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プロローグ
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【プロローグ】
焦げ臭い匂いがする。周りの建物が崩れ落ち、工事途中だったであろう土地に放棄されていた鉄パイプが、ガシャーンと落ちてくる。
オレンジ色のカーテンに包まれているかのような景色は、言い方によっては綺麗で、現実では残酷な現状をものがたっている。
泣き声が聞こえる。熱くて熱くて水を欲している身体にムチを打って、その泣き声がする方へと、鉛のように重い足を引きずる。
ほっといても良かった。いつもなら、自分を最優先に考えて行動する。だって他人のために、自分を犠牲にするなんて馬鹿のすることだと思っていたからだ。なのに、足が勝手に動いて行く。その泣き声の方へと。脳みそが勝手に指示を出す。その子に寄り添え、と。
泣き声は、工事現場の奥。比較的、炎が届いていないところだった。そこには、泣いている子どもがいた。その子は、守られているように、男に抱きしめられた状態で泣いていた。……男は死んでいる。
「どうして泣いてるの?」
声をかけると、星のようにキラキラ光っている瞳がこちらをとらえた。そして、一瞬だが、目を奪われてしまった。
「グスッ…ズズッ……あのね?グスッ…お父さんがね?ズズッ……グスッ…動かないのぉ……」
もう死んでいるよ、とは言えなかった。きっと、最期を悟ったのだろう。せめて子どもだけは生き残って欲しいという思いで、自分を犠牲にしてパラパラと落ちてくる火花などから守っていたのだろう。
「お父さん…ズズッ…だいじょーぶなのぉ?グスッ…」
この子に真実を教えたとして。
きっとこの子は、一生引きずるだろう。自分のせいで、父が死んだと怒り狂ってしまうだろう。……それだけで済めばいい話だか。
「グスッ…君こそだいしょーぶ?グスッ…ケガしてるよぉ?グスッ」
「…………大丈夫だよ。もうすぐ助けが来る。君のお父さんは、今疲れて寝ているだろうからゆっくりお休みさせてあげよう?」
決めた。僕は一生この嘘を貫いてみせる。いいんだ。悪者は僕だけでいい。この、健気で純粋なこの子のためなら、何でもしてみせる。堕ちてしまった。絶対なりたくはなかった、アイツらのような、愛に飢えた奴らにはなりたくなかったのに。
でも、仕方がない。僕らは、歪んだ愛しか受けたことがないから、君にも歪んだ愛を向けるかもしれない。
だけど、軽蔑されようとも、君を想いたい。
だから、どうか……。僕らのことは忘れて欲しい。
いずれまた会う日まで。
焦げ臭い匂いがする。周りの建物が崩れ落ち、工事途中だったであろう土地に放棄されていた鉄パイプが、ガシャーンと落ちてくる。
オレンジ色のカーテンに包まれているかのような景色は、言い方によっては綺麗で、現実では残酷な現状をものがたっている。
泣き声が聞こえる。熱くて熱くて水を欲している身体にムチを打って、その泣き声がする方へと、鉛のように重い足を引きずる。
ほっといても良かった。いつもなら、自分を最優先に考えて行動する。だって他人のために、自分を犠牲にするなんて馬鹿のすることだと思っていたからだ。なのに、足が勝手に動いて行く。その泣き声の方へと。脳みそが勝手に指示を出す。その子に寄り添え、と。
泣き声は、工事現場の奥。比較的、炎が届いていないところだった。そこには、泣いている子どもがいた。その子は、守られているように、男に抱きしめられた状態で泣いていた。……男は死んでいる。
「どうして泣いてるの?」
声をかけると、星のようにキラキラ光っている瞳がこちらをとらえた。そして、一瞬だが、目を奪われてしまった。
「グスッ…ズズッ……あのね?グスッ…お父さんがね?ズズッ……グスッ…動かないのぉ……」
もう死んでいるよ、とは言えなかった。きっと、最期を悟ったのだろう。せめて子どもだけは生き残って欲しいという思いで、自分を犠牲にしてパラパラと落ちてくる火花などから守っていたのだろう。
「お父さん…ズズッ…だいじょーぶなのぉ?グスッ…」
この子に真実を教えたとして。
きっとこの子は、一生引きずるだろう。自分のせいで、父が死んだと怒り狂ってしまうだろう。……それだけで済めばいい話だか。
「グスッ…君こそだいしょーぶ?グスッ…ケガしてるよぉ?グスッ」
「…………大丈夫だよ。もうすぐ助けが来る。君のお父さんは、今疲れて寝ているだろうからゆっくりお休みさせてあげよう?」
決めた。僕は一生この嘘を貫いてみせる。いいんだ。悪者は僕だけでいい。この、健気で純粋なこの子のためなら、何でもしてみせる。堕ちてしまった。絶対なりたくはなかった、アイツらのような、愛に飢えた奴らにはなりたくなかったのに。
でも、仕方がない。僕らは、歪んだ愛しか受けたことがないから、君にも歪んだ愛を向けるかもしれない。
だけど、軽蔑されようとも、君を想いたい。
だから、どうか……。僕らのことは忘れて欲しい。
いずれまた会う日まで。
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