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第28話 確信

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~音咲華多莉視点~

 ボイストレーニングを終えた私は自室で横になり、エドヴァルド様の配信までにいつものルーティーンを済ませてから彼の配信を見る。ルーティーンと言っても、ご飯を食べてお風呂に入り、ボディークリームを肌に浸透させるといったいつもの日常だ。

 私はかつてない程満たされていた。

 推しが私を守ってくれた。温かい感情が私の胸の中で脈動しているのを今でも強く感じることができた。それは時間が経つにつれて大きなものとなっている気がする。ボイストレーニングの先生は私の声の調子が凄く良いからと言って、こうして歌ってみようとかああして声を出してみようとか色々と指示を出してきた。幸せに満たされていた私はその先生の全ての言うことをきくことができた。歌が上達したことを先生から誉められる。

 そして今、耳に装着したワイヤレスイヤホンから彼の絶叫が聞こえる。

『よし!!ここで大砲を使ってぇ!!』

 ラバラブの2人とコラボした時にやっていたグラウンドカートはコミカルなキャラクター達によるレーシングゲームだ。その歴史は長く、広い世代、そして全世界の人達にプレイされている。

 ルールは簡単、アイテムを駆使して1位を取れた人が一番偉い。

 エドヴァルド様は下位からの打開を狙い、このゲームで最も強いとされる大砲のアイテムを手に入れ、それをここぞというところで、発動しようとしていた。

『っしゃあ!!いけぇぇぇ!!』

 〉いけぇぇ!!
 〉いけいけ!!
 〉勝ったなガハハ
 〉抜かせ抜かせ!!

 エドヴァルド様のキャラクターが大砲の玉のような形に変化し、加速していく。減速しなければならないカーブも大砲発動中はオートに進む為、操作の必要はない。トップスピードを維持しながらヘアピンカーブを曲がった。

 しかし1人抜き、2人抜いたところで大砲の効果は切れた。

『はぁぁぁぁ!!?みっっじか!!短すぎるだろ!!JKのスカートか!?』  

 〉草
 〉短すぎワロタw
 〉たぶん滋賀のJK並
 〉草

 エドヴァルド様のキャラクターが大砲の玉から通常のキャラに戻る。

『マジで短かくなかった!?校長先生の話もこれくらい短ければもっと人気出るだろ!?あの人毎回人気キャラ投票ランキングで下位だからさ』

 〉くさ
 〉校長はキャラじゃない役職
 〉毎回1票入れてるの俺だけ
 〉校長先生の名前覚えてない

 私は画面を見ながら笑う。しかし、この配信の声を聞けば聞くほど、今日廊下で聞いた声がエドヴァルド様本人であると私は確信した。

『あ~8位かぁ……』

 最後の直線でエドヴァルド様は嘆く。

 〉ドンマイ
 〉ナイファイ
 〉口とじろ

『口とじろ?』

 エドヴァルド様はゲーム中、口を開けるのが癖なのだ。

『口とじたら喋れないんですけど、それでも良いんですかぁ?』

 視聴者を挑発するような口調が私の鼓膜を刺激し、今日の廊下での出来事を想起させる。

 ──あぁ、この声……

 〉拗ねるな
 〉よくない喋ってろ
 〉カーブ曲がる時身体も同じ方向に傾くの草

 ゲーム画面は先程のレースのスコアを写している。

『身体動いてた?いるよね、ゲームしながら自分のキャラと同じ方向に身体動く人』

 〉いる
 〉それ俺
 〉アペで撃たれる時、イテって言う
 〉ダメージ受けると痛いっていう人いるw

『アーペックスでもイテっていう時あるからなぁ~……』

 エドヴァルド様は少し間を置いて口を開く。

『…実はさ、身バレまでとはいかないんだけど、なんか気を付けなきゃって思うことがあって……』

 〉なに?
 〉身バレ!?
 〉その声はバレやすそう 

 私の鼓動が高鳴った。今日の廊下での出来事を思い出す。

 ──あのことについて言おうとしてるのかな?

 私はいつもより集中して配信を聞いた。お菓子を食べる手も止まる。エドヴァルド様の声が私の集中した鼓膜をくすぐった。

『この前ラーメン屋行ったときに、そのラーメン屋はあの、トッピング?とかが無料でさ』

 私の予想は外れる。

 〉一郎系?
 〉一郎俺も好き
 〉全増し
 〉ニンニク、脂増し増しで

『そう!一郎系っていうか、一郎インスパイアって言えば正確かな?そこでさ最後にトッピング何にするか聞かれた時に…』

 エドヴァルド様は咳払いをして、マイクに近付く。吐息混じりの低音が私の脳を刺激した。

『野菜ニンニク脂で』

 私は耳だけでなく全身をくすぐられたと錯覚し、そして悶絶した。

「くぅあぁ……♡」

 〉良い声で頼むな 
 〉違う台詞でもう一回おなしゃす
 〉草

『って言ったらさ、隣にいたカップルが食べてる最中のラーメン吹き出してさ~、確かにそのラーメン屋狭くて声が響きやすいところだったからよく響いたなとは思ったんだけど、なんかこんな些細なことでも気付く人っているのかもしれないって思うと、おちおちラーメンも食べられないって思ったね。ちなみにそのカップルが俺の正体に気付いたかっていうとわかんないんだけどね』

 私はコメントを打った。光速で。

 〉気付かない方がヤバい!! √

『……気付かない方がヤバい?確かに、チャンネル登録者最近すごく増えて、昨日の6万人から今9万人に増えてるからね。まだまだかもしれないけどさ、同接も増えてるからなんか気を付けなきゃなって思った』

 私は自分のコメントが読まれて、舞い上がる。ベッドの上で足をバタバタとさせた。

『でもさぁ、俺よりもチャンネル登録者多いVってたくさんいるじゃん?それこそ100万人登録とかさ、あの人達どうやって暮らしてるんだろ?ラーメン屋でトッピング出来なくなる日が俺にも来るのかな?』

 〉冗~談じゃないよ
 〉よく身バレしないよな
 〉冗談じゃないよ~

『冗談じゃないよぉ~ってなんだっけ?まぁ良いか!』

 〉なっつw
 〉マイクなんかつけられちゃったりして
 〉草
 〉たまんねぇよ~  

 配信が終わり、私は天井を眺める。

 ──今日も楽しかった…予想していた配信内容ではなかったけど……

 私の確信は変わらない。おそらくVチューバーエドヴァルド・ブレインは私の高校にいる。

 動画でも現実でも私を救ってくれた彼に私はどうしても面と向かってお礼がしたいと思った。

 それは彼に迷惑をかけることかもしれない。しかし、この想いをどうしても伝えたい。だからまずは聞き込みから始めよう。

 ──私と階段ですれ違った織原朔真が何か見てるかもしれない……
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