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第26話
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~ハルが異世界召喚されてから1日目~
<魔の森>
占い師から逃げ出したハルは魔の森へ。誰もいない草原で横になる。ただ青空に漂う雲を眺めては同じ問い掛けをしていた。
──どうすればスタン先生に勝てるのか……
その答えは、4日目までに自分も第二階級魔法を習得すること。
──これしかない…か!!
ハルは起き上がると、ファイアーエンブレムを唱えてみる。しかし規模の大きなファイアーウォールになってしまう。
──どうしても出来ないんだよなぁ……
そう言えばファイアーエンブレムや同じく第二階級魔法フレイムを食らってて思ったのが、火そのものの火力が全然違っていた。
自分のファイアーボールを出してみる。
球体状の火が赤く燃えたぎっている。
ハルはその火の玉を眺めていた。
──火力を上げるイメージ……
「……。ダメだできてない」
──もう一度……熱い、太陽のように……
「……。クソッタレェ!出来ない!」
──もう一度!!スタン先生の火力を思い出して……
掌に浮かぶファイアーボールは大きくなったり収縮したりするが、
「ダメだ…これはただ魔力を増やしているだけだ……ん~そもそもアプローチが違うのかも?」
ハルは化学の授業を思い出す。
──確か蝋燭の火は内側の赤くて黄色い火の内炎と外側の青色の外炎ってのがあって外炎の方が温度が高いんだったよな?
ハルはファイアーボールを一度消してから、小さな火を指先からライターのようにして出現させた。そして枯れ葉を数枚拾い、ゆっくりと火に近付ける。
外側の外炎に近付けると、直ぐに燃え広がった。そして内側の内炎に近付けると燃えるのに少しだけ時間を要する。
──やはぁり、外側の方が早く燃える。
さっきの占い師のイントネーションがうつってしまった。
更にハルはガスバーナーの実験を思い出す。確か酸素の調節で炎を青色にすんだよな?
風属性魔法で風を起こしてみた。
「これじゃ意味がない…風ではなくて酸素を錬成するイメージか?手元から火を生み出せるんだから酸素も生み出せるんじゃないか?酸素…酸素……O2…こんな感じ?」
ハルは掌に酸素を集めたその掌から青色の炎をイメージして唱える。
「フレイム!」
いつもの赤い炎が四方に爆散する。広範囲に燃え広がる炎は辺りの草原を燃やした。
「うわっ!失敗だ!」
ハルは消火活動に勤しんだ。何とか沈下に成功する。只の汗と冷や汗を同時にかいた。
「山火事になったら大変だったな……」
ハルは腕を額に押し当てて汗を拭った。
「だけど今の火力は中々のものだったな!よし!この感じで実験だ!」
今度は先に火を出してそこに風属性魔法の応用で酸素を錬成しようとすると、激しい爆発音、巨大生物の鳴き声のような音がハルの掌から発せられると、
「うわっち!!!!」
青色の火の柱が上空へ昇った。
ピコン
新し────
ハルは気を失った。
─────────────────────
南の森でレンジャーをして早20年、齢80歳にしても尚、美しさを保つエルフのイングリッドは今日も森を巡回していた。南の森と形容したのは、ただ単に魔の森という呼び方をイングリッドは嫌っていたのだ。
元々Cランクの冒険者だったイングリッドはパーティーと別れた後、その実力を王国にかわれ南の森の警備、冒険者の保護を目的とした活動に従事していた。
明日は休みのため、浮わつく気分を沈め仕事に勤しんでいる。
エルフは今では珍しくないが50年前ならエルフの国以外でエルフを目撃するのはとても珍しいことだ。イングリッドは小さい頃から冒険譚や伝説等の物語が大好きで、いつか冒険者となり閉鎖的な自国から出ていこうと考えていた。
そして巡りめぐって森のレンジャーをしている。人生とは冒険譚よりも奇なり。
子供の頃から森に住んでいたので、今の仕事は苦ではない。いつも真面目に仕事をしているイングリッドだが、実は王国に隠し事をしている。
──この森には妖精の祠がある。
これは2000年以上前の大魔導時代に建てられたものだ。
当時ここには妖精族が住んでいたのだろう。エルフ族はこの妖精族に遣えていた言い伝えがあった。今ではこのことを事実だと信じている者は少ない。イングリッド自身もエルフの国にいた女王陛下から直に聞かなければ信じていなかっただろう。
冒険譚にはたくさんの妖精達が登場する。妖精が主人公の物語、もしくは主人公を導く者として出てくる。あの勇者ランスロットも湖にいた妖精から剣を学んだと言われている。
こんなことを知ってるのは自分くらいじゃないだろうか?
