上 下
72 / 185

第72話 死なせねぇ

しおりを挟む
~ルブタン視点~

 現在総合ランキング4位の俺達、プラハを着た天使たちのこのラストゲームにかける想いは強い。てかそれよりもアドレナリンが出っぱなしだった。もうドバドバですわ。既にキルポイントを10pt獲得した。そして正面にいる敵が2チーム。ここで更に6ptが稼げる。そしてそして、おそらく前方にいるのは因縁のシロナガックスの率いるチームだ。アイツが有名になればなるほど俺の、ルブタンの評判が下がる。

 山本"KID"徳郁が開始4秒で宮田和幸からKOを取ったみたいに。もう亡くなってしまったが山本KIDが表舞台に立てば立つ程、宮田が膝蹴りで気絶する映像が何度も流れる。

 ──そんな感じで俺がアイツに殺られる映像が何度も流されてんのじゃ!!絶対潰す!!

 鳴り止むことのない銃声が聞こえる中、キルパクされないように、いや俺が仕留める為に、坑道出入り口にあるコンテナから前方にある遮蔽物、アイテムボックスまで前進した。

 その間、敵の操るルーが俺を狙おうとボット立ちになったのを俺は見逃さなかった。恐ろしく早いエイムによって、俺は敵のルーにダメージを負わせることに成功した。

 ──今のは俺じゃなきゃ見逃しちゃうね

 漫画のセリフを引用した。何てったってアドレナリンがドバドバっすから。

 俺がダメージを与えたルーは、何故だかアビリティの空虚を使用した。

「ん?」

 このまま空虚という無敵状態で俺達の包囲網を抜けてくる算段か?そうなれば残された2人を俺達3人で詰めてぶっ殺すだけだが、空虚を使用した状態でルーは少しの間、その場にとどまっていた。

 ──ちっ!動きが読めねぇ……

 逆にこっちも狙いがつけられない。向こうの動き次第でこちらの動きも変わってくる。ルーの空虚で俺達の背後を取ると見せかけて、俺達が詰めてこようとして来るのを待っているのか?

 様々な思考が俺の脳内に駆け巡ると、その時敵のルーがようやく動き出した。やはり俺達の包囲網を突破し、坑道から出ようとしている。初心者ならば、ルーの動きに気を取られて背後にポジショニングされるのを嫌うが、俺のような手練れならここは冷静に人数の減ったところから攻め落とす。

 ていうかそう仲間たちに指示をした。

 しかし、空虚を使ったルーの動きを確認させることがそもそもの相手の狙いだったことに俺は気付かなかった。

 プシュンと弾丸が命中する音と共に画面が一瞬赤く変色した。そして俺の操るキャラクターの両腕が前へと投げ出される。

 俺はダウンした。

 少しの気の緩み。シロナガックスというプレイヤーから少しでも気を反らすことによって俺は奴の持つ一撃必殺のスナイパーライフル、キャリバーの餌食となる。

「はぁ~~~!!!?構えてなかったやん。俺らが遠くにいる時からアサルトライフルで撃ってましたやん。普通気付かんやん。それが狙いだって」

 俺がダウンしたことにより、一気に2v3となっただけでなく、俺の画面はダウンした自分の視界しか写さない。戦況がどうなってるのかわからない為、上手くオーダーができない。

 そして思った。

 ──この戦闘シーン…また使われるやん……

──────────────────────────────────────────────────

~一ノ瀬愛美視点~

『前だ!ひなみ!!前に逃げろ!!』

 エドヴァルドさんの声が聞こえて、薙鬼流さんは前へ走った。

 私はここぞという時にしか使わないと決め込んだ武器──すめらぎさんのデスボックスから回収した──キャリバーに持ち変えて、敵のルブタンさんと思しきプレイヤーが薙鬼流さんの動きに一瞬視線を向けたところを撃ち抜いた。

 そして薙鬼流さんの震える声が聞こえる。

『ヘイトはいつもみたいに私が買うんで!!皆さん今のうちにお願いします!!』 

 私とエドヴァルドさんはほぼ同時に返した。

『笑えないっつうの!!』
「笑えないです!!」

 そして私は直ぐ様、戦況を伝える。

「前方の敵を1人ダウンさせました!前の残る2人は皆さんに任せます!!」

『了解!』
『了解!』

 2人の返事を聞いた私は、息をゆっくりと吐き出して背後に集中する。

 迫る炎の壁と3人の人影。

 思ったよりも距離が近い。このまま私含め、残るライフポイントの低い3人で前方へ進めば背後の新界さんチームに詰められ漁夫られる。流石に彼ら相手に回復もしないで連戦するのは厳しい。かといって逃がしてくれるほど甘いチームではない筈だ。

 ──それに……

 悩み苦しんでいた薙鬼流さんが前を向き出したのだ。ここで水を差される訳にはいかない。彼女が苦しんでいたのは私も知っている。しかし私自身、何か助言できるような生き方や経験をしているわけではない。薙鬼流さんやエドヴァルドさんとは比べられない程小さな事で悩んでいるのだから。

 ──この大会が終わったら2人と肩を並べられるような生き方をしたい!!

