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第11話

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~ハルが異世界召喚されてから1日目~ 

 ──大馬鹿者だ!訓練に夢中になって命がかかっていることを忘れるなんて!! 

 ハルは走った。急いで路地裏へ向かう。日は既に沈んでいた。 

<路地裏> 

 ハルは息も絶え絶えに、ようやくいつもの路地裏へ着くやいなや、ドスンと暗闇から何かが倒れる音が聞こえる。 

 ──何かが倒れ…何かじゃない人だ!人が倒れる音が聞こえた…… 

 暗闇の中、走り寄ると倒れていたのは酔っぱらいだった。 

「お前かぁぁぁ!」 

 酔っぱらいは建物の壁を支えに再び立とうとしている。 

「なーーに見てやがんだコラァ!!」 

 ──ス○ダンの三井○かよ!でも間に合った! 

 酔っ払いは相も変わらず持っている酒瓶でハルに殴りかかってくる。ハルはそれを腕でガードした。以前はこの酔っ払いに襲われていた際にルナがやって来たのだとハルは考える。ルナが酔っ払いを追い返して少ししてから、あの全身紫色でコーディネートした女が現れる。ハルは女の顔を思い出すとゾッとした。 

 そんなハルの思考とは関係なく、酔っ払いは攻撃レパートリーに殴る蹴るを加えた。 

 ──そんなに痛くない。こちとら腕を二回切り取られた身ぞ?そんでもっておそらく習得したスキルのせいでもあるな…… 

 そしてハルは思い出した。以前と違い、今の自分は魔法が使えることを。 

──────────────────── 

ドゴッドゴッ 

 暗闇から何か鈍い音が聞こえてくる。ルナは薄暗い路地を通って帰宅することに後悔し始めた。音のする方向に歩みを進めると少年が一方的に殴る蹴るの暴行を受けている光景を目の当たりにする。 

 ──大変! 

 ルナは慌てて火属性魔法を右手に纏い、助けようとすると、聞こえた。 

「ファイアーボール」 

 襲われていた少年はファイアーボールを空に向かって撃った。その火球は建物と建物の間を下から上へと照らしながら上空へと舞い上がる 

「ヒィィィ」 

 酔っ払いはルナのいる場所から遠ざかるように逃げていった。 

 ルナは少年の元へ駆け寄り声をかける。 

「襲われていたみたいだけど大丈夫ぅ?」 

「はぃ…」 

 少年は放ったファイアーボールとは対称的にとても弱々しい返事をした。それもそのはず、この王都で魔法学校の卒業者、あるいは王国から認定された者以外の攻撃魔法の発動は厳罰ものだからだ。 

 ──でも…… 

 ルナは意を決した表情を浮かべる。 

 ハルはルナと出会うと安心したと同時にこれから訪れる恐怖になにも対策をしていない絶望感に苛まれていた。 

 ──今回はあの金髪巨乳jk(女性剣聖の略)がいない…一応アラームはセットしたけどどうすれば…… 

 俯きながら黙考していると、ルナは近いてハルの手をとり、走り出した。 

「え!?どこへ?」 

「良いから来て!」 

 ルナは自分がやって来た方向へ戻った。右に曲がり、左に曲がりハルとルナは暗闇を駆け抜ける。 

 ──これルナさんがいなきゃ絶対迷ってる…… 

 ルナは少年の手をとり走った。 

 ──あの威力のファイアーボール…現場にいたら直ぐに衛兵がやってくる!この子は悪くないのに! 

 ルナは走った。人混みを求めて。その時、 

カチ、カチ、カチ 

♪千○桜~夜に♪ 

 走ってる途中、ハルのポケットに入っているスマホから音楽が大音量で鳴り響く。 

 音に驚くルナ。 

 ──音楽!?どこから?あれ?声がでない 

 困惑するルナと共に走るハルを建物の上から観察する人影があった。妖艶な紫色のドレスを召した女はその細い腰に片手を置いて、驚いていた。 

「あら~おかしいわねぇ~」 

 音楽の発生源である少年に第四階級闇属性魔法クワイエットプレイスをかけたが音が鳴り止まない、念のためターゲットにもかけたが音楽は鳴り続けている。 

 大音量で流れる音楽は一日を終えた住民達を眠りから起こした。女は窓の中から明かりが灯るのを目にする。 

「困ったわぁ~あの可愛いファイアーボールのせいで衛兵も集まってきちゃったものねぇ……」 

 女はそのまま夜の闇に溶け込むようにして姿を消した。 

───────────────────── 

 ハルは人混みに紛れる前にスマホの音楽を止めた。そしてルナと人の賑わう道を歩いた。 

 夜なのに多くの人が行き交う。 

 ──どうしてルナさんは僕を連れて逃げたんだろう? 

