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第99話
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~ハルが異世界召喚される1日前~
マカロニ高原の戦い 敗北
フンボルト平原の戦い 敗北
イワトビ峠の戦い 敗北
サバナ平原の戦い 現在戦闘中
日は沈み1日の疲れがどっとでる頃合い。獣人国王都ズーラシアにあるサファリ宮殿執務室では疲弊した要人達がうなだれている。1日の仕事を終えた疲れも勿論あるがそれ以上に、今までの反乱軍との戦闘で多くの敗北を喫したことに参っているのだ。
そんな惨状を獣人国国王のシルバーは嘆いていた。自分の代でこの国を終わらせてしまうのかと思うと、憂鬱な気持ちになる。立派なたてがみもどこかしなびて見える。
獣人国は様々な種族が其々の法律を持ち協力し合う連邦制を謳っているものの、国のトップをシルバーの家系が代々務め、国を治めているのが実情だ。
昔から強い者が上に立つという風土が根強くある為、獅子のような獣人シルバーの家系がその役目を踏襲している。
シルバーを含め、今まで獣人国の運営に当たっていた者達が一堂に会して大きな地図を囲って眺めている。この地図は現在戦闘が行われているサバナ平原とその周辺を精巧に表している。その地図上にはサバナ平原の北西に陣どる反乱軍と南東に陣どる獣人国軍を模した模型が置かれていた。
「この作戦にかけるしかありませんな」
軍師アーノルドは宰相ハロルドの顔を窺う。
軍師アーノルドは指でサバナ平原の西、獣人国軍左軍付近、平原が終わり密林が広がる空間を指差している。
「ここから特別な部隊を編成して密林へと入り反乱軍の目を掻い潜りながら──」
軍師アーノルドは密林に置いた指をぐるっと北上させながら説明していく。
「反乱軍右軍が対獣人国軍の為に隊列を組んでいるこの側面から横撃を仕掛ける」
北上させたアーノルドの指が地図上の密林から、サバナ平原の北西を陣どる反乱軍右軍を模した模型を横からトンと突いた。
一堂はそれに納得したかのように頷くが宰相ハロルドが横槍を入れた。
「そんなに上手くいきますかな?」
「…今まで反乱軍の戦闘は正面による突破しかありませんでした。我々はその早さと強さにより対応が後手に回って、反乱軍の動きについていけなかったのです」
アーノルドは一呼吸入れて続けた。
「しかし、このサバナ平原での戦いは前もってその準備をしていた為、反乱軍の侵攻を食い止めております。ここでようやく我々の──」
アーノルドを遮るように国王シルバーが口を開く。
「ようやく反撃が出来るのだな!?」
「その通りであります!」
おぉぉ、と周囲の要人達から声が上がる。
宰相ハロルドの顔はまだ曇っていた。
一息ついた国王シルバーは緊張感から解かれたのか考えていたことを口にしてしまった。
「ふぅ……このサバナ平原の戦いが危うくなれば私もその戦いに身を投じようと思っていたが──」
「「なりません!!」」
アーノルドとハロルドは声を揃えて忠告した。
「…冗談だ」
両手を上げながら答えるシルバー。
宰相ハロルドは勘弁してくれと言うかのように下を向き、再びサバナ平原の地図を眺めた。
──鍵はこの特別部隊……
地図上の密林へと視線は注がれる。
──密林……
─────────────────────
密集して生い茂る木々は行く手を遮る。
日が沈み、日中とは比べ物にならないほど空気は冷やかなものに変わってきた。湿った空気が鼻腔を潤わせ、木々の臭いを運ぶ。これは雨が降ったせいだ。森の中は気候が変わりやすい、多くの者がこの空気に嫌気をさすに違いない。
しかし犬のような耳と尻尾を持つ獣人ダルトンはこの湿気に満ちた空気を懐かしく感じていた。