 だからせめてこの試合だけでも2人の役に立つことがしたい。私はかつてない程の集中力で背後の敵3人の姿を見据えながら口ずさんだ。

「後ろは私に任せてください」

──────────────────────────────────────────────────

~薙鬼流ひなみ視点~

 私の行動は、本来空虚のみではなく、ワープゲートを開きながら行うべきだった。所謂攻めワープというよく知られた戦法の1つだ。しかし、今はそんな贅沢を言っていられない。寧ろあの状態から動けたことを誉めてやりたいくらいだ。

 モノクロの世界から一変して坑道の薄暗い灯りと出口から差し込む陽光が私を迎えた。空虚の世界から現実に帰ってきたのだ。色のない世界から希望の光がさした。坑道にあるコンテナを通り過ぎた私は振り返り、目の前の敵2名に向かって武器を乱射した。

 1人はコンテナに並ぶようにしてこちらにエイムを合わせており、もう1人はコンテナの前にいる。いずれも私の元いた場所からは姿を隠すことのできる位置である。

 敵の2人が私に気を取られている隙にどうかあの2人には生き延びて欲しい。私はここで死ぬつもりだった。

 見様見真似のレレレ撃ちをしているが、被弾しまくる。2人に狙われているのだから当然だ。だけど私は動くことを止めない。

 ──だって決めたんだ!!動けなくなるその日まで前に進み続けるって!!

 しかしそんな想いとは裏腹にどんどんとライフが減っていく。画面はその都度赤く明滅し、死に向かっていくのを告げる。しかし次の瞬間、私を青いドームが包み込んだ。

 そして私を何度も救ってくれた声が聞こえる。

『死なせねぇよ!!……』

 その言葉で死にそうだった。

 エド先輩はコンテナの上に立ち、私を守るようにシェルタードームを展開させてから近くにいた敵の1人クリムトを撃った。クリムトはスライディングをしながら動き回るがエド先輩はコンテナから飛び降りながら発砲し、見事クリムトを撃破すると、次に残る1人レヴェナントに照準を合わせて仕留めた。

 この危機を脱し、安心した私は言葉に詰まる。

「ェ…エド先輩……ヒッグ……」

 泣きそうな、いやもう泣いてる私にエド先輩は、まだ緊張の糸を切っていなかった。

『まだだ!!』

 すると、シロさんの悔しがるような声が聞こえてきた。

『すみません…止めきれませんでした……』

 私の画面左下にあるシロさんのライフがゼロとなり、新界さんの操るレインボーのグラビティが坑道から姿を見せた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺と(従姉)姉ちゃんの良くある『今日から俺は?』の話だ。

