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かくれんぼ

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・・・


(……またか)

伸ばしたままの腕を見上げ、何かを掴めなかった指先をぼんやりと眺めた。

小雪さゆき、まだ寝ているの? いい加減、起きたらどう?  」

長閑のどかの声が聞こえ、慌てて布団から飛び起きた。
この前、言われたばかりなのだ。

『そんなに起きてこないなら、朝餉を作らせては勿体ないわね』

と。
長年の付き合いだ。これが単なる脅しでないことは分かっている。

「長閑、待って!  起きてます……!起きてますから、朝餉は残しておいて!!」

一応はこの邸の姫である私の、何て情けないことだろうか。
しかし、幼馴染みである彼女はやると言えばやる。
普段は名前通り穏やかであるが、怒るととんでもなくめんどくさい。
そして、意外と沸点は低いのだ。
まあ、そんなところも大好きなのだが。
それに、寝坊が過ぎる私は何も言えない。

「色気のない台詞ね、眠り姫様。朝の第一声が、朝餉の心配だなんて」

起きがけの、寝乱れても全く艶のない私を一目見て、上から盛大な溜め息が降ってきた。
呆れたような、でも、心配そうに私の目をじっと覗き込んでくる。

「また、あの夢? 」

私の側に膝をつくと、チラリと辺りに目を走らせる。
さりげなく何も異常がないことを確認し、ぽんと肩を叩く。

「……うん」

私がなかなか起きてこない日は、決まってあの夢を見ていると知っているからだ。
そして、それが皆の言う「良くないもの」のせいだと信じている。

「まったく、一彰かずあきは何をしているのかしら。陰陽師なんて名乗っているくせに、何の役にも立たないわ」 

可哀想に、こういう時は必ず一彰に矛先が向く。
私をぎゅっと抱きしめると、長閑はここにはいないもう一人の幼馴染みに文句を言い始めた。

「まあ、一彰は、結界やら呪いなんて気分の問題だって自分で言ってるからね。文句は言えないわ」

「……陰陽寮に勤めているというのに、それもどうなのかしら」

要は余ったそれなりの官職が寮に入っているのだと、一彰は人目を憚らず言ってのける。
もちろん、力をもった陰陽師も中にはいるのだろうが、私は一彰の言うことも一理あると思っている。
それを口に出していいものなのかはおいといて。

「効かなかった時の逃げ道を用意しているだけよ。でも、そうとも言えないのが癪なのよね。だって、あの時あいつがいたから、小雪はここにいるのかもしれないもの」

そう、あの時。一彰は私といた。
私自身の記憶は朧なのだが、どこかに消えていた私を見つけ、「こちら」へ必死に連れ戻してくれたらしい。
確かに、私が今無事でここにいられるのは一彰のおかげだ。それに――。

「もう、小雪ったら」

ぐうっとお腹の虫が鳴き、考えを中断させた。
まずは腹ごしらえだ。
腹が減っては、行動できないもの。

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