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18.関係性

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吸血は、だいたい週に一度の頻度で行われた。ノアが地下室に降りてきたとき、僕の耳元で名前を呼んだら、それが合図だ。


「ウィリー、起きているか」


僕は返事をせずにもぞもぞと上体を起こし、暗闇の中に浮かび上がるノアの影を見つめる。その表情は伺えない。


初めて血を吸われた日から二週間が経った。二度目はまだ慣れず、罪悪感にも抵抗感にも似たものがあったが、三度目ともなると、どこかしらで期待している自分の存在を否定できなくなっていた。


血を吸われると、僕はおかしくなる。身体の芯の部分がぐにゃぐにゃする感覚が這い上がってきて、変な声を上げてしまう。


首筋に牙を立て、ノアの喉が血を飲み込むごくりという音が聞こえたとき、たまらなくなって僕はノアの背中に爪を立ててしまった。


「ノア、僕っ、きもちいい……」


ノアは僕を抱きしめた状態で、唇は離さずに後頭部をそっと撫でてくれた。心臓がぎゅっとなる。自分が自分じゃないみたいだ。ノアに血を吸われるのがあんなに嫌だと思っていたのに、いまは、一滴残らず吸われてもいいとすら思える。


時間感覚を失い、ふと気づいたときには傷口が塞がっていて、ノアが口元の血を舌で舐めとりながら僕の方を見ていた。


「ちょっと血を吸われたくらいでそんなに惚けた顔をして。ウィリーはもっといい子だと思っていたんだがな」
「ごめ、なさ……」


ぐうの音もでない。僕はいつからこんなに悪い子になってしまったんだ。


「冗談だ。可愛いよ」


ここで暮らすようになってから、ノアに褒められたいと思っていた。ノアに頭を撫でられたいと思っていた。今は毎日抱きしめられて、血を吸われている。もう褒められて撫でられるだけでは、満足できなくなってしまった。


「ノア、今日はしないの? その……」


血を吸われたあとは、僕が僕じゃなくなる。いつもなら絶対に口にできないような言葉が、自然とこぼれ出ていた。
ノアは一瞬だけ目を見開き、赤い眼球を輝かせてから、薄い笑みを浮かべた。


「そうか、ウィリーはキスがして欲しかったんだな」


ちがう。そう言いたかったのに、さっきとは打って変わって言葉が出てこなかった。
ノアの身体が再度近づいてきて、そっと唇を塞がれた。心臓が跳ねる。僕はなんてことを言ってしまったんだ。


「友達をやめるか?」


身体を離す瞬間、ノアが耳元でそう囁いた。
僕はなにも答えることができなかった。
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