喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第76話

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~ハルが異世界召喚されてから13日目~ 

 優勝候補のレナードが敗れたことに観客達はざわついていた。また、賭け事をしていたのか、俯く者も多数いる。 

「レナード様が……」
「え?負けたの?」
「最後の武器って隠し持ってたんじゃね?」
「不正じゃない?」 

 観客達は優勝候補が敗退した現実を受け入れられない。 

 この三國魔法大会に於いて大会規定にあった規格の武器なら使用可能となっているが、最後アベルが握っていたのは魔法で造った剣であった。 

「最後の、少年が持ってた剣は、まさか……」 

 レオナルドの従者はそう呟き、隣にいる主人の顔を見ようとすると、 

「そんな…バカな!!」 

 主人レオナルドは無意識に声が漏れでた。 

 本来光の剣は剣のイメージだけで何年も掛かるだけでなく魔力をその形にとどめることにもかなりの時間を要する。そしてなにより、魔法をとどめる技術に長けていればいる程、光の剣は本物の剣と見紛うのだ。 

 現にレオナルドも含め、レナードやレイの光の剣は全体的に光り輝き波打っている。その波を完全に抑えれば攻撃力が更に上がるのだが、それを習得できないでいる。 

 レオナルドがまだ小さい頃、祖父の持つ光の剣を本物の剣だと勘違いし、柄の部分に触れようとすると祖父に叱られたのを覚えている。 

 レオナルドは密かに祖父の唱える光の剣を理想としていたが、最近ではあれは自分の記憶違いなのではないかと考えていた。子供には本物と魔法で造られたモノとの区別がつかなくて当然だ。 

 しかしあの白髪の少年アベルが顕現させた剣はかつての祖父が手にしていた剣と全く同じそれだった。 

 レオナルドは自分の記憶違いではないと確信したが、それをブラッドベル家以外のしかも息子と同い年の少年が会得していることに嫉妬と怒りが込み上げてくる。 

「俺は…認めん!!」 

「レナードがかようにして敗れてしまったか…」 

 国王フリードルフⅡ世は側にいるギラバに聞こえるように独りごちた。そこには、同盟が危うくなったことを暗に意味するだけの含みがあった。 

「不味いですね……」 

 ギラバは考えていた。 

 ──レベル18にしては、敏捷が数値と見合っていない。これは彼のスキルなのか、レナードもレベル18だが、数値ではレナードの方が上だった…… 

 ギラバは子供の時からスキル『鑑定』を使える。その為、相手の戦闘力を数値で考える癖がついてしまっていた。その数値が偽装されたものだと気付かずに。 

 対して、戦闘により相手の実力を図ってきた武人達はアベルの強さにおののいていた。 

「……」 

 ヴァレリー法国のエミリアは考えている。 

 ──もしかしてあの白髪…私と同等? 

 エミリアは視線を感じた。 

 その視線に目を向けるとシルヴィアの全てを見透かす瞳がそこにはあった。 

 エミリアは自分の考えていたことを白状する。 

「私と同じくらいの強さですかね?」 

「残念ながらそのようだ……」 

 シルヴィアは決して嘘をつかない。感じたこと全てを正直に言う。これにより多くの者が彼女を信頼し、ついてきた。 

 しかし彼女のそんな性格は時として、残酷な事実を告げる。 

 今のエミリアにとっては複雑な気持ちだ。だがこの悔しさはものの数分で消える。それがエミリアの長所でもある。 

 ダーマ王国宰相トリスタンは自分が帝国と手を結んだ先見の明を自賛していた。 

 2年前フルートベール王国が誇る剣聖が敗れてから帝国の評価を改めた。そしてこの帝国四騎士シドーの息子アベルの実力はダーマ王国の持つ最高戦力を上回る。トリスタンは目の前にいる、沈黙を続けるバルバドスとアナスタシアを見た。 

