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賭け2
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しおりを挟むドアがノックされ、体が凍りついた。
誰だろう。
クルルの乙女に用事がある人など、あの兄弟の他にいるだろうか。
しかし、二人とも別れたばかりだ。
(……もしかして……)
脳裏に過ったのは、キース・マクライナー。
一度の会話で分かる。彼は危険だ。
「ジェイダ? 」
けれども、ドア越しに聞こえるのは別の声。
「……っ、ロイ……? 」
ロイだ。
彼の声だと認識した途端、すぐさまドアを開けていた。
「今、いいかな」
飛びつかんばかりの勢いで、前に出た体を引き戻す。
そんなジェイダを見て、ロイは僅かに口角を上げる。
「……うん」
怒ってくれてもいいのに。
さっきみたいに、声を張り上げて責めてもいいのに。
微笑んでいるはずのその表情の方が、ずっと悲しい。
「どうぞ」
二人分のお茶を淹れると、ジンはそれ以上何も言わず、下がってしまった。
カップがテーブルに置かれたことで、どうにか二人とも席には就いたけれど、何て言っていいか分からない。
仕方なく、ぼんやりと湯気を見つめる。
でも、それも長くはもたずにふと顔を上げれば、ロイも同じようにカップを見ていた。
「……冷めちゃうね」
クスリと笑って、取っ手に指を掛ける。
その優雅な仕草とは対照的に、ジェイダはパッとカップを持つと、その両手で包みこんだ。
「来てくれてありがとう」
何か言わなくては。
そう思うあまり、咄嗟にそんなことが口を突いた。
唐突すぎただろうか、ロイは無言のままだ。
「明日、会いに行こうと思っていたの。……会ってくれるか、心配だった」
弁明しようとすると、ロイが首を振って止めた。
「……お礼なんて言わないでよ。僕は君に、何度謝っても足りないっていうのに」
そう言うロイは辛そうで……泣きそうですらある。
今はお礼を言っても、彼を苦しめるだけだ。
それに気づくと、尚更会話が続かない。
「……マロの声を聞いたんだね? 」
口を開けたり閉じたりしていると、気を遣ってロイの方から切り出してくれた。
やはり、彼も知っていたのだ。
そういえば、彼はマロをペットではなく相棒だと言っていた。
「あの時は、僕に聞こえないよう遮断していたんだ。ジェイダだけに意思を届けていた」
そんなことができるのか。
いや、子リスがテレパシーらしきものを使えるだけで、考えられないことだ。
そこを受け入れてしまえば、大したことではない気もする。
「マロは何者なの? 」
「自称・森の精霊だって。それ、確かめる術はないんだけどさ。僕も、頭が変になったって最初は本気で悩んだしね」
間抜けな質問に、自分で顔をしかめる。
そんなジェイダに笑うと、肩を竦めた。
「アルフレッドにも聞こえる? 」
「うん。最初、僕がマロと言い合いをしているのを見かけてね。大変だったよ。アルも、僕が狂ったと思い込んでたし。アルがそれじゃ、どうしようもない。渋るマロに喋らせたんだ」
それもそうだろう。
これからは、他人の目に気をつけなければ。
「これで、僕が正常だと証明された。アルはごねたけどね。“私には聞こえていない”ってさ」
冗談ぽく話す、ロイが切ない。
それに応えて、上手く笑えただろうか。
「それに……君に逢えた」
逢うことが「できた」――それは肯定的であるのに、彼もまた苦労して微笑んでみせる。
「マロがジェイダを連れて来た時、本当だったんだってやっと思えたんだ。女の子に会っただけで、おかしいかもしれないけど。これがきっと、二国の未来に繋がる。本気で、そう思ってたんだ」
どんなに失望したことだろう。
やっと逢えた祈り子が、こんなにも平凡な女の子で。
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