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第93話
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~ハルが異世界召喚されてから15日目~
<王国中央本陣>
「剣技!斬空擊!!」
イズナの振り抜いた剣が風の刃となって帝国軍を襲う。数人が倒れたが、1人だけそれに耐えた兵がいる。
イズナはその帝国兵に向かって剣を振り下ろした。帝国兵は防御するが体勢を崩される。
イズナは刺突でその帝国兵の命を奪ったと同時に困惑していた。
この王国中央軍を襲っている帝国軍は殆どの者が訓練をされてないような動きの為、王国軍の兵士達は戦い方に戸惑っている。
しかし、冷静に見極めて戦えば簡単に倒すことができる。かと思えばイズナの攻撃を2度も受け止める手練れもその中に混ざっていた。
──これが帝国軍、しかも武に定評のあるシドー・ワーグナーの軍なのか?
「剣技!三連擊!!」
3人の帝国兵を斬り伏せた。
「このままでは……」
イズナは自分の体力等を鑑みてどのくらい戦えるのか、あと何人の帝国兵を倒せるのか計算する。
「はぁはぁはぁ……」
もう何人倒しただろうか?
昔は戦場に行く度にレベルが上がり、その都度、HPやSPが全快したものだが、レベルの上限に達してしまい、今ではすっかりポーションでの回復に重きを置いている。
イズナはポーションを飲み、全快したところで、またも異変を感じとる。
帝国軍の動きが止まったのだ。
戦いをしている最中の帝国兵さえもそれに習った。
イズナと王国兵達は困惑したが、その答えは直ぐに出る。
シドー・ワーグナーだ。
帝国兵達は隊列を崩し、道をあけ、シドーの通る道を確保した。イズナの前に現れるシドーはそこで歩みを止める。
「フルートベール王国戦士長、イズナ・アーキ殿!私と一騎討ちをしてもらいたい」
物凄いプレッシャーだ、開戦前に相対したときよりも距離が近いだけに、より相手の凄みがわかる。フルートベール王国の戦士長という地位に立つイズナは悟った。
──俺はここで死ぬ……
一騎討ちと自分の死に覚悟を決めたイズナは返事をする。
「良いだろう……」
2人を囲むようにして円を成す王国兵と帝国兵。2人は剣を構える。
シドーの刺すような圧力は対面しているだけで息もできない。イズナはこのままでは不味いと判断し全身の力を抜き、目を閉じた。
「剣気……」
そして身体能力を向上させると、目をかっ開き、自身の最高の剣技を仕掛けた。
「斬空っ!……五連擊!!」
振り抜く一刀の刃が五つに分裂しシドー目掛けて飛んでくる。
「五連擊か、よくぞここまで……」
その全ての斬擊を一振りで斬り刻むシドー。その隙にイズナは持っている全ての筋力と敏捷を駆使して間合いを詰め、渾身の一撃をシドーに叩き込んだ。
シドーはその一撃を眼にも止まらぬ速さで弾き返し、一言告げる。
「見事な剣檄……」
シドーは呟くとイズナは笑った。
シドーの速すぎる剣撃でイズナは首を斬られ絶命する。
シドーは後ろを振り返り、回りを囲み、半円を担っている帝国兵に命令する。
「このまま蹂躙しろ」
本陣へとシドーは下がった。
─────────────────────
「帝国軍が中央本軍と戦闘を始めました!
ここも直に危うくなります!その為に早く脱出を!!」
急報を報せる伝令が来たが、ルナは1人の重傷者の手当てをしている最中だ。
「早く!」
──わかってます。でも……
外で戦闘の声が聞こえる。
治療を終え、重傷者だった者に肩を貸して外へと出ようとするルナとレイだが、帝国兵達が目の前に迫っていた。
「もう、こんなところまで……」
先程ルナに退避を促した伝令係は殺られる最中だった。がらの悪い帝国兵はルナを一目見ると、言った。
「えっ!こんなところに女が?」
「は?本当だ!!」
がらの悪い帝国兵達の目付きが急に怪しくなり始める。
ルナはその視線に寒気がした。
そして、1人の帝国兵が迫ってくる。
ルナの肩に担がれていた負傷兵が前に立ちはだかり帝国兵の振り下ろされる刃を両手で受け止めた。いや、掴んだと言うべきか。掌から血が流れる。
「早く、逃げてください……」
いやらしい目をした別の帝国兵達が両手で受け止めている王国負傷兵の腹に剣を何本も刺した。
「ぃや……」
ゆっくりとにじり寄る帝国兵がルナに手をかけようとしたその時、
「シューティングアロー」
レイが魔法を唱える。
そして、帝国兵達を光の剣で次々と斬り倒していく。倒しても倒しても湧いてくる帝国兵にレイはうんざりしていた。ルナに逃げるよう促すが、目の前に炎を散らす帝国の少年兵がいた。
「フレイム」
帝国の少年兵はレイとルナに向かってフレイムを放つが、レイはルナを抱えて躱す。その炎に王国兵と帝国兵が犠牲となった。
「貴方は逃げろ」
レイはルナにそう告げると、少年兵へと向き直る。しかしルナはその場から動かない。
──私のせいで、あの人は死んでしまった…私が早く逃げないせいで、あの人も死んでしまった……
ルナはその場でへたりこんでしまった。
色んな音がルナの鼓膜を刺激する。
叫び声、鋼と鋼がぶつかる音、甲冑を装備した者が倒れる音、血飛沫の音、自分の心臓と呼吸の音。
不協和音が入り乱れルナの三半規管を麻痺させた。周囲が歪んで見える。
とうとうルナは耳を覆いその場でうずくまってしまった。
<王国中央本陣>
「剣技!斬空擊!!」
イズナの振り抜いた剣が風の刃となって帝国軍を襲う。数人が倒れたが、1人だけそれに耐えた兵がいる。
イズナはその帝国兵に向かって剣を振り下ろした。帝国兵は防御するが体勢を崩される。
イズナは刺突でその帝国兵の命を奪ったと同時に困惑していた。
この王国中央軍を襲っている帝国軍は殆どの者が訓練をされてないような動きの為、王国軍の兵士達は戦い方に戸惑っている。
しかし、冷静に見極めて戦えば簡単に倒すことができる。かと思えばイズナの攻撃を2度も受け止める手練れもその中に混ざっていた。
──これが帝国軍、しかも武に定評のあるシドー・ワーグナーの軍なのか?