『それでは第六試合ワインマール法国魔法学園高等学校3年オリガ・ゴルルゴービチ!対!フルートベール王国王立魔法高等学校1年ハル・ミナミノ!』 

 アナウンスが鳴り響くと、 

「もう今のが決勝でよくね?」
「もうアベルが優勝だろ?」
「ちょっとトイレ行ってくる」 

 観客達は思い思いの感想を述べ、行動や態度に示した。 

「ハル~~!!」
「ハルく~ん!!」
「ハ、ハルさ~ん!」
「ハルくーん!!」 

 アレックス、マリア、クライネ、ユリが応援する。 

「どうせハルが優勝でしょ?」 

 リコスが冷めながら言う。 

「だけど、さっきのアベルって奴も相当強いよね」 

 アレンはデイビッドとスコートに同意を求めるように言った。 

「私は何がなんだか……」
「ハルと同じくらい強いかもしれない……」 

「ハル~」
「ハ~ル~」 

 グラースとマキノは声援を送る。シスターグレイシスは隣に座ってるおっさんの持っている酒をジ~っと見ていた。 

───────────────────── 

 リングに立つオリガは、対戦相手の少年を見据える。観客達はこの試合を真剣に見ようとしていないのが伝わってくる。しかし、オリガは自分のベストを尽くそうと心に決めた。 

 ──ヴァレリー法国代表はもう私だけ……グスタフが負けたのを見て、もう私達の優勝はなくなった。ドロフェイも敗れてしまった…… 

 それでもダーマ王国の選手に勝ち、こうして今第六試合を始めようとしていることにオリガは誇らしさを感じていた。 

 ──もう優勝は先程信じられない強さを見せつけたアベルって子に決まったようなもの。ハル・ミナミノ…君?だっけ?お互い良い試合をしましょう? 

『始めぇぇ!!』 

 開始の合図が聞こえたオリガは、魔法を唱えようと魔力を込めたが、対戦相手のミナミノ少年はトコトコと歩いてリング外に繋がる階段をおりようとしている。 

「は!?やる気ないの!?」 

「え?」 

 ミナミノ少年はオリガの質問に疑問を持っているような顔をしている。 

「え?じゃないわよ!」 

 オリガが叱責すると、対戦相手の少年は指を差しながら言った。 

「…腕輪……」 

 ミナミノ少年は道端で話すような気軽な声でオリガの腕を指さした。 

「腕輪って………!!!」 

 オリガは自身の腕を見やると嵌めていたはずの腕輪はそこにはなく。リング上に破片となって落ちていた。 

「どうし…て……?」  

『勝者!!ハル・ミナミノ!!』 

 会場にいる観客達は沈黙した。皆レナードとアベルの戦いの余韻に浸っており、次の試合を真面目に観戦しようとしていなかったからだ。 

 実況の勝者を告げる声で皆我にかえり、何が起きたのか周りの人達に聞いていた。 

 各国の要人達も一緒だった。 

「今…何があったんですか?」 

 エミリアはアベルとの戦闘を頭の中でシミュレーションしていたのでよく試合を見ていなかった。因みにそのシミュレーションによるとアベルと10回戦って6回勝っていた。 

「おそらく、高速のファイアーボールに風属性魔法を使って更に加速させたのだろう」 

 ──…だろうって…… 

 エミリアは答えに自信のなさを示すシルヴィアに違和感を覚えた。 

「初見なら躱すのは難しいな……」 

 シルヴィアは呟く。 

 ダーマ王国アナスタシア、バルバドスはただ黙っていた。 

 宰相トリスタンは考えた。 

 ──おそらくコイツら見てなかったな? 

「そうです!私達には彼がいる!」 

 ギラバはハルの強さを再確認した。 

「今、何が起きたのだ?」 

 フリードルフⅡ世はギラバに訊いた。 

「超速の魔法を放ったのです。おそらく……」 

 ハルが具体的に何をしたのか理解出来たのはこの会場に4人しかいなかった。 

 剣聖オデッサとシルヴィア、戦士長イズナ、そして観覧席で観ていたアベルだ。 

 ──あれがマキャベリー様が危惧していたハル・ミナミノ…… 

『それでは第七試合フルートベール王国王立魔法高等学校1年レイ・ブラッドベル!対!同じくフルートベール王国王立魔法高等学校1年ハル・ミナミノ!』
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