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約束
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時々途切れながら語られるロイの話に、ジェイダはただ、耳を傾けた。
「アルはああ見えてお節介だし、情にも厚い。弟だっていうのに、それを知ったのは大分経ってから」
彼の兄の呼び方を不思議に思っていたが、やはり事情があったのだ。
「僕の名前……君は訊かないでくれたね。変だと思ったはずなのに。今更だけど、ありがとう」
彼の名前にも。
「私が会ったのが、“ロイ”だっただけよ」
今、ロイはどんな顔をしているだろう。
すぐそこにあるのに、とても確かめることはできない。
「そうだね。……僕は王の器じゃない。子供の頃の僕は、その事実にだけ目がいって……他のことを知ろうともしていなかった。それを与えられた人間が、どんなに苦しいかなんて」
けれど、ロイは知ってしまった。
兄の優しさに触れ、歩み寄るうちに気がついてしまった。
「アルが不幸だなんて、言うつもりはない。でも、僕だってそうだ。僕にしか、できないことがある。……きっと、ずっと前から」
小さなロイを、誰が責められるだろう。
孤独や疎外感。
重くのし掛かるものを払いのけて、彼はこうして立ち向かっている。
「そう思えて、しかも行動できるのはすごいことだわ。私なんてロイに会わなかったら、暢気に過ごしてただけだもの」
そして、取り返しがつかなくなってやっと、事実を知るのだ。
「そうかな。君自身が知らないだけで、いや、僕には想像もつかないことを、やってのけてると思うよ」
そう言われては、黙るしかない。
むくれるジェイダの頬を、長い指が楽しそうに撫でた。
「雨も降ったし、早いとこ仲良くすりゃいいのにね。僕たちみたいに」
ロイの声が僅かに変わったのは、気のせいだろうか。
さっきから止まったままのような、彼の視線も。
「え、あ、ああ……そうね」
思わず頷いてしまったが、果たして正解だったのか。
「……ふうん」
往復していた指を止め、ロイが意味ありげに呟く。
(~~間違ったかも……!! )
やはり、思い過ごしではない。
口調は穏やかだが、彼を纏う空気がいつもの何割増しか意地悪だ。
「そうなったら、僕の名付け親に君を紹介したいな」
慌てるジェイダをよそに、ロイは話を戻してきた。
「あ……」
安堵したのか、物足りなかったのか。
とにかく、ジェイダはよく見る夢を思い出した。
「気が早い? 」
「えっと。そういうことじゃなくて、偶然だと思うんだけど。最近、よく夢を見るの。クルルの男性と、トスティータの男の子の。今の話を聞いていたら、ロイの子供の頃みたいだなって……」
青い瞳が見開かれ、急いで首を振る。
「ごめんなさい。ただの夢なの」
「謝ることはないよ。それに、僕はそうは思わない」
彼を見上げれば、言葉通り怒ってはいないようでほっとする。
「……参ったな。別に、僕が話してることだから、いいけどさ。でも、君に見られたと思うと、恥ずかしいというか」
「可愛かったよ? 」
本心だったが、ロイは褒め言葉と受け取らなかったらしい。
首を傾げるジェイダに言っても無駄だと悟ったのか、軽く息を吐くにとどめていた。
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