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第84話
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~ハルが異世界召喚されてから14日目~
既に日は沈み、馬車の窓を開けると肌寒い空気が流れ込む。
ハルとルナとレイは獣人国が攻めて来たことにより明日にでも開戦されるやも知れぬ帝国との戦いに向け、その戦地、プライド平原へと向かっていた。
3人とも戦争による緊張で会話がない。ルナはうつむいていた。ルナが戦争嫌いなのはハルも知っている。
そんなルナを元気付けようとハルが口を開いた。
「…だ、だいじょうですよ!僕がルナさんのこと守りますから!」
いきなりのハルの宣言に驚いたのか、少し間を置いてルナは返事をする
「…ありがとうハルくん」
再び沈黙が漂う。
「レイも強いですし、きっと無事に帰って来れます!」
ハルはレイに助けを求めるようにレイの名前を出して巻き込んだ。
「…お前の方が強いがな」
レイはハルを見ながら呟く。そしてまた沈黙が馬車内を支配した。ハルは思い出した。
──そういえば僕ってコミュ障だったんだ
─────────────────────
日が沈ち、夜の闇を松明の灯りがともしている。帝国とフルートベール王国の戦争地となるプライド平原付近で野営をしている帝国軍の将の1人、ドルヂ・ドルゴルスレンは戦争直前にも拘わらず鍛練を欠かさない。
「…フン!…フン!…」
掛け声と共に繰り出される空突きは、空気を震わせる程の威力だ。その音で寝れないという兵士もいる。
その光景を横目にテントの前でイスにもたれながら新聞を読んでいる小男、肩まで伸びた金髪を後ろで結んでいるドルヂの側近ジュドーが声をあげた。
「え~!!?」
驚きのあまり握っている手に力が入り新聞をぐしゃりとさせてしまった。
「どうしたジュドー?女にでもフラれたか?」
空突きを止めドルヂは質問する。
「新聞にそんな記事載ってる訳ないでしょ!?それよりもこれです!聖王国のロドリーゴ枢機卿が教皇になったんですよ!」
ジュドーは端がしわくちゃになった新聞の記事を指差しながらドルヂに見せる。
「んだよそんなことか?俺はあの国が嫌いなんだよ」
ドルヂは素っ気ない態度をとる。ドルヂがこういったことに興味がないのをジュドーはすっかり忘れていた。それだけこのニュースはジュドーにとって重要なことだった。
「どうしてそんなに毛嫌いするんです?」
ジュドーはこの質問についてドルヂがどう答えるか見当がついていた。しかし質問する。会話というものを成立させるために。
「神をいくら信じててもな?神は何も守ってくれはしねぇからだよ!信じられるのは自分の拳だけだ!」
言い終わると同時に空突きを再開するドルヂ。予想通りの答えが返ってきたのでジュドーは用意していた言葉を直ぐに返した。
「ドルヂ様はそうかもしれませんけど、他の者からすれば神を信じることで救われることもあるんですよ?まぁ僕もどちらかというとその教えには懐疑的ですけどね」
「救われる…ねぇ?やっぱ嫌いだわ、神を信じる?それで?行動しなきゃ何も変わらねぇ。そんな神の有難い教えを説くような口だけの奴等しかいねぇんだろ聖王国には?」
ドルヂの意見もよくわかる。戦地に赴くと嫌でも実感する。しかし、この考えは半分正解で半分不正解だ。
神を信じることで行動できる人がいることをドルヂは理解していない。
「実はそんな人達ばかりじゃないんですよ?」
ほぉと呟き、再び空突きを止めジュドーに続きを促した。
「彼等は神を信じるあまりに神の存在を証明しようと様々な研究をしているんです。しかし、その研究結果は神の教えと真逆の証拠ばかり発見してしまってるんです」
ドルヂはジュドーの話に興味を持った。
「例えば?」
「例えばレガリア女史です。彼女はこの世界は球体であると説きました」
「は!?球体?じゃあ端っこにいけば落ちちまうじゃねぇか?そんなの俺でもわかんぜ?」
ジュドーはいずまいを正して話を続ける。
「僕もそう思いましたよ?ただ、水平線の先へ向かう船はやがて見えなくなりますよね?もしこの地が平らならその船は見え続けてないとおかしいんです。この世界が球体だからこそ見えなくなるんですよ」
「地平線の先にあるのが滝で、そこに落ちたから見えなくなったんだろ?」
「それをレガリア女史達が証明しようとして船を出した実験がありましたよ?それで滝などなかったと結論づけられました」
へぇ~と自分の考えを否定され、わざと興味のないような返事をするドルヂ。この態度は自分の自尊心を守る為のせめてもの反撃だった。
「更にレガリア女史は恒星テラについて、我々の住むこの球体の大地がテラの周りを回っていると言ったんです」
「どういうことだ?」
「つまり今は夜ですが明日になるとテラが昇りますよね?それは我々のいる大地を起点にテラが、ある法則で動いているからと考えられますね?あるいは聖書に書いてあるように神がそのようにして造ったと…しかしレガリア女史はテラの周りを、我々の住む大地が回っている。所謂、地動説を説いたんです」
理解に苦しむドルヂ。
「僕もその実よくわかってませんが、そんなことを説いた彼女は当然、教会から目をつけられました」
「成る程な、神の教えに反するってやつか?…で?ソイツは今どうなってんだ?」
「変死してます」
「今の話を聞いて余計、聖王国が嫌いになったわ」
ドルヂはタウエルを持って、汗を拭いていた。
「他にもそんな不可解な事件が多発してるんです。あとは賢人チエーニの超人説とか…」
「もういい、頭痛くなってきた」
ジュドーはこういった話がとても好きだった。その為、ロドリーゴ枢機卿が教皇となったのは少し残念に感じていた。ロドリーゴ枢機卿は従来の教えを重んじる方だからだ。今と対して変わらない研究をするだろう。それよりもジュドーは急進派である若いチェルザーレ枢機卿が教皇となればもっと世界や神に対する考え方が変わり面白くなると思っていた。
──あれ?そういえば何で新聞読んでたんだっけ?
