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第59話
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~ハルが異世界召喚されてから6日目~
<帝国領>
とある一室に今後の帝国の動きに関しての会議が行われていた。帝国軍事総司令のマキャベリーは集まった者達に伝える。
ここには皇帝マーガレットの姿もあった。女帝と表現されていては、マーガレットが年増の女として想像してしまいがちだが、その容姿はただの少女だ。身長も小さく、強風が吹けば飛んでいってしまいそうな程に細い身体。おっとりとした目は多くの者に親しまれ、小さな口から発せられるは絹のように滑らかな声だった。
しかし、今から喋り始めるのはマキャベリーであった。
「獣人国のクーデターが成功しました。今後その近隣諸国には混乱と財政の逼迫、食糧難が訪れると予想され、約10日後に行われるフルートベール王国との戦争では一気に国力を下げられると考えられます」
少し間を置いて傾聴している者達の理解が追い付くのをマキャベリーは待った。
「その戦争ではシドー・ワーグナーさんを総大将に約12万からなる兵士を持って戦争に当たってください」
「ハ!」
それを受けてバリトンの声が響いた。片目に眼帯を装着し、逆三角形の体格をした男がその声を発していた。
周りにいる貴族連中はおお~と感嘆の声をあげる。
「それとシドーさん。フルートベールに一人だけ、気になる者がおりまして……」
「剣聖ですか?」
「いえ…剣聖はもう立ち上がれません。それ以外に、まだ学生で、おそらく貴方の息子さんと同い年の少年なんですが……」
シドーは興味を示した。
「実力は未知数です…1週間後にフルートベールで行われる三國魔法大会に、もしその者が参加するならば、ある計画を実行しようと考えていますので、具体的な話はそれが終わってからに致しましょう……」
~ハルが異世界召喚されてから8日目~
本来ならまだレベルアップ演習の帰りに当たる日だが、Aクラスの生徒達は学校にいる。
ハルが教室に入ってくるなりアレックスが大きな声で挨拶してきた。そしてユリのことに関して質問する。
「とりあえず孤児院で働いて寝泊まり出来るようになったよ」
これを聞いた全員が胸を撫で下ろした。
「クロス遺跡はしばらく閉鎖だね」
リコスは読んでいた本をとじながら言った。きっと第五階級闇属性魔法のサモンナイトが拝めなくなるのが残念なのだろう。
『今度学校が終わったらみんなでハルくんの孤児院に行ってユリさんに会いに行きましょう!』と提案したいクライネだが、みんなの予定とかを想像し、また無理に予定をあけさせるのも良くないと考えてしまう。クライネはなかなか言い出せないでいると、
「今度学校が終わったら皆でハルの孤児院に行ってユリに会いに行こうよ?」
ゼルダがクライネの口に出したかったことをさらりと言ってのけた。
クラス全員がそれに賛同したところで担任のスタンがテンションマックスで教室に入ってきた。
「いよぉぉぉし!!お前ら!!早速だが明日、三國魔法大会の代表選考会をするぞ!」
生徒達は面食らい、沈黙した。教室の窓の外から鳥の鳴き声が聞こえる。
一度咳払いをしてスタンは続けた。
「昨日学校長が選考会を早目にやりたいと言ってな!」
「…どうして?」
ようやく生徒達の沈黙をアレックスが破った。こういうことに斬り込むのはアレックスの役目だ。
「……それがよくわからんのだ。代表を決めて大会までの準備を校長指導の元、早目にやりたいらしい」
これは嘘ではないが、スタンはもう一つの早まった要因を教えなかった。
この大会はフルートベール王国と、王国の南西にあるヴァレリー法国、さらにその南西にあるダーマ王国とが友好の印に毎年開催される魔法大会のことだ。開催地は去年がダーマ王国だった為、今年はフルートベール王国が請け負う、来年はヴァレリー法国という流れだ。
大会概要は各学校1年生~3年生合わせて代表者を3名決めて3校の計9名で行われる。
一対一の魔法+格闘、あるいは大会規定に沿った武器の使用での勝負をして3つの国で最も強い魔法学校の生徒を1人決める大会だ。
トーナメントの為、同じ学校の生徒同士がぶつかることも勿論あるが、開催国の意向が強く働き、有利に進められることが多い。
