喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第67話

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~ハルが異世界召喚されてから9日目~
 
「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」 

 観客は今までの試合で一番の声援を送る。声援というよりは寧ろ声を出して興奮を発散しているようにも聞こえた。
 
 レナードは先程と同じように大量のシューティングアローを放つ。 

 その場にとどまり、それを全て完全に躱すスコート。 

「ヤバいアイツヤバい!」
「すげぇ!避けてる」
「動き早すぎ……」   

「お…おい…アレ」
「本当にスコートか?」 

 スコートを虐めていた二人組が入場口でスコートの試合を見ている。 

「成長したな。スコート、一事はどうなるかと思ったぜ」 

 スタンが呟く。 

「スコート行け!」
「「スコートー!!」」
「スコートくん!!」 

 同じAクラスの生徒が声援を送る。 

「スコート!!行っけぇ!!!」 

 観客席からゼルダの声が聞こえた。スコートはそれを合図に、躱し続けながら前進を試みた。 

 射程が短くなればなる程、躱すための反射速度は上がる。 

 しかし、スコートは走る速度を落とすことなくレナードに迫った。 

 近接、お互い素手の間合いに入るとレナードは魔法を止め、拳技へと移行する。 

 スコートの顔面に右拳を繰り出すが寸でのところで拳を止め、後ろへ回り込む。 

 スコートはその動きを完璧に捉え、上段後ろ回し蹴りを背後にいるレナードに食らわせた。 

 レナードはそれを腕で受け止め、衝撃で足を滑らせながら後退する。 

 観客達の興奮は頂点に達した。 

「ヤバい!アイツ攻撃いれやがった!!」
「ガードされてんじゃん?攻撃入れたとは評価できなくね?」
「じゃあお前、あそこまでできんのかよ?」
「そ、それは……」 

 隣にいる、生徒同士の会話が聞こえてくる中、アレンはそのリング上の光景を見てあっけにとられていた。 

 ──僕は、今まで何をしていたんだ……僕は自分よりも弱いと思っている者を蔑み、強い者のふりをしていたかっただけだ…… 

 スコートの回し蹴りを受けたレナードは再び、魔法を放つが、スコートは躱す。 

 アレンは思った。 

 ──僕は強者ではなかった。いつからだろう?何かに挑戦しなくなったのは。いつからだろう?どうせ失敗すると他者を笑っていたのは…… 

 魔法だけじゃない、絵や物語を書くことや運動だって、自分よりも上位の人達を見ては、自分は絵で稼ぐつもりはないから、物語を書いて稼ぐつもりはないから、運動で稼ぐつもりはないからと自分に言い聞かせていた。 

 ──だって僕は魔法士爵の子だから。将来は魔法で身をたてるつもりだった。だが、レイやハル、僕よりも魔法で上位の者を見て思った。僕は魔法で稼ぐつもりはないと…… 

 ──じゃあ僕は何がしたいんだ?
 ──何がやりたいんだ?
 ──わからない…でも、スコート今の君を見て思ったよ。僕は君のようになりたい!弱い者から強い者になろうと挑戦する、君のような人に!! 

