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まくらべがたり
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しおりを挟む「絶対に僕が守るから」
「ロイ? 」
それでは駄目だ。
別に自分のことを低めるつもりはないが、彼に何かあってはいけない。
「僕のことは、彼が守ってくれるさ。だから、ジェイダのことは僕が必ず。ま、何も起きないよ」
(大人しく部屋にいた方が安全だわ。私も、ロイも)
更なる我儘を言えば、行きたい。
深夜に部屋を抜け出しての逢い引きというには、彼の表情が硬いことも気掛かりだ。
そして、何よりも。
(私が、ロイといたい)
「はあ……こんなに仕事のない護衛なんて、他にいませんよ」
「何よりじゃないか」
ジェイダの想いを見透かしたように、ジンが深い溜め息を吐いた。
「いいですか、気をつけて下さいよ! 」
そう言うと、彼女は部屋に戻ってしまった。
「あ、えっと……着替えてくるね」
慌てて、ジェイダも後を追う。
(どうしよう。待たせるのも悪いし)
何を着たらいいのか。
軽くパニックだ。
遊びにここまで来たのではないので、深く考えず準備してしまった。
固まるジェイダの後ろで、ジンが笑った。
「ジェイダの服は、貴女の好みを考えてロイ様が見立てたものばかりだから。ロイ様も、どれもお好きだと思うわよ」
「……そうなの? 」
あの日選んだ服を参考に、ここまで用意してくれていたのか。
十分すぎる量だったので、自分から申し出たことはなかったのだが。
(大変なのに、そんなことまで気を遣って)
「……ごめんなさい。そんな場合じゃないのに」
クルルはもう、目と鼻の先だ。
そう無理をせずとも、今日中に入国できたくらい。それから先、何が起こるか分からない。
いや、考えないと言うべきか。
ただ願い、その為に動くだけ。
二国の関係が改善され、干ばつや寒波…心に残るしこりから、解放される為に。
(これじゃ、キースさんに嫌味を言われても仕方ないわ)
こんな時に、デート。
それも、来ていく服をとっかえひっかえ。
(本当に、ただの女の子以外の何でもない)
「こんな時だからこそ、よ。ロイ様と貴女。貴女と私みたいに……国は違っても、互いを好きになれたなら。事態はもっと好転する。絶対に」
ジンの話を聞きながら、寝巻きを肩から落とした。適当に聞いているのではない。
(ありがとう、ジン。勇気、出た)
薄明かりの中、ぼんやりと浮かぶ自らの肌を見、大きく頷いた。
(大丈夫。みんな、まだ踏み出す勇気がないだけ)
たった一人でも賛同してくれる人が現れれば、きっともう一人見つかる。
そしてそのまたもう一人を生み出す、きっかけになれば。
「さ、今は堅苦しいことは忘れて、いってらっしゃい。要報告よ」
渋っていたのが嘘のように、ジェイダは外に閉め出された。
バタン。
すぐ後ろでドアが閉まり、思わずビクッと反応する。
「お、おまたせ」
「いや。眠くない? 」
緊張のおかげで、パッチリ目は覚めている。
「ありがとう」
首を振ると、自然に手を取られて歩き出す。
「どこに行くの? 」
宿の外に出ると、大人しく馬が待っていた。
悪いな、というようにロイが撫でれば、彼の手にすり寄ってくる。
大丈夫、とも、仕方ないな、とも言っているみたいに。
「どこだと思う? 」
こんな時間にこっそり抜け出して、彼が行きたがる場所。
それは、もしかして――。
「行くよ」
返事を待たず、ロイが馬を走らせる。
ジェイダも慌てて、彼の腰にしがみついた。
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