喜んだらレベルとステータス引き継いで最初から~あなたの異世界召喚物語~

中島健一

文字の大きさ
8 / 146

第7話

しおりを挟む

 広大な庭には川が流れている。上流に行くと滝があり、下流は街へと続いていた。そんな広大な土地の中に大きな屋敷が立っていた。 

 ザナドゥ、元はモンゴル帝国のクビライが設けた都のことだが、後にイギリスの詩人が桃源郷という意味で用いたこの固有名詞、ザナドゥを冠するに相応しい屋敷だ。 

 オデッサが屋敷へと続く門に入っていくと多くの甲冑を着た屈強な男達がオデッサを見ては立ち止まりその場で礼をする。 

 長い金髪と大きな胸を揺らしながら屋敷の玄関を開けるオデッサ。着ている黒いロングコートを脱いで簡単に畳み片腕に掛けた。自室へ向かうと途中、大音量で発声している掛け声が聞こえてくる。そちらを見やると先程門をくぐった時に歩いた大きな広場でたくさんの甲冑を着た戦士達が訓練をしている。 

「……」 

 オデッサはその光景を一瞥した後、少しだけ早歩きでその場を通りすぎる。 

 すると、甲冑の立てる音が廊下に響いてきたかと思えば、その音の主である老兵が走ってやって来る。 

「オデッサ様!今までどこにいたのですか!?探しておりましたぞ!!さぁ訓練を見てくださ……」 

 老兵の言葉を遮るようにオデッサは溜め息をついた。 

「はぁ、ロイド…何回も言ってるだろ?私はもう引退したんだよ」 

「し、しかし……」 

 オデッサは黙って老兵の横を通りすぎた。 

 ──その内みんなもわかるから…… 

 自室に入るオデッサ。広々とした部屋の床には赤い絨毯が敷き詰められている。向かい合って置かれた椅子の間には装飾が施されたテーブルが1つ、奥には天蓋付きのベッドが置いてあった。 

 片腕に掛けていたロングコートを吊るし、ベッドに横たわると、オデッサは去りし日の出来事を思い出す。 

◆ ◆ ◆ ◆ 

『剣聖様だぁ~~~!』
『フルートベール王国も安泰ですな』
『剣聖様が来たからにはもう大丈夫だ!!』 

 白馬にまたがったオデッサは、激しい動きにも対応しやすい鎧に身を包み、勇ましい姿で戦士達に片手を挙げて、彼等の羨望の眼差しに応えていた。しかし、オデッサは帝国との戦争で敗れてから聴衆や戦士達の態度は一変する。 

『もうあれはダメだ』
『使い物にならん』 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 オデッサは自分を打ち負かした帝国の兵士の姿を思い出してしまった。大きな鎌を持ち、白髪をツインテールにしている少女と燃えるような赤い髪色の少女の姿を。 

 ──あやつ等と相対するまで何も知らなかった…… 

 オデッサは不甲斐ない自分に嫌気がさした。 

『今夜だけ僕に力をかして下さい!』
『守りたい人がいるんです!!』
『それでも!それでも助けてほしいんです!』 

 不意に今日会った少年の言葉を思い出し、フンと鼻を鳴らしてその言葉をかき消そうとするオデッサ。何故だか、先程酒場でからかった少年が印象に残ったようだ。 

『見るだけで…恐怖で立てなくなってしまう…そんな相手なんです!』
 
 2年前の敗戦が脳裡に過る。 

「まさかな…」 

 嫌な記憶が甦って来た為、頭を振る。オデッサは気を取り直した。 

「どいつもこいつも人を頼りやがって!」 

 オデッサはベッドから起き上がり、いつもなら飲み水の入っている瓶を持って廊下へ出ると、声が聞こえてきた。声色からして口論しているようだ。 

「もう2年になりますぞ!!我慢できませぬ!!ロイド殿は剣聖がいつまでもあのままでよいのですか!」 

 空瓶を両手に握りしめたまま溜め息をつくオデッサ。 

 ──またか……どうせいつものように悪態をつかれるんだ。 

 過去に何度も帝国との戦力差を王国中枢に打診してきた。その度に嘘つきのレッテルを貼られ、帝国に怖じ気づいた等と罵詈雑言を貴族連中や戦士達、自分の部下に当たる者にまで浴びせかけられた。 