 レナードの魔法を躱したスコートは再び間合いを詰めて拳を振りかぶる。 

 それを見たアレンは気が付いたら声を出して叫んでいた。 

「スコート!もう君を笑う奴なんていない!ぶっ倒せ!!」
 
 レナードはスコートの拳を受け止めた、そのガード越しにスコートの想い感じている。 

 ──こんな経験初めてだ。 

「想いが人を強くするなんて言葉は物語の中だけだと思ってたな?君…最高だよ!!」 

 スコートの腹に掌底を食らわせる。後方へ飛ばされるスコートに向かって追い討ちをかけるようにまた大量のシューティングアローを唱えた。 

 スコートはダメージが残るなか懸命に魔法を躱すが、躱せたのは最初の数発であとはもろにくらってしまう。 

 再び倒れるスコート。 

「立て!!」
「頑張れー!!」
「レナード行けー!!」
「スコート~!!」 

 スコートを応援する者が増え始めたが、スコートにその声は届かない。 

 Aクラスの生徒達の声も、ゼルダの声も届かない。 

 ──あぁ身体が重い…自分の身体じゃないみたいだ…… 

 スコートは意識が飛びそうな中、ある1人の声が遠くから僅かに聞こえてくる。 

「立て…立ってくれ!スコート!!行けぇ!!」 

 父エドワルドの声だ。母モリーは隣で号泣している。 

「あぁそこにいたんだ父上……」 

 スコートは立ち上がった。 

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」 

 観客が盛り上がる中、レナードは無情にも光の剣をスコートの首もとに突き立てる。 

「よくやった。君は立派な戦士だ」 

 スコートの腕輪が砕け散った。 

『ぁ…しょ、勝者は~!レナード・ブラッドベル!!!』 

───────────────────── 

 選考会はスコートとレナードの試合を受け残る1試合は呼応するかのように白熱した。スコートを虐めていた二人組はスコートの姿を見てお互いのベストを尽くすが結果は両者共に倒れ、引き分けにおわる。また、ゼルダを倒したパトリスもMP切れにより、次の戦いを棄権した。 

 よって、代表の3選手が決まった。 

レナード・ブラッドベル
レイ・ブラッドベル
ハル・ミナミノ 

 の3名である。 

───────────────────── 

<ダーマ王国> 

「やっばー!!遅刻遅刻!!」 

 コゼットは勢いよく家を飛び出して、魔法学校へと向かった。色白でパッチリとした目、髪の毛が細くてサラサラなものだから走るとセットした髪が乱れる。 

 パンを口に咥えて走ると、曲がり角で1人の少年とぶつかってしまった。 

 尻餅をついたコゼットは勢いでパンを口から落としてしまう。 

「あ~~!!私の大事なパンがぁぁぁ!!おどれぇ~何奴!!」 

 ぶつかった少年は全くの無傷で何が起きたのかわからない様子でその場につっ立っていた。 

 少年と目が合うコゼット。 

 緋色の瞳と、ここら辺じゃ珍しい浅黒い肌の少年。 

 ──何コイツ結構良い男じゃない…… 

「って!そんなんで私のパンの恨みははれないんだからね!」 

「すまない」 

 少年はそう言うと歩き出す。 

「すまないじゃないわよ!どうしてくれるの?って早くしないと遅刻しちゃうじゃない!いい?次会ったら覚えときなさいね!」 

 コゼットは学校へ急いだ。 

 朝のホームルームが始まる中、 

 コゼットは教室の後ろの扉をゆっくり音を立てずにあける。この技を習得するのに1ヵ月ほどかかった。 

「え~5日後の三國魔法大会の──」 

 コゼットはほふく前進をしながら自分の席へと向かうが、 

「コゼット!?」 

「ちょっと…あんまり大きな声出さないでよ」 

 ほふく前進中のコゼットに驚いて一人の生徒が話し掛ける、直ぐ様コゼットは注意したが、教壇に立つ先生は異変を感じとる。 

「コゼットさんは今日も遅刻ですか?」 

 空席になってるコゼットの机を見ると、そこからゆっくりと手が挙がる。 

「いますいます!ちょっとペンを落としてしまって」 

 そう言ってコゼットが席につくと、隣には見覚えのある浅黒い肌の少年がいた。 

「あんたは!!」 

 生徒一同と先生が突然叫んだコゼットに注目する。 

「何でもありません……」 

 急に静まり返る教室内にいたたまれず、コゼットは口を開いたが、頭のなかでは色々な考えが渦巻く。  

 ──どういうこと?私の隣の席に、しかも私走って学校まできたつもりなのに、なんで私より先に学校着いてんのよ? 

<ダーマ王国魔法学校、放課後の訓練場> 

 三國魔法大会に出場する代表者3名が集まる中、学校長が話す。 

「え~君達3人は代表選考会を勝ち抜いた生徒達だ。しかし、今日ここにやって来た1年生のアベル君はその選考会に参加できなかった。これは果たして公正な審査だったのか……」 

 不自然なことを言う校長に代表者の1人であるマリウスは質問した。 

「つまり、何が言いたいんですか?」 

「つまり!このアベル君が君達と戦って、もしアベル君が勝ったら、代表を彼と代わってくれはしないか?」 

「「「っ!!?」」」 

 3人が驚いている。こんな理不尽なこと。 

 何故なら代表選考会には何回戦も勝ち抜かなくてはならない。それに三國魔法大会に出れば就職を約束されたようなもの。 

 なのにこのアベルとかいう転校生はこの中の1人と戦って勝てたら出場できる?そんなふざけた話しはない。 

 それぞれの内心に怒りが込み上げるなか、校長は伝えた。 

「3対1で構わないので戦ってくれはしないか?」 

「「「!!?」」」 

 3人はまたもや驚いた。そして3対1での戦いが始まる。
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