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第21話 グラウンドカート

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~織原朔真視点~

 スタートダッシュは成功した。唸るように響くエンジン音と共に、バギーに股がるキャラクターが疾走する。しかしそれは他のプレイヤーも同じで、スタートダッシュをミスした者は誰一人いなかった。

 つまり12名が団子状態で走行している。僕はスタートラインにいた順位、3位を維持したままだ。

 最初のコーナリングに差し掛かる。1位の榊さんと2位の神楽坂さんはほぼ同じラインでコーナーを曲がっていた。

 グラウンドカートは覚えゲーでもある。そのコースの最短ルートやショートカット位置、ドリフトによるミニターボをかけるポイント、ミニターボを貯める時間等を覚えて実践する。あとは他プレイヤーがいる状況やコース上にあるアイテムを使ってどれだけ上手く立ち回れるかにかかっている。

 最初のコーナリングをほぼ順位が変わることなく曲がり終え、アイテムのあるエリアに入った。

 ここで他プレイヤーの邪魔、つまり攻撃アイテムを如何に防御できるか、その防御アイテムがひけるかどうかが重要になる。攻撃アイテムは上位の者を下位に引きずり下ろすモノだが、自分も下位の者からの攻撃アイテムの餌食になる恐れがある為、ここでは防御アイテムをひきたい。

 アイテムボックスをわると、ルーレットが回りアイテムが決まる。

 僕がひいたのは防御アイテムではなく、攻撃アイテムでもない。加速アイテムをひいた。

 僕はバックミラーで後続を走るプレイヤーを確認するとホーミング型の赤い石を持つプレイヤーがいた。その石こそ攻撃アイテムである。

 ホーミング型の赤い石は自分の順位よりも1つ上の順位の者目掛けて追尾する攻撃アイテムだ。

 僕は慌てて加速アイテムを使い、神楽坂さんを追い抜こうとした。追い抜けばその石のターゲットは神楽坂さんになるからだ。

 しかし、僕が加速アイテムを使って間もなく後ろを走るプレイヤーはその攻撃アイテムを放ち、僕にヒットさせる。

「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 僕の叫び声に反応する榊さんと神楽坂さん。

『どうしました!!?』
『あれ?後ろいなくなってねwww?』

 僕は返す。

「あれですよ、うしろから追い上げる景色をリスナーに見せたくて」

 僕の後ろを走るリスナー達が続々と僕を抜かしていく。あっという間に最下位の12位だ。

 その時、神楽坂さんが持ち前の煽り口調で僕に告げる。

『流石今話題のエドヴァルドさんっすね!エンターテイメントをわかってらっしゃるww』

 僕は息を大きく吸ってから、その息を吐くように言った。

「スゥー……ぜってぇ潰す……」

『あれ?なんか言いましたぁ?』

「いえ、何も言ってないっすよ?」

 僕と神楽坂さんのやり取りに榊さんは言った。

『いきなりバチバチじゃねぇか!!ってうぉぉぉぉぉ!!!』

 今度は榊さんが攻撃アイテムに被弾したようだ。

『あれぇ?榊も追い上げる景色をリスナーに見せようとしてる?』

『はぁ?』

 そう応え、失速した状況から加速中の榊さんを僕は抜かして言った。

「まずは1人目ぇ!!」

 〉みんなバチバチで草
 〉全員に煽ってくスタイル好き
 〉レベル高いな 
 〉景色見してくれ~!! 

