翡翠の森

中嶋 まゆき

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まくらべがたり

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「到着」

そう言うと、馬から降りるのを手伝ってくれた。
そして、着いた先はもちろん――禁断の森。

「夜でも暖かいんだね」

トスティータ用の厚着をしていては、汗ばんでしまうくらい。
彼が上着を脱いだのを見て、少し迷った後ジェイダもそれに倣った。

「おいで」

ロイに促され、そろそろと隣に座る。
それがもどかしかったのか、ぐっと抱き寄せてきた。

「そんなに固まることないだろ」

密着するのは初めてではないが、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「だって……本当にいるの? 」

まして、他に人がいるなら尚更だ。

「残念ながらね。でも、気にしなくていいよ。くれぐれも、邪魔はするなって言ってあるから」

(……と、言われても)

人前どころか、その人は常にこちらを見つめているのだ。
彼の関心はロイだけで、ジェイダのことは目に入らないかもしれないけれども。

「ほらほら。僕は一分一秒も惜しんで、君との逢瀬を楽しみたいの。集中してくれないと困る」

集中。

ふと気づけば、頬は彼の胸に接していて。
少し速めの鼓動を聞くのに耐えかねて、顔を上げる。
そうしたら、次に目に映るのはくっきりとした喉仏。

(……無理! というか、集中したらとてもマズイと思う)

ロイの言うように、意識を向ければ向けるほど、彼が男性であることばかり感じ取ってしまうのだ。

『……我慢なさるつもりかしらね? 』

そんな、ジンの一言も。

(ジンめっ……)

耳まで熱くなってきた。
自分の心臓の音が大きすぎて、もう彼の音を聞くことはできない。
それとも、彼は落ち着いてきたのだろうか。
そういえば、随分と涼しい顔をしている。

「ぷっ……何を考えてるの? 」

ゆでだこ状態なのに吹き出すと、顔を覗きこんでくる。
せっかくの暗がりなのに、こうも近くてはすぐにバレてしまうではないか。

「マロみたいに、考えが読めたら面白いのにな」

「……絶対ダメ」

「そんなに言えないことって、何だろうね? 」

拒否されたのが、なぜこうも楽しいのか。
ロイはますます、ジェイダをからかって止めない。

(マロ、ダメだからね! ……って、いないかな? )

《……頼まれても嫌だよ、そんなこと。ボクだって、乙女の妄想を読むほど悪趣味じゃない》

今まで大人しかったので不在かと思いきや、ものすごく不愉快そうにマロが姿を現した。

「あ、いたのね」

《いたよ!! キミらね、ボクがいないかどうか、確かめてから抱き合ってくれない!? ロイは知ってたんだし!! 》

「ごめん。忘れてた」

嘘っぽいロイから、ぴょんとジェイダに飛び移る。

《嘘つけ! そんなんだと、ロイこそ頭の中をジェイダにバラすよ》

「やめろ。ジェイダの為にも」

(それは、どういう……)


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