ダルトン達が所属する獣人国左軍は更に小隊へと分裂し、特別部隊を編成させた。サバナ平原の西に見える密林に入り、北上しながら敵拠点を潰しつつサバナ平原の北西に陣取っている反乱軍右軍の横から奇襲できるように移動している。
サバナ平原の西側の周りは密林で覆われ、行軍は専ら徒歩で行われていた。馬や騎乗できる生き物での行軍も可能ではあるが、この作戦には隠密を要するため却下されたのだ。
この作戦に意気込んでいるのはダルトンだけではない。
ロバート、イアン、ポーア。
オセロ村出身の者達、誰もがそれに当てはまった。
この為に二年前、軍に入隊し、約半年の訓練を終え、そこから一年半が過ぎてようやくここまでやって来たのだ。
この左軍の作戦、反乱軍拠点を潰しつつ行軍する。その敵拠点の1つにダルトン達の故郷オセロ村が含まれている。
ここから自分が住んでいた村まではもう少しだ。
生い茂る葉の間から前方を目視するが、沈んだ日の光の代わりに暗闇が辺りを支配していた。
風が森を駆け抜け木々の擦れる音が聞こえる。風はおさまり、再び行軍を始めようとするが、先頭集団のダルトン達は止まった。
「オイどうしたんだよ?」
「シッ」
また風の音か、と油断したダルトンの隣にいる獣人国軍の兵士の首が飛んだ
「風じゃない!魔法だ!」
「敵襲!!」
「いるぞ!!」
敵はこの特別部隊の姿をとらえているようだ。
ダルトン達、特別部隊は恐怖に震えていた。
どこから攻撃が飛んでくるかわからない。風の音にいちいちビクビクする。
「ぐぁぁぁぁぁぁ」
叫び声に反応し、ピクリと犬のような耳が動く。
風に乗って後続から叫び声が聞こえてくる。後続でもなにやら襲撃があったようだ。
その風属性魔法を合図にしてか前方から反乱軍の大軍が迫ってきた。
「どうなってる!?反乱軍の奴等はこんな回りくどいことしないって言ってたじゃねぇか!!?」
「くそ!戦うぞ!」
槍と剣、斧、棍棒等様々な武器が錯綜する中で、ロバートの双剣が敵を十字に切り裂く。
ロバートの気合いの雄叫びの中、反乱軍の兵士がダルトンに襲いかかってきた。
ダルトンは持っている短剣を両手で握りしめ反乱軍兵士の長剣を受け止める。
鍔迫り合いとなり、ジリジリと刃がダルトンへ近付いてくるとダルトンは相手の腹に蹴りを入れて吹っ飛ばした。
その後ろでイアンはファイアーボールを唱え反乱軍を牽制している。
そして戦いをしているダルトン達先頭集団にある情報が伝わった。
縦に長く行軍をしていたダルトン達特別部隊。その行軍の先頭と後方のちょうど真ん中辺りからも反乱軍が攻撃を仕掛けた為、少数精鋭の特別部隊は更なる小隊へと分断されてしまったようだ。
現在、先頭集団は反乱軍に挟まれ孤立している状況。
「このままこんなところで死んでたまるか!」
ダルトン達オセロ村の兵士達は示しを合わせ脱兎の如く逃走した。
「はぁはぁはぁはぁ」
森を走り抜ける。
密生する林の中、それをかき分けて逃走する。
細い枝で顔に擦り傷をつけながらダルトン達は散り散りに逃げた。
──こんな所で死ねない!俺はフィルビーの為に……
後方からの怒号と悲鳴が次第に小さくなっていく。
ダルトン達、オセロ村出身の兵士達は獣人国の作戦などどうでも良かった。帰るべき故郷を取り戻す、ただそれだけのために行動していた。
皆が落ち合うのはオセロ村の手前にあるダンプ村だ。もしも隊がバラバラとなった時、落ち合う場所を前もって決めていたのだ。
そこまで休憩をせずに森をひた走る。
軈て戦闘の声と音が聞こえなくなったと同時に自分の呼吸音と自分の足音、そして先程と同様、風が木々を揺らす音しか聞こえなくなった。
ダルトンは走る速度を落とし、逞しくそびえ立つ木に手をついて、息を整えた。
しかし、連日続く行軍といつ襲われるかわからないストレスからダルトンの疲労がピークに達した。どっと身体が重くなり、手をついていた木の根もとにもたれ掛かりながら眠った。