因みに1年前と2年前に行われた大会の優勝者はレイの兄レナードだ。
そして彼は現在3年生、優勝間違いなしと言われているが、フルートベール王国では特に、今回は絶対に勝たなければならない理由があった。それはこの大会は近年多くの者が注目するようになった為、商国がスポンサーに名乗り出た。そのお陰で、優勝した生徒には景品として魔道書やスキルが習得できるスクロールといった豪華商品だけでなく、学校の更なる繁栄の為に優勝した生徒が所属する学校には賞金をだすようにまでなった。
フルートベール王国は迫った帝国との戦争と獣人国のクーデター成功により、今後の食料問題や、難民問題の懸念からお金が必要だった。
優勝賞金の使い道は学校に一任されているので、その賞金を自国の予算に回しても構わない。
こういった理由で王国は選考会を早めて大会に向けて準備をしたかったようだ。
スタンはこの事を生徒に話したところで余計なプレッシャーを与えるだけだと判断していた。
「選考会に参加する者は手をあげてくれ」
レイ、ハル、スコート、ゼルダが手をあげる。
スタンは頷いた。
「それではこの4名は今日の放課後この教室に集まってくれ」
──レイとハル、そしてスコートは性格上あげると思ったがゼルダも手を上げていたのは以外だな。
おそらくクロス遺跡で何か心境の変化があったのだろう。教師としては喜ばしいことだ。レベルアップ演習事態は中止となったが、それ以上に効果があったとスタンは思う。
─おそらく昨日の帰り道に其々決心したのだろう。
─────────────────────
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
ルナとユリとハルが食堂で今後の話をしている最中に話は戻る。
「それよりもハルくんは三國魔法大会には出ないの?」
なにそれ、と言った表情をしたハルにルナは説明する。
「ん~あんまりそうゆうのは目立つから出たくないですね……」
ハルは少し考えてから答えた、きっとこれに出たら面倒なことになりそうだからだ。
この大会にでれば、魔法研究者や魔法士団へのキャリア入隊、それ以外では商国の傭兵、冒険者パーティーにも声をかけられる等、数々の利点があるらしかった。しかしハルはまだそういった先のことを想像できないでいた。
ルナは少しガッカリしながら呟く。
「私も観に行くのにな……」
ハルはその呟きを耳にした瞬間、答えた。
「出ます!」
「え?」
「いや…あの、よく考えたら就職が有利になるなら出た方がいいかな?って思って……」
ルナは手を合わせながら喜んだ。
「ハルくんならきっといい成績を残せると思うの!だってその歳で第二階級魔法が唱えられるんだから!頑張ってね!」
ユリが横目でハルをジトっと見ている。
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈レイの家〉
「レイ?早かったな?」
レナードは櫛で髪を整えながら言う。
「別に…」
「なんだよその返事?それよりも2日後に選考会やるらしいんだが、お前も出るよな?」
レイは選考会が予定されていた日よりも、一日早まったことに多少の違和感を覚えつつも答えた。
「…出る」
「そっか!負けねぇからな!!」
両手の人差し指をレイに向けながら言うレナードは思い出したかのように続けた。
「父上は明後日の選考会はむりだけど大会なら見に来れるってよ!」
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈ゼルダの家〉
ゼルダはクロス遺跡の事件からようやく家に帰ることができた。あの恐ろしくて忌まわしい経験をしたせいか、家を出て、たった2日しか経っていないのにゼルダは随分長い間旅をしていたかのような錯覚に陥る。
家と行っても治めている領地に帰ったのではなく、王都に部屋を借りていた。
学校に通っている多くの貴族達はそうしているはずだ。
護衛と使用人とゼルダの3人で住んでいる。
「あ!お帰りなさいませ…予定より早いですね」
腰に剣を据えた長い髪をポニーテールにしている護衛のアリアナが言う。
「クロス遺跡で事故があってね……」
ゼルダは少し浮かない顔をしていた。
アリアナは違和感を覚える。
──まさか!あの騎士爵の小僧に何かされたんじゃ!?