かず斉入道
青春
この物語の時代背景は昭和……。 主人公の新作は春の入学式も終わり、高校生活にも少しなれた頃の、春の終わり。 二階の自身の部屋で、進学に向けて自習勉強中の頭の余り賢くない主人公山本新作の耳へと両親のヒソヒソ声が聞こえてくるのだが。 その内容と言うのが? 父親の経営する会社の業務拡大に伴って、他県へと会社を移転するから、皆で引っ越そうと言う話しで。 新作を他県の高校へと転校させようと言った話しなのだが。 その話しを聞いた当の本人である新作は顔色を変えてしまう。だって彼は、自身の担任のピチピチした女性教師の久美ちゃん先生に憧れと恋心、想いを寄せているからだ。 だって主人公は大学卒業後に、先生を自身の嫁にしたいと心から思い、願っているから進学に向けて猛勉強。 先生からも個人レッスンを受けているから。 彼は安易に転校をしたくはない。 でも新作が通う高校は県内一の不良学校、悪の巣窟だから。 新作の父親は、この機会に真面目な新作を転校させたいからと妻に相談する。 でも新作の母親は、父親の想いとは裏腹の意見を述べてくるのだ。 新作が通う高校には近所の幼馴染がいる。 その彼が悪の巣窟。県内ワーストワンの学園で、上級生達も恐れるような、広島市内でも凶悪、関わりたくない№1のサイコパスな人間なのだが。 そんな幼馴染と新作は大変に仲が良いのと。 素行が真面目な新作のことを担任の久美ちゃん先生が目をかけてくれて。大学進学をサポートしてくれている。 だから母親が新作の転向を反対し、彼を父親の兄の家に居候をさせてもらえるように嘆願をしてくれと告げる。 でも新作の父親の兄の家には一人娘の美奈子がいるから不味いと告げるのだが。美奈子は、幼い時に新作の嫁にくれると言っていたから。 二人の間に何かしらの問題が生じても、もう既に姪は家の嫁だから問題はないと。主人公が今迄知らなかった事を母親は父親へと告げ、押し切り。 新作は伯父の照明の家から学校へと通うことになるのだが。 でも主人公が幼い頃に憧れていた従姉の姉ちゃんは、実は伯父さんが夫婦が手に余るほどのヤンキーへと変貌しており、家でいつも大暴れの上に。室内でタ〇コ、シ〇ナーは吸うは、家に平然と彼氏を連れ込んで友人達と乱交パーティーするような素行の悪い少女……。 だから主人公の新作は従姉の姉ちゃん絡みの事件に色々と巻き込まれていく中で、自分もヤンキーなる事を決意する。 主人公が子供から少年……。そして大人へと移り変わっていく物語で御座います。

幼馴染をわからせたい ~実は両想いだと気が付かない二人は、今日も相手を告らせるために勝負(誘惑)して空回る~

下城米雪
青春
「よわよわ」「泣いちゃう?」「情けない」「ざーこ」と幼馴染に言われ続けた尾崎太一は、いつか彼女を泣かすという一心で己を鍛えていた。しかし中学生になった日、可愛くなった彼女を見て気持ちが変化する。その後の彼は、自分を認めさせて告白するために勝負を続けるのだった。  一方、彼の幼馴染である穂村芽依は、三歳の時に交わした結婚の約束が生きていると思っていた。しかし友人から「尾崎くんに対して酷過ぎない?」と言われ太一に恨まれていると錯覚する。だが勝負に勝ち続ける限りは彼と一緒に遊べることに気が付いた。そして思った。いつか負けてしまう前に、彼をメロメロにして告らせれば良いのだ。  かくして、実は両想いだと気が付かない二人は、互いの魅力をわからせるための勝負を続けているのだった。  芽衣は少しだけ他人よりも性欲が強いせいで空回りをして、太一は「愛してるゲーム」「脱衣チェス」「乳首当てゲーム」などの意味不明な勝負に惨敗して自信を喪失してしまう。  乳首当てゲームの後、泣きながら廊下を歩いていた太一は、アニメが大好きな先輩、白柳楓と出会った。彼女は太一の話を聞いて「両想い」に気が付き、アドバイスをする。また二人は会話の波長が合うことから、気が付けば毎日会話するようになっていた。  その関係を芽依が知った時、幼馴染の関係が大きく変わり始めるのだった。

超激レア種族『サキュバス』を引いた俺、その瞬間を配信してしまった結果大バズして泣いた〜世界で唯一のTS種族〜

ネリムZ
ファンタジー
 小さい頃から憧れだった探索者、そしてその探索を動画にする配信者。  憧れは目標であり夢である。  高校の入学式、矢嶋霧矢は探索者として配信者として華々しいスタートを切った。  ダンジョンへと入ると種族ガチャが始まる。  自分の戦闘スタイルにあった種族、それを期待しながら足を踏み入れた。  その姿は生配信で全世界に配信されている。  憧れの領域へと一歩踏み出したのだ。  全ては計画通り、目標通りだと思っていた。  しかし、誰もが想定してなかった形で配信者として成功するのである。

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

短編集「空色のマフラー」

ふるは ゆう
青春
親友の手編みのマフラーは、彼に渡せないことを私は知っていた「空色のマフラー」他、ショートストーリー集です。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

ちはやぶる

八神真哉
歴史・時代
政争に敗れ、流罪となった貴族の娘、ささらが姫。 紅蓮の髪を持つ鬼の子、イダテン。 ――その出会いが運命を変える。 鬼の子、イダテンは、襲い来る軍勢から姫君を守り、隣国にたどり着けるか。 毎週金曜日、更新。

処理中です...