翡翠の森

中嶋 まゆき

文字の大きさ
上 下
91 / 196
招待

4

しおりを挟む



「それで、内容というのは」

皆が席に着いたと同時に、キースが矢継ぎ早に質問を飛ばす。

「待て、マクライナー。……これはまず、ジェイダに向けて話したい」

驚いたのは、ジェイダだけではない。
キースも同じく目を丸め、そして不満そうに顔をしかめた。

「……私はそれほど、陛下の信を得られていないのでしょうか。政など無関心な、女性と比べても」

「蒸し返せば、堂々巡りだぞ」

男たちの会話に、ジェイダは苛立ちを覚えた。
こちらは緊張して仕方がないのだ。
エミリアにいたっては、今にも泣きそうなくらいである。さっさと話を進めてほしい。 

「キース。信じてほしくば、それなりの言動をすべきだ。兄さんがこう言うのは、ジェイダに関係があるからだよ」

クルルのことなのだから、何も不思議ではない。
そもそも関係がなければ、連れて来られることもなかったのだし。

「文には当然、国王・国王妃殿下へのお祝いが述べられているけど。お察しのように、要点はクルルに雨が降ったことだ」

そう思うのに、胸が苦しい。

「ついては、約束通り同盟を」

それどころか、ギクリと嫌な音を立てるのはどうしてだろうか。

「早急な締結を目指す為、是非、一度クルルへお越し頂きたい」

――祈り子を伴って。


クルルに帰れる。

(どうして、不安で堪らないの? )

慣れ親しんだ、母国に帰るのだ。
友人も、あの強い日差しだって恋しいのに。

「できる訳ないでしょう、そんなこと」

ジェイダが反応するよりも早く、キースが吐き捨てた。

「陛下をそのような、危険な場所へ……ああ、いえ。ご公務や、お世継ぎ、その他諸々大切な時期です。それをつい先日まで、敵だった国へ送り出すなど」

わざとらしい言い直しは置いておいて、キースの言うことももっともだ。

国の頂点に立つ者に、何かあれば。
もしくは、国王不在時にトスティータに何か起これば。
まして今は、新国王の手腕を値踏みする目も多いだろう。
任せておけないとでも思われて、ゆくゆく内乱が起これば目も当てられない。

だが、元々こちらから申し出た和解案だ。

「キャシディは来てくれたぞ。その後はともかくとしても」

「しかし、今の貴方様とは立場が違う。あんな、ふざけた話し合いと一緒にされても困ります」

せっかくの招待を、『信じられないから、行けません』という訳にもいくまい。

(そうだ。私……)

自分で行けばいいではないか。
いつかは、ロイと離れるのだと思ったばかり。
それが、こんなに突然訪れるとは。
けれど、キースの言うように、アルフレッド直々とはいかないならば。

「わた……」

「僕が行く」

この為に、キースよりも先に聞くべきだと言われたと思ったのに。

ロイが諾を言わせてくれなかった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

いくみ
ファンタジー
パトリシアは卒業パーティーで婚約者の王子から婚約破棄を言い渡される。 しかし、これは、本人が待ちに待った結果である。さぁこれからどうやって私の13年を返して貰いましょうか。 覚悟して下さいませ王子様! 転生者嘗めないで下さいね。 追記 すみません短編予定でしたが、長くなりそうなので長編に変更させて頂きます。 モフモフも、追加させて頂きます。 よろしくお願いいたします。 カクヨム様でも連載を始めました。

盗賊少女に仕込まれた俺らの使命は×××だぞ!

halsan
ファンタジー
 一人は、魔王に処女膜ぶち抜かれたのちに記憶を消され、その後勇者との大恋愛の末にタナボタで王妃にまで登りつめた娘から産まれた王子様。  もう一人は、娘と娘の友達との久々の真剣勝負に身体が火照ってしまった夫婦が、年甲斐もなく頑張ってしまった結果、見事に命中して産まれた一応魔法エリートの少年。  この物語は、たまたま別大陸に飛ばされた二人がお目付け役である五色の乙女たちやその他のバケモノ共から解放された幸運に感謝をしながら、彼女たちに仕込まれた様々なゲス知識で無双を開始するものである。  某大手サイトで「盗賊少女に転生した俺の使命は勇者と魔王に×××なの!」の続編として書いたのですが、赤紙が来ましたのでこちらにて改めて連載します。  よろしくお願いします。

異世界転生の理由。

七瀬美織
ファンタジー
 子供の頃から、ふと気がつくと周りが私の真似をしている? 偶然? 自意識過剰? 何故か『私好み』なモノが世間に流行ります!  これは、私が異世界転生させられた理由の物語 …… 。 『魔霧の森の魔女~オバサンに純愛も世界の救済も無理です!~』と、ちょっぴりリンクしています。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

土魔法を最強と信じて疑わないお爺ちゃん賢者が土魔法最弱の世界へとログインしました ~それでも儂は土魔法が大好きじゃ!~

パンダヒーロー
ファンタジー
異世界にて土魔法を極めた賢者は、また別の異世界へと転移し土魔法の素晴らしさを広めようとする土魔法狂だった!? ……と同時にいろんなもの(危険なもの)を平気で研究しようとするマッドサイエンティストな爺ちゃんでもあり…… そんなお爺ちゃん賢者の異世界転移物語! ※小説家になろう様でも投稿しております!

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

処理中です...