翡翠の森

中嶋 まゆき

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翡翠の森

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・・・


――クルルに帰る。

その決意を、ロイも薄々感じとっていたようだった。
彼に話そうとする度に、話題を変えられたりして。

(でも、今日こそは言わなくちゃ)

しばらく続いた慌ただしさも、幾分落ち着いたように思う。
双方の働きかけにより、若干ではあるが互いについての考え方も改善してきたようだ。

「……どうして? まだ、やるべきことはあるよ」

恐らく彼が意図的に軽くしていた声の調子が、一気に暗くなる。

「だから、よ」

目指すものには、まだ遠く及ばない。
だからこそ、やり遂げたいと思うのだ。

――クルルで。

「こっちの様子も気になるけど、アルフレッドやキースさん……ロイが頑張ってる。その成果は、少しずつ表れてるわ」

想定していた混乱も最小限に抑えられているし、少数ではあるが、これまでを改めようという声も出始めた。

「ああ。だから君が……」

「だから……私の故郷でも」

ここで皆の手伝いができるなら、もちろんそれも嬉しい。
何よりも、大好きな人の側にいられるのだ。

「私は祈り子にはならない。なりたくないし、そもそも力なんてもってない。でも、きっと……架け橋にはなれる」

このままここにいて、できることは何だろう?
もしクルルに帰ったら、何かできることがあるだろうか。

何度も何度も自問しては迷い、甘い愛情表現に溺れてしまいたくもなった。
これが、自分たちしか目に入らない恋だったら……今頃そんなことを考えて、泣きたくもなった。

(でも、それは私だから)

とても理解できないものの犠牲となった、二人の間に生まれたのも。
訳の分からない役目を押し付けられたのも。

――あの森で、運命のような出逢いをしたのも。

(私よ)

「冷えきっていた二国の間で、今一番トスティータの人たちと触れ合えたのは、私だから。今は私しか、クルルで伝えることはできない。だって」

辛い。
苦しい。
言葉にするのが、こんなにも息苦しいなんて。

「ロイと一緒にいたのは、私だもの」

彼は唇を結んだきり、返事はない。
怒らせたのかもしれない。
もういいと思われたのかも。それでも。

「私も諦めたくない。……ロイが教えてくれたの」

彼と逢わなければ、何も知らないままだった。
もしかしたら、この痛みもなかったかもしれないけれど。

「……ありがとう、ロイ」

――逢えてよかった。

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