イングリッドがそう思うと、王国国立図書館の受け付けにいるフレデリカがくしゃみをした。
──そんな妖精族の祠がこの森にあるなんて……
発見したときは胸が高鳴った。王国に報告してしまうと。その祠の調査等でそこを汚してしまうのではないかと思い、黙っている。
イングリッドは今まさにその祠へと向かっているのだが、
「それよりも……森に異変を感じる…ハウンド・ベアの亜種でも出たのか?森の魔物達が何かから逃げる様子で走り去っていく」
木から木へと飛び移るイングリッドとすれ違うようにして魔物や動物を目撃していた。
「もしくは冒険者が魔物を討伐しているのだろうか?」
魔物達が来た方向を目指し木から木へと器用に移動していく。イヤリングが飛び移る度に煌めく。
すると、激しい音が森の中、イングリッドの目指す方向から轟く。
「何かの鳴き声?」
その声の方向を見たイングリッドは驚愕した。
空に青色の竜が雲を割りそのまま上空へと飛び去っていくのが見えたのだ。
「あれは…?」
直ぐ様、竜が居たであろう地に到着すると半径50メートルほどの焼け野原がそこにあった。
その焼け野原の中心には少年が横たわっている。
「どういうこと?」
イングリッドは考えた。
──この少年は…?竜と戦っていたの?それとも……
イングッドは倒れている少年に恐る恐る近付いた。
「この少年……魔力欠乏により気を失っている…兎に角保護しないと……」
イングリッドは少年を担ぎ自分の仕事場である小屋へと運んだ。
─────────────────────
『キーワードを知覚・認識した為、解読が行われます。』
ハルは頭の中で声がしたのを僅かなに記憶している。
その声を聞いてから一体どれくらい時が経ったのだろうか。
目が覚めたハルは自分が見慣れない場所にいることに気が付いた。もう辺りは暗くなっている。
ゆっくりと起き上がると、とても美しい女性がハルの寝ているベッドの側の椅子に座ってティーカップを啜っている姿が見えた。
「うぅ……」
ハルは頭を押さえて眼をしばしばさせた。
「目が覚めたようね」
カチャっとティーカップをソーサーに置いてイングリッドはハルに声をかけた。
「ここは…?」
身体が怠い、たぶん二日酔いになるとこんな感じなのだろう。
「ここは王都フルートベールの南にある森、通称魔の森よ。私はここでレンジャーをしているイングリッド。森の中で貴方が倒れてたから保護したの」
礼儀をわきまえた上で、イングリッドは考える。
──さて、どうしたものか……
イングリッドに緊張感が漂う。
「あ…ありがとうございます……」
少し間があいた。イングリッドは思う。
──フルートベールという単語を聞いても平然としている。つまりここら一帯の地理は知っているということ……
「あのエルフ族の方ですか?」
イングリッドはハルが一体何者なのか、探りを入れるにはどう質問したら効果的か考えていた為、ハルの質問に面喰らった様子だった。
「ええ。そうよ。…それがどうしたの?」
──探りを入れて来た?
「僕エルフ族見るの初めてで……」
「え!?」
──嘘でしょ!?王都に居れば見るぐらいの機会はたくさんあるのに
凄く驚いた反応だったのでハルは自分がおかしなことを言ったのではないかと思い恥ずかしくなったので、取り繕うように言った。
「ついみとれちゃって…僕…記憶がないみたいなんですよ」
「記憶がない?それっていつから?」
──どういうこと?
