樹の籠

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第1章 個性

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【第1章  個性】

   【個性】と聞いて、多くの日本人は、空気が読めない、独特な人、才能がある人、と答える。
 実際、【個性的】と言われる人は、大体これに当てはまる。そして、その典型的な人物が今目の前にいる。

 「それが俺だと?」
 
 「えぇ。そうです」
 
 彼は、京 静(かなどめ しずか)。私、樹 雫(いつき しずく)が所属する、「被害者後援部署」略して「被援」に、協力という形で在籍する、犯罪心理学者だ。
 私はぶっちゃけ、この男を信頼していない。この男が、被害者に寄り添う心を持っていないと思うからだ。

 「人を見た目で判断しない方がいい。俺だって、寄り添うべき被害者がいるなら寄り添うさ」

 「寄り添えてないじゃないですか、全然」

 私とこの男の目の前では、泣きわめく40代半ばの女性。化粧っ気もなく、半狂乱的に泣いて、怒鳴って、その場にいた警官に押さえつけられている。
 
 「アンタに何がわかんのよ!子どもを失った母親の気持ちなんて分からないでしょッ!」
 
 「あぁ。分からないね。物理学的に俺は母親になれないからな。」

 「ッ!……ふざけんじゃないわよっ!」
 
 ……この男は学ばないのだろうか。
こうなったのは、約2時間前に遡る。


 11月22日に、○○区で行方不明事件が起こったのが最初だった。その日、母親はママ友会があり、子どもは、塾だった。父親は、有名な会社の専務であったため、3人家庭には大きすぎた豪邸に住んでいた。
 行方が分からなくなったのは、その翌日の23日だったと言う。

 その日から、約1週間警察が必死に捜査をして探したが、見つからず、打ち切りになってしまった。だか、その1週間後である29日に遺体となって見つかった。
 
 死因は、火傷による、ショック死だった。
 遺体の状態は、凄まじくおぞましいものだった。足や、手などの致命傷にならない部分を何十回も刺され、その後にはガソリンをかけられて、火を付けられていた。
 焼死体となった我が子を見て、母親は警察を責め立てた。

「あんたらが早く探してくれていれば、この子は死ななかった!」

 気持ちは察する。そりゃ、我が子をこんな目にあわされて、正気な親がいるはずもない。しかし……

 「そもそも、子どもがいなくなるのに気が付かなかったのも問題があるがな」

 この男は、堂々とそう言ったのだ。被害者遺族の前で。
 
 
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