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しおりを挟む「坊っちゃんが、そう言ったのですか?」
「……はい。でもそれがどういうことなのか、私にはわかりませんでした」
夜の、薄暗いある一室だ。話があると打ち明けたら、ミカエルさんが一階の角の部屋を指定してきた。
セーレがいない、ミカエルさんと二人きりになれるタイミングを見計らった結果、切り出すだけであれから三日ほどが経ってしまっている。セーレと私は、その間も気まぐれに散歩に出かけたり、部屋に呼ばれたかと思えば抱かれたりと、代わり映えのない毎日を過ごしていた。
代わり映えのない、とは言っても、それはセーレにとってという意味だ。私は毎日ドキドキしすぎて、もう心臓が持ちそうもない。
ミカエルさんはため息をつき、試すようにこちらをじっと見ている。
「お力になりたいところですが、記憶を取り戻す方法は私にもわかりません。坊っちゃんに直接聞いていただくしか。ルナさんはどうしたいのですか?」
冷ややかな目で見つめられて、私は言葉に詰まってしまった。どうしたいのか。自分のことなのに、とっさには断言できない。
元いた世界に帰りたい。それはもちろんだ。でも、もうセーレと二度と会えないとしたら……。
「……」
「……答えられないみたいですね。忘れているのかもしれませんが、坊っちゃんは悪魔なのですよ。ルナさんは、すでに惑わされていらっしゃるのでは?」
そうかもしれない、と思った。
セーレは悪魔なのだから、そのくらいの魔力は持ち合わせているのかも。
……でも。
「ネックレスがどこに行ったのか、そして、セーレと初めて会ったときのこと。どちらも、本当のことを知ってからじゃないと答えは出せません。ミカエルさんは、私がセーレと仲良くすることに反対みたいですけど……」
「反対も賛成もしていませんよ。私はただ、坊っちゃんには立派な悪魔としての自覚を持っていただきたいだけです」
「悪魔としての自覚って」
「人間と悪魔の間に生まれた子は力が弱まります。坊っちゃんがルナさんに惚れ込むのは勝手ですが、のちのことまで考えた行動をとってもらいたい」
(やっぱりバレてるんだ……)
急に頭痛がしてきた。子供ができれば私の元の世界に戻りたいという気持ちが消えるとでも思っているのか、セーレはどんどん節操がなくなってきている。ミカエルさんにはまだバレていないことを期待していたのに。
「あくまでも私個人の見解ですが、ルナさんがこちらの世界に来たことに、すべての謎を解く鍵が隠されていると思いますよ」
「私がこの世界に来たことって……セーレが力を使って呼び寄せたとか、そういうことではないんですか?」
「魔界から人間界に干渉することはできません。遊びに行く程度なら可能ですが、物、または生き物を運んで来たり、こちらから向こうに移り住んだりと言ったようなことはできないのです」
「……そうなんだ」
では私は、なぜこの世界に来ることができたのだろう?
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