翡翠の森

中嶋 まゆき

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落涙

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戻った先の、夫婦の部屋は冷えた。

「全て、ご存じだったのですね。私たちは、貴方を軽んじていた」

「そう大したものではない。そもそも貴女を選んでいなければ、こうはならなかったのだからな」

「……でも……私は選ばれてよかったと、今日初めて思いました」

そう言われては、これを尋ねずにはいられない。

「あの男が言ったことが、正しいとしても? 」

既に察しているだろうか――そんな無意味なことを思うあたり、いつしか自分の中に生まれたものは真実なのだろう。それでも、やらざるを得なかった。

「マクライナーに漏らしたのは私だ。どう動くか、見越したうえで。それもまた、奴は分かっているんだろう」

――『舅を殺したのだから』

「思ったとおり、手筈を整えてきた。……手を汚さずに済む方法を。だが、私は謝らん」

「……必要ありません」

王という呼び名で裁き、死罪としたなら。
ゴールウェイの恨みは更に募り、復讐という名目を与えてしまう。
北に討たれたという事実は確かに――必要だったのだ。
キースがそこまで配慮したとは思えないが――エミリアにこれ以上の罪を重ねさせない為に。

「陛下は為すべきことをなさいました。……ただ、それにすぎないのです」

「もしも、貴女がまだおかしな真似を続けるのなら。言ったとおり、私は貴女を殺さねばならない」

ただその一言がほしいと、早く罰してくれと。
そう言いたそうに見える彼女に、この十字架がどれほどの重さになるのか。

「……私にそうさせるな。エミリア」

それでも、言わずにはいられなかった。
――これは罰なのだと。

「はい。まるで意味のない言葉かもしれませんが、どうか言わせて下さい」

足下に跪かれ、アルフレッドは初めて狼狽した。

「もう二度と、貴方を裏切ったりしません」

――彼女の口からそんな言葉が出てくるとは、予想だにしなかった。

それを信じることは許されない。
その涙が、本物かどうか。
もしも今後、本当の意味で結ばれることがあったとしても。
この先ずっと、ほんのすぐ側で疑っていなければいけないのだ。

ともに、それは辛いだろう。苦しいだろう。だとしても――……。

床に伏したままのエミリアを無理やり立たせると、まるで引き合うように唇が重なる。

――夫婦が交わした、初めての口づけだった。


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