上 下
10 / 185

第10話 清掃員

しおりを挟む
~織原朔真視点~

 僕はとあるつてを使ってホテルの客室清掃員としてアルバイトをしている。休みの日は夜の配信の為に朝から働いていることが多い。

 そしてホテルの清掃員はとくに誰かと会話をすることなく1日を終えることができるのでありがたい。たまに廊下を歩いているとレストランはどこかとか近くにコンビニがないかとか訊かれることもあるが、その際はホテルの案内図やホテル周辺の地図を渡している。

 僕はマスターキーを使って部屋に入り、今日最初の仕事にとりかかる。部屋に入って僕は少しだけげんなりした。

 ──この人の部屋からか……

 脱ぎ散らかしたバスローブ、化粧品等の粉で汚れた床とデスク、ベッドやその周辺にはお菓子の食べカスが散らばっている。

 清掃員をやっていると、部屋の汚れ方でその人の性格なんかもわかる気がしてくる。この部屋の宿泊客は、女性で何度もこのホテルを利用している常連だった。どういった人が泊まっているのかその姿を見たことはないが、この高級ホテルに何度も宿泊しているのだから会社の経営や出張の多い大企業の社員等をやっているのかもしれない。だけどどこかだらしない人というのが僕の見立てだ。

「それよりも仕事仕事っと……」

 まずはベッドの枕やシーツ等をまとめて新しいものに取り替える。しかし枕を取ろうとしたその時、この部屋に泊まっていた人のだと思われるスマートフォンを発見した。

 ベッドから出てきたそのスマホには何だか見覚えがあった。

 手に取ると、スマホに付随してくるようにこれまたどこで見たことのあるロザリオのアクリルキーホルダーがダラリと垂れた。もう少しで思い出せそうだったその時、ドアのロックが外れる音が聞こえた。入ってきたのは椎名町45のメンバーにして僕の隣の席の音咲華多莉だった。

 僕は驚愕を隠しきれない。そして思い出す。そうだ。このスマホは彼女のだ。

 ──え?じゃあこの汚い部屋は……

 僕は彼女と目が合うと動揺してしまう。

「あ、それ私の──」

 そう言って彼女が一歩、歩み寄ると表情を一変させる。何かこう、名探偵が真犯人に気付いたようなそんな表情だった。

 そして音咲さんはやはり名探偵のように僕に告げる。

「あなた、私のストーカーだったのね!!」

 そう言ってから彼女は息を大きく吸い込み、僕を糾弾する準備を整える。そして口を開いた。

「だから私に近づいてきた!そうでしょ!?」

 彼女が何を勘違いしているのかわからなかった僕は、取り敢えず持っているスマホを彼女に渡そうとしたがしかし、

「動かないで!!」

 僕はピタリと動きを止める。

「そのままそのスマホを床に置いて!こっちに滑らせるように放りなさい!そして両手を挙げて後ろを向いて!」

 ミステリー映画のワンシーンのような指示をする彼女。僕は音咲さんの言う通りに片手を挙げて、もう片方の手でスマホを床に滑らせるようとすると、彼女は待ったをかける。

「待って!!」

 しかし僕は止まれなかった。スマホを床に滑らせるようにして彼女に放る。

「あぁぁぁ!!!エドヴァルド様のロザリオがぁぁぁ!!!」

 僕は彼女の絶叫を聞きながらゆっくりと曲げた膝を伸ばして、スマホを滑らせた手も挙げた。スマホは音もなく音咲さんの元へと向かって行った。

 音咲さんは慌てた様子でスマホを取り上げると、真っ先にロザリオに傷はついていないかどうかを確認した。目立った傷が無さそうだった為彼女は安堵した。その様子を僕が窺っていると、彼女は仕切り直して言った。

「両手を頭の後ろで組んで、後ろを向きなさい!」

 僕はその通りに従うと音咲さんは手にしたスマホで誰かに電話をかけているようだった。

「直ぐに1508号室まで来て!」

 電話を掛け終えるとこの部屋に向かって来る慌ただしい足音が聞こえる。

「ど、どうしましたか!!?」

 このホテルの支配人の声が聞こえる。

「どうしたもこうしたもないわよ!見て!ストーカーを捕まえたわ!!」

 支配人は後ろ姿の僕に近付く。僕の正体がわかったのか少し安堵した様子だった。そして僕に告げる。

「両手を下ろしてください」

 僕は腕を下ろすと音咲さんは不服そうに声を漏らした。

「なっ!?」

 彼女の口から不平が発せられる前に支配人は言う。

「彼はこのホテルの歴とした従業員ですよ」

 その言葉に音咲さんは思考停止状態に陥った。

「……え?」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

幼馴染と話し合って恋人になってみた→夫婦になってみた

久野真一
青春
 最近の俺はちょっとした悩みを抱えている。クラスメート曰く、  幼馴染である百合(ゆり)と仲が良すぎるせいで付き合ってるか気になるらしい。  堀川百合(ほりかわゆり)。美人で成績優秀、運動完璧だけど朝が弱くてゲーム好きな天才肌の女の子。  猫みたいに気まぐれだけど優しい一面もあるそんな女の子。  百合とはゲームや面白いことが好きなところが馬が合って仲の良い関係を続けている。    そんな百合は今年は隣のクラス。俺と付き合ってるのかよく勘ぐられるらしい。  男女が仲良くしてるからすぐ付き合ってるだの何だの勘ぐってくるのは困る。  とはいえ。百合は異性としても魅力的なわけで付き合ってみたいという気持ちもある。  そんなことを悩んでいたある日の下校途中。百合から 「修二は私と恋人になりたい?」  なんて聞かれた。考えた末の言葉らしい。  百合としても満更じゃないのなら恋人になるのを躊躇する理由もない。 「なれたらいいと思ってる」    少し曖昧な返事とともに恋人になった俺たち。  食べさせあいをしたり、キスやその先もしてみたり。  恋人になった後は今までよりもっと楽しい毎日。  そんな俺達は大学に入る時に籍を入れて学生夫婦としての生活も開始。  夜一緒に寝たり、一緒に大学の講義を受けたり、新婚旅行に行ったりと  新婚生活も満喫中。  これは俺と百合が恋人としてイチャイチャしたり、  新婚生活を楽しんだりする、甘くてほのぼのとする日常のお話。

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
青春
 杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

OLサラリーマン

廣瀬純一
ファンタジー
女性社員と体が入れ替わるサラリーマンの話

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~

蒼田
青春
 人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。  目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。  しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。  事故から助けることで始まる活発少女との関係。  愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。  愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。  故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。 *本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。

処理中です...