上 下
119 / 146

第118話

しおりを挟む
~ハルが異世界召喚されてから4日目~ 

<魔法学校襲撃の少し前、城塞都市トラン> 

 城塞都市トランは王都より南東に位置し、帝国との国境を防衛している。 

 城塞都市というだけあって守りは王都よりも堅い。 

 荒野に何故かポツンと山があった。 

 山といっても緩やかな斜面などはなく、只の大きな石柱といった方がいい。 

 その石柱を背に城と城下町が築かれ、周囲を高い壁で覆っていた。城塞都市トランはまるで崖をそのまま削って造られたようだった。 

 壁の高さは約30メートルはある。都市の背にそびえ立つ石柱はそれ以上の高さだ。 

 何故この荒野にそんな石柱が1つだけあるのか、これには様々な言い伝えがあった。 

 大魔導時代、竜族のペシュメルガが戦争を終わらせるために天空から石を降らせたと言われていたり、神ディータが石柱の頂上に座り下界の者を覗き見ていたとも言われている。 

 フルートベール王国の宮廷魔道師ギラバはこの城塞都市トランで行われた帝国との小競り合いを鎮圧するため王都からやってきていた。 

 小競り合いというのは国境付近ではよくあることだ。血の気盛んな国境警備の兵士達がお互いを煽り合い、喧嘩へと発展する。 

 幸い死人はでていない為に大きな問題にはなっていない。
 
 死人が出れば戦争になってしまう。そのことを王国兵と帝国兵は十分承知していた。 

 煽りに応じた1人の王国兵は帝国兵に対して弓矢を放ったが、帝国兵は見事防御を成功させ、周りにいるそれぞれの兵達は死人が出ないよう2人の戦闘を止めたのだ。 

 ギラバがトランへやって来たことで国境を警備している王国兵は言うことを聞き今では大人しくしている。 

 しかし今日、事件が起きた。 

 この城塞都市トランの近くにある国境の壁を帝国が突破してきたのだ。 

 ──どういうことだ?ここで国境を越えて侵攻してきても帝国の信用を落とすだけだぞ? 

 ギラバは状況を確認するために、トランへ避難してきた国境警備をしていた兵士と面会した。 

「帝国領から大軍が押し寄せ、国境を突破し、このトランへと向かっております」 

 ──大軍…つまり前もって準備をしていたのか。帝国は約10日後のプライド平原での戦争をせず、最初からここを狙っていた? 

 帝国の狙いが読めずギラバは更に疑問を抱くこととなった。 

 とりあえず、王都より援軍を要請し、籠城する準備を整えたギラバだが、ここで敢えて意表を突く。
 
 トランから兵を出し帝国軍の進軍を迎え撃つ為、うってでたのだ。 

 これには進軍を遅らせる意図と、トランに向かっている国境警備兵の保護を意図している。あとは帝国の本気度を測ろうともしていた。 

 約5千のギラバ率いる軍が向かってくる帝国軍に攻撃を仕掛ける。 

 虚をつかれた帝国軍は進軍を止めて、乱戦へと突入した。 

───────────────────── 

 この帝国による侵攻の波紋は世界中に広がった。 

 ヴァレリー法国のシルヴィアは帝国が宣戦布告を無視して、国境を越え城塞都市トランに攻撃を開始した報を聞き喫驚する。自慢の長く美しい髪が揺れ動いた。 

 トランは法国からも近く、もしフルートベールと同盟を組むのならトランを拠点に帝国との戦を展開するべきだとシルヴィアは考えていた。 

「む~……」 

 帝国の奇襲はヴァレリー法国にとっては関係がない。ここは様子を見てことの成り行きを見定めてから対策をうっても大丈夫だろうと考えた。 

「もしや……先の獣人国のクーデターと何か関係があるのだろうか……」 

 ヴァレリー法国、最高戦力であるシルヴィアは獣人国と帝国の関係性を調査させることを決めた。
 
 しかし、何故このような強行策を帝国がとったのかシルヴィア含め多くの者達には理解ができないでいた。 

───────────────────── 

「帝国が宣戦布告を無視してフルートベールへ侵攻した!?」 

 ダーマ王国の宰相トリスタンは声を荒げた。帝国が自らの宣戦布告を破り、侵略行為をすることは周辺諸国が危機感を強め同盟を組みやすくなる。そんな同盟を組まれても帝国はそれを迎え撃つ用意があるのだろうか。 

 また、侵略後の民達にも悪い印象を与えるのをマキャベリーは知っているはず。 

 トリスタンは帝国にくみしている為、帝国にマイナスな印象が持ち上がり、この侵攻で帝国が敗れることとなれば自分の立場も危うくなるのではと危惧していた。 

───────────────────── 

 ハルは帝国による魔法学校への襲撃を収束させた後、ルナの安全を見届けてから城塞都市トランへと向かった。 

 帝国のこの奇襲は獣人国のクーデターが失敗したことがきっかけなのは間違いないが何故いま動き出すのか、ハルはその意図が全くわからなかった。 

 しかし、ハルには第五階級魔法がある。 

 いざとなればフレアバーストをぶっぱなせば帝国の軍は何とかなるだろうと考え、錬成で筋力を上昇させ、急いでトランまで走った。 

 それと、城塞都市と聞いてハルは心を踊らせていたのはここだけの話だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界転移!?~俺だけかと思ったら廃村寸前の俺の田舎の村ごとだったやつ

真義あさひ
ファンタジー
俺、会社員の御米田ユウキは、ライバルに社内コンペの優勝も彼女も奪われ人生に絶望した。 夕焼けの歩道橋の上から道路に飛び降りかけたとき、田舎のばあちゃんからスマホに電話が入る。 「ユキちゃん? たまには帰(けぇ)ってこい?」 久しぶりに聞いたばあちゃんの優しい声に泣きそうになった。思えばもう何年田舎に帰ってなかったか…… それから会社を辞めて田舎の村役場のバイトになった。給料は安いが空気は良いし野菜も米も美味いし温泉もある。そもそも限界集落で無駄使いできる場所も遊ぶ場所もなく住人はご老人ばかり。 「あとは嫁さんさえ見つかればなあ~ここじゃ無理かなあ~」 村営温泉に入って退勤しようとしたとき、ひなびた村を光の魔法陣が包み込み、村はまるごと異世界へと転移した―― 🍙🍙🍙🍙🍙🌾♨️🐟 ラノベ好きもラノベを知らないご年配の方々でも楽しめる異世界ものを考えて……なぜ……こうなった……みたいなお話。 ※この物語はフィクションです。特に村関係にモデルは一切ありません ※他サイトでも併載中

他国から来た王妃ですが、冷遇? 私にとっては厚遇すぎます!

七辻ゆゆ
ファンタジー
人質同然でやってきたというのに、出されるご飯は母国より美味しいし、嫌味な上司もいないから掃除洗濯毎日楽しいのですが!?

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...