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第114話 住吉ぃぃeeee

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~音咲華多莉視点~

「始まりましたぁ~住吉ぃぃeeeeの時間です!」

 拍手と掛け声がいつものように聞こえてくる。

「今回の素敵なゲストはこちらの方達でぇす!」

 メインMCのテツさんから紹介される。私はカメラに視線を合わせて言った。

「はーい♪︎酷い言葉は吐きません!皆のカタリ!椎名町45の音咲華多莉です!!」

 拍手を浴びながら私は一礼する。隣にいるふみかも私にならって挨拶をした。そしてお笑い芸人のポケットジャングルの2人とアンダーガールズの名高さんが挨拶をした。

 そしてテツさんは今日の主役を紹介する。

「そして、第4回全国高校eスポーツ選手権大会、フォートトゥナイト・ソロ部門に見事優勝しました。MANAMIさんでぇ~す!」

 愛美ちゃんは私も普段着ている学校の制服に身を包んで、挨拶をした。

「よ、宜しくお願いしますッ!」

 ヨッと言って共演者の皆さんは緊張している愛美ちゃんを暖かく迎える。住吉ぃぃeeeeという番組で全国高校eスポーツ選手権大会の模様をダイジェストで放送もしていたこともあり、今回の収録のゲストで愛美ちゃんが呼ばれたのだ。

 FMS歌謡祭のリハーサルにて、ディスティニーシーで織原と一緒にいた女性は偶然パーク内にいたただけだと判明し、私は愛美ちゃんにはそれらのことを伝えなくてよいと判断した。しかし気になることがもう1つある。

 ──愛美ちゃんがシロナガックスだとしたら、林間学校の時どうやってアーペックスの大会に参加したのだろう?

 そんなことを訊く暇もなく収録が始まった。

「どうですか住吉さん」

「いやぁ~観てましたよ。こんなに可愛らしいのにね、えげつないプレイしてぇ、ねぇ?」

 愛美ちゃんは、そんなぁ…と言って否定する。テツさんが続いて言った。

「しかもですね。MANAMIさんの同級生がこちらのかたりんということで」

 私は切り替えて後を引き継ぐ。

「はい!そうなんですよ」

 住吉さんが感心する。

「凄いよね。ってことはかたりんもこの制服着てるってことでしょ?」

 私は、はいと返事をすると少し間をおいて住吉さんが言った。

「名高ぁ、あんまジロジロ見んなって」

 アンダーガールズの名高さんは細身の身体をくねくねさせながら言った。

「ちょっとぉ、新婚なんだから優しくしてくださいよぉ!」

「…おめでとう」

 住吉さんは少し間をとってから急に笑顔を作り、祝福した。そして私達は拍手を送る。名高さんは言った。

「そう!そういうのッ!!」

 この場が笑いで包まれる。

 テツさんが進行した。

「というわけで今日はMANAMIさんと一緒にフォートトゥナイトをやってみたいと思います!」

──────────────────────────────────────────────────

~織原朔真視点~

 僕は現在、フォートトゥナイトの配信を準備している。ラバラブの神楽坂さんとVユニの東堂さん、同じくVユニの橘さんと4人1チームのスクワッド形式でこれからコラボ配信をする。準備と言っても、配信環境を整えるようなことではなく、配信せずに裏でフォートトゥナイトを4人でプレイしているだけだ。運動部が試合の前にアップをしている感覚に近いだろう。

 僕と神楽坂さん、東堂さんはフォトトゥナはてんで素人で橘さんに最低限のことを教わっている最中だ。

 神楽坂さんが言った。

『むっず!ピスコンが!!』

 ピスコンとはピースコントロールの略でフォトトゥナの代名詞である建築技術のことだ。

 僕らは殆どが初心者ということもあって、ランクモードではなく通常モードでゲームをしていた。ランクモードとは同じぐらいの実力者を集めた試合なのだが、通常モードは時間帯で召集をかけるので初心者からガチ勢とごった煮の状態で行われる試合になることがある。