マカロニ高原の戦い 敗北
フンボルト平原の戦い 敗北
イワトビ峠の戦い 敗北
サバナ平原の戦い 現在戦闘中
日は沈み1日の疲れがどっとでる頃合い。獣人国王都ズーラシアにあるサファリ宮殿執務室では疲弊した要人達がうなだれている。1日の仕事を終えた疲れも勿論あるがそれ以上に、今までの反乱軍との戦闘で多くの敗北を喫したことに参っているのだ。
そんな惨状を獣人国国王のシルバーは嘆いていた。自分の代でこの国を終わらせてしまうのかと思うと、憂鬱な気持ちになる。立派なたてがみもどこかしなびて見える。
獣人国は様々な種族が其々の法律を持ち協力し合う連邦制を謳っているものの、国のトップをシルバーの家系が代々務め、国を治めているのが実情だ。
昔から強い者が上に立つという風土が根強くある為、獅子のような獣人シルバーの家系がその役目を踏襲している。
シルバーを含め、今まで獣人国の運営に当たっていた者達が一堂に会して大きな地図を囲って眺めている。この地図は現在戦闘が行われているサバナ平原とその周辺を精巧に表している。その地図上にはサバナ平原の北西に陣どる反乱軍と南東に陣どる獣人国軍を模した模型が置かれていた。
「この作戦にかけるしかありませんな」
軍師アーノルドは宰相ハロルドの顔を窺う。
軍師アーノルドは指でサバナ平原の西、獣人国軍左軍付近、平原が終わり密林が広がる空間を指差している。
「ここから特別な部隊を編成して密林へと入り反乱軍の目を掻い潜りながら──」
軍師アーノルドは密林に置いた指をぐるっと北上させながら説明していく。
「反乱軍右軍が対獣人国軍の為に隊列を組んでいるこの側面から横撃を仕掛ける」
北上させたアーノルドの指が地図上の密林から、サバナ平原の北西を陣どる反乱軍右軍を模した模型を横からトンと突いた。
一堂はそれに納得したかのように頷くが宰相ハロルドが横槍を入れた。
「そんなに上手くいきますかな?」
「…今まで反乱軍の戦闘は正面による突破しかありませんでした。我々はその早さと強さにより対応が後手に回って、反乱軍の動きについていけなかったのです」
アーノルドは一呼吸入れて続けた。
「しかし、このサバナ平原での戦いは前もってその準備をしていた為、反乱軍の侵攻を食い止めております。ここでようやく我々の──」
アーノルドを遮るように国王シルバーが口を開く。
「ようやく反撃が出来るのだな!?」
「その通りであります!」
おぉぉ、と周囲の要人達から声が上がる。
宰相ハロルドの顔はまだ曇っていた。
一息ついた国王シルバーは緊張感から解かれたのか考えていたことを口にしてしまった。
「ふぅ……このサバナ平原の戦いが危うくなれば私もその戦いに身を投じようと思っていたが──」
「「なりません!!」」
アーノルドとハロルドは声を揃えて忠告した。
「…冗談だ」
両手を上げながら答えるシルバー。
宰相ハロルドは勘弁してくれと言うかのように下を向き、再びサバナ平原の地図を眺めた。
──鍵はこの特別部隊……
地図上の密林へと視線は注がれる。
──密林……
─────────────────────
密集して生い茂る木々は行く手を遮る。
日が沈み、日中とは比べ物にならないほど空気は冷やかなものに変わってきた。湿った空気が鼻腔を潤わせ、木々の臭いを運ぶ。これは雨が降ったせいだ。森の中は気候が変わりやすい、多くの者がこの空気に嫌気をさすに違いない。
しかし犬のような耳と尻尾を持つ獣人ダルトンはこの湿気に満ちた空気を懐かしく感じていた。
ダルトン達が所属する獣人国左軍は更に小隊へと分裂し、特別部隊を編成させた。サバナ平原の西に見える密林に入り、北上しながら敵拠点を潰しつつサバナ平原の北西に陣取っている反乱軍右軍の横から奇襲できるように移動している。
