喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第131話

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~ハルが異世界召喚されてから2年173日目~ 

 宰相トリスタンは宮廷魔道師のアナスタシアと対面している。 

「サムエル・フラーが帝国にくみしていることがわかりました。宣言通り5日後までにサムエルが出頭しない場合には、軍の指揮を第二皇子ミカエル様に任せて攻撃を開始します。それで宜しいでしょうか?」 

「……構わない」 

 アナスタシアが第二皇子をたぶらかし、サムエルを追い込んだせいでダーマ王国を裏切らせたのではないかと追求したかったが、第二皇子を盾にされたら首は縦に振らなくてはならなかった。 

「軍の手配の日程を教えて頂いても宜しいでしょうか?」 

 アナスタシアは勝ち誇ったような顔をしてトリスタンに尋ねた。  

「貴殿の情報ならばあと8日後に帝国の援軍がポルクロル島に到着するんだったな?」 

「はい。密偵からの確かな情報です」 

 トリスタンはその情報が間違っていることを推測していた。実際にはもう少し早く援軍が来るのではないかと考えている。しかし、帝国にくみしているとはいえ宰相という自分の立場を危うくしてしまうのは自分だけでなく帝国にとっても損害は大きい。 

 その為、怪しまれないよう軍を手配するには──。 

「今から6日後に軍を出撃させる。それまで待て」 

 間髪入れずアナスタシアは陳情した。 

「その前日にポルクロル島付近を治めているオアシス伯爵とその私兵達と一緒に私も出撃しても構いません?」 

 ──この女…何か企んどるな…… 

 トリスタンとしては1日でも遅く軍を動かしたいところだが、あまり探りを入れるのもアナスタシアに疑念を抱かせてしまうだろう。 

「何故だ?」 

「何故って使者には5日後までに出頭するようにとサムエルに伝えておりました。彼が大人しく出頭できるよう迎えに行くのがマナーかと……」 

 アナスタシアはもしサムエルが戦わずして出頭してくるなら屋敷を探索出来ると考えていた。 

「それに、もし反抗するのであれば、第二皇子に危険が降りかからないように事前に敵戦力を削りたいのです」 

「…まぁ良い、あまり無茶はするな」 

 トリスタンは気取られないように了承した。 

 アナスタシアはトリスタンの部屋から出ていき、扉を閉めるとガッツポーズをする。 

 ──よし!あとは戦力確保を── 

───────────────────── 

「スプラッシュ!」 

 マリウスの掌から水流がほとばしる。 

「ストーンブラスト!」 

 エポニーヌの掌から土の塊が土石流のように出現しマリウスの唱えたスプラッシュの威力を弱める。 

 ここはダーマ王国宮廷魔道師の候補生達の訓練場だ。広大な訓練場は戦争の模擬戦なども行われる。
 
 マリウスとエポニーヌは魔法学校を卒業後ここで宮廷魔道師になるための訓練に勤しんでいる。 

 宮廷魔道師の候補生とは聞こえは良いが実際には魔法学校を卒業した者が更なる魔法を研究するための施設であり、そこで何らかの実績を上げた者が宮廷魔道師の名を冠することとなっている。ここに所属していても必ず宮廷魔道師になれるわけではない。殆どの者が魔法学校の先生か家庭教師を生業にするだろう。 

 今マリウスとエポニーヌがやっているのは、魔法相克の研究だ。 

 風属性魔法に火属性魔法をぶつけると威力が弱まる。 

 火属性と水属性も同じようにして今度は火の勢いは弱まるが、一般的に相克と言われている土属性と水属性に関してはその威力の弱まり方が他の相克に比べて小さいのではないかという疑問から生まれた研究だ。 

