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第16話 アドリブ
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~音咲華多莉視点~
現在成り行きで織原朔真という同じクラスの男の子に抱き付くような格好で樹の裏に身を隠している。正確に言うと私が樹の幹を背にして織原が私に覆い被さるように身を寄せている。あの時、交差点で助けてくれた時と逆の位置関係だ。織原の華奢な身体と私の身体が触れ合う。
この状況を2人の教師達にバレる恐怖と男の子と2人でこんなことをしているドキドキによって私の胸が今にも張り裂けそうだった。映画やドラマで何度も男性とこんなシーンを撮ったっことがあるっていうのに。
いっそのこと、この場から出て謝罪をすれば何事もなく終わるのかもしれない。しかし私はアイドルだ。消火をしたは良いものの、体育館裏で火を放つのは決して良い行いではない。口頭注意だけならまだしも、それが誰かの耳に入り、炎上する火種になるかもわからない。
また現在クラスの男の子とこういった状況に陥っているのを第三者に知られるのはもってのほかだ。
私は混乱していた。
近づく足音につい織原の腕を握る手に力が入ってしまうが、1人の教師の言葉によって救われる。
「冗談ですよ!最近、推理物のドラマを見て真似てみたんです!」
「な、なんだそうですか!鐘巻先生も人が悪い」
「もう土も乾いていますし、とっくに教室に帰っていると思いますよ」
「じゃあ戻りますか」
「いえ、私はここの掃除をしてから行きますので、先に職員室の方で報告してください」
私は安堵する。織原朔真も肩の力が抜けていくのがわかった。だってこんなにも近くにいるのだからそれくらいわかるのは当然のことだ。遠ざかる足音と私の心臓が比例するように緩やかな鼓動を刻む。
しかし──
「そこにいんだろ?誰にも言わねぇから出てこいよ」
私と織原はまたしてもビクリと身体を跳ねさせた。ホラー映画で例えるならジャンプスケアと言えばわかってくれる人もいるかもしれない。
私は考えた。
──今出ていっても大丈夫かもしれない……先生も誰にも言わないと言っている。
私は樹の裏から出た。
「ちょっ!」
織原の糾弾するような驚きの声が聞こえる。しかし私は担任の鐘巻先生と対峙した。先生は私を見て言う。
「音咲か…意外だな……」
先程まで覆い被さるようにいた織原がいなくなり体育館裏を体育館裏たらしめる簡素な風景が広がる。これから先生と舌戦を繰り広げようとする私は、どこか心許ない気がしてならなかった。冬の日に急に毛布を引き剥がされたような肌寒さを感じる。
私は言った。今まで散々芝居だの、ドラマだのでアドリブを繰り返してきたのだ。多少の心得はある。
「あの……廊下で手紙が落ちていたのを拾って、個人を名指しで中傷するような内容が書いてあったので、もしそれをゴミ箱に捨てて誰かに見つかったらきっとその子が傷付くし、変な噂になると思ったので、ここへ来て手紙を燃やしたんです……すみませんでした」
上出来だ、と私は自分自身を誉めた。
「……なるほどな、約束通り誰にも言わないが、次からは火は使うなよ?火事になったら大変だからな!さぁ、もうじきチャイムも鳴るから教室に戻るぞ」
先生の後を追うように私は歩いた。
後ろを振り返る。私達が隠れた樹を見た。あそこにはまだ織原がいる筈だ。これで車に轢かれそうになった私を助けてくれたことをチャラに出来たんじゃないかと思う。
生徒の声と体育館裏付近を走る車の音と私の心臓の音が混ざり合う。ステージや収録で味わう緊張によるドキドキとはまた一味違う。一回一回強く打つ鼓動は私の全身を温めるように駆け巡り、満たしてくれているような気がした。
──これはきっと咄嗟の対応とアドリブが上手くいったことに対する高揚感に違いない!!断じて織原を意識したわけじゃない……早く教室に戻ろう!!
