喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第139話

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 ベラスケスは屋敷全体の防護を固めるための聖属性魔法を唱え終え、自室に戻った。 

 ちょうどその時、ダーマ王国に潜んでいる帝国の密偵ガウディから連絡が来ていた。マキャベリーから渡されていた通信の魔道具である水晶玉が点滅している。直ぐ様応答すると、何やら差し迫った様子でガウディがベラスケスに報告をする。 

 腕で顔や口元を拭っている音が聞こえる。どうやらガウディは通信する少し前まで激しい戦闘をしていたとベラスケスは推測した。 

『はぁはぁ…今すぐに!アイツを捕らえた方がいい!!』 

「やはりあの奴隷でしたか……承知しました。通信を切ります」 

 水晶玉の光が消えた。 

 ──こちら側に潜んでいるもう一人の密偵が判明した。ダーマ王国があんなにも焦って攻めてくるのも納得ですね 

 ベラスケスは直ぐサムエルに目標の奴隷を監禁するように進言しようと思い、部屋を出ると、サムエルが扉の前に立っていた。どうやらちょうどベラスケスを訪ねようとしていたみたいだ。しかし、サムエルはいつになく慌ただしかった。 

「どうかしましたか?」 

「奴隷がいないんです!」 

 サムエルから訳を聞き、とりあえず自室に鍵を掛けて、戦況を確認しつつ、メイドや使用人達の安否を確認した。 

 サムエルの部屋へ着くと今度は少年奴隷が1人いなくなっていることに気が付いた。 

「フェルディナンはどこへ行った?」 

 サムエルはハルに訊く。 

「…いない」 

 ハルの覚束無い言葉に痺れを切らしたメイドの一人が代弁した。 

「トイレに行ってから戻ってないんです!」 

「なんだって!?」 

 ベラスケスは珍しく狼狽した。すると、 

「「「ぶぅ"お"お"お"お"お"お"お"!!!」」」 

 外からダーマ王国兵達の異常な雄叫びが聞こえてきた。あまりにも狂気じみた声にベラスケス達は驚き、窓の外へ目をやった。 

 第三階級土属性魔法でできた土壁を素手で登る者、ジャンプして土壁を越える者、土壁の頂まで到着し物凄い速度で自警団を次々と薙ぎ倒していくダーマ王国兵達が見えた。ダーマ王国兵の目は血走り紅く光っているのが遠目からでも確認ができた。 

「あれは狂人化?まさか!?闇属性第五階級魔法のベルセルク!?一体何が起きている!?」 

「それよりも奴隷達を探しましょう」 

 サムエルが指示する。 

───────────────────── 

「なんだコイツら急に動きが!?」 

 土壁の上から弓矢でダーマ王国兵を攻撃していた自警団団員がその異変に声をあげた。 

 壁を素手でのぼるダーマ王国兵に矢を射るが、全く怯まない。土壁に手を突き刺しながらのぼってくる姿は狂気に満ちていた。 

「くそぉ!!」 

 躍起になって何本も矢を射る自警団団員。ダーマ王国兵は顔に矢を大量につけながら土壁の頂上に着くと、今度は自警団団員の顔に手を突き刺す。 

「ぐぁぁぁぁぁ!!」 

 自警団団員は前のめりになり狂人化したダーマ王国兵もろとも土壁の外側へと落ちた。 

 土壁から少し離れたとあるダーマ王国兵は助走をとって地面を蹴りあげる。信じられない跳躍力で壁を飛び越えた。 

 着地するや否や、持っている長剣で辺りにいる自警団に斬りかかる。その動きは剣術としてのそれではなく獣のようだった。 

 5人がかりでようやく1人のダーマ王国兵を倒す自警団達。 

「急にどうしたコイツら!?」
「人間の動きじゃねぇ!!」 

 続々と土壁を越えてくるダーマ王国兵達、今度はラハブに襲い掛かる。1人1人がかなりの強さだった。ラハブは3人を何とか倒したが他の自警団連中は次々とやられていく。 

「何なんだ!?一体何が起こっている!?」 

 ラハブはこの調子では直ぐにでも屋敷が占領されてしまうと考えた。 

「アハハハハハハハ!!」 

 アナスタシアはこの光景を見て狂ったように笑いだした。 

「何なのこれ?コイツらにこんな実力が?まぁなんでも良いわ。それよりも早くあの屋敷…あの生意気な連中を落としてしまいなさい!私をふった罪は重い!!」 

 アナスタシアは自身にも変化が訪れていることに気が付いた。みなぎる魔力。 

 ──この力ならここから屋敷まで魔法が届くかもしれない 

 アナスタシアはその思考を最後に記憶が途切れた。 

───────────────────── 

 ハルは上の階で自警団が次々とやられていくのを目撃していた。 

 ハルとフェルディナンを痛め付けたモヒカン男がやられそうだ。 

 ──あっ転んだ…… 

 尻餅を付いたモヒカン男は剣を振り回している。 

 もう助からない、ハルは自分ならモヒカン男を助けられるだろうと考えた。しかし、そうすればまた多くの危険が自身にふりかかり、見たくない自分が出てくるだろう。 

 それにこのダーマ王国兵の変貌ぶり、ベラスケスも言っていたがおそらく魔法による効果だ。きっと強者が身を潜めているに違いない、そう思うとハルは動けなかった。 

「ぅ……」 

 ハルが自分の不甲斐なさに喘いでいたその時、モヒカン男にダーマ王国兵が襲いかかろうとした。しかし、間一髪でダーマ王国兵に弓矢が命中する。矢は敵の脳天へと突き刺さり敵は動きを止めた。そしてモヒカン男を助けようと弓を射った者が姿を表した。 

 フェルディナンだった。 

 フェルディナンはそのままモヒカン男に近付き手をさしのべ?。 

「…どう…して?」 

 ハルは胸の鼓動を感じた。 

 どうしてフェルディナンは自分の身を危険に晒してまで他人を助けることができるのか。城塞都市トランでも自分の命を賭けて仲間を助ける王国兵がいたのを思い出す。 

 聞きたい。何故そんな行動をとれるのか。今すぐに。それに、フェルディナンを助けないと彼はこのままダーマ王国兵に殺られてしまう。 

 ──行け!助けなきゃ!! 

 ハルの身体がワナワナと震え出す。 

───────────────────── 

 ──何度調べても出てこなかった。それは何故か?もうこの世に存在しないからだ。 

 ベラスケスはトイレに向かったまま帰ってこない少年奴隷、フェルディナンを探していた。 

 1ヶ月前、この地に奴隷としてやって来たフェルディナン。初めて会ったときはその冷たい表情に寒気を感じたが、次第に明るく振る舞う報告を聞いてベラスケスは自分の感じた寒気がたんなる勘違いであると思った。 

 しかし、あとで身元確認をしようと奴隷商に尋ねても何処から仕入れたのか記憶にないようだった。 

 またフェルディナンという少年を調査すると冒険者ギルドにまだ入りたての新人として名前が登録されていたのを確認したが、本日、彼のギルドカードが洞窟内で発見された。彼の死体と供に。先程ダーマ王国に潜入している帝国の密偵ガウディからの情報でそれが明らかとなった。 

 ベラスケスは廊下を走りながら台所の入り口を横目で見ると床一面赤く染まっているのが見えた。そして3人の奴隷の遺体が転がっていた。 

 それは青年奴隷ロペス、カレーラス、クアトロの遺体だった。 

「くそっ!!遅かった!」
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