「どうだった?」 

 マリウスが今までに何度も同じ魔法を唱えていた為に、息を乱してエポニーヌに質問した。 

「ん~わかんない?」 

 エポニーヌは、はっきりと答えられない。 

 おそらくマリウスの魔力とエポニーヌの魔力が違うだけでなく、SP値も違う為に相克の弱まり方もまた一概に同じとは言えない。 

 そんな実験をしている二人に近付く影があった。宮廷魔道師のアナスタシアがやってきたのだ。 

「二人とも、少し話があるのだけれど……」 

 マリウスとエポニーヌは驚いた。 

 自分達が目指そうとしている宮廷魔道師の1人アナスタシアが声をかけてきたからだ。 

「はい!」
「なんでしょうか?」 

「二人には、ある戦に参加してほしいの。重要な戦よ?」 

 二人は状況を飲み込めず顔を見合わせた。 

「実はね───」 

 アナスタシアはゆっくりと語り始める。 

───────────────────── 

<ポルクロル島> 

 畑仕事も終わりハルとフェルディナンは寝床で横になる。 

 二人の小屋は、分厚い曇り空の夜の場合、真っ暗になってしまう。今日はそんな雲もなく衛星ヘレネが夜を冷たく輝かせていた。 

「んなぁ~?ハルはどうして奴隷になったんだ?」 

 フェルディナンは今まで訊こうかどうか迷っていた質問をした。 

 今までに何度もこの質問を投げ掛けていたがハルがまだ名前も教えてくれない時期だったので何も答えが返ってこなかった。もうある程度受け答えができるようになったハルに改めてフェルディナンは訊いてみたのだ。 

「……」 

 ハルはいつものように黙ったままだ。 

「なんか理由があんだろ?まぁ無理にはきかねぇけどさ…俺はそのぉ…話しちまった方が楽になるからさ?だからお前がなんか抱えてるもんがあったら何でも話せよ」 

「…ありがとう」 

 ハルは頷くだけでなく簡単な言葉を発するくらいになっていた。しかし、礼を言ったあとは何も言葉を発さなかった。 

 虫のなく音が聞こえる。 

 フェルディナンは気まずくなったので喋り出した。 

「きっとさ、お前が喋らないのは思い出すと自分を責めちまうからなんじゃないかと思うんだ?俺もそういうときがあったから……」 

「……フェルディナンが?」 

 珍しくハルが聞き返した。 

「お前!今俺のこと馬鹿にしたろ!?こんな馬鹿みたいな俺でも悩みとかあんだよ」 

「…ごめん……」 

「いいって!今のは単なるツッコミだ。気にしてねぇよ……今でもあの時のことを思うと胸が締め付けられる……あんときは俺もガキだった。今よりももっとな?」 

 フェルディナンは話し始めた。 

「自分の理想と現実…ガキの時なんてよ?妄想することしかできないだろ?だから自分の理想がどんどん膨れてくる。例えばさ?自分はどんなに追い込まれても物語の主人公みたいに強大な敵に立ち向かえるし、逃げるなんてことはしないって思うだろ?」 

 ハルは黙って訊いてる。 

「でもどうだ?自分が実際にその主人公なんかよりもよっぽどちっぽけな状況に陥った時……あぁやっぱ思い出すだけで腹立つな……自分が最も憎んだ奴、それも救いようのない雑魚と同じ行動をとっちまうんだ」 

 フェルディナンは咳払いをしてから再び語りだした。 

「自分のことを憎むよな?そんな経験したことあるか?」 

「……ある。フェルディナンはどう…立ち直ったの?」 

「立ち直ってなんかない…今でもたまにその時の夢を見る……だけど、俺には沢山の仲間がいたから…だから俺には出来ないことが一杯あるって思い知ったんだ。案外俺達が見てる物語の英雄達もそんな経験してるかもしれないぜ?本にしちまうと良いところしか描写しねぇだろ?それよりもごめんな?自分で話してて胸糞悪くなったってのにお前に話せって言っちまった」 

「いいよ……」 

 ハルには仲間などいなかった。魔法学校の皆とはそこまで打ち解けていないし、彼等のことを殆ど知らないでいた。この世界に来る前の日本の学校にだって仲間や、友達なんかいやしなかった。そんな自分はどうやって折り合いをつけたらいいのかハルは考えながら眠りについた。
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