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episode.hotaka

「八重桜」と「藤穂高」

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 私は4月4日に生まれた。周りには黒い服を着た男が10数人で私を囲んでいる。その少し手前に医師がいる様だ。私は産声を上げるが、誰も祝福をしているようには見えない。その後すぐに透明な箱に入れられた。抱きしめてくれる人も話しかけてくれる人もいない。その透明な箱は移動して、黒い服を着た人が沢山いるところに連れていかれた。窓ガラス越しに母親と父親が見える。

「起きろよ!桜~!」

「ああ、穂高さん!もう朝ですか~。」

「もう朝の4時だよ、早く朝ごはん食べないと下げられるぞ!」

 穂高さんは、私の牢獄メイトで10歳差の先輩。彼女は大量に人を殺してこの牢獄に入れられた。つまり大量殺人鬼という訳だ。彼女はすでに死刑が確定されており、いつ呼ばれてもおかしくない状況だ。彼女は一番心を許せる人で、私が0歳の時から育ててくれた親のような存在だ。

「よし、髪も整ったし行くぞ!桜!」

「行きましょー!」

 食堂に着くと、いつものように大声で言い合いをしている女性たちがいる。ちなみに、ここは女性専用の牢獄で男はいない。数年前までは男女同じだったが、子供を作る囚人が増加してしまったせいで、別々となった。それから、男の目がなくなると女同士のけんかが多くなる。そんな時には、穂高さんが止めに入る。

「おいおーい、なにしてんのー?」

こんな感じで近づくと、穂高さんの強そうな体に力の差を見つけられた女性が喧嘩をやめる。殺人というレベルの高い犯罪者なのでそれも相まっていると思う。

 穂高さんの過去は知らないが、人の良さから極悪ではないことはわかった。

 私たち二人はいつものように雑談を交えながら、食堂で食事を楽しんだ。楽しむといってもここで最低限の食事しか出てこない。今日の食事はカレーライスだった。

 昨日もその前もずっとだ。なので、ラーメンとか寿司とかそういう食べ物は一日30分のテレビの時間でしか見たことがない。魚なんて生で食べていいことをテレビで知ったくらいだ。

 生まれてから一度も外に出ていないので、外がどうなっているとかはそんなに考えたこともない。

 外の世界を知っているものからすれば苦痛なのだが、ここで不自由を自由ととらえたものは最強なのかもしれない。

「桜。食べ終わったなら行くぞー。」

 私はまたボーっとしていたようだ。

「ああ、まってー。」

 すぐ自分の部屋に戻ろうとする穂高を追いかけていった。明日は、私にとって重大な日となることをまだ知らなかった。

 
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