サバナ平原の西側の周りは密林で覆われ、行軍は専ら徒歩で行われていた。馬や騎乗できる生き物での行軍も可能ではあるが、この作戦には隠密を要するため却下されたのだ。
この作戦に意気込んでいるのはダルトンだけではない。
ロバート、イアン、ポーア。
オセロ村出身の者達、誰もがそれに当てはまった。
この為に二年前、軍に入隊し、約半年の訓練を終え、そこから一年半が過ぎてようやくここまでやって来たのだ。
この左軍の作戦、反乱軍拠点を潰しつつ行軍する。その敵拠点の1つにダルトン達の故郷オセロ村が含まれている。
ここから自分が住んでいた村まではもう少しだ。
生い茂る葉の間から前方を目視するが、沈んだ日の光の代わりに暗闇が辺りを支配していた。
風が森を駆け抜け木々の擦れる音が聞こえる。風はおさまり、再び行軍を始めようとするが、先頭集団のダルトン達は止まった。
「オイどうしたんだよ?」
「シッ」
また風の音か、と油断したダルトンの隣にいる獣人国軍の兵士の首が飛んだ
「風じゃない!魔法だ!」
「敵襲!!」
「いるぞ!!」
敵はこの特別部隊の姿をとらえているようだ。
ダルトン達、特別部隊は恐怖に震えていた。
どこから攻撃が飛んでくるかわからない。風の音にいちいちビクビクする。
「ぐぁぁぁぁぁぁ」
叫び声に反応し、ピクリと犬のような耳が動く。
風に乗って後続から叫び声が聞こえてくる。後続でもなにやら襲撃があったようだ。
その風属性魔法を合図にしてか前方から反乱軍の大軍が迫ってきた。
「どうなってる!?反乱軍の奴等はこんな回りくどいことしないって言ってたじゃねぇか!!?」
「くそ!戦うぞ!」
槍と剣、斧、棍棒等様々な武器が錯綜する中で、ロバートの双剣が敵を十字に切り裂く。
ロバートの気合いの雄叫びの中、反乱軍の兵士がダルトンに襲いかかってきた。
ダルトンは持っている短剣を両手で握りしめ反乱軍兵士の長剣を受け止める。
鍔迫り合いとなり、ジリジリと刃がダルトンへ近付いてくるとダルトンは相手の腹に蹴りを入れて吹っ飛ばした。
その後ろでイアンはファイアーボールを唱え反乱軍を牽制している。
そして戦いをしているダルトン達先頭集団にある情報が伝わった。
縦に長く行軍をしていたダルトン達特別部隊。その行軍の先頭と後方のちょうど真ん中辺りからも反乱軍が攻撃を仕掛けた為、少数精鋭の特別部隊は更なる小隊へと分断されてしまったようだ。
現在、先頭集団は反乱軍に挟まれ孤立している状況。
「このままこんなところで死んでたまるか!」
ダルトン達オセロ村の兵士達は示しを合わせ脱兎の如く逃走した。
「はぁはぁはぁはぁ」
森を走り抜ける。
密生する林の中、それをかき分けて逃走する。
細い枝で顔に擦り傷をつけながらダルトン達は散り散りに逃げた。
──こんな所で死ねない!俺はフィルビーの為に……
後方からの怒号と悲鳴が次第に小さくなっていく。
ダルトン達、オセロ村出身の兵士達は獣人国の作戦などどうでも良かった。帰るべき故郷を取り戻す、ただそれだけのために行動していた。
皆が落ち合うのはオセロ村の手前にあるダンプ村だ。もしも隊がバラバラとなった時、落ち合う場所を前もって決めていたのだ。
そこまで休憩をせずに森をひた走る。
軈て戦闘の声と音が聞こえなくなったと同時に自分の呼吸音と自分の足音、そして先程と同様、風が木々を揺らす音しか聞こえなくなった。
ダルトンは走る速度を落とし、逞しくそびえ立つ木に手をついて、息を整えた。
しかし、連日続く行軍といつ襲われるかわからないストレスからダルトンの疲労がピークに達した。どっと身体が重くなり、手をついていた木の根もとにもたれ掛かりながら眠った。
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