ハルは少しだけ自分がどう答えるべきか考えながら言った。
「自分がなんで森で倒れていたのか思い出せないし、そういえば自分がどこから来たのかも思い出せないんです」
と、言いながらもハルは自分の身体の状態を分析していた。
──おそらく倒れていたのは魔法の練習で魔力欠乏になったからだな……
「貴方、名前は?」
「名前はハルです」
「それは覚えているのね……」
──それにフルートベールという地名も覚えている。
レンジャーをしていて20年、その中で記憶喪失者を幾人かイングリッドは看ている。
──エルフ族をみたことがないというのは嘘をついているように見えなかった、森の中での記憶がないというのは少し嘘をついているようにみえる……
「あなた青い竜を見てない?」
「青い竜?…見てないですよ?」
「そう……」
──これも本当のようね…言うときに何もストレスを感じない。しかしおかしい。あの場所に倒れていて竜を目撃していないはずがない。つまり何らかの目的で森の中に入り、あの竜に何かをされた?もしかしたらこの子、竜人?いや、物語の読みすぎか…それでも!
イングリッドは王国に隠していた妖精の祠が関係しているのではないかと考えていた。
──妖精の祠がある森の中で青い竜がでるなんてこれは関係がないわけない!
イングリッドは一か八かの賭けにでた。
「貴方もしかして妖精の祠に行くのが目的だったんじゃないの?」
──どうだ!
イングリッドの問いかけにハルは反応した。
「妖精の祠…?ハッ!!」
ハルは何かに気付いた表情を浮かべる
「なに!?」
──やっぱり!そうだったのね!!
「い!いま日が沈んでどのくらい経ちますか!?」
──時間!?あの祠は時間と関係があるのかしら?
「まだ日は沈んで少ししか経ってないけど……」
「僕帰らないと!」
直ぐにベッドから起き上がろうとすると上半身に力がうまく入らない。
「まだ無理よ!安静にしてないと」
ハルを制しベッドに戻そうとするがハルは頑なに拒む。
「行かないと……」
「無理よ!自分のステータスを確認してみなさい!」
ハルはステータスウインドウを開くと、
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 8
【HP】 93/93
【MP】 6/89
【SP】 114/114
【筋 力】 58
【耐久力】 75
【魔 力】 77
【抵抗力】 73
【敏 捷】 71
【洞 察】 74
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 100/900
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第四階級火属性魔法耐性(弱)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第一階級水属性魔法
ウォーター
第一階級風属性魔法
ウィンドカッター
ハルは逸る気持ちを抑えて自分のステータスを確認する。
──MPの数値がまだ1桁だ……
一度MPとSPが1桁になると動けなくなる。SPに関しては安静にしていれば直ぐに回復するが、一瞬でも1桁になったのなら気を失ってしまう。そしてMPは0になると回復にかなりの時間がかかる。
──だけど、何故MPをこんなに消費したんだ?まだまだ余裕はあったはずなのに……
いずれにしろこの状態で夜の魔の森は抜けられない。ハルはどうすれば王都へ戻れるか考えたが、いつも見慣れている筈のステータスに違和感を覚えた。
もう一度ハルは自分のスキルの欄を確認した。
『第四階級火属性魔法耐性(中)』
『第三階級火属性魔法耐性(強)』
『第二階級以下火属性魔法無効化』
「…はぁ!!!?」
「どうしたの!?」
自分のスキルに第四階級以下の火属性魔法耐性が付いていることに驚愕した。
「どうして……」
「何が!?」
ピコン
解読が完了しました。スキル『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』=『自然の摂理』を習得しました。
ピコン
スキル『自然の摂理』を習得したことにより新しい属性魔法が発現しました。
無属性魔法
『錬成Ⅰ』を習得しました。
ゴーン ゴーン
気付けばベッドに座っている状態ではなく直立していた。景色が見慣れた石造りの路地裏になっていたのは言うまでもない。
MP、SP、魔力、抵抗力が1上がった。
<魔の森>
占い師から逃げ出したハルは魔の森へ。誰もいない草原で横になる。ただ青空に漂う雲を眺めては同じ問い掛けをしていた。
──どうすればスタン先生に勝てるのか……
その答えは、4日目までに自分も第二階級魔法を習得すること。
──これしかない…か!!
