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第56話
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~ハルが異世界召喚されてから1日目~
ルナと合流し、教会へやってきた。そして自分に宛がわれた部屋から抜け出すハル。すると、背後から声をかけられた。
「誰だい?」
抜け出そうとするハルに声をかけるガラガラ声のシスター。
──この人は確か、前もこんな感じで絡んできたんだっけ?酒瓶を持って酔っぱらってるシスター……
ハルは礼儀正しく振る舞う。
「あの、今日ここに泊まらせて頂くハル・ミナミノと申します」
酔っ払ったシスターはハルを下から上へ舐めるようにながめた。
「はん!何の目的があってか知らないけどねぇ、あたしゃあんたのことなんかこれっぽっちも信用してないからねぇ!!!」
そう言い残すと酒をグビッと飲み、どこかへ行ってしまう。
ハルはハッとした。
──あの人!いつも僕に優しく仕事を教えてくれてたシスターグレイシスじゃないか!?
『シスターグレイシスはお酒を飲むとちょっと性格変わっちゃうの』
ルナがこっそり教えてくれたのを思い出した
「ちょっとどころじゃないだろ!」
ハルはそう言って、ユリのいるクロス遺跡へと向かった。
<クロス遺跡地下施設>
グレアムは報告書を書いている。3日後、あの御方がやってくるからだ。
グレアムは地下施設の奥にある自室に引きこもっていた。
グレアムは伸びをして、椅子から立ち上がり、おもむろに勇者ランスロットの本を取り出した。いつもそのページで本を見開いているのか、すぐに目的のページを開き、眺める。
「もう少しで……」
◆ ◆ ◆ ◆
グレアムはクロス遺跡の管理をする前は、司祭という立場を利用して、様々な遺跡を調べていた。神ディータが大魔導時代に姿を現していた為、その記載が壁画や文字として残っていないか調べていたのだ。
遺跡を調べている中で、このクロス遺跡の塔は宝物庫であることを突き止めた。
勇者ランスロットが見付けた宝の塔とはおそらくこの塔のことだ。実際この塔に様々な宝が隠されていた。最上階には祭壇とそこを埋め尽くす宝があったようだが、ランスロット達はこの塔の秘密を知らない。
塔には更なる宝が眠っている。
現にこの地下室には宝石やら金貨やらがたくさんあったのだから。
塔の壁画や文字を調べ、解読していくと、この塔には妖精族にしか開けられない扉があることを発見した。
そこに見たこともない宝が眠っている。勿論神ディータに関する更なる資料もあるかもしれない。しかし、妖精族などこの世にはもういない。
グレアムはせっかく調査し解読した苦労が水泡に帰したことに絶望した。
そんな中で、クロス遺跡に観光に来ていた少年のような冒険者が仲間たちに話していたのを偶然耳にする。
「羽の生えた子供がいた」
冒険者の話に聞き耳をたてていると、彼がそのことに気がついた。なるほど冒険者というのは常に周囲に気を配っているのかと感心したものだがしかし、この冒険者はただの冒険者ではなかった。
話をしていると彼は、妖精族の涙について調査をしているとのことだ。グレアムも真の目的を悟られないよう、自分が妖精族に興味があることを少年に話した。
グレアムの知識と知力、立場を認めた彼はある提案をしてきたのだった。
悪魔のような提案。
その妖精族と思しき子供とその母親を拐う提案。彼の見間違いなら直ぐに返せば良い。
最初は反対したグレアムだが彼があることを口にする。
「神ディータについて知りたくないか?この世界は何の為にあるか知りたくない?」
グレアムはこの口上にうんざりしたが、彼があるものを見せる。
尖端が二股に分かれている槍。
「これはロンギヌスの槍…別名神の杖とも呼ばれている」
神ディータの神話にでてくる武器だ。
──偽物だろ……
「ちょっと見てて?」
冒険者はクロス遺跡から臨める海を指差し、その槍を掲げた。
グレアムは指定された海の景色を眺める。すると、槍は光を放ち、海に雷を落とす。
観光客が耳を抑え、皆落雷した海に視線を向けた。
グレアムは口をあんぐりとしばらく開けてから、呟く。
「…本物……あなたは何者ですか!?」
グレアムは問いただす。すると冒険者の少年は人差し指を口にあてがう。
「声が大きいよ…僕は神と会ったことがあるんだ。どう?もし僕と協力して妖精族の涙について何かわかったら少しだけ神について教えてあげるよ」
普段のグレアムなら司祭としての意見を述べるところだが、この冒険者は違う。
グレアムは彼の悪魔のような提案に乗った。
グレアムに2つの目標ができた。
1つは神についてこの少年から聞くこと。もう1つはクロス遺跡の宝を手に入れること。
