喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

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第47話

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~ハルが異世界召喚されてから6日目~ 

 息はしている。 

 しかし意識が戻らない。 

 波打ち際に漂っていた女の子を発見したハル達は治療する為、教会へと連れていこうとしたが、彼女はとある特殊な首輪をしていた。 

 ハルはその首輪に見覚えがある。 

 ──あの獣人族の女の子もしていた。この首輪は一体…… 

 隷属の首輪という代物らしい。この首輪が有る限り主人には逆らえない。しかし、主人との距離が一定以上離れればその効力を失うため、少女はそれに賭けたようだ。 

 ──きっと主人から逃げ出してきたのだろう…… 

 奴隷の女の子ということがわかると、教会へ連れていけば、また主人の元へ返されてしまう。良い案も思い浮かばず、とりあえずハル達は自分達が泊まる宿まで運んだ。 

 丁度アレックスと背丈がだいたい一緒だった為、女の子の濡れていたボロボロの服をアレックスの部屋着に着替えさせた。 

 勿論大勢でそれを見学していた訳でなく、アレックスが1人でそれを実行した。 

 そして今は大部屋のベッドの上に横たわらせ、マリアが聖属性魔法、所謂回復魔法をかけたが意識は戻らない。 

「……」 

 ハルは居たたまれない気持ちになっていた。自然と握る拳に力が入る。スタンの部屋に忍び込むなんていう作戦はどこか思考の奥深くに消えていた。 

 すると、アレンが呟くように言った。 

「ここに匿っていても意味がないと思う……」 

 皆が押し黙る。 

「どうして?」 

 ハルが尋ねた。 

「この子が奴隷だからさ。隷属の首輪があるかぎり解放はされない」 

「だけど!この子……」 

 ハルが何かを言おうとするとアレンが遮る。 

「面倒なことになるより衛兵か教会に預けた方がいいと思うよ」 

「……でも!」 

 アレンを見るとなんだか思い出す。日本にいた自分を。正論ばかり、感情をあまり外に出さない。面倒なことには手を出さない。イジメられている生徒がいても、見て見ぬふりをした自分がいた。しかし目の前に力なくベッドに横たわる少女を放っておくことがどうしてもできない。 

 ──何故僕はこの世界に来て、そう思うようになったのだろうか? 

 そんな疑問が頭に過ると、 

「うっ...」
 
 耳の尖った女の子は目を覚ました。
 
 女の子は目を開けるが、焦点が定まるのに時間を要する。その間にも、ベッドの上から上半身だけを動かし這うようにして、近くにいるぼんやりとしか見えていないハルに対して、訴える様に口をパクパクと動かした。 

 これまた視界と同じよう、思ったように声がでないようだ。少しすると、 

「お願い...私達を…助けて...…」 

 消え入りそうな声で懇願する女の子。きっと想像を絶する経験をしたのだろう。だってこの女の子は…… 

───────────────────── 

 暖かい雰囲気を持つこの木造の宿屋は、王立魔法学校の御用達で、レベルアップ演習をする時は代々Aクラスの生徒達が泊まっている。 

 これまた木製のベッドやテーブルと椅子、光属性の付与された魔道具が暖かくこの部屋を照らしていた。 

 女の子は少し落ち着つくと、語り出す。 

「私の名前はユリ…母と一緒に暮らしておりましたが……」 

 静かで、か細い声が扉を乱暴に叩く音によってかき消された。 

「おい。入るぞぉ」 

 戸外で声がするとドアが開く。 

 スタンが部屋に入ってきた。 

「お前ら、その子はある施設の奴隷の子らしい。悪いが下に迎えに来てる衛兵に引き渡すぞ?」 

 ハルはスタンに向き直り、疑問を呈する。 

「どうして!?先生が?」 

「そりゃあ、お前らがコソコソしてるのがわかったからな。きっと同情に値する経験をその子はしているんだろうが、俺達にはどうすることもできないんだ」 

 優しく諭すようにスタンは告げた。ここに帝国の密偵である要素を示す感情はない。 

「そんな!?」 

 ハルは他の生徒達の顔を見て、皆からも反論するようにと訴えた表情を送るが、誰もハルの視線に合わせる者はいなかった。俯き、スタンの意見に黙って同意しているようだ。 

「…奴隷契約……」 

 腕を組ながら元々しゃべるタイプでないデイビッドが口を開く。 

「え?」 

「奴隷契約をした者を第三者の俺達が救うことはできない……」 

 デイビッドは鎮痛な面持ちで言った。 

「そんな!!だって!!この子は…ユリは!」 

 ハルは言うか言うまいか迷っていたことを解放した。 

「ユリはまだレベル1なんだよ!?レベル1なのに耐久力と抵抗力が100を越えてるんだ!」 

「な!!?」
「ッ!?」 

 ハルの言葉に反応したのはスタンとレイだけだった。 

「え?それは、どういうこと?」 

 ゼルダが尋ねる。 

「レベルを上げなくてもステータスは上がる。でもそれには死ぬほどの痛みが伴う……つまり、この子は毎日死ぬような苦痛を与えられてるってことだ…」 

 スタンがハルに代わって説明する。 

 室内は静まり返った。 

「僕も何回か経験した!腕を切り落とされたり、燃やされたり…みんなにこの痛みがわかる!?ユリを主人の元へ返しちゃダメなんだよ!」 

 みんなが押し黙る。ハルの強さの謎を一瞬だけ垣間見た気がした。そんな中、スタンが重たい口を開く 

「お前がどうして、この子のステータスがわかるのか、今は置いておく…だか主人がそんな趣向の持ち主でも仕方ない。俺達は介入出来ないんだ……」 

 スタンはユリの手を引き、下にいる衛兵の元へと連れて行こうとするが、ハルがそれを妨害する。その目は、スタンを敵と見なしている目だった。いつだったかの世界線、屋上で戦ったときに向けたあの目だ。 

 しかし、アレックスがハルに制止をかける。 

「どうして!?」 

 ハルはアレックスに怒鳴った。
 
「いいから!!」 

 ハルは困惑する。アレックスならいの一番にハルに賛同すると思っていたからだ。 

 そんなやり取りを見てか、覚悟を決めたユリが力ない声で別れを告げた。 

「迷惑をかけてしまってごめんなさい。助けてくれてありがとうございました」 

 スタンが衛兵にユリを引き渡すのを二階の窓から眺める。そしてユリの救出をハルは誓う。 

 ──僕一人で彼女を助けに行こう。結局みんな貴族だから住む世界が違うんだ…… 

「よし!行こっか!」 

 アレックスの元気な声が聞こえた。 

「行くって何処へ!?」 

 ハルはアレックスを軽蔑していた為、語気が強くなる。 

「あの衛兵の後を付けるのよ」 

「へ?」 

「衛兵の後を付いていけば、きっと雇い主の所に連れていかれるはず!あんな話聞いたら助けないわけないでしょ?」 

 いつもの友達想いのアレックスに戻っていた。ハルは一時でもアレックスを軽蔑した自分を情けなく思う。 

 ハルはうっすらと涙を浮かべながらそれでもアレックスに負けないくらい元気な声で言った。 

「必ず助けだそう!」
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