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第1話
しおりを挟むゴーン ゴーン
聞いたことのない鐘の音、見たことのない路地、見たことのない建物、見たことのない鳥が羽ばたいていた。
──なんだここは…さっきまで家で横になってたのに…
これといって自分の身体に異変が起きていないことを確認する為に両腕を見たり、首を捻って背中を見たりしたが、転移する前に着ていた制服を着ているだけだ。今度は髪の毛を触り、頬を両手で包んで、感触を確かめたがこれといって問題はなかった。
「これって、まさか昔流行ってた異世界召喚?でも最近はチート能力でハーレム作って俺tueeeやり過ぎてワンパターンだから飽きられてたんじゃ…ってそんなことよりも!実際に自分が異世界召喚されたらこんなにも混乱するのか!」
ハルが早口でそう捲し立てると、
ゴーン ゴーン
さっきと同じ鐘の音が聞こえた、上を見上げると建物と建物の間を彩る青い空が見える。
「クックックッじゃあ僕もチート能力使ってハーレム作って楽して暮らそう!フハハハ久しぶりにわくわくしてきちゃぁぁ!!」
ゴーン ゴーン
またしても鐘の音が聞こえた。
ハルはいま一度、辺りを見回す。両側を大きな建物が建ち並び、陽の光は差し込んでこない。地面は石畳が敷かれ、綺麗に整備されていた。片側の建物に触れてみるとヒヤリとした感覚が伝わってくる。素材はコンクリートではなく、地面の石畳と同様、石で出来ている。
「オイ!」
後ろからこちらに敵意のある声が聞こえてきた。
ハルは振り向くとそこにはボロい薄汚れた服を着た二人組が立っていた。この世界の不良であることは一目瞭然だ。
「お前!ここらへんの人間じゃねぇな?痛い目に合いたくないなら金だしな!」
二人組の体格の良い方が言った。
──テンプレの台詞かよ!
ハルは心の中でツッコんでから言った。
「フフフ…僕に言ってるのか?」
「あ!?そうだ!お前に言ってんだ!!」
今度はもう片方の背の低い不良が言った。
──最初に話しかけてきたのがジャイ○ンで後からイキってきたのがス○夫ってとこか…何から何までテンプレだな。
「ふぅ……」
ハルは溜め息をつくと、左腕を背中に回した状態で右腕を前にだし、掌を上に向け親指以外の指をクイクイと、動かしてみせた。それはまるで中国拳法の達人の様な構えだった。こんなふざけた構えをしてハルは思った。これは人生初めてのカツアゲであり人生初めての喧嘩だ。そう思うと急に不安になってきた。
「後悔しても遅いぞ!」
ハルの心を読んだかのように二人組の背の高い方が向かってきた。ハルは先程の構えをやめ、ボクシングの真似事の構えに直した。不良の一人が右腕を振りかぶって、拳をハル目掛けて繰り出してきた。ボクシングでいう右ストレートだ。
──右ストレートを出すとき振りかぶるとその際に隙ができるし、よく見れば躱すのも容易いっていうのを昔読んでた喧嘩漫画に書いてあったっけ?
ハルは向かってくる右ストレートの軌道を読んでかわした。背の高い不良は右ストレートを振り抜いたせいで勢いを止めきることができず、自分のがら空きの懐にハルを迎え入れてしまった。ハルはお返しに右ストレートを繰り出した。勿論振りかぶらずに。
それは相手の顎にヒットした。ヒットした瞬間、喧嘩漫画の言う通りに拳を素早く引き戻すこともハルは忘れていなかった。
──よし!よく見える!これも何かのスキルなのかな?てか拳いてぇ!
「この!」
ヒットしたは良いものの、小さい方の不良が痛がる相方を横切って、ハルの脚を取るようにしてタックルしてきた。
ハルは地面から両足が離れ、背中をついてしまった。そしてマウントポジションをとられて、顔面にまともなパンチが何度もヒットする。
「っぐ!!やめっ!!」
やめろと言う前に拳が顔面を捉えて、言いたいセリフが言えない。さらに振りほどこうと身体を動かすが足でがっちりとホールドされて動けない。そこへもう一人の背の高い不良も加勢してきた。
ハルは人生で初めてボコボコにされた。意識がかろうじてあるのだが身体が動かない。制服を脱がされ、そのポケットからでてきたスマホを不思議そうな顔で眺めている不良達の光景を最後にハルは気を失ってしまった。地面の冷たさが、痛みを少しだけやわらげた。
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