グレアムはユリとミーナを拐った後、2人を別々に連れて塔を散策したが何も起こらなかったのには絶望した。扉が開く、とは一種の比喩表現であるのは理解していたが何も起こらないのはおかしい。調査をしていくと妖精族の涙が必要であると気付いた。
あの少年も涙について調査している。
グレアムは涙を流させる為、様々なことをした。生態を調べるため身体の中も覗く。
だが一向に涙はでない。
調査の報告を少年にした。少年は冒険者であると同時にある組織の幹部をしていた。
その組織の名はアジール。
この地下施設の殆どは彼の組織アジールが投資したものだ。
「ん~難しいですねぇ……」
報告書を見ながら少年は言う。
グレアムは自分の目標が頓挫したことに下を向いた。その時、少年が口を開く。
「帝国が……」
「え?なんですか?」
「帝国が魔物を操る魔道具を開発していたことがあってね……」
「そ、それで…?」
「その研究は失敗に終わったんだけど、良いところまで行ってたんだよなぁ…あぁ、つまりその魔道具をあの妖精族に取り付けて涙を流すよう命令すれば……」
「なるほど!!」
少年は後日、この施設に何処から仕入れたのか帝国の資料と作りかけの魔道具をグレアムに手渡し研究させた。
◆ ◆ ◆ ◆
警報音とともにランプが点滅している。グレアムは見開き、眺めていたランスロットの本を元の場所に急いでしまう。
──侵入者か!?何故ここが?
疑問に思いつつもグレアムは侵入者を出迎える準備に取り掛かった。
貴族のような上等な服を着ている少年がミーナのカプセルの前に立ち、観察している。その目は冷たく、まるであの少年のようだった。グレアムは少年に接近し、述べる。
「ここは立ち入り禁止ですぞ?」
丁寧な物腰で少年の警戒心を解き、暴れない内に始末する。それがグレアムの作戦だった。しかし、少年ははっきりと自分の目的を言う。
「知ってます。僕はここをぶっ壊しに来たんです」
グレアムはこの少年と目を合わせて考えた。
──何故この施設を知っている?もしかして……
「一応聞いておきますが、貴方はあのお方、ベルモンド様のお知り合いですか?」
グレアムは自分の考えうる僅かな可能性を少年にぶつけた。少年は一瞬思案顔になるが、答える。
「違います。僕はユリの友達だ」
──この少年は何を言っているんだ?それに何故あの妖精族の娘の名前を知っている?
「あの娘には友達などいない筈ですが…ましてや人族の」
「これから友達になるんだ」
「何を訳のわからないことを…まぁ良いでしょう」
グレアムは指を鳴らすと、作戦通りとはいかないが、始末する結果だけを遂行しようとした。
ハルを囲むように男達が現れる。
「ここを見られたからには生かしてはおけません。死になさい!」
─────────────────────
グレアムの号令で3人の男達がハルを前後から攻撃を仕掛けてきた。
ハルは口ずさむ。
「連携ね……」
後ろから突進してきた男がハルを羽交い締めにしようと試みるが、ハルの後ろ回し蹴りが顔面目掛けて飛んできたため、男はその場で制止した。ハルの回し蹴りが鼻先を掠める。
──あぶねぇ……だがその隙に……
男は間一髪でその蹴りを躱し、自分は誘導に成功したものだと思ったが、ハルの放った回し蹴りにより旋風が巻き起こり、男は顔に裂傷を刻みながら、後ろへ飛ばされる。
「は!?」
「え!?」
前方からやって来る2人の男は、仲間が回し蹴りにより吹っ飛ばされたと思い、前進を止め、遠距離からの魔法攻撃に切り替える。
「ファイアーボー……」
2人の内、1人の男がハルに対して魔法を唱えようと腕を前に押し出したが、目標のハルが眼前に現れ、混乱する。瞬きの間に、ハルは男の腹部に一撃を入れ、前のめりになった男の顎を蹴り上げる。天井を仰ぎながら両足が地から浮かび上がる男に向かって、ハルはアイテムボックスからゴブリンジェネラルの大剣を取り出し、男の脳天に叩き落とした。
相方の殺られる姿を目の当たりにした残りの男は勝ち目がないことを悟り、この場から立ち去ろうと背を向け、闇に消える。しかし、グレアムが叫んだ。
「レッサーデーモン!」
暗闇から現れたレッサーデーモンは先程立ち去った男の生首を手に持ち、現れた。
「これでおしまいだ!」
──護衛達を亡くしたのは、まぁ問題ない……
グレアムはハルに向けて指をさし、命令する。
「いけレッサーデーモン!あの子を食い殺せ!!」
足音を響かせながらレッサーデーモンはハルに向かってくる。ハルは身の丈を超える大剣を中段に構え、横一閃に斬り裂いた。レッサーデーモンの上半身と下半身は真っ二つに分かれる。
グレアムはその光景を見て唖然としていた。ハルの剣筋は見えなかったがレッサーデーモンが真っ二つになったのは理解できたからだ。
──なんだこの少年の強さは…だが!レッサーデーモンに物理攻撃は効かない!!