ハルは起き上がると、ファイアーエンブレムを唱えてみる。しかし規模の大きなファイアーウォールになってしまう。
──どうしても出来ないんだよなぁ……
そう言えばファイアーエンブレムや同じく第二階級魔法フレイムを食らってて思ったのが、火そのものの火力が全然違っていた。
自分のファイアーボールを出してみる。
球体状の火が赤く燃えたぎっている。
ハルはその火の玉を眺めていた。
──火力を上げるイメージ……
「……。ダメだできてない」
──もう一度……熱い、太陽のように……
「……。クソッタレェ!出来ない!」
──もう一度!!スタン先生の火力を思い出して……
掌に浮かぶファイアーボールは大きくなったり収縮したりするが、
「ダメだ…これはただ魔力を増やしているだけだ……ん~そもそもアプローチが違うのかも?」
ハルは化学の授業を思い出す。
──確か蝋燭の火は内側の赤くて黄色い火の内炎と外側の青色の外炎ってのがあって外炎の方が温度が高いんだったよな?
ハルはファイアーボールを一度消してから、小さな火を指先からライターのようにして出現させた。そして枯れ葉を数枚拾い、ゆっくりと火に近付ける。
外側の外炎に近付けると、直ぐに燃え広がった。そして内側の内炎に近付けると燃えるのに少しだけ時間を要する。
──やはぁり、外側の方が早く燃える。
さっきの占い師のイントネーションがうつってしまった。
更にハルはガスバーナーの実験を思い出す。確か酸素の調節で炎を青色にすんだよな?
風属性魔法で風を起こしてみた。
「これじゃ意味がない…風ではなくて酸素を錬成するイメージか?手元から火を生み出せるんだから酸素も生み出せるんじゃないか?酸素…酸素……O2…こんな感じ?」
ハルは掌に酸素を集めたその掌から青色の炎をイメージして唱える。
「フレイム!」
いつもの赤い炎が四方に爆散する。広範囲に燃え広がる炎は辺りの草原を燃やした。
「うわっ!失敗だ!」
ハルは消火活動に勤しんだ。何とか沈下に成功する。只の汗と冷や汗を同時にかいた。
「山火事になったら大変だったな……」
ハルは腕を額に押し当てて汗を拭った。
「だけど今の火力は中々のものだったな!よし!この感じで実験だ!」
今度は先に火を出してそこに風属性魔法の応用で酸素を錬成しようとすると、激しい爆発音、巨大生物の鳴き声のような音がハルの掌から発せられると、
「うわっち!!!!」
青色の火の柱が上空へ昇った。
ピコン
新し────
ハルは気を失った。
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南の森でレンジャーをして早20年、齢80歳にしても尚、美しさを保つエルフのイングリッドは今日も森を巡回していた。南の森と形容したのは、ただ単に魔の森という呼び方をイングリッドは嫌っていたのだ。
元々Cランクの冒険者だったイングリッドはパーティーと別れた後、その実力を王国にかわれ南の森の警備、冒険者の保護を目的とした活動に従事していた。
明日は休みのため、浮わつく気分を沈め仕事に勤しんでいる。
エルフは今では珍しくないが50年前ならエルフの国以外でエルフを目撃するのはとても珍しいことだ。イングリッドは小さい頃から冒険譚や伝説等の物語が大好きで、いつか冒険者となり閉鎖的な自国から出ていこうと考えていた。
そして巡りめぐって森のレンジャーをしている。人生とは冒険譚よりも奇なり。
子供の頃から森に住んでいたので、今の仕事は苦ではない。いつも真面目に仕事をしているイングリッドだが、実は王国に隠し事をしている。
──この森には妖精の祠がある。
これは2000年以上前の大魔導時代に建てられたものだ。
当時ここには妖精族が住んでいたのだろう。エルフ族はこの妖精族に遣えていた言い伝えがあった。今ではこのことを事実だと信じている者は少ない。イングリッド自身もエルフの国にいた女王陛下から直に聞かなければ信じていなかっただろう。
冒険譚にはたくさんの妖精達が登場する。妖精が主人公の物語、もしくは主人公を導く者として出てくる。あの勇者ランスロットも湖にいた妖精から剣を学んだと言われている。
こんなことを知ってるのは自分くらいじゃないだろうか?
