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第56話 カレー
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~音咲華多莉視点~
夕食のカレーは市販のカレールーで作られたものだった。もう少しスパイスを足したい気分だったが仕方ない。以前、料理人の主人公がタイムスリップをして徳川家康の料理人となるドラマの主役をやったことがある。
とある回で、元気のない家康公に活力の出る料理を作ってくれと頼まれた。その時、私の演じた主人公が考え出したのがカレーだ。カレーには様々なスパイスが使われており、身体に良いだけでなく美味しい。きっと家康公に気に入って貰えると思った主人公は早速スパイスを探した。しかしなかなか見つからない。というのもスパイスは薬として使用されており、海外からの輸入が主であった為、高額で少量からしか取引できない。そして何より、刺激があるため美味しくないとされていた。
大勢の人達から反対を受けながらも、主人公はカレーを作る。出来上がったカレーを家康公に出した時、誰もが主人公の失敗を確信していたが、カレーを口にした家康公からは絶賛される。
カレーを口に運ぶ手を止めない家康公、その恍惚とした表情と、それを愕然とした表情で見る家臣たちの反応を見るのが面白い回だった。
この話の教訓としては昔と今の価値観の違い、だ。
カレーは今や簡単にできるし、安いし美味しい。多くの人に受け入れられている。確かコーラも元々は薬用であり、コーラを初めて口にした人の中には、不味いと評価した人もいる。しかし今では最もポピュラーで世界中の人達に愛されている飲み物だ。
これらの価値観の変遷は何も食べ物だけではない。夏目漱石が小説家としてデビューをした時も、多くの人が反対した。エリートの道を志さず、地位の低い小説家になるなんてもっての他だった。しかし今では小説家は地位の低い者として評価されていない。
最近では、テレビゲームがやり玉にあがることがある。ゲームは時間の無駄だし、ゲームをすると頭が悪くなるとかも言われていた。どこかの県ではゲームをする時間を制限していたりもするが、プロゲーマーという職業が確立され始め、日々誰かを楽しませ、夢を見させてくれる。
漫画やアニメも昭和の頃とは比べ物にならない程評価されている。アニメよりも実写のドラマや映画の方が好きだと言う人も勿論いるが、私の世代ではどちらも同じくらい好きだと言う人が多い。かくいう私も、俳優業をしているが、漫画やアニメは大好きだ。
さて、私の好きなVチューバーについてはどうだろうか?
昔にはなかった配信者という肩書き。初期のVチューバーは編集済みの動画を投稿するのがメインだったが、今では配信がメインとなっている。配信者は実写に限るという人もいるが、それはアニメと実写のドラマどっちが好きか?という問いと同じで、完全に好みの問題だ。どっちかが劣っていて、どっちかが優れているという評価にはならないだろう。しかし、先程まで語ってきたように新しい者を受け入れられない者が一定数いるのは確かだ。それも昔と今の価値観が変わってきたように時間をかけながら受け入れられるようになると私は予想している。カレーやコーラのように。
「一ノ瀬さん何処にいるか知ってる?」
私は愛美ちゃんと同じ班の子に尋ねた。
「なんか生徒会でやらなきゃいけない仕事があるみたいだから、どっか行っちゃった」
夕食を食べ終え、就寝時間までの自由時間を共に過ごそうとしたのだが、どうやらその願いは叶わないようだ。
──林間学校なのに生徒会の仕事があるのか……エドヴァルド様の参加するアーペックスの大会を一緒に観戦したかったのに……
肩を落とした私に、後ろから茉優が話しかけてきた。
「華多莉!このあとカラオケ行くっしょ?」
この施設にはカラオケルームがあり、この自由時間をカラオケに当てようと彼女達は前もって予定していたのだ。しかし私は断った。
「ううん。ちょっと疲れちゃったみたいで、部屋で寝てるよ」
本当は、エドヴァルド様の頑張る姿をリアタイしたいからとは言えなかった。
「わかった!てか美優見てない?」
「あぁ、確かに見ないね」
いつの間にかいなくなっていた美優に多少違和感を抱きながら、私は1人で部屋へ戻った。
ベッドに横になり、持ってきたモバイルルーターを使ってWi-Fiに接続する。この部屋というかこの階にも通常時、無料Wi-Fiが行き届いてはいるが、林間学校中はそのWi-Fiは切断されている。
アーペックスを観るには高画質でないと画面に何が起きてるのかわからない。モバイルルーターを持ってきて正解だった。
「あ、始まってる……」
エドヴァルド様の声が聞こえた。
『うわー、始まっちゃうじゃん。もっと練習しとけば良かった~』
画面には、エドヴァルド様の操るキャラクターと仲間の2人が空中を緩やかに滑空しているのが写っていた。