 帝国に負けてから2年、オデッサは剣聖の働きを放棄し、この認識も定着し始めた。そんなオデッサは今、酒場に入り浸っている。 

 ──誰も信じてくれない。 

 オデッサの話を聞いてくれる者はいた。それが先程すれ違い、今まさに口論相手をしているロイドだ。しかし、彼はオデッサなら必ず勝てる、と一点張りだ。 

 オデッサはその場から立ち去ろうとすると、ロイドと呼ばれた老兵が重たい口を開く。 

「我々は些かオデッサ様に頼りきっていたのだ…今までオデッサ様に守って頂いたのだから今度は我々が支えなくては……」 

 オデッサは自分の思っていたのと違う言葉を聞いて立ち止まる。いや、動けなかったと言ってもいいかもしれない。 

「そうだとしても!」 

 老兵は食って掛かる相手に対して答えた。 

「よいか!?仮にオデッサ様が!万が一!いや!そんなことはあり得ないのだが、本当にダメになってしまったとしたら、いつまでもここにいる所以はない!どこか我々の知らぬ土地で冒険者でもやっておられるはずだ!!」 

「……」 

「それなのに何故この場を離れぬのか!それはこの国を愛しているからに他ならない!オデッサ様なら必ずや立ち上がる!だから我々はオデッサ様と共に戦えるだけの力をつけなくてはならんのだ!」 

「……」 

 その昔、名を馳せたであろう老兵の圧力に黙ってしまう男。 

「……大きな声を出してすまなかった。さあ!訓練を続けるぞ?」 

 オデッサは瓶に水を入れずに自室へ戻る。パタンと扉を閉めて、そこに寄り掛かった。 

「……」 

 暫し、天井の一点を見つめるオデッサ。そして何気なく壁に掛かっている剣を手に取った。久し振りに長剣セイブザクイーンを握ると違和感を覚える。二年も放置していたにも関わらず以前と同じ輝きを放っていたからだ。鞘から鋭い音を立てて剣を抜き、刃を確認するとこれまた以前と同じ鋭さを保っている。 

「あれほど勝手に部屋に入るなと言っていたのに……」 

 オデッサの脳裏には老兵ロイドの顔が過った。 

 ゆっくりと鞘に戻し、祈るように謝罪と感謝を述べ、オデッサは玄関まで走った。 

 玄関にはこれから訓練をしに行くであろうロイドと相対する。 

「お出掛けですかオデッサ様?」 

 チラリと剣に目をやるロイド。 

「ロイド…いや……じい…何故私のことを剣聖と呼ばずに名前で呼ぶ?」 

 ロイドはわざとらしく顎に手を当て言った。 

「さぁ…何故そう呼ぶのか…忘れてしまいましたな?」 

「フフ……」 

◆ ◆ ◆ ◆ 

「じい!もう剣聖いや!なんでみんなオデッサのこと剣聖様って呼ぶの!?もういやいやいや!!」 

 幼少期のオデッサの甲高い声が訓練場に響いた。まだまだ大きすぎる訓練用の剣を両手で握っている。 

「…オデッサ様はオデッサ様です。剣聖などではありません。ですのでいつでも剣聖をやめてもよいですし、またやりたくなったらやればよいのです」 

 今よりも少しだけ若いロイドが優しくオデッサを諌めた。 

「そうなの?じゃあ剣聖やめるぅ!」 

◆ ◆ ◆ ◆ 

 オデッサは玄関を開けて、ニヤリと笑って言った。 

「じい…ありがとう。行ってくる!」 

「いってらっしゃいませ」 

 ロイドはオデッサの姿が見えなくなるまで頭をさげ続けていた。 

───────────────────── 

<路地裏> 

コツ……コツ… 

 暗闇から足音が聞こえる。 

 ──来た!? 

 ハルは暗闇を凝視すると、現れたのは酔っ払いのおっさんだった。 

 ──知ってた!!お前来るって知ってた!! 

「なんだてめぇ、じろじろ見やがって、え~?俺をバカにしてんのかぁ~?」 

 前回はバカにしてないと答えたらビンで殴られたので今回は無視した。 

「無視してんじゃぁねぇ~」 

 酔っ払いは持っているビンで殴り掛かってきた。 

「結局!結局のやつ!!強制バトルかよ!」 

 振り下ろされる酒瓶をハルは腕でガードする。 

ゴン!! 

 鈍い音が路地裏の暗闇に響いたが、思っていたよりも痛くない。 

 二発目の攻撃がくる。 

ゴン!! 