 ハルが疑問に思っているとルナは口を開いた。 

「…もう大丈夫そうね。怪我をしてるみたいだけど大丈夫?お家はどこ?」 

 差し迫った危機はなく、ゆっくりと歩く2人。 

 ──まだ油断はできない。少なくともルナさんと教会へ行くまでは…… 

 その為にはどうするかハルは思考を巡らせた。 

「えっと…実は泊まるところがなくて……」 

「え!?」 

「財布を盗られてしまって……」 

「え!!?」 

「明日の魔法学校の試験を受けるために王都まで来たんですけど……今夜だけ教会へ泊めてもらおうと思って…その途中でさっきの酔っ払いに絡まれて…その……」 

 ハルの唱えたファイアーボールが脳裡に過る。 

 ──魔法学校の受験生だったのね。それなら納得のいく威力…… 

 ルナは納得しながら述べた。 

「そうだったのね!それならちょうど良いわ。私はその教会でシスターをやっているの。部屋が1つ空いているからそこに泊まって?幾つか傷もあるみたいだからそこで治療もしましょう。私はルナ。あなたの名前は?」 

「僕はハルです」 

 二人は教会へと向かう。 

 白い石で造られた教会はとても神聖に見えた。入り口の大きな木戸を押し開け、ひんやりとした教会の中へと入っていく。 

 通路が奥の祭壇まで伸びている。その通路の両脇には何人も腰かけられるベンチのような椅子が何列もならんでいる。奥に進むと装飾を凝らした祭壇がありその後ろの壁には三日月型のシンボルがあった。 

 ──この国のトランプのマークの1つも三日月型をしていたな。 

 三日月型のシンボルは通称クレセントと呼ばれているそうだ。そのクレセントの下にある少年だか少女だかわからない銅像がある。これがこの世界の神ディータ。
 
 ハルは図書館でフレデリカから教わったことを頭の中で反芻した。なにも図書館で魔法だけを学んでいたわけではなかったのだ。 

 無事ここまで来れたけどまだ完全に危険が去ったわけではないと思い。ハルは緊張を緩めなかった。 

 部屋に案内されそこで、治療を受ける。簡単な回復魔法をかけられる。 

 ──気持ちいい~…… 

 ハルは訓練による魔力の消費と1日の疲れを回復魔法で癒され、気付いたら眠っていた。 

~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 

「……なはっ!!」 

 ハルはベッドから飛び起き部屋を出て食堂へ向かうと、そこには沢山の子供達とルナが朝食の準備をしているところだった。 

「やったぁ~!!!!乗り切った!!」


ゴーン ゴーン 

~ハルが異世界召喚されてから1日目~ 

 剣聖に頭を下げなくてもルナの死を回避できることがわかったため、ハルは魔法の訓練に集中した。前回と同様ルナと合流し教会兼、孤児院に泊まる。 

~ハルが異世界召喚されてから2日目~ 

「起きろー!!」 

 ハルは目を覚ますと以前の世界線と同様に5歳くらいの男の子が仰向けに寝ているハルの上に乗っかって起こしてくれている。 

 少年の名前はグラースというようだ。 

「起きたな寝坊助め!朝御飯できたから早く起きろ~!」 

 ハルはグラースに連れられ食堂に向かった。ルナ以外にも何人かのシスターがいる。みんな優しそうだが朝だと言うのにどこか疲れている表情をしている。 

 ルナと挨拶をした。 

「今日の試験頑張ってね!」 

「はい!必ず受かってみせます!」 

 二人のやり取りをうけて、近くにいたグラースはルナの肩に手を置きながら言った。 

「ヘッヘッヘッ実はこのシスターそこの魔法学校の教師なんだぜ!」 

 グラースはまるで自分のことのように自慢した。 

「そんでもって生徒達全員に嘗められてるんだぜ」 

「もう!そんなことないったら!…全員じゃないもん!」 

 ──何人かには嘗められてるんだな…… 

<王立魔法高等学校> 

 筆記試験を終え、いよいよ実技試験へ、ハルを嘲笑し蔑みの眼差しを送った連中とまた同じグループだった。 

 前回と同様の順番で同様の光景が繰り広げられる。光属性と思われる魔法を無数に唱える者も一緒だ。 

 ──相変わらずイケメンでムカつく!てかどうやってあんなに大量の魔法を唱えてんだ? 