レッサーデーモンの塊は蠢く。上半身と下半身がくっつき、再生する。
グレアムは一瞬、ホッとしていた。
実験でレッサーデーモンを傷付けて再生するのは確認できたが、真っ二つにしたことはなかったからだ。取り付けた機械が反応しなくなるのを恐れてのことだ。
ハルはレッサーデーモンが再生する、その隙にMPポーションを口に加えながら魔法を唱えた。
「ヴァーンストライク!」
ヴァーンストライクにしたのは施設ごと壊れない程度の魔法を唱える必要があったからだ、どこにいるかわからないユリや目の前にいるユリの母に危害を加えるわけにはいかない。
青い炎に飲まれるレッサーデーモンは全身を焦がしながら倒れた。
「あ、青い炎?ヴァーンストライク?第四階級魔法の?」
グレアムは思考と目の前に起きてる現実についていけず、気付けば自身の疑問を口に
だしていた。
「お前は…何なのですか?」
「だからユリの友達だって」
ゆっくり近付いてくるハルにグレアムは後ずさりをした。グレアムはハルを静止させたい一心で右手を翳し、待ってくれと懇願する。
「あ、貴方は知りたくないのですか?この世界を?」
「別に、ここをぶっ壊せればなんでもいい」
「な、なぜステータスウィンドウがあるのか、神ディータとは何者なのか知りたくありませんか?」
「あんたは知ってるの?」
「わ、私はこの研究が認められればある方達にそれを教えて貰えるのです。それを知るためには……私は何としても生きなければ!」
グレアムはハルから逃げ出した。
「そこまでして生きたいのか?誰かを犠牲にしてまで…ふぅ…ファイアーボール」
「ハアハアハア」
──こんなところで死んでたまるか!私には使命がある!!神よ!私を助けてくれ!!
背後から熱を感じた。ファイアーボールが迫ってくる。
グレアムは乱れた息をファイアーボールが近付いてくるにつれ、笑い声のような雄叫びに変えて全力で走る。そしてそのまま燃え尽きた。
ハルはユリのいる部屋を探し当て、ベッドに俯きながら座っているユリに近づき声をかけた。
「ユリ?君を助けに来た」
「助けに?」
虚ろな表情は今まで彼女がされてきたことを想像させる。初めて会った彼女よりもかなり弱々しかった。
「ここを出よう」
ハルはユリの腕を掴もうとすると、ユリはその手に怯え始めた。
「いや…お母さんはどこ?」
今にも泣き出しそうなユリを見てハルは混乱する。
──この状態で母親に会わせてしまったら彼女は自分を保っていられるのだろうか?
ハルはユリが一向に言うことを聞かないので、一か八か母親に会わせてみようと考えた。
「わかった。お母さんに会わせるよ」
母親の前に連れていき、カプセルを外した。
「お母さん…お母さん…」
ユリは壊れたように、装置から放たれた母を抱きながら呟く。
暫くその状態が続いた。
──あの時、ユリの母は一言二言喋れたのに今回は…生き絶えている……
ハルはユリの肩に手を置いたが反応がない。安全な場所に行こうと言っても言うことを聞かない。
この時ハルは、自分が何を言っても今のユリには何も伝わらないと感じた。つまり、ユリが自分でここから出る決心と行動をしてからこの施設を壊さないと意味がないということだ。
──全てはタイミングだ……
ハルが何をしても彼女自身が物事を決めないと意味がなかった。
ハルはユリが母を抱き締めている後ろで光属性魔法を唱えた。
異世界召喚されてから1日目に戻る。
ゴーン ゴーン
鐘の音がいつもより虚しく響いた。
ルナと合流し、教会へやってきた。そして自分に宛がわれた部屋から抜け出すハル。すると、背後から声をかけられた。
「誰だい?」
抜け出そうとするハルに声をかけるガラガラ声のシスター。
──この人は確か、前もこんな感じで絡んできたんだっけ?酒瓶を持って酔っぱらってるシスター……
ハルは礼儀正しく振る舞う。
「あの、今日ここに泊まらせて頂くハル・ミナミノと申します」
酔っ払ったシスターはハルを下から上へ舐めるようにながめた。
「はん!何の目的があってか知らないけどねぇ、あたしゃあんたのことなんかこれっぽっちも信用してないからねぇ!!!」
そう言い残すと酒をグビッと飲み、どこかへ行ってしまう。
ハルはハッとした。
──あの人!いつも僕に優しく仕事を教えてくれてたシスターグレイシスじゃないか!?