先生の後を追って、校舎に入り、教室を目指そうと思ったそのとき、私は思い出した。
──あ!謝るの忘れてる……
現在成り行きで織原朔真という同じクラスの男の子に抱き付くような格好で樹の裏に身を隠している。正確に言うと私が樹の幹を背にして織原が私に覆い被さるように身を寄せている。あの時、交差点で助けてくれた時と逆の位置関係だ。織原の華奢な身体と私の身体が触れ合う。
この状況を2人の教師達にバレる恐怖と男の子と2人でこんなことをしているドキドキによって私の胸が今にも張り裂けそうだった。映画やドラマで何度も男性とこんなシーンを撮ったっことがあるっていうのに。
いっそのこと、この場から出て謝罪をすれば何事もなく終わるのかもしれない。しかし私はアイドルだ。消火をしたは良いものの、体育館裏で火を放つのは決して良い行いではない。口頭注意だけならまだしも、それが誰かの耳に入り、炎上する火種になるかもわからない。
また現在クラスの男の子とこういった状況に陥っているのを第三者に知られるのはもってのほかだ。
私は混乱していた。
近づく足音につい織原の腕を握る手に力が入ってしまうが、1人の教師の言葉によって救われる。
「冗談ですよ!最近、推理物のドラマを見て真似てみたんです!」
「な、なんだそうですか!鐘巻先生も人が悪い」
「もう土も乾いていますし、とっくに教室に帰っていると思いますよ」
「じゃあ戻りますか」
「いえ、私はここの掃除をしてから行きますので、先に職員室の方で報告してください」
私は安堵する。織原朔真も肩の力が抜けていくのがわかった。だってこんなにも近くにいるのだからそれくらいわかるのは当然のことだ。遠ざかる足音と私の心臓が比例するように緩やかな鼓動を刻む。
しかし──
「そこにいんだろ?誰にも言わねぇから出てこいよ」
私と織原はまたしてもビクリと身体を跳ねさせた。ホラー映画で例えるならジャンプスケアと言えばわかってくれる人もいるかもしれない。
私は考えた。
──今出ていっても大丈夫かもしれない……先生も誰にも言わないと言っている。
私は樹の裏から出た。
「ちょっ!」
織原の糾弾するような驚きの声が聞こえる。しかし私は担任の鐘巻先生と対峙した。先生は私を見て言う。
「音咲か…意外だな……」
先程まで覆い被さるようにいた織原がいなくなり体育館裏を体育館裏たらしめる簡素な風景が広がる。これから先生と舌戦を繰り広げようとする私は、どこか心許ない気がしてならなかった。冬の日に急に毛布を引き剥がされたような肌寒さを感じる。
私は言った。今まで散々芝居だの、ドラマだのでアドリブを繰り返してきたのだ。多少の心得はある。
「あの……廊下で手紙が落ちていたのを拾って、個人を名指しで中傷するような内容が書いてあったので、もしそれをゴミ箱に捨てて誰かに見つかったらきっとその子が傷付くし、変な噂になると思ったので、ここへ来て手紙を燃やしたんです……すみませんでした」
上出来だ、と私は自分自身を誉めた。
「……なるほどな、約束通り誰にも言わないが、次からは火は使うなよ?火事になったら大変だからな!さぁ、もうじきチャイムも鳴るから教室に戻るぞ」
先生の後を追うように私は歩いた。
後ろを振り返る。私達が隠れた樹を見た。あそこにはまだ織原がいる筈だ。これで車に轢かれそうになった私を助けてくれたことをチャラに出来たんじゃないかと思う。
生徒の声と体育館裏付近を走る車の音と私の心臓の音が混ざり合う。ステージや収録で味わう緊張によるドキドキとはまた一味違う。一回一回強く打つ鼓動は私の全身を温めるように駆け巡り、満たしてくれているような気がした。
──これはきっと咄嗟の対応とアドリブが上手くいったことに対する高揚感に違いない!!断じて織原を意識したわけじゃない……早く教室に戻ろう!!
先生の後を追って、校舎に入り、教室を目指そうと思ったそのとき、私は思い出した。
──あ!謝るの忘れてる……
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