「剣技!三連擊!!」
3人の帝国兵を斬り伏せた。
「このままでは……」
イズナは自分の体力等を鑑みてどのくらい戦えるのか、あと何人の帝国兵を倒せるのか計算する。
「はぁはぁはぁ……」
もう何人倒しただろうか?
昔は戦場に行く度にレベルが上がり、その都度、HPやSPが全快したものだが、レベルの上限に達してしまい、今ではすっかりポーションでの回復に重きを置いている。
イズナはポーションを飲み、全快したところで、またも異変を感じとる。
帝国軍の動きが止まったのだ。
戦いをしている最中の帝国兵さえもそれに習った。
イズナと王国兵達は困惑したが、その答えは直ぐに出る。
シドー・ワーグナーだ。
帝国兵達は隊列を崩し、道をあけ、シドーの通る道を確保した。イズナの前に現れるシドーはそこで歩みを止める。
「フルートベール王国戦士長、イズナ・アーキ殿!私と一騎討ちをしてもらいたい」
物凄いプレッシャーだ、開戦前に相対したときよりも距離が近いだけに、より相手の凄みがわかる。フルートベール王国の戦士長という地位に立つイズナは悟った。
──俺はここで死ぬ……
一騎討ちと自分の死に覚悟を決めたイズナは返事をする。
「良いだろう……」
2人を囲むようにして円を成す王国兵と帝国兵。2人は剣を構える。
シドーの刺すような圧力は対面しているだけで息もできない。イズナはこのままでは不味いと判断し全身の力を抜き、目を閉じた。
「剣気……」
そして身体能力を向上させると、目をかっ開き、自身の最高の剣技を仕掛けた。
「斬空っ!……五連擊!!」
振り抜く一刀の刃が五つに分裂しシドー目掛けて飛んでくる。
「五連擊か、よくぞここまで……」
その全ての斬擊を一振りで斬り刻むシドー。その隙にイズナは持っている全ての筋力と敏捷を駆使して間合いを詰め、渾身の一撃をシドーに叩き込んだ。
シドーはその一撃を眼にも止まらぬ速さで弾き返し、一言告げる。
「見事な剣檄……」
シドーは呟くとイズナは笑った。
シドーの速すぎる剣撃でイズナは首を斬られ絶命する。
シドーは後ろを振り返り、回りを囲み、半円を担っている帝国兵に命令する。
「このまま蹂躙しろ」
本陣へとシドーは下がった。
─────────────────────
「帝国軍が中央本軍と戦闘を始めました!
ここも直に危うくなります!その為に早く脱出を!!」
急報を報せる伝令が来たが、ルナは1人の重傷者の手当てをしている最中だ。
「早く!」
──わかってます。でも……
外で戦闘の声が聞こえる。
治療を終え、重傷者だった者に肩を貸して外へと出ようとするルナとレイだが、帝国兵達が目の前に迫っていた。
「もう、こんなところまで……」
先程ルナに退避を促した伝令係は殺られる最中だった。がらの悪い帝国兵はルナを一目見ると、言った。
「えっ!こんなところに女が?」
「は?本当だ!!」
がらの悪い帝国兵達の目付きが急に怪しくなり始める。
ルナはその視線に寒気がした。
そして、1人の帝国兵が迫ってくる。
ルナの肩に担がれていた負傷兵が前に立ちはだかり帝国兵の振り下ろされる刃を両手で受け止めた。いや、掴んだと言うべきか。掌から血が流れる。
「早く、逃げてください……」
いやらしい目をした別の帝国兵達が両手で受け止めている王国負傷兵の腹に剣を何本も刺した。
「ぃや……」
ゆっくりとにじり寄る帝国兵がルナに手をかけようとしたその時、
「シューティングアロー」
レイが魔法を唱える。
そして、帝国兵達を光の剣で次々と斬り倒していく。倒しても倒しても湧いてくる帝国兵にレイはうんざりしていた。ルナに逃げるよう促すが、目の前に炎を散らす帝国の少年兵がいた。
「フレイム」
帝国の少年兵はレイとルナに向かってフレイムを放つが、レイはルナを抱えて躱す。その炎に王国兵と帝国兵が犠牲となった。
「貴方は逃げろ」
レイはルナにそう告げると、少年兵へと向き直る。しかしルナはその場から動かない。
──私のせいで、あの人は死んでしまった…私が早く逃げないせいで、あの人も死んでしまった……
ルナはその場でへたりこんでしまった。
色んな音がルナの鼓膜を刺激する。
叫び声、鋼と鋼がぶつかる音、甲冑を装備した者が倒れる音、血飛沫の音、自分の心臓と呼吸の音。
不協和音が入り乱れルナの三半規管を麻痺させた。周囲が歪んで見える。
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