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しおりを挟む食事の後、私の部屋として与えられたのは、セーレの部屋から少し離れた階段の脇の小部屋だった。最初はもっと広い部屋にしようと言われたのだけれど、なんだか落ち着かないのでこぢんまりとした部屋がいいと主張し、結果、ここになったのだった。
(なんかいろいろなことが起きたなぁ…)
見知らぬ世界に来たと思ったらそこはどうやら魔界で。
魔王の息子を名乗る子供に拾われて。
宝物だという流れ星を見せられて。
なぜかキスをされて。
(しかもディープ)
なぜかそれで興奮してしまったりして。
(最悪にもほどがある……)
おいしい夕食をごちそうになって。
広いお風呂を使わせていただいて。
部屋まで与えられて。
(でもこれって、よくよく考えたらすごい厚待遇だよね。……いっそこのまま、メイドとしてお城に就職するなんてのはどうかしら?)
そんなことをふざけて考えてみるものの、しょせんここは私の見ている夢の世界なので、とうぜん実現不可である。
(セーレはなに考えてるかわかんないけど、基本はいい子だしなあ。キスのことも、単にマセガキなだけかな。ミカエルさんもそっけないけど悪い人じゃなさそうだし)
寝ている私の脳内は、そこそこ楽しめる不思議な世界を提供してくれたみたいだ。それにしても振り返ると長い夢なので、それがホラーなんかじゃなくて本当に良かったと思う。
ベッドにごろごろしながらそこまで考えたところで、いつもつけているネックレスがないことに気がついた。
子供の頃からつけているお気に入りのものだ。銀色のチェーンに、小さな水晶がひとつぶついているシンプルなもの。
(どこかに落としたのかな?それともバスルームに置いてきてしまったか。……探しに行かなくちゃ)
わざわざそんなことをしなくても、夢から覚めた時にはいつものように首につけたままになっているだろう。だから別に放っておいてもよいのだが、一度ないと気がついてしまうと、もう探さずにはいられない気持ちだった。ソワソワしてしまうのだ。
本命はバスルームだが、あいだにセーレの部屋があるので、まずはそちらを訪ねてみようと思った。この部屋に案内されたあとおやすみと言い合って別れたのだが、まだ21時過ぎなのできっと起きているだろう。
しかしもしもミカエルさんに見つかったら怒られるような気がなんとなくしたので、足音を立てないようにそろそろと、セーレの部屋に向かった。
◆
一度、二度と、小さくノックをしてみるが返答がない。起きているという予想は外れて、どうやら寝てしまったみたいだ。
(仕方ない、先にバスルームに確かめに行ってみよう。それでも見つからなかったら、セーレには明日にでも聞いてみればいいわ)
そもそも現実の私が起きてしまったら、明日なんて迎えられるわけがないのだし。
そう思い直して、踵を返した。階段を降り、バスルームへと向かう。
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