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乙女が消えた日
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「……っ、く……」
痛みに顔をしかめる。
鎖で繋がれた両手首が擦れ、血が滲む。
堪えきれずに漏らした声が反響し、様々な感情がロイの中で渦巻いていた。
焦り、苛立ち、不安。
「……ああ、ったく……」
それらを払拭しようと、わざと大きく悪態を吐いた。だが、後悔はさほどできなかった。
どこかで、こうなることを予期していたからだ。
ただ、それがとても意外な形だっただけで。
《……ったく、王子様が聞いて呆れるよ。何やってんのさ》
マロが文句を続けてくれる。
悔しいが、この暗い場所で囚われの身となっている今、彼のおかげで気が紛れるのは確かだった。
「そんなことより……ジェイダはどうしてる? 」
本当は、もっと他に心配すべきことがあるのだろう。
自分が囚われていることが、トスティータで発覚すれば火蓋を切る理由となってしまう。
キース辺りが喜びそうな展開ではないか。
それに何故、ここに閉じ込められることになったのかも。
(……どうして)
それほどまでに、恨まれていたのだろうか。
やはり、自分は彼らにとって敵にすぎなかったのか。
今まで信じてきたことは、すべて幻想でしかなかったのか――。
(いや、違う。そんなはずない)
ぐるぐる思考が回る度、決まって辿り着くのは。
《……それが、何度も呼びかけてるんだけど》
ジェイダ。
目を閉じれば、浮かんでくるのは彼女の笑顔だ。いや、それだけではない。
怒った顔も。
泣きそうで泣かない顔も。
照れた時、目を泳がせることだって。
挫けそうになるロイを、励ましてくれる。
無駄ではなかったのだと、きっとこれから芽が出るのだと、もう一度信じさせてくれる。
口説き文句の一つや二つを怒るくせに、そっと抱き寄せただけで無言になって。
上昇する体温が愛しいと思う。
この気持ちは消えはしないから。
(……まだだ)
「……そう。僕が無事なことだけでも、伝わればいいんだけど」
ジェイダの返答がないことには触れなかった。
彼女に何かあったなど、考えたくもない。
そんなことになったなら、それこそ正気ではいられないに違いない。
《無事だって? ……キミもジェイダのことを言えないくらい、お人好しだよ》
今がどういう状態になっているのか不明だが、デレクやジンが大っぴらに城内を探し回るのは不可能だろう。
「まさか。ただ、彼女に出逢って、いっそう諦めることができなくなったから、かな」
ここで諦めて果てることは、再び彼女を抱きしめることはもちろん、それ以上に触れることも叶わなくなる。
――カツン、カツン。
靴音が響き、マロがポケットに身を隠す。
「……やあ。待ってたよ」
もう一度、姿を現すと思っていた。
痛いほど胸が鳴っているのを耐え、できるだけ穏やかに話しかける。
「どういうことなのか、話してくれ」
まっすぐに、自分をここに繋げたその人物を見つめて。
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