 そして、いよいよハルの番だ。 

 腹式呼吸をして、魔力を掌に集中させ火を顕現させた。火属性魔法を唱えた他の受験生よりも少しだけその火は大きい。 

 ハルは魔力を遠くへ飛ばすイメージで唱えた。 

「ファイアーボール!」 

 火の玉はハルの狙った的へ火の粉を散らしながら一直線に進む。そして、的の真ん中に見事命中した。 

「よし!」 

 ハルは掌をギュッと握り締めて成功を噛み締めるが、 

 ──あれ?反応がいまいち…まぁこれが普通なのか…… 

 実技試験も終わり、結果は3時間後に発表される。それまでの間、フレデリカのところへ行って魔法の練習をしようと思っていたハルに声が掛かった。 

「お疲れぇ!!」 

 ショートカットで腕には宝石が埋め込まれている腕輪をした女の子が気さくに話しかけてきた。 

「お、お疲れ様!」 

 ハルも少し戸惑いながら笑顔で答えた。 

「試験どうだった?」 

 ハルは何故自分に声をかけてきたのかわからず、不思議そうに答えた。 

「ん~まぁまぁかな?そっちは?」 

「もうばっちしよ!私はアレックス!アレクサンドラ・ルチル!!でこっちはマリア!」 

 ボーイッシュなアレックスの後ろに隠れるように潜んでいた、大人しそうで可愛いらしい女の子が口を開く。 

「マリア・グランドールです」 

 マリアは上品にお辞儀をする。その所作でハルは思った。 

 ──きっと貴族なんだろう…… 

「僕はハル、ハル・ミナミノ」 

「ミナミノ?聞かない名前だね」 

 アレックスと名乗った女の子は不思議がる。 

「ここら辺の生まれじゃないからね」 

 ハルは言った。 

 ──やっぱりそう思われてるのか? 

 今まで自己紹介をした人達のファミリーネームはハルがいた世界で言うと欧米風だ。東洋系である自分の名前を不思議がる人は結構多いだろうと予想していた。 

「そんなことよりも助かったよ!」 

 アレックスの突然の言葉にハルは困惑した。 

「ん?なにが?」 

「筆記試験!ハルの回答がなかったらきっと落ちてたよぉ~」 

「ブッ!!」 

 ハルは驚きのあまり体内にある何かしらを吐き出した。どうやら筆記試験中ハルの後ろにアレックスが座っていてハルの答案をカンニングしていたようだ。 

「わたし視力がずば抜けて良いからさぁ~おかげで計算が全然できなくって!何なのあの数式ってやつ!見るだけで眠くなる!闇属性の魔法みたいに眠くなる!」 

 ──視力と計算力は反比例するかのような言い草だな…… 

「ダ…ダメだよズルしちゃ……」 

 マリアがおどおどしながら言うと、 

「いいのいいの!それよりどっかでお茶しない?」 

「あぁ~僕お金持ってないんだ」 

「私が奢るに決まってるでしょぉ!ハルは私の合格を手伝ってくれたんだから!」 

 アレックスはハルの腕をグイと引っ張った。勇ましく歩くアレックス。きっと試験に合格したのだと確信をもっているようだ。 

 アレックスに引っ張られること数分、彼女の行きつけの店へと辿り着いた。店内は光属性魔法が付与された魔道具のおかげで明るく、木製のテーブルや床、椅子を暖かく照らしていた。 

「お洒落~」 

 ハルがそう呟くと、アレックスは言った。 

「天気も良いから外の席にしよう?」  

 店の前には石畳の上に幾つかテーブル席が置かれており、店側から出たルーフによって直射日光を浴びない造りになっている。  

 紅茶を嗜みながら3人は談笑する。 

「きっとAクラスに入れる気がする!」 

 アレックスが急に大きな声を出すので紅茶を上品に啜っていたマリアは驚く。 

「Aクラス?」 

 ハルが訊いた。 

「そう!知らないの?試験の成績によってクラスが違うの!そのトップがAクラスだよ!ハルもきっとAクラスだと思うな。あんなに筆記試験ができるんだもの!」 

「僕はまだわかんないよ…魔法もまだ覚えたてだし……」 

「覚えたてってどのくらい?」 

 ハルはこの戻る現象を加味して答えた。 

「ん~3日ぐらい?」 

「ハッ!?」
「えっ!?」 

 アレックスの唾がハルの顔にかかる。マリアはまたも紅茶を啜っていたところで、驚いた拍子にカップにいくらか口に含んだ紅茶を勢いよく戻してしまっていた。二人はどこかむず痒いような顔をしている。 

