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第133話

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~ハルが異世界召喚されてから2年177日目~ 

 サムエル、ラハブ、ベラスケス、そして帝国からやって来た技工士のニールが円卓のテーブルを囲む。 

 明日に迫った戦の準備のため多忙だった自警団団長のラハブとは久し振りに顔を合わせるサムエル。 

「ラハブ、そなたにダーマ王国を裏切らせてしまった。申し訳ない」 

 サムエルの悲しげな物言いを、振り払うようにラハブは返答する。 

「何を仰いますか、私は剣聖に敗れてからダーマ王国を裏切っているようなものでしたよ。それに雇い主の意向に従うのは当然です。それよりまさかこの方達が帝国側の人間だとは知りませんでした」 

 それを聞いたベラスケスは一笑にふす。 

「ご冗談を。とっくに知っておいででしょうに。それよりも、我々はこの日の為に一年半かけて準備をしてきました」 

 ベラスケスに続けて技工士のニールが口を開く。
 
「はい。森とこの砦に罠を仕掛けております。しかし……」 

 技工士のニールが続けようとするとベラスケスがそこに割って入ってきた。 

「交易や使節団を迎えるために港には罠を仕掛けておりません」 

「そこを食い止めるのが私達の仕事か」 

 今度はラハブが割って入る。 

 作戦会議はそこまで長くはかからなかった。 

「最後に、奴隷たちはどうしますか?」 

「サムエル様の身辺警護と罠の起動に人員をさいては?」 

 ニールが提案するとラハブが答えた。 

「あの少年奴隷の二人はサムエル様の近くに置いたほうが宜しいかと……」 

 ラハブの言葉を受けてサムエルは了承し、自分の考えを述べる。 

「そうだな、血を流すにはまだ若すぎる」 

「はい……」 

 ラハブの歯切れの悪さにベラスケスが少しだけ訝しんだ、というのもまだベラスケスはラハブがダーマ王国のスパイである可能性を拭いきれていなかったのだ。 

 ラハブは5年前、ダーマ王国の騎士団の団員として活躍していたが、剣聖との試合に敗れてから一線を退いているところをサムエルに誘われたのだ。ベラスケス推薦の者を団長にと考えていたのだが、サムエルがどうしてもということで快諾した。あまり此方の意見を押し通しても反感を買う恐れがあったからだ。 

 自警団の中には帝国の者が何人かいる。彼らによればラハブは義理堅く信頼するにたる人物だと評されている。反面、私的な部分は一切表に出さない。正直彼が王国のスパイならこの作戦は初めから詰んでいる。 

 ダーマ王国領内にいる全ての密偵にラハブの身辺調査を依頼したが一線を退いてからダーマ王国との接触はなかった。では、サムエルとの関係性は? 

 しかしラハブが裏切っているかは明日の開戦前にわかること、慎重なベラスケスにとってこれは大きな賭けでもあった。 

 また自警団の中にスパイはいないと帝国密偵の情報でほぼ確認が取れている。 

 ──あとは奴隷か…… 

 奴隷も帝国の密偵の情報で確認したが身元不明の者が何人かいる。ベラスケスは既に誰が密偵なのか予想していた。その対策として身元不明の奴隷は屋敷の地下牢に一時的に閉じ込める提案をした。しかしサムエルが地下牢ではなく大部屋に収容すべきだと反対した。 

「でしたらダーマ王国兵が屋敷の周囲までやってきましたら、その大部屋に外側から鍵をかけ、閉じ込めるということにして頂けませんか?」 

 サムエルは低い声でそれを了承する。 

 あと気がかりなのはあの少年奴隷だとベラスケスは考えていた。 

 ──彼とは一度会ったが口を聞いたことがない。とても冷たい目をしていた。奴隷の中にも帝国側の人間が数人いるが、一度だけ揉め事があったとしか報告を受けていない。 

 いくら少年奴隷とはいえ、身元不明者である者をサムエルの近辺に置くとなると気が気でない。 

 しかし、この心配事はサムエルの近衛兵として自警団の中から帝国側の者を3人置くことで解決した。 

 ──いよいよ、明日。この戦が終われば一気に世界が動き出すだろう。 

~ハルが異世界召喚されてから2年178日目~
 
サムエル軍 vs ダーマ王国軍 

 隊列を組んでいる自警団の前にサムエル、ラハブ、ベラスケスが港でダーマ王国の船が向かってくるのを見ていた。 

「思った以上の大軍でやって来たな」 

 サムエルが呟く。 

「いえ…想定内です。このことからやはり密偵は奴隷の中にいると確信できました」 

「…なぜわかる?」 

 まだこの会話に乗り切れないサムエル。 

「昨日は話しませんでしたが、もし密偵が我々の中枢にいた場合、私とサムエル様との繋がりにいち早く気付きあれ以上の大軍でくるのが普通です。しかし7日前のサムエル様の演説によりその繋がりを知ったのでしょう。急拵えの軍であることが明白、自警団やサムエル様の近辺にいる者達の潔白が証明されました。正直このダーマ王国軍を見るまで私はラハブさんがその密偵の1人ではないかとも考えていましたよ」 

 それを聞いてサムエルとラハブは顔を見合わせた。 

「「ハハハハハハハ」」 

「何がおかしいのですか?」 

「いやなに、ベラスケス殿がこんなにも饒舌だったとは、余程安心したのだなと」 

 ラハブの一言に居心地の悪い顔をするベラスケスはそれを掻き消そうとでもするかのように頬を掻いた。続けてサムエルが言う。 

「ラハブが裏切るわけなかろう。何せ私の弟なのだから!」 

「っ!?そんなまさか!?どうしてそう仰ってくれなかったのですか?」 

 帝国側の密偵でもわからなかったこの情報はダーマ王国側も当然知らないだろう。 

「帝国に隠し事があるように、こちらにも隠しておきたいことがたくさんあるのだ。しかし貴殿の素がようやく見えたな!」 

 サムエルが空を仰ぎ見ながら言った。  

「……さぁ!気をとりなおして作戦を開始しましょうか?」 

「はい!」 

 ラハブの号令にベラスケスは勢いよく返事をした。 

───────────────────── 

 そのころハルは屋敷のサムエルの部屋でダーマ王国の大型船がやってくるのを見つめていた。 

「本当に来やがった!」 

 フェルディナンはどこか、はしゃいでいる様に見えた。
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