今回のクロス遺跡での遠征についていくとアリアナは言ったが、ゼルダに拒絶されていた。
──だから私もついていくと言ったのに……
アリアナがゼルダに何かを感じたように、使用人のアビゲイルも何かを感じ取った。それはゼルダの成長の兆しだと彼女は予想している。アビゲイルはゼルダが小さい頃から側に仕えていた。ゼルダの成長を感じたのは今までに数回あるが、やはり印象に残っているのはスコート少年と洞窟で迷子になった時だ。それからゼルダは自分を見つめ直し、自分を磨き始めた。
「紅茶でも飲みますか?」
アビゲイルはゼルダに訊くと、
「ありがとう。いただくわ」
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈スコートの家〉
スコートは丁度訓練を終えた父と帰りが同じになった。スコートは父と確執がある。
フィッツジェラルド家は騎士爵にも関わらずスコートが魔法学校へ入学したからだ。
何度も衝突したが魔法と剣技を併せ持つブラッドベル家を在学中に越えるとの約束の元、ようやく認めてくれたのだ。そして、魔法に於いても騎士道を貫くことも添えて。
2人の間にある沈黙を父エドワルド・フィッツジェラルドが破る。
「今度、魔法大会の選考会があるな。それには出るんだな?」
「出るよ」
スコートは静かに答えた。
「ブラッドベルの次男には勝てそうか?」
「勝てるかわからない。多分負けると思う。だけど俺はやるよ」
「…負けるなんて言うんじゃない!いいか?何度も言ってきたが!負けると思いながら戦ったって勝てないぞ!」
「わかってるよ。父上……」
「わかってないから言ってるんだ!いいか?スコート?選考会は俺も観に行く!そこで万が一、情けない騎士道に反することをすれば直ぐに学校をやめさせるからな!!」
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈アレンの家〉
家族との食事中、父アンドリューはアレンに話しかける。
「今度の魔法大会の代表選考会に出るのか?」
フッとアレンは何を冗談を、とでも言うよに笑った。
「代表選考会は父上も知っての通り1年~3年まで出るんだよ?しかももうその選考は決まってるようなものだよ?」
「何故?そんなのわからないじゃないか?」
「わかるよ、まず1人はレナード・ブラッドベル」
「1人はそうかもしれないがお前にもチャンスは……」
「ないんだよ…もう1人はその弟、僕と同じクラスのレイ・ブラッドベル、そしてもう1人は…ハル・ミナミノ」
「ミナミノ?知らないな…そんなに強いのか?」
「強いって言うか僕が今までに見てきたどんな戦士よりも強いよ?第二階級魔法だって使えるし、アイテムボックスだって持ってる」
それを聞いて父アンドリューは驚いたが、
「それでも組み合わせの妙でお前が残れるかもしれないじゃないか?」
「万が一もないんだって!それに僕は大勢の前でやられて恥をかくのなんて絶対に嫌だね!父上達も観に来るんでしょ?その同僚の方達に自分の息子がボコボコにやられるところなんて見せたくないでしょ?」
「……」
アンドリューは黙った。
<帝国領>
とある一室に今後の帝国の動きに関しての会議が行われていた。帝国軍事総司令のマキャベリーは集まった者達に伝える。
ここには皇帝マーガレットの姿もあった。女帝と表現されていては、マーガレットが年増の女として想像してしまいがちだが、その容姿はただの少女だ。身長も小さく、強風が吹けば飛んでいってしまいそうな程に細い身体。おっとりとした目は多くの者に親しまれ、小さな口から発せられるは絹のように滑らかな声だった。
しかし、今から喋り始めるのはマキャベリーであった。
「獣人国のクーデターが成功しました。今後その近隣諸国には混乱と財政の逼迫、食糧難が訪れると予想され、約10日後に行われるフルートベール王国との戦争では一気に国力を下げられると考えられます」
少し間を置いて傾聴している者達の理解が追い付くのをマキャベリーは待った。
「その戦争ではシドー・ワーグナーさんを総大将に約12万からなる兵士を持って戦争に当たってください」
「ハ!」
それを受けてバリトンの声が響いた。片目に眼帯を装着し、逆三角形の体格をした男がその声を発していた。
周りにいる貴族連中はおお~と感嘆の声をあげる。
「それとシドーさん。フルートベールに一人だけ、気になる者がおりまして……」
「剣聖ですか?」
「いえ…剣聖はもう立ち上がれません。それ以外に、まだ学生で、おそらく貴方の息子さんと同い年の少年なんですが……」
シドーは興味を示した。
「実力は未知数です…1週間後にフルートベールで行われる三國魔法大会に、もしその者が参加するならば、ある計画を実行しようと考えていますので、具体的な話はそれが終わってからに致しましょう……」
~ハルが異世界召喚されてから8日目~