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真と同じ班、ぼっちの渡辺視点~
『それではルールを今一度確認しましょう』
主催のVチューバー田中カナタがこの大会を告知してから再三伝えているルールについて言及する。
『はい』という相槌を実況解説の武藤兼次が打った。彼は実写での出演だ。
『全三試合のマッチスコア形式となっておりまして、各試合で順位ポイントとキルポイントを付与いたします!その合計ポイントで順位を決定いたします!』
快活な声が視聴者達の耳を刺激する。大会視聴数は始まったばかりだというのになんと15万人弱。早く推しの活躍、大会ならではのドラマを観たいという視聴者の期待が伝わってくる。それに伴って主催の田中カナタの声にも次第に熱がこもり、いち早く自分の集めたライバー達の熱きバトルを目の当たりにしたいという欲望が観てとれる。
画面には順位やキル数によっていくらポイントが付与されるのかがわかる図が写っていた。
『チャンピオンには12ポイント。2位には9ポイント──』
3位7ポイント
4位5ポイント
5位4ポイント
6~7位3ポイント
8~10位2ポイント
11~15位1ポイント
16~20位は0ポイント
『キル数は1試合目は上限6ポイントで2試合目は上限9ポイントまでとなっております。最終試合の3試合目は上限なし、となっておりま~す!!』
『試合数が増していくごとに、逆転できるチャンスが増えるということですね♪︎』
『っそうです!そしてこちら──』
画面は切り替わり、全3試合が行われるマップが写し出された。
『今大会のすべての試合はここワールドエンドにて行われます!』
大会ではよくランドマーク制が採用されている。ステージの決まった座標に降り立つことで、大会開始早々に脱落者を出さない為の制度だが、今大会でそれは採用されていない。最初からバチバチのバトルを主催は期待しているようだ。
この部屋には僕と森氏がいる。森氏は大手Vチューバー事務所『ブルーナイツ』のファンだ。かくいう僕もブルーナイツはよく見ている。しかしブルーナイツという括りではなくVチューバーという業界全体が好きなので、こういった企業勢や個人勢がごちゃまぜとなって出場する大会は大好物だ。だから僕は所謂、神視点と呼ばれる田中カナタのチャンネルから大会を観戦している。森氏は推しの伊手野エミルのチャンネルから観戦しているようだ。
僕らは自分の寝るベッドに横になり、スマホを見つめていた。
実況解説の武藤さんの溌剌とした声が聞こえる。
『さぁ、試合の準備が整ったようなので!早速いきましょう!!オープニングゲームの開始です!!』
夕食のカレーは市販のカレールーで作られたものだった。もう少しスパイスを足したい気分だったが仕方ない。以前、料理人の主人公がタイムスリップをして徳川家康の料理人となるドラマの主役をやったことがある。
とある回で、元気のない家康公に活力の出る料理を作ってくれと頼まれた。その時、私の演じた主人公が考え出したのがカレーだ。カレーには様々なスパイスが使われており、身体に良いだけでなく美味しい。きっと家康公に気に入って貰えると思った主人公は早速スパイスを探した。しかしなかなか見つからない。というのもスパイスは薬として使用されており、海外からの輸入が主であった為、高額で少量からしか取引できない。そして何より、刺激があるため美味しくないとされていた。
大勢の人達から反対を受けながらも、主人公はカレーを作る。出来上がったカレーを家康公に出した時、誰もが主人公の失敗を確信していたが、カレーを口にした家康公からは絶賛される。
カレーを口に運ぶ手を止めない家康公、その恍惚とした表情と、それを愕然とした表情で見る家臣たちの反応を見るのが面白い回だった。
この話の教訓としては昔と今の価値観の違い、だ。
カレーは今や簡単にできるし、安いし美味しい。多くの人に受け入れられている。確かコーラも元々は薬用であり、コーラを初めて口にした人の中には、不味いと評価した人もいる。しかし今では最もポピュラーで世界中の人達に愛されている飲み物だ。
これらの価値観の変遷は何も食べ物だけではない。夏目漱石が小説家としてデビューをした時も、多くの人が反対した。エリートの道を志さず、地位の低い小説家になるなんてもっての他だった。しかし今では小説家は地位の低い者として評価されていない。
最近では、テレビゲームがやり玉にあがることがある。ゲームは時間の無駄だし、ゲームをすると頭が悪くなるとかも言われていた。どこかの県ではゲームをする時間を制限していたりもするが、プロゲーマーという職業が確立され始め、日々誰かを楽しませ、夢を見させてくれる。
漫画やアニメも昭和の頃とは比べ物にならない程評価されている。アニメよりも実写のドラマや映画の方が好きだと言う人も勿論いるが、私の世代ではどちらも同じくらい好きだと言う人が多い。かくいう私も、俳優業をしているが、漫画やアニメは大好きだ。
さて、私の好きなVチューバーについてはどうだろうか?