 ──ん~あんまり痛くない。小さい子供に殴られてる感じだ。 

 三発目が振り下ろされるがビンは手からスッポ抜けて暗闇の彼方へ消えていった。 

パリン 

 酔っ払いと目が合う。暫し見つめ合い、お互い笑い合うと酔っ払いは殴りかかってきた。 

 ──この世界の人恐すぎ! 

 酔っ払いはハルの脳天目掛けて叩き付けるように拳を振り下ろす。ハルはガードせずに拳をくらうがやはり思ったより痛くない。 

 ──スキルのおかげか? 

 そうこうしていると。 

「何をしているの!?」 

 ルナがその可愛らしい表情を一生懸命凄んでやって来た。そして左手を前にだし掌に火を纏わせながら言った。 

「その子から離れなさい!」 

 酔っ払いは軽く悪態をつくと早々と退散していった。ルナはハルにかけより回復魔法をかける。いつ見ても綺麗な魔法だ。 

「大丈夫?」 

「…はい」 

 目が合うとルナは微笑んだ。 

「僕はハルです。ハル・ミナミノ」 

「私はルナ。ルナ・エクステリアよ。宜しくね……?」 

 ルナは何かを察知した。 

 ──来たか…… 

 ルナは顔面蒼白になりながら独り言を言うようにして呟いた。 

「……逃げて」 

 暗闇から紫の髪色をした女が現れる。
 
「おやおや、…どうしたものかしら…」 

 妖艶な細いドレスを纏った背の高い女。ハルはその女から目を離さない。 

「そんなに見つめられるとお姉さん照れちゃうわ……」 

 ルナはへたりこんだまま声を出せないでいる。 

「ハッ…ハッ…」 

 恐怖による全身の震えで漏れ出る声にならない声がルナの口から発せられていた。 

 ハルは恐怖をあまり感じていなかった。それは新しく獲得したスキルのせいもあるが、 

カチ、カチ、カチ 

♪千○桜ぁ~夜に~♪ 

 スマホから音楽が大音量で鳴り響く。予め少し早めにアラームをセットしておいたのだ。 

 女は自らを暗殺者と言っていた。だから早めに大音量で音楽を流せば誰も傷付かずに退散するのではないかとハルは考えていた。 

 ──あのイカサマ巨乳がいなくてもなんとかなる! 

 ハルは作戦がうまく嵌まっていると確信し、拳を握り締めた。 

「僕ぅ~どうして音が出せるの?お姉さん一応魔法も使えないようにしたんだけど…それにしてもこれはもう失敗よね」 

 女は残念そうな表情を浮かべていた。 

 ──よし!帰ってくれ! 

 ハルがそう願うと、女の姿が一瞬だけ霞むように見えた。するとハルの左腕が切り取られる。 

 ──またかよ!前ほど、痛くない…けど血が…… 

 前回と少し違うのは切り取られた左腕は地面に落ちていたことだ。 

「ぅ"~~~~~~」 

 ハルは左腕の付いていた部分を触れたいが、触れると更なる痛みが襲ってくると思い、そこを右手で覆うようにしてうずくまる。 

「僕?凄いわね?普通ならのたうち回ってるところよ?」 

 女はそう言いながら考えていた。 

 ──ターゲットの前に出てしまった…誰を狙ったか分からなくする為にも男の子を殺してしまわないとダメよね?素敵な男の子なのに…… 

 ──痛い…ぐッ…血の気が引ける。 

「ごめんなさいね?ぼく?」 

 もう一度攻撃が来る。血を流しすぎたハルはこの時気を失った。 

 女は目にもとまらぬ速さでハルに攻撃をしかけたが、突如として飛来してきた鋼が女の攻撃を受け止めた。 

 ギィィィィィィン 

 金属同士のぶつかり合う音がこだますると同時に、火花が無数に散った。その火花は暗闇を一瞬だけ赤くほんのりと染める。紫色のドレスを着た女は乱入してきた者の目を見据えた。女は広角を上げ、高揚感を抑えることができない様子だ。 

「次からはどこの路地裏かをちゃんと言え!」 

 髪をはためかせながら、オデッサは背を向けたまま、気を失っているハルに告げた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

七億円当たったので異世界買ってみた!

コンビニ
ファンタジー
 三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。  ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。 「異世界を買ってみないか?」  そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。  でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。  一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。  異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。 チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。

処理中です...