 殆どのガチ勢はランクモードを選択するので、僕らにとっては丁度よい相手達とゲームができる。

 橘さんが言った。

『初心者が建築の早さを重視すると詰むから、BUPGのようにプレイするのが良いのかも。おまけで建築もできるみたいな感じで』

 神楽坂さんはそれに返す。

『え~折角だから建築したいじゃん?なぁエド?』

「シロナガックスさんみたいな?」

『そうそう!てか年下の女子高生だったとかビビったわ』

 その言葉に東堂さんが賛同する。

『わかる!でもあれって確定したんだっけ?MANAMIさんがシロナガックスだって』

 ネット内では一ノ瀬さんがシロナガックスで確定だとほぼほぼ決定づけられている。一ノ瀬さんは自分がシロナガックスであるとバレないと思っていたらしいが、やはり多くの人は彼女の正体に気が付く。

 ──なんか抜けてるところがあるんだよな……

 一ノ瀬さんは全国高校eスポーツ選手権大会を優勝してから直ぐに学校に連絡を取って林間学校の件を鐘巻先生に話したようだ。勿論、僕と薙鬼流に許可をとった後、僕と薙鬼流と一緒に出たことは内緒にして。

 橘さんが僕に訊いた。

『エドは一緒のチームでプレイしてて気付いたぁ?』

「全然気付かなかったですよ!」

 ちなみに東堂さんや橘さん、Vユニの方とコラボするのは初めてなのだが、彼女達は普通に接してくれる。

『V verse union』のメンバーはFPSやTPSが得意な女性だけで構成されている事務所で、元プロゲーマーやゲームの得意なストリーマーとコラボをしてはシューティングゲーム業界を盛り上げている。

 東堂さんなんかはいくらフォートトゥナイトが初心者とは言え、やはりこういったゲームの勘が冴えており、裏での練習配信でどんどんと上達していく。

『クソッ!エドに負けてたまるか!!』

 神楽坂さんは僕に対抗意識を燃やしている。しかし僕は彼に嘘をついていた。確かにフォートトゥナイトは初心者なのだが、一ノ瀬さんとこの配信に向けて練習をしていた為、僕の方が彼よりも上手いのは当たり前なのだ。

『だぁぁ!建築が言うことをきかねぇ!!』

「すみません。その間に倒しちゃいました……」

『っるせぇ!!』

 通常モードにいる敵の多くは、僕らと同じようなフォートトゥナイト初心者で構成されているが、僕らのように他のTPSゲームをしてきているわけでもなく、橘さんのような経験者も少ないため、僕らはどんどんと敵をエリミネートしていく。

 しかしここで、経験者の橘さんが遠くにいる敵にエリミネートされた。

『うっま!!なにそれ!?』

 橘さんは悔しがるどころか、倒した相手を称賛した。

 キルログを見ると、

 〉MANAMIがTachibana0808を倒しました

 と載っていた。

 僕らはその表記に驚いた。

「え?」
『ん?』
『本物!?』
『マジィ!?』

──────────────────────────────────────────────────

~一ノ瀬愛美視点~

「ま、愛美ちゃん!?これどうしたらいいの!?」

 華多莉ちゃんがキャラクターを右往左往させながら私に訊いてくる。

「…えっと、それは……」

「愛美ちゃぁん!!待ってぇ~~」

 私の側にいるのに華多莉ちゃんは自分から離れていきながら私に待ってほしいと言う。

 ──か、かわいい……

 アンダーガールズの名高さんが言った。

「かぁたりん!あんたが離れてるんだよ!」

「え!?そうなんですか?」

 住吉さんが華多莉ちゃんを宥める。

「落ち着いて、落ち着いて」

 すると銃声が聞こえた。私は驚いた。何故なら近くに敵などいないと判断していたからだ。

 撃った張本人である華多莉ちゃんが言う。

「敵です!!」

 そしてもう1発銃弾を放った。

「そぉれ、俺だから!!」

 名高さんが言った。

「す、すみません。つい……」

「ついってなによ?」

 住吉さんがまたしても諌める。

「仲良く!仲良くしよ?」

 共演者とスタッフさん達が笑う。こんなドタバタなスクワッドだが、いつものランクモードではないため気軽にプレイができる。通常モードは華多莉ちゃんのような初心者が多い。