昔にはなかった配信者という肩書き。初期のVチューバーは編集済みの動画を投稿するのがメインだったが、今では配信がメインとなっている。配信者は実写に限るという人もいるが、それはアニメと実写のドラマどっちが好きか?という問いと同じで、完全に好みの問題だ。どっちかが劣っていて、どっちかが優れているという評価にはならないだろう。しかし、先程まで語ってきたように新しい者を受け入れられない者が一定数いるのは確かだ。それも昔と今の価値観が変わってきたように時間をかけながら受け入れられるようになると私は予想している。カレーやコーラのように。
「一ノ瀬さん何処にいるか知ってる?」
私は愛美ちゃんと同じ班の子に尋ねた。
「なんか生徒会でやらなきゃいけない仕事があるみたいだから、どっか行っちゃった」
夕食を食べ終え、就寝時間までの自由時間を共に過ごそうとしたのだが、どうやらその願いは叶わないようだ。
──林間学校なのに生徒会の仕事があるのか……エドヴァルド様の参加するアーペックスの大会を一緒に観戦したかったのに……
肩を落とした私に、後ろから茉優が話しかけてきた。
「華多莉!このあとカラオケ行くっしょ?」
この施設にはカラオケルームがあり、この自由時間をカラオケに当てようと彼女達は前もって予定していたのだ。しかし私は断った。
「ううん。ちょっと疲れちゃったみたいで、部屋で寝てるよ」
本当は、エドヴァルド様の頑張る姿をリアタイしたいからとは言えなかった。
「わかった!てか美優見てない?」
「あぁ、確かに見ないね」
いつの間にかいなくなっていた美優に多少違和感を抱きながら、私は1人で部屋へ戻った。
ベッドに横になり、持ってきたモバイルルーターを使ってWi-Fiに接続する。この部屋というかこの階にも通常時、無料Wi-Fiが行き届いてはいるが、林間学校中はそのWi-Fiは切断されている。
アーペックスを観るには高画質でないと画面に何が起きてるのかわからない。モバイルルーターを持ってきて正解だった。
「あ、始まってる……」
エドヴァルド様の声が聞こえた。
『うわー、始まっちゃうじゃん。もっと練習しとけば良かった~』
画面には、エドヴァルド様の操るキャラクターと仲間の2人が空中を緩やかに滑空しているのが写っていた。
──────────────────────────────────────────────────
~織原朔真と同じ班、ぼっちの渡辺視点~
『それではルールを今一度確認しましょう』
主催のVチューバー田中カナタがこの大会を告知してから再三伝えているルールについて言及する。
『はい』という相槌を実況解説の武藤兼次が打った。彼は実写での出演だ。
『全三試合のマッチスコア形式となっておりまして、各試合で順位ポイントとキルポイントを付与いたします!その合計ポイントで順位を決定いたします!』
快活な声が視聴者達の耳を刺激する。大会視聴数は始まったばかりだというのになんと15万人弱。早く推しの活躍、大会ならではのドラマを観たいという視聴者の期待が伝わってくる。それに伴って主催の田中カナタの声にも次第に熱がこもり、いち早く自分の集めたライバー達の熱きバトルを目の当たりにしたいという欲望が観てとれる。
画面には順位やキル数によっていくらポイントが付与されるのかがわかる図が写っていた。
『チャンピオンには12ポイント。2位には9ポイント──』
3位7ポイント
4位5ポイント
5位4ポイント
6~7位3ポイント
8~10位2ポイント
11~15位1ポイント
16~20位は0ポイント
『キル数は1試合目は上限6ポイントで2試合目は上限9ポイントまでとなっております。最終試合の3試合目は上限なし、となっておりま~す!!』
『試合数が増していくごとに、逆転できるチャンスが増えるということですね♪︎』
『っそうです!そしてこちら──』
画面は切り替わり、全3試合が行われるマップが写し出された。
『今大会のすべての試合はここワールドエンドにて行われます!』
大会ではよくランドマーク制が採用されている。ステージの決まった座標に降り立つことで、大会開始早々に脱落者を出さない為の制度だが、今大会でそれは採用されていない。最初からバチバチのバトルを主催は期待しているようだ。
この部屋には僕と森氏がいる。森氏は大手Vチューバー事務所『ブルーナイツ』のファンだ。かくいう僕もブルーナイツはよく見ている。しかしブルーナイツという括りではなくVチューバーという業界全体が好きなので、こういった企業勢や個人勢がごちゃまぜとなって出場する大会は大好物だ。だから僕は所謂、神視点と呼ばれる田中カナタのチャンネルから大会を観戦している。森氏は推しの伊手野エミルのチャンネルから観戦しているようだ。
僕らは自分の寝るベッドに横になり、スマホを見つめていた。
実況解説の武藤さんの溌剌とした声が聞こえる。
『さぁ、試合の準備が整ったようなので!早速いきましょう!!オープニングゲームの開始です!!』
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