話が逸れてしまった。
自分が、ある情報を入手する為に新聞を読んでいた筈だった。しかし何の情報を求めていたか忘れてしまった。
それを思い出す為にもう一度新聞に目を通す。
フルートベール王国で行われた三國魔法大会の記事を見つけた。そして、優勝者の似顔絵も。
「これこれ!ドルヂさま~~!!」
「何だよ?また神についてか?」
自分のテントに戻ろうとするドルヂは振り向いた。するとジュドーが新聞の記事を指差しながら走ってこっちに向かってくる
「これが今回の要注意人物のハル・ミナミノです!」
似顔絵を凝視するドルヂ。
「…ただのガキじゃねぇかよ。俺達の敵じゃねぇ」
軽んじるドルヂにジュドーが戒める。
「そんなこと言ったら四騎士のミラさんだってガキじゃないですか?」
「あれはただのガキじゃねぇ」
「第四階級魔法が唱えられるからですよね?それならこのハル・ミナミノだって……」
ジュドーの言葉を手で遮るドルヂ。
「このミナミノって奴は経験してねぇんだよ。顔みりゃわかる」
「顔っていっても似顔絵ですけど……何を経験してないんですか?」
「地獄だ」
既に日は沈み、馬車の窓を開けると肌寒い空気が流れ込む。
ハルとルナとレイは獣人国が攻めて来たことにより明日にでも開戦されるやも知れぬ帝国との戦いに向け、その戦地、プライド平原へと向かっていた。
3人とも戦争による緊張で会話がない。ルナはうつむいていた。ルナが戦争嫌いなのはハルも知っている。
そんなルナを元気付けようとハルが口を開いた。
「…だ、だいじょうですよ!僕がルナさんのこと守りますから!」
いきなりのハルの宣言に驚いたのか、少し間を置いてルナは返事をする
「…ありがとうハルくん」
再び沈黙が漂う。
「レイも強いですし、きっと無事に帰って来れます!」
ハルはレイに助けを求めるようにレイの名前を出して巻き込んだ。
「…お前の方が強いがな」
レイはハルを見ながら呟く。そしてまた沈黙が馬車内を支配した。ハルは思い出した。
──そういえば僕ってコミュ障だったんだ
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日が沈ち、夜の闇を松明の灯りがともしている。帝国とフルートベール王国の戦争地となるプライド平原付近で野営をしている帝国軍の将の1人、ドルヂ・ドルゴルスレンは戦争直前にも拘わらず鍛練を欠かさない。
「…フン!…フン!…」
掛け声と共に繰り出される空突きは、空気を震わせる程の威力だ。その音で寝れないという兵士もいる。
その光景を横目にテントの前でイスにもたれながら新聞を読んでいる小男、肩まで伸びた金髪を後ろで結んでいるドルヂの側近ジュドーが声をあげた。
「え~!!?」
驚きのあまり握っている手に力が入り新聞をぐしゃりとさせてしまった。
「どうしたジュドー?女にでもフラれたか?」
空突きを止めドルヂは質問する。
「新聞にそんな記事載ってる訳ないでしょ!?それよりもこれです!聖王国のロドリーゴ枢機卿が教皇になったんですよ!」
ジュドーは端がしわくちゃになった新聞の記事を指差しながらドルヂに見せる。
「んだよそんなことか?俺はあの国が嫌いなんだよ」
ドルヂは素っ気ない態度をとる。ドルヂがこういったことに興味がないのをジュドーはすっかり忘れていた。それだけこのニュースはジュドーにとって重要なことだった。
「どうしてそんなに毛嫌いするんです?」
ジュドーはこの質問についてドルヂがどう答えるか見当がついていた。しかし質問する。会話というものを成立させるために。
「神をいくら信じててもな?神は何も守ってくれはしねぇからだよ!信じられるのは自分の拳だけだ!」
言い終わると同時に空突きを再開するドルヂ。予想通りの答えが返ってきたのでジュドーは用意していた言葉を直ぐに返した。
「ドルヂ様はそうかもしれませんけど、他の者からすれば神を信じることで救われることもあるんですよ?まぁ僕もどちらかというとその教えには懐疑的ですけどね」
「救われる…ねぇ?やっぱ嫌いだわ、神を信じる?それで?行動しなきゃ何も変わらねぇ。そんな神の有難い教えを説くような口だけの奴等しかいねぇんだろ聖王国には?」
