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第116話
しおりを挟む~ハルが異世界召喚されてから1日目~
ハルはフィルビーを救出して、図書館にいた。
「レベル上限ね?大抵は10~15くらいが上限だと言われているわ。でもたまにレベル20や戦士長のイズナ様なんて30よ?すごいよね」
「それ以上のレベルの人っているんですか?」
フレデリカは人差し指をピンと立てて口元に持っていき考え込んでから言った。
「剣聖様がそれ以上だと言われているけど正確な数字は公表されてないわ、国家機密なの」
「その上限ってどう足掻いても上がらないものなんですかね?」
ん~とフレデリカはまたお馴染みのポーズで考えた。今度は先程掛かった時間よりも多くを要した。
「……最近の論文に戦争を経験している人は相対的にレベルの上限が高いって書いてあったような」
ハルはその論文をフレデリカから借りて日が沈むまで読み耽っていた。
しかし、長ったらしい文章の割には、戦争経験者はレベル上限が平均的に高いということの証明をしただけであり、何故それが高くなるのかは書いてなかった。
これはハルにも当てはまる。何故ならレベル40だからだ。他の者よりもたった二回とはいえ戦争経験者であるハルが、何故レベル40が上限なのかこの時のハルは知るよしもなかった。
ルナと合流して、孤児院に泊まる。
~ハルが異世界召喚されてから2日目~
青い竜を模した炎が左軍方面からやって来る。その炎は中央軍を飲み込み、そのまま右軍へと向かって行くのをサリエリは目撃した。
「…あれは……第五階級魔法の……フレアバースト……」
味方である反乱軍は焼失し、そこには何も残っていないと遠目からでもわかった。
サリエリは自身の見たことを整理するように反乱軍がいたであろう所にやって来た。
──まさか、帝国のマキャベリーの裏切りか?……この世界で第五階級火属性魔法を唱えられる者は帝国四騎士のあの小娘ミラ・アルヴァレスしかいないはず…しかしワシを攻撃して一体どんなメリットがあるのか……
サリエリにその答えはわからない。
そして、ここで自分が捕らえられると厄介なことになる。
帝国の企てが明らかとなり、周辺各国は結束を強めるだろう。
もしもマキャベリーの仕業なら何が狙いなのか皆目見当がつかない。
サリエリは本拠地へ戻り、通信の魔道具である水晶玉を回収した。
森の奥深くでそれを起動する。
「作戦に失敗しました……」
サリエリは恐る恐るマキャベリーに伝える。
「……」
水晶玉からしばしの沈黙があり、サリエリは耐えきれずに言葉を発しようとすると──
「…詳細を聞きましょう」
「突如、第五階級火属性魔法のフレアバーストが我が軍に向けて放たれ、軍の大半と側近達を失いました」
「……」
またも沈黙が支配する。
──本当のことなんだもん!ワシ悪くないもん!