「実技試験はできたの?」 

「的に当てることは出来たけど」 

「何属性で!?」 

 アレックスの顔がハルに近付く。 

「火だけど」 

「ファイアーボールを2つ以上出して、2つの的に当てられた?!」 

「いや、一つしか当ててないけど…」 

「あぁぁぁぁぁ……」 

 アレックスは頭を抱えて残念がった。 

 どうやら火属性は他属性と比べて唱えられる人が多いので、2つ以上の的に当てないとAクラスになれないらしい。試験の傾向と対策をしてないハルにはわからなくて当然のことだった。 

「あ!そういえば光属性の魔法で全部の的に当ててる人がいた」 

「光…ぁぁそれはレイ・ブラッドベルよ。光の戦士って呼ばれてるブラッドベル家の次男。そんで私の親友のマリアの将来の旦那さん」 

「……」 

 顔を少しだけ赤らめて紅茶に焦点を当てながらそれを啜るマリアは小動物のように可愛く見えた。 

 ブラッドベル家とグランドール家は由緒ある貴族のようで、マリアとレイは婚約することが決まっているらしい。 

 ──正直マリアはかなり可愛い……ハン!あんなイケメンどうせ顔だけで性格は悪いに決まってる!! 

 そう決め込んで自分の気持ちを落ち着かせる。 

 3人はカフェをあとにして、試験結果を見に行った。 

 結果はアレックスとマリアはAクラスに合格、ハルはBクラスに合格していた。 

「クラス違っちゃったね」 

 ハルは悔しさを滲ませて言った。 

「うん…でも同じ学校だから…」 

 アレックスもマリアもせっかくAクラスに受かったのに何処か残念そうにしていた。まだ出会ったばかりだけどなんて良い子達なんだとハルは思う。 

 2人に別れを告げようとすると、こちらに向かってルナが歩いてくるのが見えた。 

「ルナさん!」 

 ハルは声をかける。 

「あ!ハルくん!結果はどうだった?」 

 アレックスとマリアが驚きの表情を浮かべているのを尻目にハルは言った。 

「受かりました!でもBクラスで……」 

 残念がるハルにルナは声をかける。
 
「おめでとう!Bクラスでも凄いことよ!」 

「ありがとうございます!」 

「それでそちらの可愛い子達は?お友達?」 

「はい!アレックスとマリアです!」 

 ハルは後ろにいる二人を紹介した。 

「あ…あの私、先生に憧れていて…… 」 

 フルフルと身体を震わせながらマリアが声を出した。 

「私もです!」 

 手を挙げながら口を開くアレックスもどこか緊張ぎみだ。 

 マリアはともかくいつもは喧しいアレックスまでもがルナに憧憬の眼差しを送っていたことがハルには意外だった。 

 ルナは笑顔で2人の眼差しに応える。 

「ありがとぉ!私は聖属性の講義をしているから、もしよかったら二人とも受講してみてね?これから宜しく!」 

「「はい!」」 

 ルナは歩きだし、それを見送る3人。姿が見えなくなるとアレックスとマリアがハルに向き直り、あれこれと聞いてきた。マリアはアレックスの質問にウンウンと頷いて、自分もそれをハルに訊きたいという感じだった。 

「なんでルナさんと知り合いなの?」 

「昨日泊めてもらったからだよ」 

「泊まるってルナさんの家に?!」 

「正確にはルナさんが住み込みで働いてる教会の孤児院に泊まったんだ」 

「「どおして!?」」 

「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて!」 

 両手を前にだし二人を制する。ハルはゆっくりと説明した。 

「……ところで、アレックスもルナさんに憧れてるの?」 

「何?私が憧れちゃいけないの?」 

 アレックスの目付きが鋭くなった。 

「いや…アレックスは…その魔法で悪者を倒す英雄ものに憧れてるのかなって」 

「それは私が男みたいってことぉ!?」 

「違う違う!そんな変な意味じゃなくて」 

「クスクスクス」 

 ──楽しいな…友達がいると楽しい…日本でも友達がいたらそうだったのかな?


ゴーン ゴーン 

~ハルが異世界召喚されてから1日目~ 

 ──友達と楽しい時間を過ごしている喜びかな? 

 ハルはまたしても戻ってしまった。
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