喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第83話

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~ハルが異世界召喚されてから14日目~ 

 レナードはもどかしかった。いまこうして自分達の移動中に多くの者が犠牲になっている。自分よりも遅い馬から降りて一刻も早く向かいたい気持ちを抑えてレナードは行軍していた。 

「戦争は初めてですか?」 

 父レオナルドと旧友でレナードも子供の頃から知っている兵士のモンターグが話し掛けてきた。 

「はい……」 

「レナード様なら素晴らしい武功を上げることができますよ?あの大会での戦闘には舌を巻きました」 

「ありがとうございます……でも俺より強い奴が2人もいました。しかも2人とも年下、あ!あと、ここで敬称は止めてください。立場がよくわからなくなるので」 

 たくさんの騎兵の中で、2人が会話していると、進行方向からフルートベール王国の鎧を着込んだ騎兵がやってきた。 

「馬上より失礼します!!王都からの援軍かと存じます!」 

「そうだ」 

 行軍の先頭を進んでいたレオナルドは静かに、しかし通る声で言った。 

「ワーブレーの住民は、現在リッチランドへ向かっております。残念ですがワーブレーを捨て、リッチランドでの籠城戦となる見込みです!」 

「わかった。リッチランドまでの案内を頼む」 

「ハっ!!」 

───────────────────── 

 ダルトン達はライドウルフの速度を上げたことにより、予定より早くリッチランドへ着きそうだったが、予想外のことが起こる。 

「ダルトン様!行軍の背後で1人の人族から攻撃を受けております!」 

「わかった。お前達は先にリッチランドへ向かえ」 

 ダルトンは眉ねをひそめながら答えた。 

「了解。でもお前がいねぇとリッチランドは……」 

 ダルトンの旧友ポーアが不安を口にする。 

「大丈夫だポーア。もう少しでバーンズもやってくる。それにリッチランドには仕掛けがあるそうだ……」 

 ダルトンはそう言い残すと、先頭から最後尾まで移動する。 

 行軍を妨害している人族と対面した。最後尾の者に先に行くよう促し、ライドウルフから降りる。 

「お前があの軍のリーダーか?」 

 ヴァレリー法国の紋章が刻まれた長剣を担ぐように持ち、刃部分を自身の肩にポンポンと軽く叩きながらブリッジは質問した。 

「如何にも」 

 ダルトンは答える。 

「フルートベールがどうなろうと俺は知ったこっちゃねぇが、ヴァレリーの民に手を出したことを後悔させてやんよ?」 

 ブリッジはアッパーフィールド街で救助をした後、ダルトン達獣人国軍の背を追って来たのだ。 

 因みにこの時ブリッジはシルヴィアがフルートベールと同盟を結んだ報せなど受けていない。只、獣人達がヴァレリー法国領アッパーフィールドを襲い、フルートベールへと向かったことを考えると上手く行けばフルートベール軍と挟撃、共闘できると考えていた。 

「人族のわりに足が速いようだな?まさか1人でここまでやって来るなんて予想していなかった」 

 ダルトンは余裕の態度でブリッジを挑発する。 

「確かに俺は足が速い、がお前らがご丁寧に街の住民を皆殺しにするもんだから救助なんて殆どせずにここまでやって来れたんだよ!!」 

 最後の言葉を言い終わる前にブリッジはダルトンに向かって突き進み、長剣を振り下ろした。 

 ダルトンは振り下ろされる長剣の側面を両拳で挟むようにして叩き割る。 

 長剣が粉々になり、使い物にならないと瞬時に判断したブリッジは片足を持ち上げて前蹴りをダルトンの胸に入れる。しかしダルトンは先程長剣を叩き壊したようにはせずに、向かってくるブリッジの足を両手で掴んだ。ダルトンはブリッジを持ち上げるようにしてから、掴んだ足を捻り、上空へと投げる。 

「うおっ!?」 

 回転するブリッジの身体。ブリッジはその回転に身体を委ねざるを得なかった。前後左右がわからなくなった状態で、ブリッジは背中に衝撃を受ける。 

 飛ばされるブリッジは何とか受け身をとり、瞬時にダルトンを確認しようとするが、そこにダルトンはいなかった。 

 背後に気配を感じたブリッジは咄嗟に第二階級風属性魔法のウィンドスラッシュを唱える。自分の周囲を守るようにして無数の風の刃が四散する。 

 ダルトンは魔法を躱しながらブリッジと距離をとった。 

───────────────────── 

 リッチランドの領主ブッシュはワーブレーから避難してくる住民達が走ってここまで来るのを見ることができた。 

 そしてその後ろを獣人族の大群が襲う。 

 最早避難してくる者全てを救えぬと判断したブッシュはやむを得ず閉門を命ずる。 

 リッチランドは四方を高い壁で囲われ、それぞれの辺には重厚な門が取り付けられている。ここでリッチランド内へ獣人に入って来られると不味いと判断したのだ。 

 援軍を待ちながら、籠城する。 

 リッチランドにいる兵に防御戦の準備を整えさせた。 

 西のワーブレーから1万程の獣人国軍が向かってくる。そして、南からは獣人国5万の軍勢がやってくる。しかし南からやってくる5万の軍の遥か後方から土煙がたっているのが窺えた。 