イングリッドがそう思うと、王国国立図書館の受け付けにいるフレデリカがくしゃみをした。
──そんな妖精族の祠がこの森にあるなんて……
発見したときは胸が高鳴った。王国に報告してしまうと。その祠の調査等でそこを汚してしまうのではないかと思い、黙っている。
イングリッドは今まさにその祠へと向かっているのだが、
「それよりも……森に異変を感じる…ハウンド・ベアの亜種でも出たのか?森の魔物達が何かから逃げる様子で走り去っていく」
木から木へと飛び移るイングリッドとすれ違うようにして魔物や動物を目撃していた。
「もしくは冒険者が魔物を討伐しているのだろうか?」
魔物達が来た方向を目指し木から木へと器用に移動していく。イヤリングが飛び移る度に煌めく。
すると、激しい音が森の中、イングリッドの目指す方向から轟く。
「何かの鳴き声?」
その声の方向を見たイングリッドは驚愕した。
空に青色の竜が雲を割りそのまま上空へと飛び去っていくのが見えたのだ。
「あれは…?」
直ぐ様、竜が居たであろう地に到着すると半径50メートルほどの焼け野原がそこにあった。
その焼け野原の中心には少年が横たわっている。
「どういうこと?」
イングリッドは考えた。
──この少年は…?竜と戦っていたの?それとも……
イングッドは倒れている少年に恐る恐る近付いた。
「この少年……魔力欠乏により気を失っている…兎に角保護しないと……」
イングリッドは少年を担ぎ自分の仕事場である小屋へと運んだ。
─────────────────────
『キーワードを知覚・認識した為、解読が行われます。』
ハルは頭の中で声がしたのを僅かなに記憶している。
その声を聞いてから一体どれくらい時が経ったのだろうか。
目が覚めたハルは自分が見慣れない場所にいることに気が付いた。もう辺りは暗くなっている。
ゆっくりと起き上がると、とても美しい女性がハルの寝ているベッドの側の椅子に座ってティーカップを啜っている姿が見えた。
「うぅ……」
ハルは頭を押さえて眼をしばしばさせた。
「目が覚めたようね」
カチャっとティーカップをソーサーに置いてイングリッドはハルに声をかけた。
「ここは…?」
身体が怠い、たぶん二日酔いになるとこんな感じなのだろう。
「ここは王都フルートベールの南にある森、通称魔の森よ。私はここでレンジャーをしているイングリッド。森の中で貴方が倒れてたから保護したの」
礼儀をわきまえた上で、イングリッドは考える。
──さて、どうしたものか……
イングリッドに緊張感が漂う。
「あ…ありがとうございます……」
少し間があいた。イングリッドは思う。
──フルートベールという単語を聞いても平然としている。つまりここら一帯の地理は知っているということ……
「あのエルフ族の方ですか?」
イングリッドはハルが一体何者なのか、探りを入れるにはどう質問したら効果的か考えていた為、ハルの質問に面喰らった様子だった。
「ええ。そうよ。…それがどうしたの?」
──探りを入れて来た?
「僕エルフ族見るの初めてで……」
「え!?」
──嘘でしょ!?王都に居れば見るぐらいの機会はたくさんあるのに
凄く驚いた反応だったのでハルは自分がおかしなことを言ったのではないかと思い恥ずかしくなったので、取り繕うように言った。
「ついみとれちゃって…僕…記憶がないみたいなんですよ」
「記憶がない?それっていつから?」
──どういうこと?
ハルは少しだけ自分がどう答えるべきか考えながら言った。
「自分がなんで森で倒れていたのか思い出せないし、そういえば自分がどこから来たのかも思い出せないんです」
と、言いながらもハルは自分の身体の状態を分析していた。
──おそらく倒れていたのは魔法の練習で魔力欠乏になったからだな……
「貴方、名前は?」
「名前はハルです」
「それは覚えているのね……」
──それにフルートベールという地名も覚えている。
レンジャーをしていて20年、その中で記憶喪失者を幾人かイングリッドは看ている。
──エルフ族をみたことがないというのは嘘をついているように見えなかった、森の中での記憶がないというのは少し嘘をついているようにみえる……
「あなた青い竜を見てない?」
「青い竜?…見てないですよ?」
「そう……」
──これも本当のようね…言うときに何もストレスを感じない。しかしおかしい。あの場所に倒れていて竜を目撃していないはずがない。つまり何らかの目的で森の中に入り、あの竜に何かをされた?もしかしたらこの子、竜人?いや、物語の読みすぎか…それでも!
