多莉ちゃんに勝本さんが言った。
『もぅ、様つけてもうてるやん』
華多莉ちゃんは勝本さんの指摘によって、瞬時に自分が『エドヴァルド様』と呼んでいたことに気が付き、悲鳴をあげた。
『ぇ?あ、あぁぁぁぁ!!!』
華多莉ちゃんの悲鳴をきっかけにしてか、画面にはスポンサー企業の社名が写り、その後ろで華多莉ちゃんが両手で顔を隠し、スタッフや出演者達の笑い声で番組が終了した。
──明日から学校だけど華多莉ちゃん大丈夫かな……
大きく打つ胸の鼓動によって歩くリズムが決められる感覚。そのせいで歩き方を忘れてしまったみたいに、手と踏み出す足が同時に出てしまった。
その間にメインMCの西野さんが私をもう一度呼ぶ。
「かたりん、いてるぅ?」
私はようやくカメラの前に躍り出た。
「おぉ、おったおった」
「は、はい!」
「どうですか?かたりんは、Vチューバーを見ますか?」
私はチラリと横目でエドヴァルド様を見た。質問をしてきた西野さんの横にいる。モニターに写るエドヴァルド様と目があった瞬間、頭が真っ白になった。よく握手会をする際に、黙って俯いてしまう人がいるが、その人の気持ちがわかった気がした。そして真っ白になったと同時に悲鳴のような歓喜の叫びが私の喉元に押し寄せる。私はなんとかそれを押さえようとするが、それは息となって漏れ出てしまった。
「あぁ…はぁ……」
質問に答えない私に西野さんが不思議がって尋ねてきた。
「…どうしたん?大丈夫?」
真っ白になった私の頭は、困惑するメインMC達に今の自分の状況を説明する選択をとる。
「…あの…私……そのエ、エドヴァルドさ…んが本当に大好きでぇ……」
「あぁそうなん!?」
私のカミングアウトに西野さんは驚き、同時にモジモジする私に勝本さんがつっこんだ。
「もう顔、まっかっかぁやん」
私は「いやぁ」と軽い悲鳴を上げて自分の顔を両手で覆うようにして隠した。スタッフさんと西野さんと勝本さんの笑い声がスタジオに響く。
「えぇ!かたりんのこんなん見たことないですよ?」
「M-1とった錦恋が来たときの反応と、ぜんっぜんちゃうやん!!」
このままではよくないと思った私は、手をどけて隠していた顔を覗かせる。そして手で仰ぎながら紅潮した頬を冷ましていたが、カメラが私をアップで捉えていることに気が付いて、私は再び顔を隠し、そのまま座り込んでセットの影に隠れた。
「あ、逃げた!もう女子高生をここまで魅了するわけですね。Vチューバーは!!」
するとエドヴァルド様の声が聞こえた。
『…こんなに反応して貰ったことは今までなかったことなので…嬉しいんですけど、少し戸惑っていたりしますね』
──あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!エドヴァルド様を困らせてしまったぁぁぁ!!!!
私は名誉挽回するために、深呼吸をしてから立ち上がる。
西野さんが反応する。
「あ、出てきた」
「あっ…えっと……この前のポーカー大会も見てました……」
『あ、ありがとうございます』
──きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!お話!!お話しちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
私は再びしゃがみこみセットの影に隠れた。西野さんが姿を隠した私に話しかける。
「え~、姿は見えませんがかたりん?かたりんはいつ頃からエドヴァルドさんの配信を見てたん?」
高鳴る鼓動によって全身の血が頭に昇っているような感覚に陥った。それでも私は頑張って声を出す。セットに隠れたまま。
「い、1年くらい前から…です…そのグ、グッズも持ってます……」
西野さんがエドヴァルド様に尋ねた。
「グッズなんかも出してるんですか?」
『グッズはもうかなり前に出したキリなので、音咲さんは本当に昔から自分のことを見てくれているのがわかりますね…いやぁ、本当にありがとうございます』
エドヴァルド様に名前を呼ばれて、更には感謝もされた。今までスパチャを送ったこともあるし、スパチャ読みの時間では名前を呼ばれたこともある。モデレーターになってほしいと声をかけられることもあった。しかしその名前というのは私のアカウントの名前、ララであり本名ではない。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!」
今度は声に出して嬉しさを悲鳴にして漏らしてしまった。スタッフさんや西野さんの笑い声が聞こえる。すると勝本さんがツッコミを入れてきた。
「さっきから何を見せられてるんですかね?」
スタッフさんの笑い声が聞こえる。
「今そのグッズとか持ってたりするん?」