 しかし気になるキルログが流れた。

 〉vardmanがgreenroomを倒しました

 私は思う。

 ──vardman……

 一度フォートトゥナイトを織原君とプレイしたことがある。その時の織原君のアカウント名が確かvardmanだった。

 そんなことを考えていると、私は敵を発見した。

 持っているスナイパーライフルでその敵を仕留めた。

 〉MANAMIがTachibana0808を倒しました

 これで理解した。織原君が私と初めてフォトトゥナをプレイした理由が、今度神楽坂さんとVユニのメンバーとコラボするからと言った理由だった。今私が殺ったのはVユニの橘零夏たちばなれいかさんで間違いない。つまりこのゲームに織原君も参加している。

 そんなことを考えていると名高さんに訊かれた。

「MANAMIちゃぁん?どうしたの?」

「あ、さっき敵がいたので倒しちゃいました。左下のキルログを見て貰うと私がその人を倒したことがわかります」

「すげぇ!イケメン」

「凄いよ愛美ちゃん!!」

 おおっと共演者達とスタッフさん達が盛り上げてくれる。しかし楽観的になれなかった。何故なら今まさに橘さんを倒した私に向かって織原君達が迫って来ているのだ。

「そ、それと今私が倒したせいで残りの3人がこっちに来てます……」

 名高さんが言った。

「なんてことしてくれたんだ!!」

 住吉さんが笑いながら口を開く。

「文句を言うじゃないよww」

「ど、どうします!?」

 私以外のメンバーにこっちに逃げるようにと言っても直ぐに追い付かれてしまうだろう。ここは撮れ高の為にも、戦うことを選択しよう。

「迎え撃ちましょう!!」

 私がそう言うと、早々に名高さんがダウンされた。

「あぁぁぁぁぁぁ!!!」

 次に住吉さんがダウンする。 

「やられたぁー」

 そして華多莉ちゃんもダウンする。

「愛美ちゃぁぁぁぁん!!」

 〉kliklikliklicaがnadakaをダウンさせました
 〉vardmanがsumiyoshiをダウンさせました
 〉kagurazakaxがotosakiをダウンさせました 

 キルログが連続して流れる。私はそのキルログに彼らの名を刻み返した。

 〉MANAMIがkliklikliklicaをダウンさせました
 〉MANAMIがkagurazakaxをダウンさせました

 名前からして残るは織原君だけだ。しかし私は織原君を見失った。おそらく回復をしているのだろう。私はその隙に華多莉ちゃんを起こしに行く。

 ダウンから起き上がった華多莉ちゃんに回復アイテムを渡した。

「華多莉ちゃん、これ使って」

「あ、ありがとう」

 住吉さん達が敵を倒した私に賛辞を贈ってくれる。

「すげぇ」
「かっこよ!」
「そんなことやりたかったぁ~」

 華多莉ちゃんが回復している間に、私は残る織原君を探す。しかしその瞬間、回復したばかりの華多莉ちゃんが言った。

「い、います!私の前に!!」

 私は直ぐに華多莉ちゃんの元へ向かう。銃を構えた織原君がいた。しかし織原君は華多莉ちゃんを撃とうとしなかった。華多莉ちゃんだと気付いて舐プをしているわけではなく、華多莉ちゃんだと気付いて撃ちたくなかったというのが正確な表現だろう。

 しかし、姿を現した私には躊躇なく発砲してきた。私も撃ち返そうとしたが、華多莉ちゃんの放った弾が見事織原君を撃ち抜き、彼等のスクワッドが全滅した。

「「「おおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 と共演者達が囃し立てる。

 華多莉ちゃんが言った。

「え、え!?私が倒したの!?」

「凄いかたりん!」
「凄いよ!」
「華多莉ちゃん!凄い!!」

 私も賛辞を述べる。しかしどうしてもモヤモヤが止まらなかった。

 ──華多莉ちゃんには撃たないで、私には撃つんだ……

 私が不服そうにしていると、華多莉ちゃんが尋ねてくる。

「どうしたの愛美ちゃん?」

 私は答えた。キルログが流れた辺りで指摘すれば良かったのだが、本番という圧力で言えなかったことを口にする。

「これって配信者モードにした方が良いかもしれませんね……」

 配信者モードとは、キルログ等に対戦相手のアカウント名と自分のアカウント名が表示されないモードのことだ。

「……」

 スタッフさん達がどよめき、見事このマッチはカットされる方向で話が進んだ。
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