イングリッドは王国に隠していた妖精の祠が関係しているのではないかと考えていた。
──妖精の祠がある森の中で青い竜がでるなんてこれは関係がないわけない!
イングリッドは一か八かの賭けにでた。
「貴方もしかして妖精の祠に行くのが目的だったんじゃないの?」
──どうだ!
イングリッドの問いかけにハルは反応した。
「妖精の祠…?ハッ!!」
ハルは何かに気付いた表情を浮かべる
「なに!?」
──やっぱり!そうだったのね!!
「い!いま日が沈んでどのくらい経ちますか!?」
──時間!?あの祠は時間と関係があるのかしら?
「まだ日は沈んで少ししか経ってないけど……」
「僕帰らないと!」
直ぐにベッドから起き上がろうとすると上半身に力がうまく入らない。
「まだ無理よ!安静にしてないと」
ハルを制しベッドに戻そうとするがハルは頑なに拒む。
「行かないと……」
「無理よ!自分のステータスを確認してみなさい!」
ハルはステータスウインドウを開くと、
【名 前】 ハル・ミナミノ
【年 齢】 17
【レベル】 8
【HP】 93/93
【MP】 6/89
【SP】 114/114
【筋 力】 58
【耐久力】 75
【魔 力】 77
【抵抗力】 73
【敏 捷】 71
【洞 察】 74
【知 力】 931
【幸 運】 15
【経験値】 100/900
・スキル
『K繝励Λ繝ウ』『莠コ菴薙�莉慕オ�∩』『諠第弌縺ョ讎ょソオ』『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』『感性の言語化』『第四階級火属性魔法耐性(弱)』『第三階級火属性魔法耐性(強)』『第二階級以下火属性魔法無効化』『第一階級水属性魔法耐性(中)』『恐怖耐性(中)』『物理攻撃軽減(弱)』『激痛耐性(弱)』『毒耐性(弱)』
・魔法習得
第一階級火属性魔法
ファイアーボール
ファイアーウォール
第一階級水属性魔法
ウォーター
第一階級風属性魔法
ウィンドカッター
ハルは逸る気持ちを抑えて自分のステータスを確認する。
──MPの数値がまだ1桁だ……
一度MPとSPが1桁になると動けなくなる。SPに関しては安静にしていれば直ぐに回復するが、一瞬でも1桁になったのなら気を失ってしまう。そしてMPは0になると回復にかなりの時間がかかる。
──だけど、何故MPをこんなに消費したんだ?まだまだ余裕はあったはずなのに……
いずれにしろこの状態で夜の魔の森は抜けられない。ハルはどうすれば王都へ戻れるか考えたが、いつも見慣れている筈のステータスに違和感を覚えた。
もう一度ハルは自分のスキルの欄を確認した。
『第四階級火属性魔法耐性(中)』
『第三階級火属性魔法耐性(強)』
『第二階級以下火属性魔法無効化』
「…はぁ!!!?」
「どうしたの!?」
自分のスキルに第四階級以下の火属性魔法耐性が付いていることに驚愕した。
「どうして……」
「何が!?」
ピコン
解読が完了しました。スキル『閾ェ辟カ縺ョ鞫ら炊』=『自然の摂理』を習得しました。
ピコン
スキル『自然の摂理』を習得したことにより新しい属性魔法が発現しました。
無属性魔法
『錬成Ⅰ』を習得しました。
ゴーン ゴーン
気付けばベッドに座っている状態ではなく直立していた。景色が見慣れた石造りの路地裏になっていたのは言うまでもない。
MP、SP、魔力、抵抗力が1上がった。
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名無し
ファンタジー
ダンジョン菌が人間や物をダンジョン化させてしまう世界。ワクチンを打てば誰もがスレイヤーになる権利を与えられ、強化用のクエストを受けられるようになる。
しかし、ワクチン接種で稀に発生する、最初から能力の高いエリート種でなければクエストの攻略は難しく、一般人の佐嶋康介はスレイヤーになることを諦めていたが、仕事の帰りにコンビニエンスストアに立ち寄ったことで運命が変わることになる。
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