『シスターグレイシスはお酒を飲むとちょっと性格変わっちゃうの』
ルナがこっそり教えてくれたのを思い出した
「ちょっとどころじゃないだろ!」
ハルはそう言って、ユリのいるクロス遺跡へと向かった。
<クロス遺跡地下施設>
グレアムは報告書を書いている。3日後、あの御方がやってくるからだ。
グレアムは地下施設の奥にある自室に引きこもっていた。
グレアムは伸びをして、椅子から立ち上がり、おもむろに勇者ランスロットの本を取り出した。いつもそのページで本を見開いているのか、すぐに目的のページを開き、眺める。
「もう少しで……」
◆ ◆ ◆ ◆
グレアムはクロス遺跡の管理をする前は、司祭という立場を利用して、様々な遺跡を調べていた。神ディータが大魔導時代に姿を現していた為、その記載が壁画や文字として残っていないか調べていたのだ。
遺跡を調べている中で、このクロス遺跡の塔は宝物庫であることを突き止めた。
勇者ランスロットが見付けた宝の塔とはおそらくこの塔のことだ。実際この塔に様々な宝が隠されていた。最上階には祭壇とそこを埋め尽くす宝があったようだが、ランスロット達はこの塔の秘密を知らない。
塔には更なる宝が眠っている。
現にこの地下室には宝石やら金貨やらがたくさんあったのだから。
塔の壁画や文字を調べ、解読していくと、この塔には妖精族にしか開けられない扉があることを発見した。
そこに見たこともない宝が眠っている。勿論神ディータに関する更なる資料もあるかもしれない。しかし、妖精族などこの世にはもういない。
グレアムはせっかく調査し解読した苦労が水泡に帰したことに絶望した。
そんな中で、クロス遺跡に観光に来ていた少年のような冒険者が仲間たちに話していたのを偶然耳にする。
「羽の生えた子供がいた」
冒険者の話に聞き耳をたてていると、彼がそのことに気がついた。なるほど冒険者というのは常に周囲に気を配っているのかと感心したものだがしかし、この冒険者はただの冒険者ではなかった。
話をしていると彼は、妖精族の涙について調査をしているとのことだ。グレアムも真の目的を悟られないよう、自分が妖精族に興味があることを少年に話した。
グレアムの知識と知力、立場を認めた彼はある提案をしてきたのだった。
悪魔のような提案。
その妖精族と思しき子供とその母親を拐う提案。彼の見間違いなら直ぐに返せば良い。
最初は反対したグレアムだが彼があることを口にする。
「神ディータについて知りたくないか?この世界は何の為にあるか知りたくない?」
グレアムはこの口上にうんざりしたが、彼があるものを見せる。
尖端が二股に分かれている槍。
「これはロンギヌスの槍…別名神の杖とも呼ばれている」
神ディータの神話にでてくる武器だ。
──偽物だろ……
「ちょっと見てて?」
冒険者はクロス遺跡から臨める海を指差し、その槍を掲げた。
グレアムは指定された海の景色を眺める。すると、槍は光を放ち、海に雷を落とす。
観光客が耳を抑え、皆落雷した海に視線を向けた。
グレアムは口をあんぐりとしばらく開けてから、呟く。
「…本物……あなたは何者ですか!?」
グレアムは問いただす。すると冒険者の少年は人差し指を口にあてがう。
「声が大きいよ…僕は神と会ったことがあるんだ。どう?もし僕と協力して妖精族の涙について何かわかったら少しだけ神について教えてあげるよ」
普段のグレアムなら司祭としての意見を述べるところだが、この冒険者は違う。
グレアムは彼の悪魔のような提案に乗った。
グレアムに2つの目標ができた。
1つは神についてこの少年から聞くこと。もう1つはクロス遺跡の宝を手に入れること。
グレアムはユリとミーナを拐った後、2人を別々に連れて塔を散策したが何も起こらなかったのには絶望した。扉が開く、とは一種の比喩表現であるのは理解していたが何も起こらないのはおかしい。調査をしていくと妖精族の涙が必要であると気付いた。
あの少年も涙について調査している。
グレアムは涙を流させる為、様々なことをした。生態を調べるため身体の中も覗く。
だが一向に涙はでない。
調査の報告を少年にした。少年は冒険者であると同時にある組織の幹部をしていた。
その組織の名はアジール。
