翡翠の森

中嶋 まゆき

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賭け

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・・・


そして、その日はやってきた。

(……全然、眠れなかった)

寝返りを打つのすら飽きていて、天井を見つめたままの目が、今頃になって眠らせてくれと主張する。

無理もない。
会談が今日開かれると知ったのは、何と昨日のことである。それも、

『言っておくが、明日だからな。何の準備もないだろうが、心づもりだけはしておけ』

という、アルフレッドの一言だけ。

『何で、言ってくれないの!? 』

いきなり言われても困る。
掴みかかりそうなジェイダを面倒くさそうに見ると、彼はしっしっと手で払った。

『文句なら、ロイに言え』

それだけ言うと、後は取り合ってもらえなかったのだが。

「聞いてなくて、よかったかも」

早々に知らされていれば、もう何日も眠れない日が続いたのかもしれない。
もしかすると、ロイはそれを心配して黙っていたのだろうか。

(……まさかね)

ベッドの上で、ずっとぐずっていても仕方ない。
とてつもなく長い夜が終わり朝がくれば、もう逃げることはできないのだ。
覚悟を決めて、ふんわりとした布団を蹴飛ばした。行儀は悪いが、何となくスッキリする。

支度を終えたジェイダの前に現れた二人は、王子様そのものだ。
正装しているせいだろうか、知り合いの顔を見て緊張は解れるどころか、高まるばかり。

「ジェイダ」

ガチガチに固まった姿に苦笑すると、ロイがそっと手を繋いできた。

「大丈夫」

温かい。
空気が冷たいから、そう感じるのだろうか。
そんな言い訳をしながら、ついその温もりを求めてしまう。
恥ずかしいのにとても離すことなどできず、ただロイに引っ張られて歩いた。

何度か角を曲がったり、真っ直ぐなようで迂回するような通路を歩いて連れて行かれた部屋には、大臣らしき男が数人。
中でも若い男と目が合った。
彼は二人の手を不愉快そうにちらりと見、すぐに正面へと視線を移す。

彼らにしてみれば、ロイの考えは夢物語のようなものなのかもしれなかった。
得体の知れない小娘など連れて来られ、さぞかし頭が痛いのだと思う。
それどころか、重要な席に居合わせるなど。

「……来たよ」

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