本来ならまだレベルアップ演習の帰りに当たる日だが、Aクラスの生徒達は学校にいる。
ハルが教室に入ってくるなりアレックスが大きな声で挨拶してきた。そしてユリのことに関して質問する。
「とりあえず孤児院で働いて寝泊まり出来るようになったよ」
これを聞いた全員が胸を撫で下ろした。
「クロス遺跡はしばらく閉鎖だね」
リコスは読んでいた本をとじながら言った。きっと第五階級闇属性魔法のサモンナイトが拝めなくなるのが残念なのだろう。
『今度学校が終わったらみんなでハルくんの孤児院に行ってユリさんに会いに行きましょう!』と提案したいクライネだが、みんなの予定とかを想像し、また無理に予定をあけさせるのも良くないと考えてしまう。クライネはなかなか言い出せないでいると、
「今度学校が終わったら皆でハルの孤児院に行ってユリに会いに行こうよ?」
ゼルダがクライネの口に出したかったことをさらりと言ってのけた。
クラス全員がそれに賛同したところで担任のスタンがテンションマックスで教室に入ってきた。
「いよぉぉぉし!!お前ら!!早速だが明日、三國魔法大会の代表選考会をするぞ!」
生徒達は面食らい、沈黙した。教室の窓の外から鳥の鳴き声が聞こえる。
一度咳払いをしてスタンは続けた。
「昨日学校長が選考会を早目にやりたいと言ってな!」
「…どうして?」
ようやく生徒達の沈黙をアレックスが破った。こういうことに斬り込むのはアレックスの役目だ。
「……それがよくわからんのだ。代表を決めて大会までの準備を校長指導の元、早目にやりたいらしい」
これは嘘ではないが、スタンはもう一つの早まった要因を教えなかった。
この大会はフルートベール王国と、王国の南西にあるヴァレリー法国、さらにその南西にあるダーマ王国とが友好の印に毎年開催される魔法大会のことだ。開催地は去年がダーマ王国だった為、今年はフルートベール王国が請け負う、来年はヴァレリー法国という流れだ。
大会概要は各学校1年生~3年生合わせて代表者を3名決めて3校の計9名で行われる。
一対一の魔法+格闘、あるいは大会規定に沿った武器の使用での勝負をして3つの国で最も強い魔法学校の生徒を1人決める大会だ。
トーナメントの為、同じ学校の生徒同士がぶつかることも勿論あるが、開催国の意向が強く働き、有利に進められることが多い。
因みに1年前と2年前に行われた大会の優勝者はレイの兄レナードだ。
そして彼は現在3年生、優勝間違いなしと言われているが、フルートベール王国では特に、今回は絶対に勝たなければならない理由があった。それはこの大会は近年多くの者が注目するようになった為、商国がスポンサーに名乗り出た。そのお陰で、優勝した生徒には景品として魔道書やスキルが習得できるスクロールといった豪華商品だけでなく、学校の更なる繁栄の為に優勝した生徒が所属する学校には賞金をだすようにまでなった。
フルートベール王国は迫った帝国との戦争と獣人国のクーデター成功により、今後の食料問題や、難民問題の懸念からお金が必要だった。
優勝賞金の使い道は学校に一任されているので、その賞金を自国の予算に回しても構わない。
こういった理由で王国は選考会を早めて大会に向けて準備をしたかったようだ。
スタンはこの事を生徒に話したところで余計なプレッシャーを与えるだけだと判断していた。
「選考会に参加する者は手をあげてくれ」
レイ、ハル、スコート、ゼルダが手をあげる。
スタンは頷いた。
「それではこの4名は今日の放課後この教室に集まってくれ」
──レイとハル、そしてスコートは性格上あげると思ったがゼルダも手を上げていたのは以外だな。
おそらくクロス遺跡で何か心境の変化があったのだろう。教師としては喜ばしいことだ。レベルアップ演習事態は中止となったが、それ以上に効果があったとスタンは思う。
─おそらく昨日の帰り道に其々決心したのだろう。
─────────────────────
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
ルナとユリとハルが食堂で今後の話をしている最中に話は戻る。
「それよりもハルくんは三國魔法大会には出ないの?」
なにそれ、と言った表情をしたハルにルナは説明する。
「ん~あんまりそうゆうのは目立つから出たくないですね……」
ハルは少し考えてから答えた、きっとこれに出たら面倒なことになりそうだからだ。
この大会にでれば、魔法研究者や魔法士団へのキャリア入隊、それ以外では商国の傭兵、冒険者パーティーにも声をかけられる等、数々の利点があるらしかった。しかしハルはまだそういった先のことを想像できないでいた。
ルナは少しガッカリしながら呟く。
「私も観に行くのにな……」
ハルはその呟きを耳にした瞬間、答えた。
「出ます!」
「え?」
「いや…あの、よく考えたら就職が有利になるなら出た方がいいかな?って思って……」
ルナは手を合わせながら喜んだ。
