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ねえ、先輩。
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しおりを挟む「一華さん、おかえりー」
このお出迎えに慣れた頃、今朝の「いってらっしゃい」からぎゅっと抱きしめられるオプションが追加されてた。
「た、だいま」
前が見えない。
朝はまだ、軽いハグだったはずなのに。
なぜか今は、ぎゅうぎゅう胸に押しつけられて顔全体が実くんに埋もれそう。
(ギブギブギブ~~っ……!! )
どうにか、背中まで辿り着いた手でパンパン叩くと、クスッと笑った息でぐしゃぐしゃになった髪が少し揺れた。
「ごめんごめん。待ってる間、寂しかったからさ? でも、ふーん。やっと来たね。お兄さん」
髪を整えてくれるのに、またあたふたして。
そんな意地悪をゆっくり楽しんだ後、今初めて視界に入ったみたいにユウの方を向いた。
「どこまでやると、どう出てくるのかなーって。あ、別に、それだけじゃないよ? 一華さんにキスした理由」
さらりと、でも、見せつけるように指先が唇を一撫でする。
目をひん剥く私に注がれる視線は、思ったより意地悪どころか優しくて、思わず実くんのシャツに触れて確めてしまう。
「ついた? そんなこと、気にしなくていいのに。俺が好き勝手やってるんだから。……もう、一華さんはそうやって俺を煽る」
いや、嘘でしょ。
そんな平然と言われても、嘘だとしか思えない。
若くて可愛い子の、もっとずっと比べものにならないくらい可愛いすぎる反応にだって平静でいられるくせに。
「で、顔を出した次はなーに? 出てけって言うだけじゃ、俺は出てかないよ。だって俺、一華さんのこと気に入っちゃったんだもん。ねー、一華さん」
『ねー』のタイミングで、くるりと体が半回転して、ユウの方へ向かされる。
両肩に触れて、それを軸にして回ったのに。
『一華さん』
名前を呼ばれた時には、腕が後ろから腰に回されていた。
「それとも、俺がいなくなった方が一華さんにメリットがあるって根拠、あるの? 大体、忘れてない? 誘われたのは、俺の方だってのと。出ていく理由、どこにあんの」
腕、細いな。
なのに、どうやったら、こうしてぐっと大人ひとり押さえつけては寄せられるんだろう。
「それとも、他にいる? 一華さんにとって、ベストの男。一華さんがー、してもいいかなって思ってくれそうな奴。もしかして、心当たりあったり? 」
私の人生には、もうないかもって。
ううん、この先ずっとなかったらどうしようって怖かった。
でも、どんなにどんなに怖くて不安でも、今まで何もできなくて。
何も――胸キュンエピソードは何ひとつなかったこれまでを思い出して、実くんの言葉を理解できずに素通りしてく。
だから、それはあまりにも突然だった。
「イチのメリットはイチが決める。……けど、俺の方が、イチを大切にできるのは確か。で? ヤリ目的で居候してる自分と比べて、言わせて。お前、何がしたいの」
溜め息とともに一気に吐き出された日本語が、まるでいきなりまったく知らない言語を聞いたみたいに、受け取る準備もできておらず。
ただ、私の頭上で衝突している視線に困惑するしかできなかった。
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