ドルヂの意見もよくわかる。戦地に赴くと嫌でも実感する。しかし、この考えは半分正解で半分不正解だ。
神を信じることで行動できる人がいることをドルヂは理解していない。
「実はそんな人達ばかりじゃないんですよ?」
ほぉと呟き、再び空突きを止めジュドーに続きを促した。
「彼等は神を信じるあまりに神の存在を証明しようと様々な研究をしているんです。しかし、その研究結果は神の教えと真逆の証拠ばかり発見してしまってるんです」
ドルヂはジュドーの話に興味を持った。
「例えば?」
「例えばレガリア女史です。彼女はこの世界は球体であると説きました」
「は!?球体?じゃあ端っこにいけば落ちちまうじゃねぇか?そんなの俺でもわかんぜ?」
ジュドーはいずまいを正して話を続ける。
「僕もそう思いましたよ?ただ、水平線の先へ向かう船はやがて見えなくなりますよね?もしこの地が平らならその船は見え続けてないとおかしいんです。この世界が球体だからこそ見えなくなるんですよ」
「地平線の先にあるのが滝で、そこに落ちたから見えなくなったんだろ?」
「それをレガリア女史達が証明しようとして船を出した実験がありましたよ?それで滝などなかったと結論づけられました」
へぇ~と自分の考えを否定され、わざと興味のないような返事をするドルヂ。この態度は自分の自尊心を守る為のせめてもの反撃だった。
「更にレガリア女史は恒星テラについて、我々の住むこの球体の大地がテラの周りを回っていると言ったんです」
「どういうことだ?」
「つまり今は夜ですが明日になるとテラが昇りますよね?それは我々のいる大地を起点にテラが、ある法則で動いているからと考えられますね?あるいは聖書に書いてあるように神がそのようにして造ったと…しかしレガリア女史はテラの周りを、我々の住む大地が回っている。所謂、地動説を説いたんです」
理解に苦しむドルヂ。
「僕もその実よくわかってませんが、そんなことを説いた彼女は当然、教会から目をつけられました」
「成る程な、神の教えに反するってやつか?…で?ソイツは今どうなってんだ?」
「変死してます」
「今の話を聞いて余計、聖王国が嫌いになったわ」
ドルヂはタウエルを持って、汗を拭いていた。
「他にもそんな不可解な事件が多発してるんです。あとは賢人チエーニの超人説とか…」
「もういい、頭痛くなってきた」
ジュドーはこういった話がとても好きだった。その為、ロドリーゴ枢機卿が教皇となったのは少し残念に感じていた。ロドリーゴ枢機卿は従来の教えを重んじる方だからだ。今と対して変わらない研究をするだろう。それよりもジュドーは急進派である若いチェルザーレ枢機卿が教皇となればもっと世界や神に対する考え方が変わり面白くなると思っていた。
──あれ?そういえば何で新聞読んでたんだっけ?
話が逸れてしまった。
自分が、ある情報を入手する為に新聞を読んでいた筈だった。しかし何の情報を求めていたか忘れてしまった。
それを思い出す為にもう一度新聞に目を通す。
フルートベール王国で行われた三國魔法大会の記事を見つけた。そして、優勝者の似顔絵も。
「これこれ!ドルヂさま~~!!」
「何だよ?また神についてか?」
自分のテントに戻ろうとするドルヂは振り向いた。するとジュドーが新聞の記事を指差しながら走ってこっちに向かってくる
「これが今回の要注意人物のハル・ミナミノです!」
似顔絵を凝視するドルヂ。
「…ただのガキじゃねぇかよ。俺達の敵じゃねぇ」
軽んじるドルヂにジュドーが戒める。
「そんなこと言ったら四騎士のミラさんだってガキじゃないですか?」
「あれはただのガキじゃねぇ」
「第四階級魔法が唱えられるからですよね?それならこのハル・ミナミノだって……」
ジュドーの言葉を手で遮るドルヂ。
「このミナミノって奴は経験してねぇんだよ。顔みりゃわかる」
「顔っていっても似顔絵ですけど……何を経験してないんですか?」
「地獄だ」
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