 1周目が終わる。

 順位は1位が神楽坂さんで11位が僕、12位に榊さんといった具合だ。リスナーが2位~10位を占めている。リスナーのレベルも高い。いつの間にか同接が8500人を超えていた。

 1周が終わって僕は思った。

 ──アイテム運がない……

 そう僕が嘆くと、後ろから榊さんがレインボー状態、つまり無敵状態となって僕に体当たりしてきた。

『あぁ!すみません!!手が滑りました!!』

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

 僕は12位に落ちる。

「下位で潰しあってもしょうがないでしょうが!!」

『下位で潰し合うのも面白んすよ!人生のようでね!!』

 〉裏榊でた
 〉エドヴァルドくん逃げて~!
 〉サイコパス助かる

 確かにグラウンドカートは人生のようだ。なかなか思ったようなレース運びができない。しかし僕が思う最も人生と類似している点はまた他にある。

 それは、トップとの距離が離れれば離れるほど良いアイテムが出るという点だ。どん底に落ちた人にしかわからない人生のアドバンテージが存在する。

 僕はアクセルを踏むのをやめた。

 それを画面左にある全体マップ(コースの全体図だけでなく誰がどこを走っているのかが見える)を見たのか1位の神楽坂さんは言った。

『あれ?回線落ちっすかw』

 その言葉に榊さんはつっこんだ。

『いや!打開狙ってる!!』

 打開とはわざとアイテムがポップするエリアで立ち止まり、良いアイテムが出るまでアイテムを厳選し、それを使って下位から一気に上位へと駆け上がる策のことを言う。

 僕はアイテムボックスを何度か割ると、とある2つのアイテムを確保した。1つはこのゲームで最も強いとされる稲妻だ。もう1つは稲妻の次に強い大砲のアイテム。稲妻は自分以外のプレイヤー全てに必中の攻撃を与える攻撃アイテムだ。稲妻を受けたプレイヤーは持っているアイテムを失い、一定時間スリップするだけでなくマシン速度が減少する。そして大砲のアイテムは自らが大砲のような姿となり一定時間加速しながらコース上をオートで走り抜ける効果を持つ。

 僕はそれらのアイテムを持って11位の榊さんを追った。一度停止したことにより1位だけでなく11位の榊さんにも差をつけられている。しかし差がついたことにより誰もいないコースを最短距離で走り抜けることができた。

 そして最後の3周目に差し掛かった時に11位の榊さんを捉えた。榊さんは迫る僕を見つけると怯えるような声をあげる。

『ちょっとエドヴァルドさん!!なに危ないモン持ってるんですか!?』

 困惑する榊さんに、1位を独走する神楽坂さんが反応する。

『え!?なに!?なに持ってんの!?』

「これですよ!!」

 僕は稲妻を放った。一瞬画面が明滅するとプレイヤーの頭上から稲妻が落ちる。

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!』
『うわぁぁぁぁぁぁ!!!』

 僕以外のプレイヤーが減速する中、僕は大砲のアイテムを使って加速する。

 大砲状態で他プレイヤーにぶつかるとクラッシュする作用がある為、僕の前を走るプレイヤー達はコースの端に寄りながら走行する。僕は次々にプレイヤー達を抜かして一気に1位に躍り出た。

「はい!1位!!あれ?神楽坂さん今何位ですか?」

『てめぇのせいで5位だよ!!』

 3周目も終盤だ。後はインコースを攻めながら自分らしい走りをして防御アイテムを使い身を守れば良い。

 グラウンドカートは人生に似ている。最下位になっても勝てる可能性があるのだから。

 ゴールはすぐそこだ。

 しかしゲームは人生と同じで甘くはない。

 僕の後ろを走るプレイヤーが火の玉を僕目掛けて大量に投げ、見事命中させる。

「はぁぁぁぁぁぁ!????」

 僕のキャラクターはゴール目前にして炎上し、スリップしながら1人、また1人と抜かされてしまう。

 後ろから来る神楽坂さんと榊さんが僕を抜かそうと血相を変えて走ってきた。

『抜ける!!』

『いっけぇぇぇ!!!』

 僕の操るキャラクターはようやく前方を向き加速し始めた。まるで恐怖に追われ、腰が抜けた者のように走るのが遅い。 

 Vチューバー3人はほぼ横並びでゴールする。

 3位 カミカおし
 4位 うつりたい
 5位 サカッキー
 6位 神楽坂本人
 7位 エドヴァルド
 8位 一級忖度士 

 僕は榊さんと神楽坂さんに負けた。

 グラウンドカートは人生のようだ。そう上手くことが運ばない。
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