「……わかりました。こちらで対応を考えます。サリエリさんは捕まらないように獣人国で身を隠していてください」
水晶玉の光が消える。通信が切れた。
「帰ってくるなってこと?…まぁよいか…さぁ、魔法の研究でもするかの?」
サリエリは伸びをして、自身の趣味にいそしむ。
通信を切ったマキャベリーは直ぐに獣人国に潜入している別の密偵に連絡をとった。
「──青い炎が反乱軍を飲み込みました」
「…本当だったのですね……」
はい?と密偵の声が聞こえる。
「いえ、なんでもありません。その炎による獣人国の被害はありますか?」
「限りなく0だと思われます」
「わかりました。そちらはなるべく早く獣人国の再建に助力するようにしてください」
水晶玉の光が消えた。
マキャベリーはサリエリが嘘を言っていないことを確認できた。
顎に手を当て黙考するマキャベリー。
「ふぅ…少し揺さぶりをかけてみますか」
獣人国クーデター失敗の報は瞬く間に広がった。
初めは獣人達が押し寄せていた難民キャンプにその報せが届く。
殆どの者が歓喜にしていたが、呆気にとられている者達もいた。
「良かったなジェイク!」
「…うそ…だ……」
ジェイクは獣人国の方向を見て呟いた。
「本当なんだよ!反乱軍のクーデターは失敗したんだ」
「…どうやって?」
「それが……」
~ハルが異世界召喚されてから3日目~
「竜族の生き残りが出たらしいよ?」
ハルは魔法学校の入学式に参加していた。
周りの生徒達が頻りに獣人国での出来事を話している。
「竜族の生き残りがなんで獣人国のクーデターを止めるんだよ?」
「さあ?なんか獣人国の偉い人達もそれを目撃してたみたいだから信憑性は高いんだよなぁ」
昨日、無事にフィルビーをダルトンと引き合わせ、二人は獣人国の再建を手伝い、仲間達でオセロ村を復興すると言っていた。こちらが落ち着けばもう一度会ってみようとハルは考えている。
ハルは周囲の会話に耳をそばだてながらAクラスの教室に着くと、スタンがハル達、生徒の実力を見ると提案してきた。
──そうだった。なんか懐かしいな……
<訓練場>
訓練場に着いたスタンは昨日、ハルの実技試験を担当したエミリオが興奮しながらスタンに話し掛けていたのを思い出していた。
『驚きましたよ!初めはファイアーストームかと思ったくらいですよ!しかし掌から火炎が出続けていたんでフレイムだと判断しました!!』
エミリオが誇張して言っていたようにも聞こえていた。スタンはこれからそれを確認する。
「あれが的だ!試験の時使ったよな?これを自分の持てる最高の力でぶつけてほしい」
アレックス、マリア、他のAクラスの者が各々魔法を行使する。次はレイの番だ。
「シューティングアロー」
一筋の光が的を捕らえ爆発する。的からは煙がでていた。
──威力はあまりないが早いな。初見なら避けるのは少し難しそうだ。まぁ同レベルくらいのヤツは弾くのが精一杯かな?俺は、余裕だけど
スタンはレイの魔法を見てそう思った。
「すげぇ~」
「流石…」
Aクラスの者たちがレイに感嘆の声をあげる。
「次、ハル・ミナミノ」
──さぁ、どんなものか、願わくば……
「フレイム」
ハルの掌から渦を巻きながら大炎がほとばしる。
「は?」
「へ?」
「え?」
「ん?」
「なっ!?」
「…!!」
的が焼失した。
──ファイアーストームかよ……
スタンはハルのフレイムを見てエミリオと同じことを思った。
アレックスとマリアがハルに駆け寄る。
レイは歓喜を滲ませている表情をしている。他のAクラスの者達は、
「え?今の第二階級魔法?だよね?」
「コイツ……」
「すっげぇ~」
戸惑いと賞賛の言葉を漏らしていた。
「ハル…この魔法、いつ使えるようになった?」
「ん~1ヶ月前ですかね?」
「…そうか、今お前レベルいくつだ?」
「えっと12です」
ハルはテクスチャーで偽装したステータスのレベルを伝えた。
「12!?」
「嘘だろ?」
「おいおいそれは……」
他の生徒達が声をあげる。
「そうか…嘘じゃないんだな?」
「はい」
──嘘だな。このフレイムの威力はレベル18の俺を遥かに凌ぐ……
「…よし!お前らハルを見習って魔法に励めよ!」
授業を終えたスタンは自室にこもり水晶玉に手をかざしている。
「どうでした?昨日危惧していた者の実力は」
帝国軍総司令のマキャベリーが訊く。
「…私より強いです」
「どの程度の実力でしたか?」
「レベル12だと言っておりました。しかしフレイムの威力が私よりもあり、それはファイアーストームかと思えるほどの威力でした」
「成る程。ファイアーストーム…その者の名はなんというのですか?」
「ハル・ミナミノです」
「ミナミノ…わかりました……」
マキャベリーは余韻を残しながらスタンに告げ、通信をきった。
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