喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

文字の大きさ
上 下
51 / 146

第50話

しおりを挟む
◆ ◆ ◆ ◆ 

「やーい!やーい!」
「弱虫スコートォ!!」 

「……ヒッグ…やめでよぉ」 

 小さな男の子達が自分達よりも更に小さな男の子を虐めている。 

「コラァーーー!!やめなさい!!」 

 逞しい女の子の声が響いた。 

「うわぁ~!おとこおんながきたぁ!!」 

 いじめっこ達は去っていく。女の子は虐められていた男の子に近寄り頭を撫で、泣くのをやめるように言った。 

 すると、遠くに逃げた筈のいじめっこ達が叫ぶ。 

「女に守られてやんのぉ!!」
「騎士爵の癖にだっさ~!」 

「まだそんなとこに居んのかぁ!!」 

 女の子が走っていじめっ子達を追いかける。いじめっこ達は脱兎の如く逃げていった。 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 何故あの時の事を思い出すのか、あれから数年後、俺は情けなくて格好悪い姿をゼルダに見せないよう努力してきた。 

 ──…なのに!! 

 冒険者に殴られそうな所を庶民に助けられ、レイ・ブラッドベルには全く相手にされていないじゃないか。 

 ──そしてさっきも…… 

 俺は庶民が凶悪な魔物からゼルダを守るところをただただ見ていた。 

『行け!』 

 スタンの声が耳に残る。 

 ──本当だったらあの場に自分も… 

 二人の足音が地下室にこだまする。 

───────────────────── 

 ゼルダは思い出していた。 

 何故泣き虫だったスコートが、いつも私の後ろを歩いていたスコートが肩を並べ、いつしか私の前で剣を振るうようになったのかを。 

 いじめっ子達からもう虐められないように、度胸試しのつもりで2人で入った洞窟。 

 奥に行きすぎて、出れなくなってしまった。 

 小さな二人の足音が洞窟内に頼りなくこだまする。 

 出れなくなってしまったゼルダは焦っていると、スコートが泣き始めた。なんだか急に自分も不安になり、抑えていた感情が溢れだし。ゼルダも一緒に泣いたあの洞窟内での出来事。 

 結局2人を捜索していた大人に保護され、めちゃくちゃ怒られたが、その日からスコートは変わった。 

 いつもは嫌がる剣の訓練を進んで始めたのだ。 

 1人で歩きだしたスコートを寂しく思ったゼルダは、自分だって負けじと魔法の訓練をした。 

 王立魔法高等学校の試験が終わり、見事Aクラスに合格すると、そこにスコートが、しかも同じAクラスに受かっていたことを知りとても驚いたものだった。 

 ──てっきり戦士養成所に行くもんだと思っていたのに…… 

 それにスコートには剣だけでなく魔法の才能もあるんだと知りゼルダは嫉妬していた。 

 壁沿いに走っていた二人は重厚な扉を見つけた。その扉には四角い小窓があり、鉄格子が嵌められている。その小窓から中の様子を窺い知ることができた。 

 スコートは少し背伸びをして中を覗くと、大きな男の後ろ姿が見える。オーバーオールのようなエプロンつけた男は両手を頻りに動かしている。肉切り包丁を手に持ち、叩きつける。ドンっと鈍い音と共にグチャっと水分を含んだ弾力のある音も聞こえた。 