「ハルくんならきっといい成績を残せると思うの!だってその歳で第二階級魔法が唱えられるんだから!頑張ってね!」
ユリが横目でハルをジトっと見ている。
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈レイの家〉
「レイ?早かったな?」
レナードは櫛で髪を整えながら言う。
「別に…」
「なんだよその返事?それよりも2日後に選考会やるらしいんだが、お前も出るよな?」
レイは選考会が予定されていた日よりも、一日早まったことに多少の違和感を覚えつつも答えた。
「…出る」
「そっか!負けねぇからな!!」
両手の人差し指をレイに向けながら言うレナードは思い出したかのように続けた。
「父上は明後日の選考会はむりだけど大会なら見に来れるってよ!」
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈ゼルダの家〉
ゼルダはクロス遺跡の事件からようやく家に帰ることができた。あの恐ろしくて忌まわしい経験をしたせいか、家を出て、たった2日しか経っていないのにゼルダは随分長い間旅をしていたかのような錯覚に陥る。
家と行っても治めている領地に帰ったのではなく、王都に部屋を借りていた。
学校に通っている多くの貴族達はそうしているはずだ。
護衛と使用人とゼルダの3人で住んでいる。
「あ!お帰りなさいませ…予定より早いですね」
腰に剣を据えた長い髪をポニーテールにしている護衛のアリアナが言う。
「クロス遺跡で事故があってね……」
ゼルダは少し浮かない顔をしていた。
アリアナは違和感を覚える。
──まさか!あの騎士爵の小僧に何かされたんじゃ!?
今回のクロス遺跡での遠征についていくとアリアナは言ったが、ゼルダに拒絶されていた。
──だから私もついていくと言ったのに……
アリアナがゼルダに何かを感じたように、使用人のアビゲイルも何かを感じ取った。それはゼルダの成長の兆しだと彼女は予想している。アビゲイルはゼルダが小さい頃から側に仕えていた。ゼルダの成長を感じたのは今までに数回あるが、やはり印象に残っているのはスコート少年と洞窟で迷子になった時だ。それからゼルダは自分を見つめ直し、自分を磨き始めた。
「紅茶でも飲みますか?」
アビゲイルはゼルダに訊くと、
「ありがとう。いただくわ」
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈スコートの家〉
スコートは丁度訓練を終えた父と帰りが同じになった。スコートは父と確執がある。
フィッツジェラルド家は騎士爵にも関わらずスコートが魔法学校へ入学したからだ。
何度も衝突したが魔法と剣技を併せ持つブラッドベル家を在学中に越えるとの約束の元、ようやく認めてくれたのだ。そして、魔法に於いても騎士道を貫くことも添えて。
2人の間にある沈黙を父エドワルド・フィッツジェラルドが破る。
「今度、魔法大会の選考会があるな。それには出るんだな?」
「出るよ」
スコートは静かに答えた。
「ブラッドベルの次男には勝てそうか?」
「勝てるかわからない。多分負けると思う。だけど俺はやるよ」
「…負けるなんて言うんじゃない!いいか?何度も言ってきたが!負けると思いながら戦ったって勝てないぞ!」
「わかってるよ。父上……」
「わかってないから言ってるんだ!いいか?スコート?選考会は俺も観に行く!そこで万が一、情けない騎士道に反することをすれば直ぐに学校をやめさせるからな!!」
~ハルが異世界召喚されてから7日目~
〈アレンの家〉
家族との食事中、父アンドリューはアレンに話しかける。
「今度の魔法大会の代表選考会に出るのか?」
フッとアレンは何を冗談を、とでも言うよに笑った。
「代表選考会は父上も知っての通り1年~3年まで出るんだよ?しかももうその選考は決まってるようなものだよ?」
「何故?そんなのわからないじゃないか?」
「わかるよ、まず1人はレナード・ブラッドベル」
「1人はそうかもしれないがお前にもチャンスは……」
「ないんだよ…もう1人はその弟、僕と同じクラスのレイ・ブラッドベル、そしてもう1人は…ハル・ミナミノ」
「ミナミノ?知らないな…そんなに強いのか?」
「強いって言うか僕が今までに見てきたどんな戦士よりも強いよ?第二階級魔法だって使えるし、アイテムボックスだって持ってる」
それを聞いて父アンドリューは驚いたが、
「それでも組み合わせの妙でお前が残れるかもしれないじゃないか?」
「万が一もないんだって!それに僕は大勢の前でやられて恥をかくのなんて絶対に嫌だね!父上達も観に来るんでしょ?その同僚の方達に自分の息子がボコボコにやられるところなんて見せたくないでしょ?」
「……」
アンドリューは黙った。
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