翡翠の森

中嶋 まゆき

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まくらべがたり

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「覚えてる? 僕も男だからね。……女の子が知らない方がいいことだって、あるんだよ」

前にも言われた。
その状況を思い出しかけて、やめる。

知りたいような。
知りたくないような。
チラリと上目で窺ってみたが、ロイはにっこりするだけだ。

《あー、もう! ボクは休みにきたの! 森の静寂を邪魔しないでよ。……ったく、人間ってヤツは……》

頭の中で大声を出され、一瞬だけだがクラクラした。
それが治まった時には、既に子リスの姿はない。

「……人間って奴は、か」

「……」

ポツリと反芻するのが切なくて、ジェイダはもう一度、彼の胸に頬をすり寄せた。

「暗いから、よく分からないな」

トクリ。
また、ロイの心臓が大きく鳴り始める。

自分のものが落ち着いたのか。
それとも、彼が緊張しているのか。
ロイが隠すように、ジェイダの頬を持ち上げた。

「せっかく君といるのに、顔が見えないのもね」

そう言ったかと思うと、ぎゅっと抱きしめてくる。そしてそのまま、パサリと横になってしまった。

「……っ、ロイ……!? 」


側に置かれた灯りが、思ったよりもくっきりと彼を浮かび上がらせる。
となれば、こちらの顔も彼の目にしっかり映っているに違いない。

満足そうに笑うところを見ると、やはりそうなのだ。
羞恥と彼の拘束から逃れようと試み、すぐに諦めた。

明日には、とうとうクルルに入る。
ロイの言うように、このひとときが貴重だと思えたのだ。

「本当にあったかいね」

夜だというのに、トスティータの日中よりもずっと暖かい。

(でも、それだけじゃなくて……)

包み込む腕も、何よりもジェイダ自身が熱を発している。
だが、時間が経つにつれ、緊張よりも心地よさが勝ってきた。

「眠い? 」

何故かといえば、多分……彼が口で言う以上には、触れてはこないからだ。

(そんなこと、あるはずないのに。私ったら……)

何かに困惑して、何かを期待していた。

馬鹿みたいだ。
緊張の糸が切れ、一気に眠くなってくる。
もちろん今もドキドキはするけれど、この温かさが眠りへと誘う。

「いいよ、寝てても。しばらくしたら起こしてあげる。……かなり複雑だけどね」

(意識しないはずないよ)

苦笑するロイに、心の中で言い訳する。
好きな人と二人、誰にも咎められずに寄り添っている。それが、とても幸せで。

こうしていれば、大丈夫。
そんな守られている安心感が、瞼を重くするのだ。


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