この地下施設の殆どは彼の組織アジールが投資したものだ。
「ん~難しいですねぇ……」
報告書を見ながら少年は言う。
グレアムは自分の目標が頓挫したことに下を向いた。その時、少年が口を開く。
「帝国が……」
「え?なんですか?」
「帝国が魔物を操る魔道具を開発していたことがあってね……」
「そ、それで…?」
「その研究は失敗に終わったんだけど、良いところまで行ってたんだよなぁ…あぁ、つまりその魔道具をあの妖精族に取り付けて涙を流すよう命令すれば……」
「なるほど!!」
少年は後日、この施設に何処から仕入れたのか帝国の資料と作りかけの魔道具をグレアムに手渡し研究させた。
◆ ◆ ◆ ◆
警報音とともにランプが点滅している。グレアムは見開き、眺めていたランスロットの本を元の場所に急いでしまう。
──侵入者か!?何故ここが?
疑問に思いつつもグレアムは侵入者を出迎える準備に取り掛かった。
貴族のような上等な服を着ている少年がミーナのカプセルの前に立ち、観察している。その目は冷たく、まるであの少年のようだった。グレアムは少年に接近し、述べる。
「ここは立ち入り禁止ですぞ?」
丁寧な物腰で少年の警戒心を解き、暴れない内に始末する。それがグレアムの作戦だった。しかし、少年ははっきりと自分の目的を言う。
「知ってます。僕はここをぶっ壊しに来たんです」
グレアムはこの少年と目を合わせて考えた。
──何故この施設を知っている?もしかして……
「一応聞いておきますが、貴方はあのお方、ベルモンド様のお知り合いですか?」
グレアムは自分の考えうる僅かな可能性を少年にぶつけた。少年は一瞬思案顔になるが、答える。
「違います。僕はユリの友達だ」
──この少年は何を言っているんだ?それに何故あの妖精族の娘の名前を知っている?
「あの娘には友達などいない筈ですが…ましてや人族の」
「これから友達になるんだ」
「何を訳のわからないことを…まぁ良いでしょう」
グレアムは指を鳴らすと、作戦通りとはいかないが、始末する結果だけを遂行しようとした。
ハルを囲むように男達が現れる。
「ここを見られたからには生かしてはおけません。死になさい!」
─────────────────────
グレアムの号令で3人の男達がハルを前後から攻撃を仕掛けてきた。
ハルは口ずさむ。
「連携ね……」
後ろから突進してきた男がハルを羽交い締めにしようと試みるが、ハルの後ろ回し蹴りが顔面目掛けて飛んできたため、男はその場で制止した。ハルの回し蹴りが鼻先を掠める。
──あぶねぇ……だがその隙に……
男は間一髪でその蹴りを躱し、自分は誘導に成功したものだと思ったが、ハルの放った回し蹴りにより旋風が巻き起こり、男は顔に裂傷を刻みながら、後ろへ飛ばされる。
「は!?」
「え!?」
前方からやって来る2人の男は、仲間が回し蹴りにより吹っ飛ばされたと思い、前進を止め、遠距離からの魔法攻撃に切り替える。
「ファイアーボー……」
2人の内、1人の男がハルに対して魔法を唱えようと腕を前に押し出したが、目標のハルが眼前に現れ、混乱する。瞬きの間に、ハルは男の腹部に一撃を入れ、前のめりになった男の顎を蹴り上げる。天井を仰ぎながら両足が地から浮かび上がる男に向かって、ハルはアイテムボックスからゴブリンジェネラルの大剣を取り出し、男の脳天に叩き落とした。
相方の殺られる姿を目の当たりにした残りの男は勝ち目がないことを悟り、この場から立ち去ろうと背を向け、闇に消える。しかし、グレアムが叫んだ。
「レッサーデーモン!」
暗闇から現れたレッサーデーモンは先程立ち去った男の生首を手に持ち、現れた。
「これでおしまいだ!」
──護衛達を亡くしたのは、まぁ問題ない……
グレアムはハルに向けて指をさし、命令する。
「いけレッサーデーモン!あの子を食い殺せ!!」
足音を響かせながらレッサーデーモンはハルに向かってくる。ハルは身の丈を超える大剣を中段に構え、横一閃に斬り裂いた。レッサーデーモンの上半身と下半身は真っ二つに分かれる。
グレアムはその光景を見て唖然としていた。ハルの剣筋は見えなかったがレッサーデーモンが真っ二つになったのは理解できたからだ。
──なんだこの少年の強さは…だが!レッサーデーモンに物理攻撃は効かない!!