 ──何をして…… 

 エプロンをつけた男の作業をしている台の上に真白い人間の足が見えた。 

「うわっ!」 

 スコートは咄嗟に声を出してしまう。自分が想像している通りのことが目の前で行われていると思ったら吐き気を催す。 

 エプロンをした男はスコートの声に反応し、後ろを振り返った。 

 白いマスクは飛び散った血に染まり、両手には手袋、これも血に染まっていた。大きなエプロンは元の色がわからないくらい血が大量に付着していた。 

 まるでギルドの魔物解体をしている格好だ。しかしこの大男が解体していたのは人間。 

「あんれぇ?自分達から来てくれたんかぁ?」 

 大男は縦にも横にも大きい、フゴフゴマスク越しに音を立てながら喋り、扉を開けた。スコートはゼルダを庇うようにして下がり、大男と相対する。 

「グレアム様が新しい恋人を折角くれたのにぃ、もう死んでしもたんよぉ。やっぱりユリちゃんじゃないとダメだぁ?」 

「き、貴様…い、一体何をして……」 

 スコートはへっぴり腰になりながら訊いた。 

「なにって?そんな事訊いたらダメだでぇ?恋人達がすることって決まってるでぇ?」 

「さっきから何を言ってるのこの人?」 

 ゼルダが口を挟む。 

「コイツと話しちゃダメだ!!」 

 スコートは怒鳴った。 

「恋人達がすること、裸を見ること、その中身を見ることだでぇ?」 

 大男のニヤリとした表情を見たゼルダとスコートは寒気がした。スコートはその寒気を振り払うようにして魔法を唱える。 

「シューティングアロー!!」 

 大男に渾身の魔法を放った。シューティングアローがヒットするが大男はケロっとしている。 

「たまには自分で恋人捕まえるのも悪くないでぇ?」
 
 大男は部屋に戻ると長剣ほどの長さの大きなハサミを持ってきた。 

「二人は恋人同士ぃ?もう中身は見せあったでか?もしそうじゃなければ、僕が手伝ってあげるでぇ」 

 スコートは思った。 

 ──コイツをゼルダに近付けたらダメだ! 

 シューティングアローが効かないとわかったスコートは腰にさしていた長剣を構え、大男に向かっていく。 

 剣とハサミがぶつかり合うが、スコートの長剣は弾かれ仰け反った。スコートは体勢をもとに戻して、すかさずもう一撃を打ち込む。 

 大男はハサミを振り払い、スコートの長剣に合わせた。大男の力が強く、再び弾かれるスコート。 

 もう一度体勢を崩したスコートを大男は一歩踏み出して手で掴もうとしてきた。 

 ──ここだ! 

「連撃!!」 

 連撃が大男にヒットする。着ていたエプロンとマスク、衣類が破れ大男の肉体があらわとなった。 

 脂肪だと思っていたモノは全てが鋼のような筋肉で、古傷だらけだった。マスクで覆われていた口元は頬と下唇がなく、歯が剥き出しの状態になっている。 

「恥ずかしいでぇ…」 

 顔と身体を両手で覆う大男。 

 自分の攻撃が全く効いていないことにスコートは焦る。 

「こうなったら意地でも2人の中身も見てやるでぇ」 

 大男は覆っていた両手を離し、再びハサミを構えた。今度は大男から攻撃を仕掛ける。 

 振り払われたハサミをスコートはなんとか長剣で受け止めたが、長剣越しからくる衝撃で吹き飛ばされ壁に激突する。 

「ぐはぁ!!」 

 ゼルダはスコートの心配をしながら唱えた。
 
「ウィンドカッター!」 

 大男に向かって風の刃が襲い掛かるが、スコートはヨロヨロとしながら魔法を唱えたゼルダに叫ぶ。 

「よせ!逃げろ!ゼルダ!!」 

 ウィンドカッターは大男にヒットするが、やはり効いていない様子だ。大男はゼルダに突進する。 

 伸ばした手はゼルダの細い腰を片手で掴み、持ち上げる。 

「捕まえたでぇ」 

 両手で子供が虫を捕まえたかのようにゼルダを掴み高く掲げる大男。 

「君の中身はどんな色、してるでか?」 

「ぃや!」 

 大男の力が強く、少しの声しかでない。 

「やめろぉぉぉぉぉ!!」 

 スコートは叫ぶと、大男は言った 

「流石にこんなところで剥くようなムードのないことはしないでぇ。あそこの部屋でやるでぇ?いつもユリちゃんとやってるから、加減がわからなくなってるけんど、やさしくするからき緊張しなくてもいいで?」 

 ゼルダを片手で掴んだまま部屋の中に入ろうとする大男。 

「うおぉぉぉぉぉ!」 

 スコートは何とか起き上がり、部屋に入ろうとする大男の背中に長剣を突き刺す。 

「いったぁ!!」 

 大男にダメージを与えることはできたが長剣が折れた。大男の背中を良く見ると、できものがあった。そこにたまたま長剣が突き刺さり刺激を加えたのだった。 

 大男はゼルダを落とし、スコートに向き直ると、 

「いまのはいたかったで?流石の僕も怒ったで!」  

 ──どうする……どうすれば倒せる!?  

 スコートは考えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界でスローライフを満喫する為に

美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます! 【※毎日18時更新中】 タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です! ※カクヨム様にも投稿しております ※イラストはAIアートイラストを使用

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...