「あ、ぇっと、楽屋にあってですね……今はもってないんですけどあの、なんでしたっけ…あの……」
咄嗟にグッズ名が出てこない。
──十字架の……
すると、エドヴァルド様が助け船を出してくれた。
『ロザリオのアクキーですか……』
「そ、そう!それです!!…あれ?でもグッズはアクキーだけじゃなくて缶バッジとかもあったんですけど、どうしてアクキーだってわかったんですか?」
私は無意識に質問してしまった。番組の流れから大分逸れてしまっている。それらを全く無視した質問。私は直ぐに反省をして答えなくていいと訂正を入れようとしたが、
「そのアクキーってのはなんですか?」
西野さんが尋ねる。
「アクリルキーホルダーの……」
『アクリルキーホルダーのことです』
声を被せてしまったことによる罪悪感と喜びが私を満たす。
「はぁ~、それを略してアクキーって言うんですねぇ……え~時間が迫ってきおりますが、かたりん?せっかくだから何か聞きたいこととかある?」
本当ならVチューバーの収入や今後どのように活動していくのかを訊くところだ。しかし西野さんは気を利かせて私に質問して良いと委ねている。ここはしっかりしなくてはならない。
私は立ち上がり、カメラに写る。
「おっ、出てきた出てきた」
「あの、私、アイドルとしてここまでやってこれたのは本当にエドヴァルドさんのおかげで、その…話題になった歌枠もリアルタイムで聞いて元気をもらいました。ほ、本当に存在してくれてあ、ありがとうございます!!」
私の感謝にスタジオが沈黙する。それを埋めるように西野さんがエドヴァルド様に話をふった。
「─と言われてどうですか?」
『えっと…自分もここまで活動できるのは音咲さんのような昔から観て頂いてる方達のおかげだと思っていて、寧ろお礼を言いたいのは自分の方ですね。ありがとうございます。それと、今日は自分みたいなモノを呼んで頂きまして皆さん本当にありがとうございました』
私の赤い頬を冷ますように一筋の涙が流れた。私のそれには触れず、間髪入れずに西野さんがこのニュースをしめる。
「ありがとうございました!本日のゲスト、エドヴァルド・ブレインさんでしたぁ!!」
──────────────────────────────────────────────────
~一ノ瀬愛美視点~
華多莉ちゃんと織原君の共演を私はしかと見届けた。夏休み最後の日曜日。それに相応しい内容だった。世間はどのように今の共演を見たのか気になり、私はSNSを覗いた。
〉かたりん可愛すぎ!!!
〉ただの放送事故で草
〉限界化かたりんが可愛すぎる!!
〉かたりんファン涙目www
〉エドも緊張してたな
〉絵畜生のおかげでアイドル続けられるってどういうことだ?
〉かたりんがV好きで好感度爆上がりした
思ったよりも華多莉ちゃんの好感度が上がっていて安心した。それよりも華多莉ちゃんのあの限界オタク化には微笑まざるを得ない。
──ラミンしとこっ!
『最高に可愛かったよ!』
早速SNSでは華多莉ちゃんが顔を両手で押さえながらセットに沈み込む動画が切り抜かれて載せられている。
──汎用性の高いGIF……
きっとこの先色んな所でこの動画が貼られることになるだろう。
私は織原君の出番が終わってもしばらくこのテレビ番組を点けていた。CZカップの練習をしながら、BGM感覚で流していると、エンディングトークで再び華多莉ちゃんが現れた。
『え~色々ありましたが、今日はどうでしたか?かたりん』
『本当にすみませんでした!私、番組の流れを無視して勝手に色々言っちゃって……』
お笑い芸人の勝本さんが言った。
『いや、あれはあれでむっちゃおもろかったで?』
次にメインMCの西野さんが言った。
『気になったのが、アイドルを続けられたのはエドヴァルドさんのおかげだって言ってたけど、あれはどういうこと?』
『あれはぁ、私がアイドルとして全然売れてなかった時、たまたまエドヴァルド様の配信を観たんですよ。そしたらぁ、同時視聴者数が0人で私と同じように誰も観てくれてないって状況で、それでも腐らずに最後までやり続けることで自分を誇れるようになるって言ってて──』
オタク特有の早口になって説明する華多莉ちゃんに勝本さんが言った。
『もぅ、様つけてもうてるやん』
華多莉ちゃんは勝本さんの指摘によって、瞬時に自分が『エドヴァルド様』と呼んでいたことに気が付き、悲鳴をあげた。
『ぇ?あ、あぁぁぁぁ!!!』
華多莉ちゃんの悲鳴をきっかけにしてか、画面にはスポンサー企業の社名が写り、その後ろで華多莉ちゃんが両手で顔を隠し、スタッフや出演者達の笑い声で番組が終了した。
──明日から学校だけど華多莉ちゃん大丈夫かな……
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