レッサーデーモンの塊は蠢く。上半身と下半身がくっつき、再生する。
グレアムは一瞬、ホッとしていた。
実験でレッサーデーモンを傷付けて再生するのは確認できたが、真っ二つにしたことはなかったからだ。取り付けた機械が反応しなくなるのを恐れてのことだ。
ハルはレッサーデーモンが再生する、その隙にMPポーションを口に加えながら魔法を唱えた。
「ヴァーンストライク!」
ヴァーンストライクにしたのは施設ごと壊れない程度の魔法を唱える必要があったからだ、どこにいるかわからないユリや目の前にいるユリの母に危害を加えるわけにはいかない。
青い炎に飲まれるレッサーデーモンは全身を焦がしながら倒れた。
「あ、青い炎?ヴァーンストライク?第四階級魔法の?」
グレアムは思考と目の前に起きてる現実についていけず、気付けば自身の疑問を口に
だしていた。
「お前は…何なのですか?」
「だからユリの友達だって」
ゆっくり近付いてくるハルにグレアムは後ずさりをした。グレアムはハルを静止させたい一心で右手を翳し、待ってくれと懇願する。
「あ、貴方は知りたくないのですか?この世界を?」
「別に、ここをぶっ壊せればなんでもいい」
「な、なぜステータスウィンドウがあるのか、神ディータとは何者なのか知りたくありませんか?」
「あんたは知ってるの?」
「わ、私はこの研究が認められればある方達にそれを教えて貰えるのです。それを知るためには……私は何としても生きなければ!」
グレアムはハルから逃げ出した。
「そこまでして生きたいのか?誰かを犠牲にしてまで…ふぅ…ファイアーボール」
「ハアハアハア」
──こんなところで死んでたまるか!私には使命がある!!神よ!私を助けてくれ!!
背後から熱を感じた。ファイアーボールが迫ってくる。
グレアムは乱れた息をファイアーボールが近付いてくるにつれ、笑い声のような雄叫びに変えて全力で走る。そしてそのまま燃え尽きた。
ハルはユリのいる部屋を探し当て、ベッドに俯きながら座っているユリに近づき声をかけた。
「ユリ?君を助けに来た」
「助けに?」
虚ろな表情は今まで彼女がされてきたことを想像させる。初めて会った彼女よりもかなり弱々しかった。
「ここを出よう」
ハルはユリの腕を掴もうとすると、ユリはその手に怯え始めた。
「いや…お母さんはどこ?」
今にも泣き出しそうなユリを見てハルは混乱する。
──この状態で母親に会わせてしまったら彼女は自分を保っていられるのだろうか?
ハルはユリが一向に言うことを聞かないので、一か八か母親に会わせてみようと考えた。
「わかった。お母さんに会わせるよ」
母親の前に連れていき、カプセルを外した。
「お母さん…お母さん…」
ユリは壊れたように、装置から放たれた母を抱きながら呟く。
暫くその状態が続いた。
──あの時、ユリの母は一言二言喋れたのに今回は…生き絶えている……
ハルはユリの肩に手を置いたが反応がない。安全な場所に行こうと言っても言うことを聞かない。
この時ハルは、自分が何を言っても今のユリには何も伝わらないと感じた。つまり、ユリが自分でここから出る決心と行動をしてからこの施設を壊さないと意味がないということだ。
──全てはタイミングだ……
ハルが何をしても彼女自身が物事を決めないと意味がなかった。
ハルはユリが母を抱き締めている後ろで光属性魔法を唱えた。
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ゴーン ゴーン
鐘の音がいつもより虚しく響いた。
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