「まさか…ヴァレリーの軍か?」 

 ブッシュは拳を握り締めガッツポーズを決める。 

「ついてる!!獣人達はやはりヴァレリーの反感を買ってしまったんだ!!ッシャアコラ!!!」
 
 閉門完了の報せを聞いたブッシュは弓兵を呼んだ。 

───────────────────── 

 獣人ダルトンに促され先にリッチランドに着いたポーア。熊のような獣人バーンズ率いる1万の軍が少し遅れて合流する。 

「ダルトンはどうした?」 

「只今、背後からやって来た敵と戦闘中であります!」 

 姿勢をただして敬礼をしながらポーアは報告した。 

「背後から…ヴァレリーの奴等か?まぁダルトンなら心配いらないだろう。それよりも……」 

 バーンズはリッチランドの壁と門を見やる。壁は高くそそりたち、門も重厚な造りになっていた。 

 ポーアもバーンズの視線と同じ方向を見て思った、これを突破するのは骨が折れそうだ。するとバーンズが意外なことを口にする。 

「んじゃ行くぞ?」 

「えっ…行くってどこへです?」 

「リッチランドに決まってんだろ?」 

 ポーアはバーンズに向き直り失礼だと思いつつも恐る恐る異議を唱えた。 

「この人数で向かうのは無謀なのでは……」 

「無謀?何言ってんだ?ほら見ろよ?」 

 バーンズはリッチランドを指差した。ポーアは再びそちらを見るとあーら不思議、門が開いている。 

───────────────────── 

 ブッシュは弓兵に号令をかけ、配置につかせようとしたが、異変を感じ取った。 

 ──先ほど門を閉めた筈なのに門がまだ動いている?いいやこれは閉まった門が開きだす音だ!! 

「何をしている!!?」 

 ブッシュがわめきたてる。そしてこの門が再び開くことのヒントとなる情報がブッシュの元にやって来た。 

「リッチランドに在住の獣人達が反乱を起こしております」 

「まさか、ここにも?くそ、弓兵達!獣人どもを門へ近付けさせるな!!射て!!他の兵達は直ぐ様、門の開閉している場所へ行け!獣人国の手先の者がいるはずだ!!」 

───────────────────── 

 バーンズ達は石壁の上から降ってくる矢の雨を掻い潜りリッチランド内へ入った。そして門のそばにいる人間に声をかけた。 

「開門ご苦労。人間どうしも仲が悪いんだな?」 

「これは偉大な人物の考えた作戦なのだ。仲違いという単純な理由ではない」 

 バーンズは人族を憎んでいる。この門を開けた人族も気に入らなければ、手にかけるつもりだったが、一対一で戦うことを想定すると中々に骨が折れそうな相手であったため、自分の任務を遂行する。 

 門を開けた人間を見送ったバーンズは領主ブッシュのいるところを見上げた。 

───────────────────── 

 ブリッジはダルトンとの接近戦は、悔しいが不利だと思い、中距離からの魔法攻撃にシフトする。 

 ダルトンはブリッジのこの切り替えを妥当な判断だと思ったが、ブリッジの背後から大軍が押し寄せてくる影を発見し、リッチランドへと向かう。 

「ちっ!行かせるか!!」 

 ブリッジはダルトンの背に向かって魔法を放つも、悉く躱される。 

 ダルトンの背を追い、リッチランドへと着いたブリッジとその軍は驚愕していた。 

「落ちている……」 

───────────────────── 

「もう落ちている…だと?」 

 日は沈みかかり、遠目で見えるリッチランドは怪しく光って見えた。 

 レオナルドとレナード一行はブリッジ達がリッチランドへ着いてから少しして到着した。 

 その場にヴァレリー法国軍がいることに驚くレオナルド。 

 ──同盟を結んだ後、直ぐに行動した我々より到着が早いだと?
 
 レオナルドはそう思ったが、ブリッジと会話をして合点がいく。 

「流石シルヴィア様だな。きっと盟を結ぶと思っていた」 

「援軍感謝する」 

 馬上で挨拶を済ませた後、2人は獣人国に落とされたリッチランドを見ながら言った。 

「勿論取り返すよな?」 

「無論だ」
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